お役立ち情報

COLUMN

TOPATO通信小規模宅地の特例は共有で? 5295号

ATO通信

5295号

2016年12月26日

阿藤 芳明

小規模宅地の特例は共有で?

 『ここはいったん、全員の共有と言う事にしておこう。』相続にあたり、財産分けの話し合いがまとまらない場合、誰かがこんな”名案”?を口にします。この”共有”は誰にとってもまさしく平等で、文句がつけられない分け方だからです。普段、共有は本当の意味での解決にならない、単なる問題の先送りだ、と言ってATOではお勧めしていません。が、時には共有でこんなにお得な事も。


1.共有の考え方

 共有と言う考え方、法律上は全員が平等で対等の地位に立ち、権利も義務も等分に分かち合うシステムではあります。しかし、最も大きな問題は、原則として全員の意見が一致しない場合、何もできないと言う事です。言うまでもなく、とりあえずの共有状態では、誰もが100%の満足はしていません。しかし、仕方なく我慢をしている状態なので、いつかは解決したいと心の中では思っているのです。ただ、残念ながらその具体的な手法が分からぬまま悶々とした日々を送っている相続人も多いのではないでしょうか。


2.事案の概要

 都心にほど近い、住宅地としては一等地にその土地はありました。相続財産としては唯一の不動産です。他にそれなりの金融資産もありましたが、この土地の分け方、行方が今回の相続の最大の懸案だったのです。このご家族、父と母との間に長男、次男、三男の3兄弟がいました。数年前に父親が亡くなった時に、母親がこの自宅の土地・建物を相続しています。長年夫婦二人だけの生活をしていたこともあり、小規模宅地の特例を受ける事からも、母親がそれを相続することに3兄弟とも異論はありませんでした。そして、今回の母親の相続です。別居はしていたものの、長男が頻繁に母親の様子をうかがい、気にも掛けていました。長男も次男もそれぞれ持ち家でしたが、昨今の風潮か妻の実家近くに居を構えていたのです。三男だけが母親の近くに住んではいましたが、持ち家は所有していなかったと言う状況です。また、この実家に対する思い入れも、3人の中では最も強かったのでしょう。そのため、三男が実家の不動産を相続したいと申し出たのです。路線価に基づく自用地としての原則評価で約3億円。長男も次男も三男がそれを相続すること自体に反対はしませんでした。ただ、当初から今回の相続については、均等に3等分すると言う了解事項ができ上がっていたのです。


3.代償分割と言う手法

 3億円の不動産を相続するなら、その見返りに他の兄弟に1億円ずつを支払うことがその条件です。当時の税理士には、いわゆる代償分割の手法でそれが可能であるとも教えられていたようです。しかし、三男にそれだけの返済原資も能力もありません。結局は共有にして直ぐに売却。売却代金を均等に分けてこの相続は無事に終了したそうです。これだけを見れば、共有大いに結構。三男の思い入れを実現できなかったのは残念ですが、現実問題としては他の方法はなかったであろうことも、想像に難くありません。


4.小規模宅地の特例適用を考えて

 ここでの問題は、関与税理士の不十分なアドバイスです。代償分割まで考えたのであれば、どうしていったん三男に相続させなかったのか、と言う点です。ここで三男は唯一の”家なき子”。つまり被相続人の居住用の土地について、小規模宅地の特例の適用上、330㎡までは8割引きになる特例の適用対象者になり得るのです。
 具体的には、分割協議書上は三男がいったん単独で実家の土地建物を相続する。その上で特例の適用を受けられるよう、相続税の申告期限まではその土地を保有し、その後に売却する。分割協議書にもその売却代金を三男の譲渡税控除後の金額で3等分する旨を謳っておけばいいのです。
 但し、売却価額が相続税の申告期限までに確定していない場合もあるでしょう。その場合、各人の相続分も不明で、申告書にも記載できません。そこで、売却準備は事前にしておくとして、いったんは未分割の状態で申告をします。そして、価額が確定したところで分割協議書を作成し、三男が取得することを前提に、他の2人の取り分を確定するのです。当初の申告では小規模宅地の特例を適用していないので、これを適用すれば全員が更正の請求で相続税の取戻しは可能になります。もちろん、未分割で申告する時点で、一度は過分な税負担となりますが、短期間に取戻しは可能なので、そこは目をつぶるしかないでしょう。それが負担であれば、何とか申告期限前に売買契約の準備だけはしておくことです。契約を締結し内金を貰っても構いませんが、申告期限を待って残金の決済をして引渡し、登記を移転すれば問題はありません。申告期限までは保有することが条件だから、これは何をおいても死守しなければならないのです。このような配慮、準備があれば、相続税においては小規模宅地の特例を享受することができ、なおかつ公平な財産の分割が可能になるのです。

※執筆時点の法令に基づいております