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COLUMN

TOPATO通信結局、解決されない”タワマン節税” 5297号

ATO通信

5297号

2017年2月28日

阿藤 芳明

結局、解決されない”タワマン節税”

 本年の税制改正で改正前から注目されていた項目に、いわゆる”タワマン節税”があります。改正内容の詳細は、別途今月号の『え~っと通信』に譲りますが、結論を言えば、大山鳴動して鼠一匹、と言ったところでしょうか。実は筆者はこの程度の改正になることを、かねてから”予測”していました。なぜなら、この改正がそれ程簡単でないことは、火を見るより明らかだからです。


1.タワマン節税とは

 タワマン節税(タワーマンション活用の節税策)を一言で言えば、相続税においてマンションを評価する場合、高層階の部屋は節税効果が大きいと言う事なのです。マンションの相続税評価は実際の時価とは無関係に、土地部分と建物部分を分けて評価し、その合計とするものなのです。マンションは土地の立体利用なので、高層マンションになればなる程、土地部分の占める割合は低いもの。建物は建築価額に比べかなり低額の固定資産税の評価に基いて計算します。が、固定資産税そのものは、マンションの建物全体での評価。それを部屋の持ち分に応じて按分するため、高層階でも低層階でも床面積が同じなら同じ評価額になる仕組みです。現実には高層階の方が眺望が良いため、低層階より売買価額は高いと言うのが相場です。このような仕組みのため、マンションの相続税における評価は、実際の売買価額よりかなり低めになっていますが、高層階ほどその影響が顕著と言うのが、タワマン節税の概要です。


2.固定資産税の改正は相続税にも影響するが…

 さて、今回の税制改正はあくまでも固定資産税の改正であり、相続税の評価方法に関する改正ではありません。ただ、相続税においては、前述のように建物の評価は固定資産税の評価額に基づくため、大元の固定資産税評価額が変われば、それに伴って相続税評価額も影響を受けると言う事になるものです。今回の固定資産税の改正は、建物全体の評価額・税額は変更せずにそのままで、その全体の固定資産税額を各戸に按分する方法を変更したのです。単純な持ち分割合ではなく、基準階を中心に階層によって本来の按分額に増減を設け、高層階は高く、低層階は低くなるようにすると言うものなのです。結論的には非常に軽微な改正で、相続税への影響はなし。これでタワマン節税が封じられたなどとは言えない代物です。つまり、マンションに対する固定資産税及び相続税の抜本的な改正にはなっていないのです。


3.何故、抜本的な改正ができないのか?

 それでは、何故、抜本的な改正をしなかったのでしょうか。それは、マンションの評価がそれほど簡単ではないからです。改正をしなかったのではなく、できなかったのです。そうは言っても世間では、タワマン節税が親の仇のように声高に叫ばれていました。政府としても、それを放置する訳にはいかなかったのでしょう。つまり、この程度の改正でお茶を濁しただけだったのです。
 具体的に、何処がどのように難しいのでしょうか。実は問題の根は非常に深いのです。まず第一に、高層階の方が低層階より眺望が優れていると言いますが、隣地に同程度の高さのマンションが建ったら、眺望は一気に遮られ、従来の快適さは著しく阻害されます。また、同じマンションでも、その部屋が南向きか北向きかで、実際の販売価格は異なります。更には角部屋か否かによっても価格は異なる事でしょう。つまり、決して高層か低層かだけの問題ではないことは、誰の目から見ても明らかなのです。


4.固定資産税と相続税との建物評価の相違点

 そもそも、固定資産税の建物の課税は、建物の物理的な価値に対しての課税です。そのため、木造より堅固で耐用年数も長い鉄筋の建物は、必然的に評価額も高くなります。また、内部の構造も、床の厚さや柱や壁の部材によってもその評価に影響を与えます。そのため、全く同じ構造、全く同じ部材で作った建物であれば、どの場所に建っていても評価額は同額になる筈なのです。それ自体、間違ってはいないのでしょうが、それを相続税評価額にそのまま当てはめたところが間違いなのです。相続税の評価は収益性等を考慮した相続時点での”時価”とされています。その時価とは、国税庁が定めた財産評価基本通達と言う評価のルールブックに、『不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額』と明記されているのです。つまり、明らかに固定資産税のような物理的な価値ではないのです。


5.タワマン節税の将来的予測

 税務署は上記のようなことが分かっていながら、どうして建物評価を固定資産税に委ねているのでしょうか。答えは簡単で、個別の評価など税務署にできないからです。相続の度ごとに、一軒一軒の建物を評価することが税務職員には不可能だからです。と言う事は、今後も固定資産税の抜本的な見直しをしない限り、相続税においても、今回のような”お茶濁し”程度の改正に留まる事を、筆者は税理士として断言しておきます。

※執筆時点の法令に基づいております