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今月の言葉

2013年7月26日

かみなり

 ベンジャミン・フランクリンは西暦1706年1月、イギリスの植民地であったアメリカ・マサチューセツのボストンに生まれた。アメリカ独立宣言の起草者の一人。独立戦争時には、合衆国の駐フランス大使となり、ヨーロッパにおけるアメリカ独立支持の世論形成に大きく寄与した。ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソンなどと並んでアメリカ建国の父として、いまでも米国民から尊敬されている。現在の米合衆国$100紙幣には、フランクリンの肖像が描かれているから、まあ日本で言えば福沢諭吉と同格の人と思えばよいかもしれない。

 フランクリンは、政治家、外交官としてだけではなく科学者としても大きな業績を残した。1752年嵐の中で、凧を揚げ、雷雲から電気を取り出して見せた実験で世に知られている。ただしこの実験はきわめて危険なもので、後にロシア人リヒマンがフランクリンの実験を追試しようとして感電死亡したので、その後は「真似してはいけない実験」とされている。ともあれ、フランクリンのこの実験によって、雷が電気であることが解明された。雲の中にたくわえられた電気が地上の尖った高いものに放たれる放電作用が「落雷」である。フランクリンは建物や人間への落雷を避け、雷の放電をアースして逃がす避雷針の発明者でもある。

 雷のメカニズムが解明されるまで、人類は雷を「神鳴り」として恐れてきた。落雷の轟音、稲妻の閃光、高圧の放電によって木や人が一瞬で黒焦げになってしまい、火事も起きる。まことに「かみなり」は天の怒りが地に下る様と思われたのである。ギリシア神話における雷神はゼウスという最高神であるし、北欧神話の雷神トールも最強のつわものである。我が国の神話における雷神はタケミカヅチ(建御雷)と言って茨城県は鹿島神宮の祭神。藤原氏の始祖中臣氏の祭神でありトールと同じく武神、軍神としても崇められている。

 雷を大和言葉で読むと、「かみなり」「いかづち」である。かみなりは「神鳴り」で神様の発する音のこと。いかづちは怒りの槌ではなく「厳(いか)つ霊(ち)」が語源である。

 電は大和言葉では「いなづま」。現在は稲妻と書くが、語源は「稲の夫」である、稲の実る時期に雷が多いことから、雷光が稲を実らせるという民間信仰があったのだという。

 戦前の帝国海軍では、特型駆逐艦「吹雪」シリーズの23番艦が「雷」、24番艦が「電」。その名を継承して、海上自衛隊の護衛艦にも「いかづち」「いなづま」がある。

 最後に、「地震、雷、火事、おやじ」についてふれたい。この中で、前三者は天災、最後は人災(?)でなんだかヘンに思われるかもしれない。が、ここでいう「おやじ」とは親父ではなく大山風(おおやまじ)即ち台風のことだそうである。この四大天災の末尾が親父と混同されたところから、「雷親父」という言葉が生まれた。昔の日本には「バッカモン」と理不尽な雷を落とすサザエさんの磯野波平みたいなオトウサンがいたものだが、現代の親父は奥方の前ですっかり萎縮してしまった。フランクリンが、雷のメカニズムを科学的に解明して、神鳴り様の有り難みが薄れたためだろうか。