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~民法改正による影響~
257号

え〜っと通信

257号

2022年9月15日

金井 悠深恵

遺産分割はお早めに
~民法改正による影響~

 相続が発生すると、原則として、被相続人の遺産は相続人の共有状態となります。共有関係のままでは、互いの権利が制約しあうため、遺産の管理・処分に問題が生じる可能性があります。また、相続登記が行われないことにより、不動産の所有者が分からなくなってしまうこともあります。このような状況を避けるため、速やかに遺産分割を行うことが必要となります。
 この遺産分割について、民法が一部改正されました。改正内容と影響について記載いたします。


1.改正の内容

 民法では、一定の場合を除いて、共同相続人はいつでもその協議で、遺産の全部又は一部を分割することができると規定されています(民法第907条)。分割に当たり、特別受益がある相続人がいる場合は、その特別受益を遺産に加えたものを相続財産とみなします。また、寄与分がある相続人がいる場合は、遺産から寄与分を控除したものを相続財産とみなし、遺産分割をした後に、当該相続人に寄与分を加えた額をその者の相続分とします。
 令和5年4月1日に施行される改正民法において、相続開始の時から10年を経過した後に行う遺産分割について、この特別受益及び寄与分の主張が出来なくなることとなりました(民法第904条の3)。


2.特別受益及び寄与分とは

 特別受益とは、被相続人から相続人に対する遺贈、又は婚姻若しくは養子縁組のため、若しくは生計の資本としての贈与を言います。具体例として、以下のようなものがあります。
(1) 相続人が自宅を購入する際、被相続人が資金を援助した。
(2) 相続人が結婚する際、被相続人から支度金を貰った。
(3) 相続人が事業を始めるにあたり、被相続人が開業資金を援助した。
(4) 特定の相続人に対し、被相続人が高額の学費を負担した。
(5) 特定の相続人の借入金を、被相続人が肩代わりした。
 金額的にいくらからが特別受益になるのかは、家庭ごとの資産や、贈与の状況によって異なります。また、被相続人が「〇〇への贈与は特別受益とは判断しない」という旨の遺言等を残している場合は、特別受益として相続財産に持ち戻すことはしないこととなります。
 寄与分とは、相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加に対する特別な貢献をした者がいる場合に、共同相続人の協議で定めたその者の貢献分を言います。具体例として、以下のようなものがあります。
(1) 被相続人の事業を、長年にわたり無償で手伝った。
(2) 被相続人の事業の倒産を回避するため、資金を提供した。
(3) 寝たきりの被相続人を介護し、通常期待される程度を超えるような貢献をしたことにより、
   老人ホームへ入所せず、介護費用の支出をしないで済んだ。


3.改正の背景

 上記1.に記載の通り、遺産分割に期限はありません。しかし、分割をしないことによる遺産の共有状態は、あくまで暫定的なものであり、管理・処分の面からも早期に解消すべき状況と言えます。遺産分割をしないまま長期間が過ぎてしまうと、関係者の記憶が薄れたり、証票等の収集が困難になったりすることが考えられます。
 また、相続不動産を未分割のまま長期間放置しておくことにより、所有者が判明しなくなったり、連絡がつかなくなったりし、令和6年4月1日より義務化される不動産の相続登記に対応できなくなる可能性があります。この相続登記義務に正当な理由なく違反した場合は、過料の適用対象となってしまいます(え~っと通信2022年4月号参照)。
 このような状況を防ぎ、遺産分割にインセンティブを与えて促進するため、特別受益及び寄与分を主張する場合は、相続開始の時から10年以内という期限が設けられることとなりました(例外として、相続開始時から10年以内に家庭裁判所に分割の請求をした場合等を除く)。この改正は、施行日の令和5年4月1日前に開始した相続にも適用されます。


4.改正の影響

 特別受益及び寄与分の主張に期限が設けられたことにより、相続人によっては不利益を被ることとなります。被相続人に、本来の扶養義務を超えて貢献したのに、長年遺産分割をしなかったために、結局法定相続分しか相続できなかった、ということにもなりかねません。権利を主張するためには、ほったらかしにせず、然るべきときに行動する必要があります。相続税法上は、未分割でも法定相続分による納税が必要となりますし、配偶者控除や小規模宅地等の特例の適用をする場合には、分割が整っていることが要件となります。相続が発生した場合は、期限を意識し、早期に分割することが大切です。

※執筆時点の法令に基づいております