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え〜っと通信

305号

2026年9月15日

税理士 金井悠深恵

借地権が戻ってきたら~贈与税?譲渡税?~

 ある時、借地人である個人から「借地権を返還したい」という申し出があったとします。この場合、無償(タダ)で借地権が戻ってきたら地主には贈与税がかかってしまうのでしょうか、また、借地権の返還を受けた土地を5年以内に売却した場合には、短期譲渡として高額な譲渡所得税がかかってしまう部分があるのでしょうか。個人地主の課税関係を検討します。

1.借地権の相続税評価額

 借地権の相続税評価額は、基本的に路線価による通達評価額となります。路線価は、売買実例価額、公示価額、不動産鑑定士による鑑定価額等を基として国税局長が評定した金額です。たとえば、更地の評価額が1億円で、路線価の借地権割合が70%の土地であれば、借地権の評価額は7千万円、更地の評価額から借地権の評価額を控除した3千万円の底地の評価額となります。

2.地主が借地権の返還を受けたときの課税関係

(1)タダで返還を受けたとき
 借地人からタダで借地権の返還を受けた場合は、借地権は消滅して完全な所有権となり、地主は借地権相当額の相続税評価額が増えるため、贈与税の問題が生じます。原則は、借地権の贈与を受けたものとして、贈与税が課税されることになります。
 ただし、例外として、無償で借地権の返還を受けたことにつき「正当な理由があるとき」は、贈与税の課税は発生しません。この「正当な理由があるとき」は、たとえば次のような場合です。
 ①建物の老朽化が進み、修繕をしても使用に耐えられない等の理由で借地権が返還されたとき
 ②借地人が転居や施設入所により、使わなくなった借地の地代を払い続ける理由がないため、借地権が返還されたとき
 ③地代の不払いが継続し、契約条項に違反するとして契約解除したとき
 借地権は、土地の賃貸借の終了に伴い、底地の所有者に返還されることが当初から予定されています。
 タダで借地権の返還を受けた利益を立退料支払いの免除や減額に置き換えて考えてみます。親族間の場合は別として、借地人側の事情で土地の賃貸借を継続することが困難となり、借地権の返還を受けた場合は、単に貸していた土地が戻ってきただけで立退料を支払う必要がないから、利益を受けたとはいえないと考えることができます。したがって、贈与税はかかりません。
(2)借地人が立退料を支払った場合
 地主が、借地権の返還を受けるに当たり、借地人に立退料を支払ったとします。この立退料は、土地の取得価額に加算することとなります。これにより、将来的に当該土地を譲渡したときに、譲渡所得の計算上、土地の取得費として、支払った立退料相当額を収入金額から控除することができます。

3.返還された借地権を譲渡したときの課税関係

 借地権の返還を受けた後、その土地を譲渡した場合の課税関係は、どのようになるのでしょうか。
(1)所有期間の判定(短期・長期の区分)
 土地の譲渡は、所有期間の長短で、譲渡益に乗じる税率が異なります。譲渡した年の1月1日時点で5年超所有していた場合は、長期譲渡に該当し、譲渡益に対して所得税、復興特別所得税、住民税の合計で20.315%の譲渡税が課税されます。5年未満の場合は、短期譲渡に該当して39.63%と長期譲渡に比べて約2倍の税率です。
 地主が借地権を消滅させた後にその土地の譲渡した場合には、旧借地権部分と旧底地部分の所有期間をそれぞれ分けて判定します。前記2.(1)のタダで返還を受けた場合は、地主が借地権を消滅させたわけではありませんから、旧借地権部分と旧底地部分を分ける必要がなく、所有期間は土地(底地)の取得時からとなります。(2)の立退料を支払って借地権を消滅させたケースでは、借地権の返還を受けたタイミングが旧借地権部分の取得の時となります。
(2)収入金額の区分
 旧借地権部分と旧底地部分の収入金額は、借地権を消滅させたときのその土地の更地価額に対する旧借地権部分の価額の比によりあん分することとされています。したがって、路線価による借地権割合で収入金額を区分する必要はありません。土地の値上りは、旧借地権部分及び旧底地部分ともに同じ割合で上昇したものとして考えることになります。
 (説例)甲は、令和6円に貸し付けていた土地(更地の時価8千万円)の返還を受けるため、乙に2千万円の立退料を支払い借地権を消滅させました。2年後の令和8年9月にその土地を1億円で譲渡しました。路線価による借地権割合は、70%です。この場合の譲渡収入金額の区分は次のとおりです。
 ・旧借地権部分(短期譲渡所得)の収入金額
  1億円×2千万円/8千万円=2千5百万円
 ・旧底地部分(長期譲渡所得)の収入金額
  1億円-2千5百万円=7千5百万円

4.課税関係に注意

 借地権の返還を受けた場合、立退料の支払いの有無や、返還時の状況によって税務上の取扱いが異なります。借地人から返還についてお話があったときは、ご相談ください。

※執筆時点の法令に基づいております