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COLUMN

TOPATO通信個人の株式譲渡益課税はどうなる? 5095号

ATO通信

5095号

2000年4月26日

高木 康裕

個人の株式譲渡益課税はどうなる?

筆者は一度約束したことを変更するのは、性格上大嫌いです。とは言っても変更やむ無しは世の常で、妥当性の問題でしょうか?
株式の源泉分離課税廃止延期の話です。


1.現状の課税方法

上場株式の売却益については、現行2通りの課税方法があります。一つは申告分離課税と言われるもの。1年間の株式の売却損益を通算し、その売却益に対し26%(所得税、住民税合計)の特別税率で、他の所得とは通算せず、別計算です。 もう一つは源泉分離課税で、損得に関係なく一律売却額の1.05%の課税で完結です。 これらは取引の都度その方法を選択できるため、儲けた時は源泉分離、損した時は申告分離で節税をはかる方が多いようです。


2.源泉分離は風前の灯火

 さて、この源泉分離、実は平成13年3月いっぱいで廃止の予定です。が、ここへ来て期限を延長しようと言う声があり、大蔵省を困らせています。源泉分離を認める替わりに課税していた有価証券取引税を既に廃止しており、延長には絶対反対の構えなのです。 選挙が近くなればこの手の人気取り(廃止延期)が出てくるのは毎度のこと。ただ、源泉分離の廃止問題は、有取税の税率軽減や廃止に至る経緯とも深く絡む問題で、本来法律論でとっくに解決済みのはず。第三者的には何を今更、の感は否めません。


3.期限延長派の論拠

源泉分離の廃止を反対する人の税務上の論拠は二つです。一つは何と言っても儲かった時の税金が安いから。もう一つは、相続等元々の取得価額が不明で、処分した時に税金がかかり過ぎると言うものです。この手の取得価額が不明な株式については、税務上売却価格の5%相当額は認められています。逆に言えば差引きの95%の利益に対し26%もの税金を覚悟しなければならず、容易には賛成できないのかもしれません。


4.クロス売買取引による価額付替え

 さて、取得価額を上記の5%でなく、もっと現在の時価に近いものにできる方法があります。一般にクロス取引と言われているもので、売った同じ銘柄の株式を直ぐに買い戻す方法です。この方法によれば売却時に勿論課税がなされます。しかし、今ならまだ1.05%の源泉分離課税が使えます。この税金さえ覚悟すれば、直後に同じ銘柄を買い戻し、実質的には取得価額が現在の時価まで引き上げられるのです。


5.クロス売買取引の是非

このクロス売買、実質的な保有状況は何も変わらないのに税務署は認めてくれるのでしょうか? 結論だけを言えば、市場を通して正規のルートで売買すれば何の問題もありません。日本証券業協会からの照会に対し、時間内の売買であれば同日でもOKである旨、当局は文書で回答をしております。


6.税務の方向

 現実問題として、申告分離課税一本になれば、総ての株式売買が税務署の知るところ。それが心配という方もいらっしゃるようです。ただ、全体的な方向は総合課税化と、もう一つ、納税者総背番号制で、いずれ総ての取引は白日の下に晒される運命です。税務調査もコンピューターの活用で様々な取引資料を背番号で入力し、申告内容と合致しない物を自動的に出力する時代が来るのでしょう。

そう言えば、筆者が10数年前まだ税務調査を担当していた頃は、ゴミ箱を漁っては原始資料なる脱税の証拠となるメモ書きを探しました。ラブホテルでシーツの納入業者を反面調査し、使用枚数を確認もしました。時代は確実に変化しております。

※執筆時点の法令に基づいております