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借地権が戻ってきたら~贈与税?譲渡税?~

 ある時、借地人である個人から「借地権を返還したい」という申し出があったとします。この場合、無償(タダ)で借地権が戻ってきたら地主には贈与税がかかってしまうのでしょうか、また、借地権の返還を受けた土地を5年以内に売却した場合には、短期譲渡として高額な譲渡所得税がかかってしまう部分があるのでしょうか。個人地主の課税関係を検討します。

1.借地権の相続税評価額

 借地権の相続税評価額は、基本的に路線価による通達評価額となります。路線価は、売買実例価額、公示価額、不動産鑑定士による鑑定価額等を基として国税局長が評定した金額です。たとえば、更地の評価額が1億円で、路線価の借地権割合が70%の土地であれば、借地権の評価額は7千万円、更地の評価額から借地権の評価額を控除した3千万円の底地の評価額となります。

2.地主が借地権の返還を受けたときの課税関係

(1)タダで返還を受けたとき
 借地人からタダで借地権の返還を受けた場合は、借地権は消滅して完全な所有権となり、地主は借地権相当額の相続税評価額が増えるため、贈与税の問題が生じます。原則は、借地権の贈与を受けたものとして、贈与税が課税されることになります。
 ただし、例外として、無償で借地権の返還を受けたことにつき「正当な理由があるとき」は、贈与税の課税は発生しません。この「正当な理由があるとき」は、たとえば次のような場合です。
 ①建物の老朽化が進み、修繕をしても使用に耐えられない等の理由で借地権が返還されたとき
 ②借地人が転居や施設入所により、使わなくなった借地の地代を払い続ける理由がないため、借地権が返還されたとき
 ③地代の不払いが継続し、契約条項に違反するとして契約解除したとき
 借地権は、土地の賃貸借の終了に伴い、底地の所有者に返還されることが当初から予定されています。
 タダで借地権の返還を受けた利益を立退料支払いの免除や減額に置き換えて考えてみます。親族間の場合は別として、借地人側の事情で土地の賃貸借を継続することが困難となり、借地権の返還を受けた場合は、単に貸していた土地が戻ってきただけで立退料を支払う必要がないから、利益を受けたとはいえないと考えることができます。したがって、贈与税はかかりません。
(2)借地人が立退料を支払った場合
 地主が、借地権の返還を受けるに当たり、借地人に立退料を支払ったとします。この立退料は、土地の取得価額に加算することとなります。これにより、将来的に当該土地を譲渡したときに、譲渡所得の計算上、土地の取得費として、支払った立退料相当額を収入金額から控除することができます。

3.返還された借地権を譲渡したときの課税関係

 借地権の返還を受けた後、その土地を譲渡した場合の課税関係は、どのようになるのでしょうか。
(1)所有期間の判定(短期・長期の区分)
 土地の譲渡は、所有期間の長短で、譲渡益に乗じる税率が異なります。譲渡した年の1月1日時点で5年超所有していた場合は、長期譲渡に該当し、譲渡益に対して所得税、復興特別所得税、住民税の合計で20.315%の譲渡税が課税されます。5年未満の場合は、短期譲渡に該当して39.63%と長期譲渡に比べて約2倍の税率です。
 地主が借地権を消滅させた後にその土地の譲渡した場合には、旧借地権部分と旧底地部分の所有期間をそれぞれ分けて判定します。前記2.(1)のタダで返還を受けた場合は、地主が借地権を消滅させたわけではありませんから、旧借地権部分と旧底地部分を分ける必要がなく、所有期間は土地(底地)の取得時からとなります。(2)の立退料を支払って借地権を消滅させたケースでは、借地権の返還を受けたタイミングが旧借地権部分の取得の時となります。
(2)収入金額の区分
 旧借地権部分と旧底地部分の収入金額は、借地権を消滅させたときのその土地の更地価額に対する旧借地権部分の価額の比によりあん分することとされています。したがって、路線価による借地権割合で収入金額を区分する必要はありません。土地の値上りは、旧借地権部分及び旧底地部分ともに同じ割合で上昇したものとして考えることになります。
 (説例)甲は、令和6円に貸し付けていた土地(更地の時価8千万円)の返還を受けるため、乙に2千万円の立退料を支払い借地権を消滅させました。2年後の令和8年9月にその土地を1億円で譲渡しました。路線価による借地権割合は、70%です。この場合の譲渡収入金額の区分は次のとおりです。
 ・旧借地権部分(短期譲渡所得)の収入金額
  1億円×2千万円/8千万円=2千5百万円
 ・旧底地部分(長期譲渡所得)の収入金額
  1億円-2千5百万円=7千5百万円

4.課税関係に注意

 借地権の返還を受けた場合、立退料の支払いの有無や、返還時の状況によって税務上の取扱いが異なります。借地人から返還についてお話があったときは、ご相談ください。

2026年9月15日

地主から見た定期借地契約と建物の取得について

 土地活用は地主の方にとって長く向き合う重要な検討事項のひとつです。収益を目的とする土地の活用方法は大きく分けると、土地そのものを貸して地代収入を得る方法と、土地の上に建物などを整備して賃貸収入を得る方法があります。今回は、地主側の視点から、事業用定期借地権による土地貸しと店舗などの事業用建物を新築して建物貸しをする場合における相続税評価額・収支面を比較検討します。

1.事業用定期借地権とは

 事業用定期借地権とは、専ら事業用建物(店舗・事務所等)の所有を目的に、存続期間を一定期間として設定される借地権です。主な特徴としては、①契約更新がなく、原則、土地は原状回復して返還されること、②借地人が建築した建物の買取り義務がないこと、③初期投資や維持費用、労力が少ないことがあげられます。
 地主にとっては建物の建築に伴う借入、空室、修繕等のリスクを負わず、安定的な収入を得やすい方法のひとつです。

2.前提について

 地主のAさんは、先祖から相続した土地で不動産賃貸業を営んでおり、空き地となったロードサイドの土地の活用を検討していますが、近年の建築費の高騰や金利の上昇もあり、建物を建築するかどうか悩んでいます。
 土地:相続税評価額1億円、固定資産税103万円/年
 建物:建築予定額1億円(建築費用は全額借入金)

3.相続税評価額について

(1)事業用定期借地権の設定契約を締結した場合
 事業用定期借地権の目的となっている宅地(底地)は、相続税評価上、「自用地価額-定期借地権等の価額」で算定した金額と、残存期間に応じて自用地評価額の5%~20%を控除した金額のうち、いずれか低い価額で評価します。
 基本的に権利金や保証金の授受がない場合には、更地価額から残存期間に応じて最大20%の評価減をすることができ、評価額の経年変化は次表の通りです。

(2)自己所有の土地に新たに建物を建てた場合
 事業用の建物を建築して賃貸すると、相続税評価上、土地は貸家建付地として一律20%程度の評価減となるため、約8,000万円(1億円×(1-借地権割合×借家権割合))の評価額となります。貸し付けている建物は、貸家として借家権割合30%を控除することができるため、建築費1億円に対し5,000万円の固定資産税評価額が付されると、相続税評価額は3,500万円(5,000万円×0.7)となります。
 土地建物が合計で1億1,500万円であり、建築費の借入金債務の1億円を差し引くと相続税評価額は1,500万円となります。
 事業用定期借地権で土地を貸した場合の相続税評価額は最大20%減額後の8,000万円でしたから、新たに建物を建てたほうが少なくとも6,500万円の相続財産の圧縮効果があります。
 したがって相続税の観点からは土地の上に建物を建てて運用したほうが有利となります。

4.令和9年以降の相続税評価には注意が必要です

 ただし、令和9年1月以後の相続・贈与では注意が必要です。相続税・贈与税の駆け込み節税ができないように相続税評価の取扱いが変わります。有償取得した賃貸用不動産については、取得後5年以内のものは取得価額の80%相当額で評価することになります。節税目的ではなく、土地の有効活用が目的であっても、貸付用不動産の取得後5年間は相続税等の大きな節税効果を得ることが難しくなってしまいます。現状(執筆時7/1現在)では、改正評価通達とその取扱いは明らかになっていないため、具体的な内容は、秋の弊社セミナーでご説明させていただく予定です。

5.事業の収支について

 事業用定期借地の地代については、立地や周辺環境など様々な要素に影響されますが、首都圏近郊のロードサイド等では自用地価格に対して4~6%の間に収まることが多いようです。経費は基本的に固定資産税のみです。
 例えば地代収入を600万円受け取る場合、固定資産税103万円を差し引くと税引前の手取りは約500万円です。定期借地権が設定されている場合は、少なくとも8,000万円の評価となりますので、所得税・相続税の税率をいずれも50%としても最短で16年運用すると当該土地に対する相続税相当の資金を確保することができます。更に土地の全面に小規模宅地等の特例を適用できる場合は、土地の評価額が50%減額されますので、最短で8年で相続税相当の手取りとなります。一方、自己所有の土地に事業用建物を建築した場合、家賃については事業用の建物の場合、居住用建物と比較して高めに設定されることが多いですが、建物所有の場合は、借入、大規模修繕や空室(テナントの事業撤退)のリスクがあります。
 このようなリスクがあることを踏まえ、事業用定期借地のように貸地として運用が可能な土地であれば、貸地による収支が投資判断のひとつの目安になるかと思います。

2026年8月14日

取引相場のない株式の評価見直しへ

 去る4月から、適正な評価制度の在り方を検討するために取引相場のない株式(非上場株式)の評価に関する有識者会議が国税庁で開かれており、評価方法の見直しに向けた検討が始まりました。

1.相続税・贈与税における財産評価

 相続税・贈与税は、取得した財産の価額を「時価」で評価して税金を計算します。この時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいいます。
 非上場株式は、売買等の取引がほとんどなく、仮に取引事例があっても、親族等による特定の当事者間や特別な事情で取引されるのが通常のため、上場株式のように取引価格(相場)を基に「時価」を算定することができません。課税実務としては、原則として、国税庁長官があらかじめ定めた「財産評価基本通達」における評価方法を形式的に適用して評価することとなります。

2.現行通達による評価の概要

 同族株主等が所有する非上場株式は、基本的に会社の規模等の実態に即した評価を行うこととされています。

(各評価方法が採られている理由)
①上場会社に匹敵するような大会社の株式は、上場会社との均衡を図り、事業の種類が類似する
 上場会社の株価の平均値に比準して類似業種比準方式により評価
③個人企業とそれほど変わるところがない小会社の株式は、個人企業者の財産評価との均衡を
 図り、評価会社の正味財産に着目して純資産価額で評価
②大会社と小会社との中間にある中会社の株式は、大会社と小会社の評価方式の併用方式で評価。

3.現行通達における非上場株式の評価における問題

 見直しの発端は、以前にATOセミナーでご紹介させていただいた会計検査院検査報告です。その指摘内容は、各評価方式間で評価額にかい離が生じており、類似業種比準価額を適用する割合が大きな会社(規模の大きな会社)ほど、株式の評価額が相対的に低く評価されることなどから、評価制度の在り方について「異なる規模の会社間での公平性等を考慮し、より適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要」というものです。
 1株当たりの各評価額を比較すると、類似業種比準価額が純資産価額の4分の1程度(中央値)と極めて低くなっています。そのために純資産価額方式の適用を回避しようとする、評価額圧縮スキームが存在しています。

4.評価方法の見直しの4つの方向性

 評価方法の見直しに当たっての基本的な観点は、以下の4つとされています。
 ①『評価額の“崖”』の解消
 ・異なる規模区分の会社における株式評価の公平性を確保
 ・評価額操作の誘因となる評価方式間のかい離を排除
 ②評価額の『恣意性・操作性』の排除
 ・配当・利益・会社規模等の操作などにより、株価を圧縮するスキームを排除し、株価の中立
  性を確保
 ・配当還元方式の適用株主作出スキームを排除
 ③実務・学術上の進展を踏まえ「今日的観点」からの見直し
 ・継続企業を前提とし、企業の収益力等を反映した評価方法
 ・税務以外における企業評価の手法等も参考
 ④第三者への事業承継等の動向を踏まえた評価
 ・М&Aによる第三者への事業承継の増加とその際の企業価値評価を踏まえた検討
 ・継続企業を前提とし、純資産価額方式における退職給付引当金等の取扱いも含め、実務上の
  取扱いを踏まえた検討

5.早ければ令和10年1月から新ルール適用へ

 今年秋頃をめどに有識者会議において改正に向けたとりまとめや論点整理が行われる方向となっており、令和9年度の税制改正大綱に見直しが盛り込まれると、早ければ、令和10年1月以降の相続から新ルールの適用が視野に入ってきます。
 当然ですが、1株当たりの評価額が高くなるほど税金も増えます。どのような内容の見直しになるかは、相続税等の納税額に直結するため、動向を注視していく必要があります。

6.最後に

 非上場株式の相続税評価は、これまで裁決や裁判において、会社規模等の実態に即した現行の通達評価が合理的とされ、自社株評価の不変のルールとなってきました。また、みなし贈与等の問題が生じないよう適正売買価額の算定に一定の影響を与えてきました。
 今回の見直しで、その評価方法が根底から覆され、会社の実態が変わらないまま評価額だけが上昇すれば、相続税等の実質的な増税となります。非上場株式は、現金化するのが容易でないため、これまで準備してきた相続財産だけでは納税できない事態が生じるおそれもあります。今回の見直しは、中小企業経営者等から次世代への資産・事業承継に大きな影響を及ぼすことは間違いありません。適切な見直しが行われるように期待しています。

2026年7月15日

高所得者に対する負担適正化の見直し

 令和7年から特定の基準所得金額の課税の特例(「極めて高い水準の所得に対する税負担の適正化措置」)が導入されました。過去にも制度・シミュレーションについて紹介(285号・2025年1月15日参照)しておりますが、令和9年より適用対象者及び税額の計算が変わりますので、具体的な事例を注意点とともに紹介します。

1.制度の趣旨は変わらない

 所得税は総合課税の所得に対する税率が5~45%と累進課税の税率が採られている一方、長期保有の不動産や、株式の譲渡等の所得については一律15%の税率が採られています。これらの所得の金額・割合が大きく、所得税の負担割合が低いとされる個人について追加納付が生じるという制度は変わりません。

2.改正された税額の計算式

 当初の新たに導入された制度の追加納付税額を算出する計算式は、令和7年分、8年分の2年間の適用で、令和9年分以降については下記の通り改正されました。

3.具体的な事例

 改正の影響を分かりやすくするため、令和9年の長期保有土地の譲渡所得が10億円の個人Aさんの追加納付額を計算してみます。この10億円の所得は改正前の計算式では追加納付が発生しないおおよその水準です。
 なお、簡略化のため、復興特別所得税・他の所得・所得控除は考慮しておりません。

 次に改正後の比較対象金額(高額所得者が最低限負担すべき税額)を算出します。

 上記から分かる通り、個人Aさんは約1億円の追加納付が必要となります。令和7年、令和8年であれば生じなかった追加負担が約1億円となるため、かなり影響の大きい改正といえるのではないでしょうか。

4.改正後の追加納付が発生する譲渡益のライン

 上記で記載したように、改正前では追加納付が発生する譲渡益のラインは長期譲渡所得のみで10億円でした。今回の改正で追加納付が発生する譲渡益のラインは、約3.3億円と大きく下がることになり、同制度による追加納付を要する対象者が増えることが見込まれます。

5.土地の譲渡は今年中に

 上記3.のシミュレーションでも分かる通り、同じ取引・所得でも所得税の追加負担が約1億円も生じることになります。土地の譲渡を考えている方は、取引が完了するまで時間を要することも多いため、お早めのご準備が必要になります。

6.年内に引渡しが間に合わない場合は契約日ベースで

 とはいえ、土地の譲渡は買い手の有無や、購入資金の都合にも影響されます。例えば令和8年末頃に契約自体がまとまっても、残金精算・引渡しが令和9年にずれ込んでしまうことがあるかもしれません。その場合、改正後の算式で計算する必要があると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、譲渡申告は契約日を選択し、令和8年分の所得として申告することも可能です。ですので、契約そのものは令和8年中に成立させることをお勧めします。

7.申告不要とした上場株式の配当・譲渡も計算の考慮に

 上記3.のシミュレーションでは長期保有土地の譲渡があった場合のみのケースを想定しておりますが、上場株式の配当・譲渡についても同様に計算要素を構成します。285号でも触れていますが、特定口座・源泉徴収ありを選択したため、申告不要を選択しようとするものであっても、その所得を含めて当制度の適用の有無を判定し、追加納付税額が生じる場合は申告不要を選択出来ないことになります。上場株式の配当・譲渡が多額にある場合は、土地の譲渡だけでは上記4.の譲渡益のライン内にあっても、追加納付を負担する場合があるので注意が必要です。

8.まとめ

 令和7年分より新たに導入された同制度ですが、早速改正され、対象者増加や税額への影響が大きそうです。基本的な対策は令和8年分の所得とすることですので、不動産の譲渡を予定している方はお早めにご準備下さい。

2026年6月15日

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ATO通信

所得税の基礎控除はもはや難解すぎる

 令和8年度の税制改正では、昨年に引き続き2年連続で所得税の基礎控除が見直されることになりました。物価上昇分を調整する、という考え方に基づいた改正ですので何も悪いことはありませんが、従前に比べるととても分かりづらい制度になったというのが率直な感想です。基礎控除を複雑で難解にしてしまった制度設計、個人的にはセンスを疑ってしまいます。

1. 税は簡素にすべきなのに

 基礎控除の見直しは、令和6年12月に行われた自由民主党、公明党、国民民主党による三党合意の趣旨を踏まえた結果の税制改正です。政治的な背景も色濃いということは分かるのですが、もっと分かりやすい制度にはできなかったのでしょうか。そもそもですが、税の三原則はご存知でしょうか。税の制度設計は、本来は次の3つを基本方針として考える必要があります。
 ○公平の原則
  負担能力に見合った税負担を求めます。経済力が同等の人には等しい負担を求め、経済力のある人にはより大きな負担を求めます。
 ○中立の原則
  税制はできるだけ個人や企業の経済活動における選択を歪めないようにします。特定の行動について過度に有利・不利にならないようにします。
 ○簡素の原則
  税制の仕組みをできるだけ簡素にして、理解しやすいものにします。
 最近の税制改正を見ていると、簡素の原則がないがしろにされているような感じがします。税は簡素にという基本方針があるにもかかわらず、計算を複雑化して分かりづらくしていると思うのは私だけではないでしょう。

2. 基礎控除はこうなった

 令和8年分以後の基礎控除は次のようになりました。

 この表は、基礎控除の額をできるだけ分かりやすくした速算表的な位置付けとして考えるとよいでしょう。なぜなら、所得税の基礎控除は実は「本則部分」と「特例部分」の2本立てで形成されているからです。しかし、その内訳を細かく記載しても難しくなるだけであまり意味がありません。そこで実際に基礎控除として利用する合計額を表にしたのです。
 また、この表には注意点があり、それは居住者の方だけが利用するものだということです。非居住者の方は「特例部分」の基礎控除が無いことから、基礎控除の額は異なり最大でも62万円です。(表のうち合計所得金額655万円以下の基礎控除の額は一律62万円になります。)
 つまり、基礎控除は所得に応じて、さらに居住者か非居住者かにより変動するのが今の制度です。
 そもそも基礎控除は最低生活費の保障の意味で定められたものです。財源調整のために所得の増加に応じて控除額を減少させるのは、趣旨に反するとともに簡素の原則にも反するものでしょう。

3. 次の見直しは令和10年

 物価上昇に連動・対応する必要があるため、これからは2年ごとに基礎控除の「本則部分」を見直すことになりました。(「特例部分」もあわせて見直します。)つまり、次は令和10年です。先ほどの表には現時点における令和10年以後の基礎控除が記載されてはいますが、結局のところ変わる可能性が大きいということです。物価上昇分の手当てをしてくれるのは望ましいですが、そんなに頻繁に改正をしなくても問題がないような設計は考えられなかったのでしょうか。

4. 事務負担は増える一方

 基礎控除だけではなく、給与所得控除の最低保障額についても同じような制度設計がなされています。したがって、給与所得控除も本則部分と特例部分の2本立てとなっており、2年ごとに見直しが行われます。源泉徴収にも影響するため、事務負担は増える一方です。
 この点について国は、源泉徴収義務者等の事務負担に配慮するためとして、基礎控除等の改正は年の途中ではなく年末の12月1日から施行としましたが、だからといって事務負担自体が減るわけではありません。
 そもそも、一昔前に比べると年末調整の事務量は増加しており相当大変になっているのが実情です。
 財源の問題もしかり、高所得者層を狙い撃ちにするような増税施策などもあって、制度はますます複雑化しています。分かりづらく難解な制度を増やすばかりで、どこに向かっているのでしょうか。

2026年9月30日

政策金利は1.0%へ、税への影響は?

 令和8年6月に、日本銀行は政策金利の0.25%引き上げを決定しました。これにより政策金利は1.0%となり、この金利水準になったのは約30年ぶりとのことです。超長期間に及んだ低金利時代も終焉し、金利のある世の中へと移行したのです。年内には更なる引き上げも取り沙汰される中、税金への影響はどうなのでしょうか。

1. 政策金利は1.0%になった

 日本銀行は令和8年6月16日に、政策金利を1.0%程度になるように誘導することを決定しました。政策金利とは正確には「無担保コールレート(オーバーナイト物)」のことを言い、国内で金融機関同士が資金を融通する際の短期金利(翌日返済物)のことを指します。
 金利が上昇したからといって、必ずしもすぐに税務に反映されるわけではありませんが、しばらくすると影響が出てきます。相続税評価への影響については2024年(令和6年)10月号で述べましたので、今回は評価以外のことを考えてみることにします。

2. 延滞税や利子税が上昇

 法定納期限までに国税を納付しなかった場合には、納期限から実際の納付日までの期間について遅延利息に相当する延滞税が課されます。また、単純に納付が遅れたのではなく、所定の手続きによって納期限の延長が認められた場合には約定利息に相当するものとして利子税が課されます。
 この延滞税や利子税の割合は、年ごとに決めることになっています。つまり税務においては、金利は年1回見直しを行うというわけです。令和8年の延滞税等の割合は、やはり昨年の金利上昇が影響したのでしょう。数年ぶりに上昇しました。

 ちなみに、この利子税の割合と税金の還付の際に上乗せされる還付加算金の割合は同じです。今年からは還付加算金が増えるということですので、この点は嬉しいことです。
 金利が徐々に上がってきている状況を踏まえれば、来年は延滞税等の割合も更に上昇するに違いありません。

3. 延納に係る利子税

 相続税の延納をしている方には、延納利子税が課されます。この割合も延滞税と同じように年ごとに決まります。先ほどの利子税の割合に連動することになっていますので、当然ながら今年から上昇しました。
 相続財産に占める不動産等の割合が75%以上の場合の不動産等に係る延納利子税の割合は、昨年まで長らく0.4%でした。これが令和8年からは0.6%になりました。延納利子税の割合は市中金利に比べると低いことからメリットが大きいのですが、これも来年には更に上昇することでしょう。

4. 無利息貸し付け

 役員や従業員が会社から金銭を借り入れた場合には会社に利息を支払う必要がありますが、この金利水準はどのように考えれば良いのでしょうか。結論としては、会社が他から金銭を借り入れ(用立て)して貸し付けたような場合でなければ、税務上は先ほどの利子税の割合が目安になります。したがって、令和8年からは1.3%です。
 ここ最近はこの割合が0.9%であったこともあり、約1%前後の設定をしていれば問題がないものとして実務的には処理をしてきましたが、これからは1%超とするかどうかの検討が必要になるでしょう。
 また、個人間で金銭の無利息貸付けをした場合にはどうでしょう。無利息の場合、借主に利息相当額の経済的利益が生じますが、その金額が少額または課税上弊害がないと認められる場合には、強いて贈与税課税をしなくても良いという取扱いがあります。これも利子税の割合が上昇すれば見方が変わるかもしれません。
 今までは1億円の貸し借りでも年利1%であれば利息は年間100万円のため、贈与税の基礎控除額以内でした。これが1%を超えて更に上昇するとなると利息相当額もその分増加します。今までよりも注意が必要です。

5. 資産運用も見直そう

 最近は物価高の状況が続いています。モノやサービスを中心にインフレ傾向となっており、政策金利は上昇してきました。今までの30年とは異なり、口座に預けているだけでは実質的な価値が大きく目減りする可能性があります。路線価の上昇に伴って想定する相続税額が増加し、納税資金が不足しそうだと感じている方も多いのではないでしょうか。
 個人向け国債の表面利率ですら2%弱となり、新窓販国債の10年固定物は2.7%(令和8年7月)です。生命保険の予定利率も軒並み上昇していますので、保険の見直しも含めて資産運用の再検討が必要です。

2026年8月31日

あるならば課税する固定資産税

 土地や家屋などを所有していれば固定資産税が課されることはご承知のとおりです。固定資産税は、日本全国の固定資産を対象に課税できるのが特徴であり、市町村にとってはまさに安定財源となっています。だからこそ、固定資産税はきっちりと、しっかりと、確保できるような課税ルールが定められています。

1. 市町村における基幹税

 固定資産税は地方税のうち市町村税に該当します。全国に広く存在する固定資産を対象にしているため、税源の偏りが小さいとも言われています。そのため、市町村税にふさわしい基幹税目、それが固定資産税です。(東京都特別区は都税事務所が課税)
 固定資産税は課税の対象が3種類に分かれています。1つめは土地、2つめは家屋、そして3つめは償却資産です。
 土地・・田、畑、宅地などの地目に区分して課税
 家屋・・住宅、店舗などの用途に応じて課税
 償却資産・・土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産に課税
 ※固定資産税では建物のことを「家屋」といいますので、今回は呼称を家屋に統一します。
 償却資産に対する税金は、一般的には「償却資産税」と呼ばれています。そのため固定資産税とは違う税目なのかと勘違いしやすいですが、これも土地や家屋と同じく種類としては固定資産税です。
 それでは、ここまでのことを整理してみましょう。なんとなくでも固定資産税の内容が分かりましたでしょうか。世の中の固定資産を対象に、全市町村が課税する基幹税という性格ですので、安定的に税の徴収ができるような制度にするはずです。つまり、固定資産が存在するならば必ず課税をしたいという意図が見えてきます。

2. 土地への課税

 土地は減価するような資産ではありません。したがって、時の経過により価値が減少することがないため、時価の変動はあるものの課税対象額が大きく減ることは基本的にはありません。土地がある限り、常に一定水準以上の固定資産税を課税することができます。

3. 家屋への課税

 家屋は土地とは異なり減価する資産です。したがって、時の経過により価値が減少しますので、課税対象額は年を経過するごとに減っていきます。いわゆる減価償却をイメージすると良いでしょう。
 ただし、実際には所得税や法人税の減価償却方法を単純に準用しているわけではありません。固定資産税では経年減点補正率という独自の補正方法を定めており、この補正率を用いて経過年数による減価調整を行います。この経年減点補正率が、家屋の固定資産税を計算する上では大きなポイントになっているのです。
 所得税などの減価償却では、家屋の取得価額は備忘価額である1円まで償却することができます。つまり、帳簿価額は限りなくゼロになります。しかし、経年減点補正率は違います。家屋が存在するのであればその経済的価値は最低でも再建築価額の20%はあるとします。
 したがって、どんなに古くなったとしても、例えば建築後50年経過したとしても、時の経過による減価は80%までしか行いません。残りの20%は残存価値として残すということです。
 いつまで経っても、そこに家屋がある限りは再建築価額の最低20%に固定資産税を課税するのです。

4. 償却資産への課税

 自動車などは除かれていますが、事業用資産は償却資産として固定資産税の対象です。なお、償却資産の要件には、所得税や法人税の計算で減価償却費が経費に算入されるものとなっており、その範囲は減価償却資産になります。
 減価償却資産は、先ほどの家屋と同様に時の経過により価値が減少します。そうすると、同じように経過年数による減価調整を行う必要がありますが、その具体的な計算方法は、旧定率法による減価償却となります。
 所得税などでは現在は新定額法や新定率法というものがあるのですが、償却資産は相変わらず従前からの旧定率法を採用したままです。新定率法に比べて償却率が低いために減価スピードが遅くなります。しかも、ここでの一番のポイントは旧定率法の考え方を踏襲するからこそ、減価償却は95%までしか行わないことです。残存価額として取得価額の5%がずっと残ります。
 いつまで経っても、そこに償却資産がある限りは取得価額の最低5%に固定資産税を課税するのです。

5. 免税点が増加したというものの

 物価高対策への一環として、固定資産税が課税される最低ラインである免税点が見直されます。令和9年度から家屋は20万から30万へ、償却資産は150万円から180万円へと免税点が引き上げられます。ところが、土地の免税点は30万円のままで変更なしです。地方では都市圏と違って地価上昇が見込めない可能性も影響しているのでしょうか。物価高やインフレがあったとしても、一番の安定財源である土地についてはそもそも見直し対象外というのが現実です。

2026年7月31日

税と社会保険の合計負担率はどれほどか

 令和8年4月分(5月納付分)から、新たに「子ども・子育て支援金」という社会保険料の負担が生じることになりました。巷では独身税といわれているようですが、このようなステルス増税により国民負担率はじわじわと増加傾向です。ところで、税と社会保険をあわせた合計負担率はどれほどまで達するのでしょう。

1. 所得税と住民税の負担率

 所得税と住民税を合わせた最高税率は、復興特別所得税を含めれば55.945%に達します。所得税は累進税率のため、この税率が適用されるのは所得控除差引後の所得金額が4000万円を超える部分に限られてはいます。
 そうは言うものの、要は4000万円を超えるとそれ以上の稼ぎについては半分以上を税金として徴収されることになります。これは小学生の頃に社会科(歴史)で学んだ五公五民を超える水準で、年貢率は50%超ということです。実際に適用される税率の一部を示せば次のとおりです。
所得900万円超1800万円以下の部分 ・・43.693%
所得1800万円超4000万円以下の部分 ・・50.84%
所得4000万円超の部分 ・・55.945%

2. 社会保険料の負担率

 厚生年金保険料の負担は原則70歳まで、介護保険料は65歳を超えると給与天引きで無くなるなど、社会保険料は年齢によって内容が異なるため計算がとても複雑です。そこで、今回は東京都所在の会社に勤務する40歳から64歳までの現役世代の方を対象に考えてみます。この方の社会保険料の負担率(令和8年度協会けんぽ)は次のとおりです。
 健康保険料・・4.925%(9.85%×1/2)
 介護保険料・・0.81%(1.62%×1/2)
 子ども・子育て支援金・・0.115%(0.23%×1/2)
 厚生年金保険料・・9.15%(18.3%×1/2)
 ∴上記合計・・15%(30%×1/2)

 社会保険料は労使折半で負担するため、カッコ書き内は本人の負担割合の計算を表したものです。そのため、余談ですが、社会全体では1/2をする前の割合である30%の負担を強いられています。(会社は別途0.36%の子ども・子育て拠出金の負担があるため、社会全体の負担率は更に増加します。)
 ここで難しいのが、税金とは異なり社会保険料の負担には上限が定まっているということです。給与の標準報酬月額が厚生年金保険料は65万円、それ以外は139万円が上限であり、これ以上に給与が増えても保険料負担の増加はありません。

3. 最高負担率を探ってみる

 社会保険料の負担には上限値があります。そのため、税と社会保険を合わせた合計負担率がどれほどまで達する可能性があるのかを探るため、前提条件をつけて計算してみます。
 具体的には、不動産所得などの他の所得があるため給与分は他の所得に上乗せされて課税されている場合で、給与の標準報酬月額が最高水準の方を想定しました。
 前提条件
○月額給与(標準報酬月額の最高額)
 ・・139万円(年収1668万円、所得1473万円)
○給与以外の他の所得(所得控除差引後と仮定)
 ・・税率区分に応じて900万円、1800万円、4000万円の3パターン
 上記条件で計算した内容は次のようになりました。
 なお、給与部分は他の所得に上乗せされるため、高い税率が課されるものとして切り分けて考えています。

 結果として、税と社会保険の合計負担率は約60%に達しました。健康保険料の負担割合は都道府県により異なり、また年度によっても増減することから負担率が60%を超えることもあるでしょう。六公四民レベルです。

4. ステルス増税に対抗する

 令和9年からは、復興特別所得税の税率が2.1%から1%下がります。ただし、その代わりに新たな税負担として税率1%の防衛特別所得税が導入されます。結局のところ個人の税負担が下がることはありません。
 社会保険料などを通じたステルス増税の傾向を見ても負担が減ることはなさそうです。もはや個人では対策が難しい状況からして法人の活用が必須です。

2026年6月30日

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今月の言葉

帝国主義と自由主義

 中国人のリンさんはこんなことを言っている。
 2025年は、抗日戦争勝利八十周年だそうだ。我が国は二百年ほども昔から、抗日戦争に勝利するまでの間、ずっと帝国主義諸国の侵略を受け続けてきた。はじめは西から英、仏、独などが、やがて北からロシアが、そして何と最後に東からは、中華世界の一隅で我が国に媚びを売っていたアジアの日本までもが「近代国家」を標榜して中国に攻め込んできた。彼らは、みな国内では、「民主主義」だとか、「三権分立」だとか、「自由平等」だとか、徳義めいたものを掲げていたが、一歩国の外に出れば、自国の利益しか考えない不徳義国、狼であった。我が中国も遅ればせながら、近代国家を建設しようと孫文が「三民主義」を掲げ、それは抗日戦争勝利の後に毛沢東の「共産主義」に引き継がれた。毛沢東は、随分国内で無茶なこともしたが、中国が世界から侮られない立派な国になることの基礎を作ったのだから、その面から見ればやはり偉いのではないか。これから中国は、いよいよ経済発展を遂げて、ロボットとAIを武器に、近代以前の中華世界の再構築を目指すのだ。
 米国人のジェームズ君はこんなことを言っている。
 2025年は第二次世界大戦が終わって八十年だそうだ。我が国でも最近トランプとか言う馬鹿者が大統領になってしまい、第二次世界大戦後にアメリカが主導してつくった国際秩序を自ら壊すようなことばかりしているが、ともあれ、第二次世界大戦とは何だったのかを簡単に要約して言えば、それは自由主義と全体主義との戦いであったのだ。近代国家のできはじめの頃は、英国名誉革命、アメリカ独立革命、フランス革命と我々先進諸国は、たいへんな苦労を重ねて、自由主義、民主主義を打ち立てたのに、後進のドイツ、ロシア、日本などはそれらの徳義を無視しても近代国際社会を渡って行けると思っていたので、戦争で痛い目に遭わあせたのである。ソ連だけはドイツに攻め込まれたので途中から我々の方に鞍替えしたのだが、戦後45年ほどして、やはり全体主義では国内経営は無理と言うことになって、ソ連邦も崩壊してしまった。中国だって、今は偉そうに中華帝国再建の夢を見ているが、ナニ近代国家はある程度経済発展してくると、自由と民主主議の国にならねばやっていけなくなるのだ。いまに人民が共産党の支配を受け付けずに、自由を求め始めるに決まっている。
 ロシア人のニコライ君はこんなことを言っている。
 自由主義だって?そんなものは、我が国はロシア帝国以来一度も経験したことがないので全然わからない。ソ連時代に我が国の衛星国だった東欧諸国が、ソ連が崩壊した途端に自由だの民主主義だのが恋しいと言ってEUに加盟してしまうのも、国内統治の仕方を西欧風に変えてしまうのも理解しがたいことだ。ましてソ連邦の一部であった国、たとえばウクライナなんぞがEUだのNATOだのに加盟したいと言い出すに至っては許しがたいことだと思う。ソ連邦は経済運営のやり方が少しまずかったのであんなことになってしまったのだが、今のロシアは、ゴルバチョフみたいな馬鹿者が欧米のまねっこをして壊してしまった国内秩序を再建して、スターリン時代の勢いを取り戻しつつある。第二次世界大戦の主役はなんといっても我がロシアだ。戦後の国際秩序なるものは、アメリカ、イギリスなど古い帝国主義国に、ロシアが戦争で得た権益を認めさせた成果なのだ。
~以下次回に続く~

2026年9月30日

南瓜

 この稿の筆者は、幼時、南瓜が苦手であった。それは何故だったのかを考えている。
 たぶん、幼い子供は(あるいは少なくとも筆者は)、はじめてのモノを食するときに、自分が期待し想像した味と全く違う味だと、そのモノが苦手になってしまうのではないか。筆者は、丸い緑の南瓜を見て、野菜ではなく果物だと思い、おそらくはメロンの同類であろうと、甘い、みずみずしい味を想像した。南瓜の中を割って、ほっこりした黄色い実に出会っても、もっと甘い薩摩芋の同類ではないかと想像し、いざ食べてみると先ずそれは果物ではなくれっきとした野菜であり、その味は(昔の南瓜は今ほど甘くはなく)野菜特有のかすかなえぐみを伴ったものであったことにびっくりしてしまったのだと思う。長じてから南瓜を好きになったのは、野菜の煮物としてとか、南瓜の鶏そぼろ餡かけとか、いわば「酒食」の一員として南瓜を認識するようになったからだ。小学生の頃くらい迄は、給食などに南瓜が出てくると、なんとなく避けていたように思う。
 さて、南瓜(かぼちゃ)の語源は、「カンボジアから来た瓜」が有力だが、南瓜の原産地は中南米の高原地帯である。日本には、天文年間(1532~55年)に、ポルトガル人がカンボジアの産物として豊後大分に持ち込んだもの。コロンブスの新大陸発見から僅か半世紀もしない間に、南瓜は地球を(たぶん東回りで)半周して、日本にやってきたことに驚かされる。この鎖国前に入ってきた南瓜がいわゆる日本南瓜であり、「南京(ナンキン)」、「ボウブラ」などとも呼ばれた。
 現在日本での栽培の主流となっている西洋南瓜の方は、19世紀の開国後、アメリカから持ち込まれたと言われており、日本での栽培が広まったのは明治時代になってからと言う。現在、栽培されている主な品種には、えびす、くりゆたか、くりほまれなどがある。(ⅰ)
 南瓜は別名唐茄子(とうなす)とも言い、落語の「唐茄子屋政談」に登場する。この落語は、遊びが過ぎて勘当された若旦那が、唐茄子売りの行商になって、貧乏長屋を売り歩き、そこで出会った人々と織りなす人情話である。「明け烏」「船徳」などとともに、いわゆる「若旦那もの」として、今はなき古今亭志ん朝などが得意とするところであった。
 以下は、南瓜を如何に食するかという料理話である。この稿の筆者の筆頭お勧めは「南瓜の冷製クリームスープ」である。コンソメブイヨンとともによく煮た南瓜をミキサーで砕き、ポタージュ状にして生クリームを少し加えて冷やすという至って簡単なレシピ。煮る前の南瓜を一度電子レンジでふかしておくと、より早く上手に調理することができる。次には前述の南瓜の鶏そぼろ餡かけ。南瓜は和風だしと砂糖を加えて煮てから、鶏挽肉にみりんと醤油を加えたものを入れてさらに数分、最後に片栗粉をいれてとろみをつけてできあがりである。(ⅱ) ほかには、南瓜をサラダにするレシピがいくつかある。サラダの中での筆者お勧めは、「間違いない☆かぼちゃサラダ」。最近の南瓜は、甘みもあり、ポテトサラダの代わりによくマッシュした南瓜を少量のマヨネーズとともに和えて、酢と砂糖で下味をつけてスライスした胡瓜やハム、コーンなどを添えて食べるというものである。

ⅰ 鹿児島県指宿市のホームページを参考とさせていただいた。

https://www.city.ibusuki.lg.jp/main/fp/machi/nouchiku/page004673.html

ⅱ cookpad
 「ほっこり美味かぼちゃ鶏そぼろあんかけ」

https://cookpad.com/jp/recipes/19783890

 「間違いない☆かぼちゃサラダ」

https://cookpad.com/jp/recipes/17359525

2026年8月31日

楽市楽座

 楽市楽座は、織田信長が導入した政策で、中世封建時代と近世の商業の在り方の一線を画す革命的な施策であった。先ずそれまで、日本中各地には、在地の領主、寺社などが思い思いに関所を設けて関銭を取り立て、商品の物流コストを押し上げていた。そればかりでなく、多くの商品(たとえば油、紙、織物など)が、製造者カルテルというべき「座」によって管理され、座に入れぬものは当該商品を製造することができなかった。そして座もまた権力者への上納金によってカルテルを保護され、座の成員の儲けを確保してきたのである。
 織田信長は、商業を発展させるために在地の領主、寺社などが恣意的に関所を設けることを禁じ、座の成員によるカルテルも無効とするような特区を「楽市」「楽座」として、はじめは自己の領内の主要な町に導入し、やがてそれを拡大していく政策をとった。経済学的に言えば、絶対権力下の重商主義の導入としてこれを見ることができる。信長が行った比叡山延暦寺への弾圧と焼き討ちも、宗教機関である寺院が在地権力として政治的影響力を持つことを嫌忌したという側面だけではなく、延暦寺のような有力寺院が「座」の背景となる保護者としての機能を持っていた側面もあったのではないかといわれている。
 いずれにしても、信長による楽市楽座の導入を画期として、物流の自由化と自由競争による製品価格の引き下げが、商業の発展(量の拡大)をもたらし、德川期を通じた近代社会の基盤形成につながっていったことは、歴史の教訓としてよく見ておかなければならない。
 さて、この楽市楽座との比較において、昨今の世相でニュースとなっている二つの事象について述べたいと思う。その一つは米不足と消費者米価の暴騰であり、もう一つはいわゆるトランプ関税である。
 米についていえば、第二次世界大戦後の占領軍主導の農地解放により形成された、小規模自作農による米の生産と、農業協同組合等による複雑な流通ルートを自民党が選挙のために保護し、しかもいわゆる減反政策の下で米の生産を制限した結果、わずかの気候変動で米不足と米価格の暴騰が招来されたのが実相である。あるべき施策は、米生産の法人化、農地の再編、大規模米生産の奨励、流通の簡素化、ブランド米は高く、基礎食糧米は安くの米価格の自由化・多様化等であろう。農業における「楽市楽座」すなわち小規模自作農の保護をやめ、米の物流・商流を自由化することが、いま問われていると、この稿の筆者は考える。
 トランプ関税の問題はもっと深刻である。そもそもGATTからWTOに至る国際的な自由貿易の枠組みは、第二次世界大戦の反省の上に立って構築された、平和維持のための機構に他ならない。第二次世界大戦前、米英など先進的な資本主義諸国はいわゆるブロック経済圏を設けて自らの市場を囲い込み、その市場に参入できなかった日本、ドイツなど後進資本主義諸国が暴力によって、市場の奪取と資源の獲得を試みたのが第二次世界大戦の実相である。戦後関税によって保護されたブロック経済圏への反省の上に立って、自由貿易による自由な経済競争を(様々な激変緩和の留保をつけながらも)確保すること、すなわち国際貿易における「楽市楽座」が世界のルールとなったはずである。いまトランプ大統領は、自国の目先の都合で、その関税の禁忌にあえて手を付けようとしているのではないか。

2026年7月31日

AIの偏り

 今から三十年以上もむかしのこと。この稿の筆者は、広告宣伝の世界に身を置いていて、ICカードというものに興味を持った。その事情を先ず述べたい。
 たとえば、当時民放の全国ネットでプロ野球中継の間に30秒のテレビコマーシャルを流すとすると、およそ1000万円かかった。筆者はビールの宣伝担当であり、プロ野球中継は、ビール広告に最も適した媒体の一つであった。だが、その最適の媒体であっても、実際には視聴者の四割近くは、ビールを飲まない人(たとえば、未成年者とか、成人であってもそもそも酒を飲まない人など)であり、1000万円の内400万円近くは「広告の無駄打ち」となってしまう。もし初めから、ビールを飲む人というのが特定されていて、その人にだけ届く広告メディアがあったら、もっと効率の良いマーケティングができるのではないか。筆者がICカードに興味を持ったのは、この謂である。お客様が、ICカードを持って店舗に行き、たとえばビールを買う。店舗側の端末機に、いつ誰がどのくらいビールを買ったかが記録される。その記録を集めてきてデータベース化し、「ビールを飲む人」に対してだけ広告を打つような方法はないものか、そんなことを考えたのだ。
 そのころはまだ、個人情報という言葉は人口に膾炙していなかったが、お客様の購入情報を売る側が的確に知るには、いくらか困難も伴った。が、その後、インターネットなどの発達によって、たとえば筆者がネット通販で何かを購入したとたんに、売り手の側から筆者専用のメッセージが「この商品を買った方に、あの商品はいかがですか」「あなたの趣味に最適の○○はいかがですか」などと言ってくるようになったのである。世の中は筆者が思い描いていた方向に向かっているように見えた。だが、このことが思いがけない別の効果を生じさせてしまっている。それは、AIがもたらす「偏り」ということである。
 今日の情報社会では、真実かフェイクかを問わず、無数の情報が乱れ飛んでいる。ところが、あなたが、SNSで何かの政治的意見や歌、料理、芸能人などの好みを「つぶやいた」とすると、たちまちAIがあなたの趣向を分析して「あなた好みの意見」や「あなたが好きそうなモノ」を選んで推奨してくる。やがてあなたは自分の意見や好みに合った情報ばかりを受け取るようになり、知らず知らずのうち、どんどん「偏った」世界に落ち込んでいく。あなたの気に入らない意見や、趣味に合わない歌は配信されてこないようになるからである。今日、某超大国の大統領や、関西の某県知事など、かなりエキセントリックで、偏ったポジションの人物が選挙で勝利してしまう理由は、自分の好きな情報ばかりを受け取って、「口に苦い情報」も比較して考えることを忘れた「偏った」熱狂的な人々が支持者の中核にいるからである。インターネットが普及し始めたとき、筆者は、一部のマスコミによって選別された情報ばかりではなく、様々な方向の違う情報を比較考量して自分の頭で考え判断できる公正な社会が来ることを期待した。が、やってきたのは、多すぎる情報の中から、自分好みのものだけを選別する「偏った」社会だったのではないだろうか。

2026年6月30日

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