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COLUMN

TOPATO通信新制度の生前贈与、ホントにお得? 5127号

ATO通信

5127号

2002年12月27日

高木 康裕

新制度の生前贈与、ホントにお得?

平成15年度の税制改正については、先週送信の”え~っと通信”のとおりです。その中で、特に資産家の方からは、相続税と贈与税の一体化にご質問が集中でした。そこで、再びこのテーマ(ATO通信5124号参照)でその損得勘定を検証です。


1.新制度はこんな内容

 まずは復習ですが制度の概要から。


『相続時精算課税制度』

 と言う呼称になりそうです。65歳以上の親が20歳以上の子に贈与する場合、2500万円までは非課税(住宅資金については更に1000万円を上乗せで3500万円)です。これを超える贈与についても、一律20%の贈与税だけ。贈与の回数、一回の金額等は無制限で何度でも。贈与をすれば毎年申告が必要ではあるものの、これだけ聞けば何ともお得な税制です。但し、ここで贈与した財産は、相続時にはもう一度相続財産として課税され、相続税を算出です。そして既に納めた20%の贈与税部分はこの相続税から控除される仕組みです。なお、従来からの110万円の基礎控除の贈与税がなくなるわけではありません。新制度との選択制です。


2.価格が上がれば得、下がれば損!

 さて、この新制度、相続時に相続税として計算される場合、贈与時の価格で計算です。例えば、贈与時には1000万円で評価され非課税枠に収まっていたとします。実際の相続時にこの財産が5000万円になっていたとしても、相続税の計算はあくまで贈与時の1000万円。結果、4000万円は得したことになるわけです。逆に相続時に50万円に下がっていても、やっぱり計算上は1000万円。つまり、贈与時より相続時に価格が上がればお得、下がれば損となるわけです。一般論として、資産家の方にはお勧めできる制度ではなさそうです。価格が一定と仮定すれば、結局はただの前払い、損も得もないからです。つまり、上がるも下がるもギャンブルなのです。


3.確実な従来型贈与

 それならば、確実に従来型の110万円の基礎控除方式で積み重ねた方が安全かも知れません。従来型の贈与税も税率はかなり負担軽減で最高税率50%。来年からは310万円の贈与で20万円、1000万円で231万円の税額です。
 また、極め付きはこの新制度、いったん選択をした場合、二度と従来型の110万円の基礎控除の贈与には戻れません。前述の通り、1万円でも2万円でもその都度申告が必要で、勿論、非課税枠を超えていれば20%相当の贈与税、この場合なら1000円、2000円の贈与税の納税です。ただ、この制度を利用すれば、大規模な賃貸マンション等収益物件を生前贈与して、収益そのものを子に移転させ、納税資金を確保させることは可能です。
 さて、ここで一つ心配なことがあります。贈与をした子供が親より先に亡くなった場合はどうなるのでしょう?現時点で税制改正大綱上は明らかになっていませんが、子供の相続人に承継させる方向ではあるようです。なお、贈与を受けるのは、実子に限定されず、孫養子を含む養子も可能です。


4.名義預金への影響

 相続税の調査で必ず問題になるのが名義預金です。名義預金とは、名義上は被相続人の名義ではなく、妻や子になってはいても、実質的に被相続人の財産と推定される預金を言います。実務上は真実誰のものかの特定は非常に難しく、だからこそ、調査においては常に確認事項とされるのです。
 新制度においては、1万円でも2万円でも申告が必要です。となれば、この制度を選択した場合、結局は最期に相続財産として課税されるわけで、実質的に贈与ができないことと同じ結果になってしまいます。
 従来型の贈与税は5年で時効が完成、成立です。だからこそ、前述の相続税調査において、名義預金が誰の預金かについては、贈与の有無を含め議論沸騰です。正に喧々囂々、侃々諤々(けんけんごうごう,かんかんがくがく)税務署とやり合うことに!実務的な話をすれば、極端な例は別として、一定額については名義預金は認められ、相続財産からは外れる事も多いもの。新制度なら、贈与と申告すれば勿論最終的に相続財産。贈与と申告しなければ、当初より相続財産。税務署は調査がやり易くなることだけは確実です。

※執筆時点の法令に基づいております