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COLUMN

TOPATO通信遺産分割のやり直し! 5138号

ATO通信

5138号

2003年11月28日

阿藤 芳明

遺産分割のやり直し!

 相続の手続きで何と言っても大変なのは遺産の分割。その分割がやっと整ったにも拘わらず、様々な理由から分割協議のやり直しと言う事態が生じることも。ただ、気をつけたいのは税負担です。思わぬところで思わぬ税金。そこで、遺産分割のやり直しが本日のテーマです。


1.遺言なければ分割協議

 遺言が残されていなければ、相続人全員による分割協議で財産の割り振りをしなければなりません。民法上でその期日は決まってはいませんが、相続税の申告期限である10カ月後が申告義務のある方の実務上の期限です。
 詳述は致しませんが、この期限内に分割が整わないと、税務上の様々な特典が受けられません。そのためでもないでしょうが、何とか無理矢理に妥協する事も多いようです。
 蛇足ではありますが、遺言に定めていない財産があれば、それについては分割協議が必要です。また、遺言があっても相続人全員の同意があれば、遺言を無視して分割協議で財産分けをする事だって可能です。


2.実質を伴わない分割協議

 こんなご相談を受けました。相続人は3人兄弟 の甲乙丙、大きな賃貸物件であるオフィスビルの相続です。遺言によれば、3人での共有を指定です。これ以外の細かな財産は遺言に規定がなかったため、前述のようにオフィス以外の他の財産については分割協議を行いました。何とか期限までに相続税の申告も納税も済ませたそうです。本来ならば遺言により賃貸物件は3人の共有のため、その賃料も3等分されるべき。しかし、甲一人が登記未了のままオフィスビルを管理し賃料も独占、ここから3人の長い長い争いの始まりです。
 当然の事ながら、乙と丙は弁護士を立てて甲に賃料の返還を求めます。甲はと言えば、そもそもの遺言の正当性を否定、家裁での話し合いはもつれました。そして、8年の歳月を要してようやく決着のきざし。ビルは甲が取得をし、他の財産と相応分の金員を乙丙に支払う事になったのです。
 さて、この間、ビルの賃貸収入については、甲は一人でその全額を申告していました。この状態、つまり財産の分割のやり直しがまとまりそうな状態で税務面のご相談を頂いたのです。 オフィスビルの登記までする段階で、です。


3.本来の手続きは分割協議のやり直し

 本来の手続きはどうなるのでしょう?理屈の上では一度決まった分割協議のやり直しです。当然、相続税の負担も当初のものとは異なります。
 当初よりも税負担の多くなる人は修正申告、減る人は更正の請求や嘆願書の形で還付を求めることになるわけです。が、税法上は別として、いかんせん8年も経過してしまっています。
 それに何より分割協議をやり直したら、税務上は新たな財産の移転ととらえ、贈与税が課税なのです。つまり、建前として税負担無しに分割協議のやり直しはできないのです。
 が、繰り返します。実際には家裁での調停という分割協議のやり直しに全員が同意をしている状況なのです。


4.税務署は事実を何処まで追ってくるか?

 まず、オフィスビルの登記をすることになるでしょう。甲一人の単独所有、登記原因は勿論分割協議に基づく『相続』です。
 では、登記をすれば必ず税務署にバレルのか? 公正かつ適正な税務に協力すべき、税理士の立場からはちょっと申し上げにくいのですが、独り言を申し上げましょう。登記原因に依るというのがその答えです。原因が売買や贈与であれば直ぐさま目を付けられます。しかし、原因が相続であれば、それを一つ一つ申告の有無を確認などしないのです。なにしろ、相続税の申告は100人の方が亡くなっても、5人しか対象者がいないのですから。売却すれば、それだけで申告が必要な譲渡税とは違うのです。まして、8年も前の相続を当時の分割協議書と合致しているかどうかの確認など、できようはずもありません。つまり、家裁での調停事項どおり事を進め、登記をしても、実務的には問題はないのです。(そのようにお勧めもしておりませんし、このお客様がどうなさったかは私も知りません。)
 遺産分割のもめ事を回避するのは遺言と言いながら、遺言で総てが解決できる訳ではありません。内容次第では遺言がその後の親族間に感情的なしこりを残します。ああ遺言、あっても問題、なければ更に問題です。やっぱり最善の相続対策は死なないこと、と心得ましょう!

※執筆時点の法令に基づいております