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COLUMN

TOPATO通信正しい税務調査の終わり方 5180号

ATO通信

5180号

2007年6月1日

阿藤 芳明

正しい税務調査の終わり方

税務調査を受けた場合、申告内容について、税務署は様々な指摘をしてきます。その指摘が正当でありこちらが誤りを認める場合も、逆に承服できない場合もあるでしょう。相手が税務署だからと安易な妥協をすると、後々とんでもない事になってしまうことも。今回は正しい調査の終わり方を検討してみました。


1.申告内容の訂正方法

 税務調査の結果、税務署が申告内容について何らかの誤りを発見したとしましょう。誤りが確かにこちらのミスであり、納得の上是正をする場合は簡単です。修正申告書を提出すれば調査は終了で、一件落着なのです。問題は税務署が指摘した誤りに納得できない場合です。調査は膠着状態に陥り、税務署相手に折衝が始まります。勿論折衝は税理士に任せておけばよいのですが、お客様としても心中穏やかではいられません。税理士の力量はこんな場面で試されるわけですが、その力量とは無関係に双方の話し合いが決裂することもあるわけです。
 こちらが修正申告に応じない場合、税務署は職権で『更正』処分と言う、強制的に課税する権限を持っているのです。税務署もこれをするのは手間暇がかかり、負けた場合はメンツが立たないため、むやみに強権発動はしないのですが…。


2.修正と更正の相違点

 当初の申告金額が訂正される点では修正も更正も同じなのですが、両者の持つ法律的な意味合いには大きな相違があります。
 まず、修正申告はもともと税務署に指摘されたことに端を発してはいても、あくまでお客様が納得をして行う行為なのです。実際には結構強制的に修正させられるケースもありますが、とにもかくにもお客様の意思でなされたもの。従って、ひとたび修正申告を提出すれば、やっぱりあれは間違いだった、新たな証拠も出てきたから増額となった税金を減額して欲しい、とは決して言えないのです。それに対して更正は、お客様の意思とは関係なく、税務署の一方的な課税処分。と言うことは、これに対し異議申立て、審査請求、訴訟提起等々の手続きが可能で、結果はともかく文句を言える道だけは残されているのです。


3.借地権は有りや、無しや?

 こんな事例がありました。ある地主さんの相続税の申告事案です。被相続人の親族に土地を貸していらしたのです。何十年の長きに亘り、相応の地代も受け取っておられました。相応とは言ってもそこは親族、他の借地人よりは少ない金額のようでした。何しろ何十年も前からのこと、他の借地人を含め、正式な契約書など作成もしていない状況だったのです。
さて、相続税の申告に当たって当時の税理士は判断に迷ったそうです。借地権有りとして底地の評価とするか、地代の支払いはあると言うものの、いわゆる使用貸借として、更地の評価をするかについてです。使用貸借とはただ同然の貸し借りの事で、その場合は借地権がないため土地の評価は更地となってしまいます。それに対し借地権があれば、地主さんの権利は底地だけとなり、低い金額での評価です。結局、税負担の少ない底地の評価を選択し申告をなさったそうです。


4.税務署が時々使う手口に注意!

 果たして申告の後、相続税の調査がありました。そこで税務署の見解は、親族への土地の賃貸は状況から考えて使用貸借、つまり更地での評価が妥当との指摘です。実は当時から借地権の有無と立ち退きを巡って親族間にも争いがあり、両者の関係はしっくりとは行っていなかったのです。と言うより、場合によっては訴訟問題という段階で、一触即発の状況でした。そこへ税務署の指摘です。
 お客様も税理士も借地権無しと言うことに、容易には納得できなかったのですが、こんな時税務署は甘い言葉をささやきます。『この件で修正申告を提出してくれれば調査は終了にします。それに、裁判にでもなって借地権が認められた場合、その時は申し出ていただければ申告を直しますよ。』
  こう言われて修正申告書を提出なさったそうです。


5.正しい調査の終わり方

 話は修正申告と更正の相違点に戻ります。繰り返しますが、修正申告はあくまでお客様が納得をして行う行為なのです。だからこそ、後日、やっぱり内容を訂正してくれと言っても、税務署は聞く耳を持つ必要はないのです。まして、今回のようなケースでその当時の担当者がその後も同じ税務署に居て、当時の状況を理解、把握していればまだしも、法律上は後日の訂正は門前払い。一度修正申告書を提出したら、その是正はもはやできないと考えておくべきなのです。だからこそ、税務署は更正という職権で課税できる権限を持ちながら、調査では修正申告を勧めてくるのです。
 調査を受けた場合の大切な教訓! 納得できない修正申告は決して提出してはいけません。納得できないときは、更正をして貰いましょう。真実は神様だけがご存知なのです!

※執筆時点の法令に基づいております