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COLUMN

TOPATO通信小規模宅地等の保有要件 5347号

ATO通信

5347号

2021年4月30日

高木 康裕

小規模宅地等の保有要件

 今年の4月から、新たに代表社員に就任することになりました。まだまだ若輩者ではありますが、皆様のお力になれるように精一杯頑張って参ります。そしてこれを機に、今月号からはこのエーティーオー通信も私が執筆することになりました。面白味がなくなったと言われることがないよう、役に立つ情報をできるだけ分かり易く伝えていきたいと思います。今後とも変わらぬお引き立てを頂けますようよろしくお願いいたします。
 さて、最初のテーマですが、ここはやはり相続税に関するものが良いのではないでしょうか。そこで、最も頻繁に話題に上がると思われる小規模宅地等の特例について、その保有要件の実務的なお話をしましょう。


1.特例の内容を再確認

 小規模宅地等の特例とは、相続した宅地等(土地又は土地の上に存する権利)のうち、事業の用や居住の用に供されているものに対する相続税上の特例のことです。
 これらの宅地等は、生活や事業の基盤としてとても大事な財産といえるでしょう。そこで、相続税の課税上も一定の配慮をするという意味合いで、この特例が用意されているのです。小規模宅地等の特例を利用すれば、宅地等の評価額を最大で80%引きにすることができます。つまり、自宅敷地の相続税評価額が1億円であったとしても、この特例を利用することで80%引きの2000万円の評価にすることができるのです。
 ただし、いくらでも無制限に利用できるわけではなく、面積制限が設けられています。例えば、居住の用、つまり自宅の敷地であれば330㎡までが80%引きの対象です。また、賃貸の用、つまりアパートの敷地であれば200㎡までが50%引きになります。限度面積があるとはいっても、このように土地の評価額を大きく減額することができるのです。相続税の申告をするうえでは、この特例を上手に活用することが肝になるでしょう。


2.適用にあたっての所有要件

 特例を適用するためには、一定の要件を満たす必要があります。相続する方や、宅地等の利用状況によって細かな要件がいくつもあるのですが、この特例の趣旨からして大事なものは申告期限までの所有要件ではないでしょうか。
 そもそもこの特例は、生活や事業の基盤となる守るべき宅地等について、その課税を軽減しようという制度です。したがって、相続発生後に売却をして手放すのであれば、適用させる必要は無いということになります。そのため、相続税の申告期限までは宅地等の売却をせずに、所有している必要があるのです。(配偶者が自宅敷地を相続する場合のみ、例外としてこの要件がありません。)


3.申告期限前に売買契約を締結した場合

 相続税の納税資金を用意するため、または売却代金を相続人で分配するため、など様々な理由によって土地を売却しなければならないこともあるでしょう。ただし、相続税の申告期限前に売却した土地は、小規模宅地等の特例を利用することはできません。特例を利用するのであれば売却を遅らせる必要があるのです。
 では、土地の売買契約を締結してはいるが、引き渡しをするのは相続税の申告期限後という場合はどうなるのでしょうか。売却することが見えているのですから適用できないようにも思えます。しかしながら、この特例の要件である所有とは、文字通り「宅地等の所有権を有していること」と解されており、所有権を手放さなければ良いのです。すなわち、売買契約を締結しても申告期限までに引き渡しをしていなければ適用が可能なのです。
 今のところはこのような取扱いになっていますが、税制改正によって要件が厳しくなる可能性がないとは言えないでしょう。


4.申告期限には注意

 相続税の申告期限は通常は相続開始の10か月後です。2月10日に死亡した方の申告期限は12月10日です。特例を利用したいのであれば、この日までは所有するようにして下さい。なお、申告期限が延長することがあります。最近は自然災害が多く、首都圏では令和元年台風第19号が記憶に新しいところです。このときは世田谷区や大田区、川崎市などに土地を所有していた方は申告期限が自動的に延長されました。そのため、特例の所有期限も10か月より延びたのです。このようなときは、引き渡しの時期は特に注意が必要です。


5.他の適用要件も忘れずに

 所有要件以外の要件にも気を付けましょう。申告期限までは居住継続(配偶者を除く)や事業継続という要件があります。すなわち、自宅であれば引っ越しせずに住み続ける、アパートであれば空き家にするための立退きをしてはいけないのです。土地を売却したいということは、早く現金にしたい理由があるはず。そうはいっても、相続税を少なくするためには、申告期限までの努力を見せる必要があるのです。

※執筆時点の法令に基づいております