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COLUMN

TOPATO通信何故少ない、不動産所得の税務調査? 5224号

ATO通信

5224号

2011年1月31日

阿藤 芳明

何故少ない、不動産所得の税務調査?

 毎年の事ながら、年が明ければ税金の世界では直ぐに確定申告が始まります。申告書を提出すれば、今度は税務調査の選定作業。が、家賃や地代の不動産所得については、実は滅多に調査はないのです。大袈裟に言えば、不動産所得に限っては税務調査恐れるに足らず。実は税務署の内部事情、こんなからくりになっているのです。


1.結構杜撰な選定作業!

 決算期が選択できる法人と異なり、個人の確定申告は一律に暦年締めで翌3月15日が期限。所得税の担当職員はこの時期最も忙しいのですが、それが終わってからも大変です。町丁別に担当者が割り振られ、一つに綴じられ提出された申告書を決算書や医療費の領収証等にバラして区分け、50音順に整理し編綴。その整理後は内容の審理チェックにかかります。そこで①実地の調査が必要なもの、②簡易な誤りが想定されるため、税務署への呼び出しをし、状況次第では修正申告をしょうようするもの、③特に問題が無いため処理を省略するもの、の3区分を行う訳です。この間の作業、総て一人。最終の調査選定については上司のチェックもありますが、基本的にはこの事務作業、偏に個人の力量にかかっています。新人とベテランでは明らかに力量に差はあるもの。正に納税者にとっては町丁別が運不運の分かれ目です。


2.調査選定の基準は増差が最優先

 さて、上記①~③の中で最も気掛かりなのは①の調査に選定されるかどうかです。この場合、税務職員は何を基準に選別するのでしょうか。言うまでもなく増差(増減差額の事)です。調査を行う事によって、申告前の所得よりかさ上げができれば、それが正しく彼らの手柄。増差が多ければ多いほどデカシタ事になる訳です。そこで増差が出そうな業種を考えてみましょう。基本的な考え方として、税金をごまかす可能性がある業種、営業状況を考えればいいのです。赤字で苦しんでおり、日々の生活がやっとと言う場合、税金をごまかす必要はありません。たまたま所得計算を間違う事はあっても、大きな増差は見込めないのです。つまり、逆に言えば、儲かっている業種、業況が良好な人を調査するのが手っ取り早く増差につながる筈です。


3.調査のし易さも選定の鍵

 もう一つの鍵は調査のし易さです。例えば製造業や建築業の場合、受注書、発注書、請求書、領収証等が残されるため、物とお金の動きを確認する事は比較的容易です。もちろん簿外の取引を足のつかない現金で行う悪質なケースもあるでしょうが、それはそれで何処かで尻尾が出ているもの。それに比べ、不特定多数の客が相手のいわゆる現金商売は全貌の把握は難しく、調査官も二の足を踏むものなのです。結論として、調査がし易く増差が見込めるものが選定されることになる訳です。


4.不動産所得の申告状況

 ここで不動産所得の貸付状況の実態を見てみましょう。圧倒的に多いのは、自宅の隣りに数世帯のアパート形式。ちょっと気の利いたところで5~6階建ての賃貸マンションを一棟持っていると言ったところでしょうか。中には1階が自宅で2階を貸している程度の小規模なものも多く見受けられます。この稿の読者のように何棟も賃貸マンションがあり、借地人を多数抱えている方は全体的には少数派です。となると、不動産所得の金額も大半は少額で収入も経費も確認は容易。そもそも多額の所得を誤魔化せるほどの規模に達していないのです。賃借人が法人なら、毎年支払い家賃を法定調書として税務署に提出しているため、それとの突合せで申告漏れは直ぐに確認も可能。わざわざ実地に調査に出向かなくても、ちょっと税務署に来て貰えばその辺の事実確認は容易です。


5.法人の場合も状況は同じ

 さて、上記の状況は法人組織の場合も同様です。従って超大手のビル賃貸業の法人は別として、一般のいわゆる所有型法人も、基本的には調査に選定されることは少ないのです。更に法人の場合、増差もさることながら重加算税を賦課する事も大切な手柄の一つになっています。不動産賃貸業の場合、相手先ははっきりしていて金額も定額、せいぜい経費のうちに家事関連費用が若干混入している程度。とても仮装隠蔽をその要件とする重加算税の対象となるようなものは期待ができず、調査選定の可能性は低いのです。


6.狙われるのは資産家のみ!

 それでも読者の皆さんの中には、我が家に、或いは我が社に税務調査が入ったとおっしゃる方は少なくないかもしれません。それは一般の方とは税務署が別管理をしている、いわゆる大口資産家と言われる方々ではないでしょうか。一定規模以上の貸家や貸地をお持ちの方、固定資産税の納税額が多額な方等は特別国税調査官という部署が、その個人のみならず一族、関係法人までをまとめて管理をしているからです。不動産所得は恐れるに足らずとは言うものの、資産家はやはり、それなりの注意が必要なのです。

※執筆時点の法令に基づいております