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COLUMN

TOPATO通信分割協議と納税方法はセットで考える! 5235号

ATO通信

5235号

2011年12月27日

阿藤 芳明

分割協議と納税方法はセットで考える!

 相続税の申告に際し遺言書が無い限り、分割協議で財産分けについて、意見の調整をしなければなりません。それに基づいて各人の納税額が確定される事になります。財産を多く相続すれば、納税額もそれに伴って多額になります。従って、分割協議の段階で税額を確認すると共に、納税方法までをも併せて考えておく必要があるのです。


1. 各人の税負担は財産の多寡による按分です

 相続税の計算は、財産の額を基に法定相続人が法定相続分で分けた事を前提に“相続税の総額”を算出します。この総額を実際に分けた財産の多寡に基づいて按分し納税するのです。納税に当たっては、税額もさることながら、どのような方法で納めるかを考えながら決めないと、納税段階で苦労をすることにもなってしまいます。
 と言うのは、原則は現金による一括納付。それが駄目なら最長20年払いの延納ですが、これには延納金利の負担があり、担保も必要です。延納も無理な場合、初めて物納も選択肢になりますが、これはこれで事前に周到な準備が必要なのです。


2.分割が決まらないと、財産は共有状態

 こんな事例がありました。Xさんに配偶者はなく、3人の子A,B,Cが相続人です。分割協議は不調で、申告期限を迎えても成立せず、結局未分割の状態で申告をすることに。この三人は以前から不仲、兄弟喧嘩が絶えない状況でした。
 財産の状況は下記の通りで合計6億円、相続税の総額は1億5,000万円でした。

 Xの自宅敷地・家屋1億4,000万円
 賃貸マンション敷地3億2,000万円
 同上の家屋1億3,000万円
 現預金1,000万円

 さて、財産が未分割のため、納税額はとりあえず均等となり一人当たり5,000万円。Aは自己資金で完納できました。しかし、BとCはそれぞれ1,500万円、400万円しか納税することができず、延納申請を考えたのです。Bは自宅を担保に何とか延納の許可を得ることができましたが、Cは担保に供する財産もありません。そこで、相続財産であるXの自宅敷地及び建物を担保に供する事を考えたのですが、未分割の状態です。
 民法上この状態は、総ての財産が相続人全員の共有となるため、Cが相続財産を自己の延納の担保に供する場合、他の相続人の同意を取り付けなければならないのです。そこでCはA,Bに自己の延納の担保に供するため同意を求めました。Bは同意してくれたものの、Aは反対。結局延納の許可を得る事ができず、納期限までの手続きができなかったのです。担保の提供に協力をしてくれなかったAとの関係は益々悪化。3年を経過した今も未分割の状態が続いています。


3.共有財産も物納はできますが…

 これは私の駆け出し時代の失敗談です。従前からのお客様ではなく、相続税の申告だけのご依頼でした。相続人は甲さんの長男、長女の二人と次女がいました。が、次女は既に他界のため、代襲相続と言って次女の子、丙が加わり計3人でした。
 相続財産に金融資産はほとんどなく、区画整理事業が行われている土地と、その隣地の山林が主な財産と言う状況です。区画整理事業については、仮換地と言って区画割りも終わった状態だったため、私はこれを区画ごとに3人で分割し、山林を共有にして物納に当てる提案をしたのです。
 共有財産は原則として物納は認められないのですが、全員が物納申請する場合は別で、その他の条件をクリアーすれば認められる状況ではあったのです。実は、相続人らからその山林に隣接する土地が親戚の所有物件で、数年前の相続で物納が認められたばかりであることを聞いていたので、上記のような提案ができたのです。
 さて、前述のとおり、物納は金銭及び延納での納付が困難な場合だけ認められるものですが、税理士としては、相続人各人の所得税の申告書を毎年作成している訳でもなく、詳細は把握していなかったのです。あくまで十分な資金の用意がある訳ではない事を承知していた程度でした。問題は丙の所得状況で、サラリーマンではありましたが、大手の損害保険会社に勤務。働き盛りで年収が1,400万円ほど。当時の平均的な給与所得者の平均水準から比べると、非常に恵まれたものでした。申告書や分割協議をまとめるのに必死だったため、事前に相続人各人の正確な所得状況を把握していなかったのです。いよいよ物納申請書の作成段階で、金銭納付が困難な状況に該当するか否かの判定をすることに。つまり、納税額全額とは言わないまでも、延納もできるのに物納が認められるかどうかの疑問がフツフツと…。
 共有による物納で納税を主導したのは私で、今になって丙だけは認められないかも知れないとは言えません。結果は共有財産の物納と言う観点からOKでしたが、税理士としては、事前の準備が不足していたことは事実で冷や汗もの。今でも時折夢にみる、大いに反省しなければならない事案でした。

※執筆時点の法令に基づいております