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TOPATO通信税務署はいつまで待ってくれるのか? 5270号

ATO通信

5270号

2014年11月28日

阿藤 芳明

税務署はいつまで待ってくれるのか?

 相続で財産分けについて話し合いがまとまらない。よくある話です。しかし、相続税がかかる場合には、話し合いがまとまろうと、もめようと、税務署は待ってはくれません。そんな場合、とりあえずは法定相続分で仮の申告、仮の納税をすることに。が、財産の分割ができないと、各種の重要な特例を受けることができません。これについては、税務署は一体いつまで待ってくれるのでしょうか。果たして”争族”はいつまで続けることができるのでしょうか?


1.分割ができないと受けられない大きな特例

 財産分けで話し合いがまとまらない場合、とにかく困るのは相続税における非常に大きな特例を受けられない事でしょう。一つはお馴染みの小規模宅地等の特例で、ご自宅や不動産貸付用建物の敷地等についての減額特例です。特にご自宅については若干の条件付きではありますが、80%引きと言う大きなもの。貸付用の敷地も50%引きです。
 もう一つは配偶者についての税額軽減の特例です。一般的には相続財産の半分、又は1億6,000万円までの相続なら、相続税がかからないと言う魅力的な特例で、どちらも適用しない手はないと言えるものでしょう。ただ、前述のように、財産分けができなくても、税務署は待ったなしで法定相続分による仮の申告・納税を迫ってきます。


2.とりあえず、3年間は待ってくれます

 しかしながら、財産の分割ができない場合、これらの特例が適用できなくても、税務署は猶予を与えてくれるのです。その期間は原則的には3年です。但し、この猶予を与えて貰うには、「申告期限後3年以内の分割見込書」と言う書類を提出することを忘れてはいけません。勿論、実際に3年以内に分割ができるかどうかは分かりません。神のみぞ知る、ですから。でも、とりあえずこれを提出すれば、3年間の延命ができるのです。
 この書類には、分割されていない理由、分割見込みの詳細等を記載するのですが、それは実際には税理士がこの書類を作成するのでご心配はいりません。ATO得意の作文で、何とか3年以内には分割できそうです、的な含みで記載しておけばいいのです。


3.3年が過ぎたらどうするか?

  さて、それでも3年以内に話し合いがまとまらなければどうするか。ここでも税務署は救済策を用意してくれています。その場合でも、やむを得ない事由がある場合には、3年を経過する日の翌日から2ケ月以内に、今度は「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を出せばいいのです。そのやむを得ない事由とは、調停や訴訟なら基本的には立派な事由に当たります。承認申請書ですから、承認して貰えない場合も理論的にはあり得ます。が、これも実際に作成するのはプロの税理士、大船に乗った気持ちでお任せ下さい。調停や訴訟をやっていると言う理由でなら、今まで申請が認められなかったことはありません。
 そして、分割ができることとなった日の翌日から4ケ月以内に分割された場合、晴れて特例の適用ができることになるのです。つまり、相続税の申告のやり直しです。


4.相続税の申告をやり直して

 相続税の各人の負担は、先ずは”相続税の総額”と言う全員による合計額を算出し、それを実際に相続する財産の多寡に応じて按分をする仕組みです。小規模宅地の評価減額の特例で評価額自体が下がれば、全体としての相続税の総額は減少します。従って、相続人によって税負担に差はあるでしょうが、とにかく全員がこの申告のやり直しで税負担が減ることも多いものです。勿論、話し合い次第ですが、沢山の財産を相続することに決まった方は、以前に行った仮の申告、つまり特例を全く適用せず、法定相続分で申告・納税した税額よりも増えるケースもあるでしょうが…。
 とにかく、特例の適用によって税額が減少する相続人は「更正の請求」、税額が逆に増えることになった相続人は「修正申告」と言う手続きにより、申告のやり直しをすることができるのです。


5.何故、税務署はこんなに親切なのか?

 税務署にしては珍しく、あの手この手で救済策を用意してくれています。何故、こんなに親切なのでしょう?よく考えてみるとこれは当たり前なのです。既に法定相続分で何らの特例も無しで過分な税額を納めているのです。本来、分割さえできていれば、当然のことのように受けられる特例だからなのです。
 当座は3年と言う期限がありますが、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出さえすれば、その事由が続く限り実質的には期限なし、無制限に待ってくれるのです。が、しかし、です。いくら税務署がいつまでも待ってくれるからと言っても、財産分けは1日でも早く解決する事が、相続人全員の幸せなのです。

※執筆時点の法令に基づいております