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COLUMN

TOPATO通信税務調査もAIの時代 5400号

ATO通信

5400号

2025年9月30日

高木 康裕

税務調査もAIの時代

 デジタルDXの流れもあり、最近の世の中をみているとAIの活用はもはや一般的になりつつあります。AIといえば、20年以上前のスピルバーグ監督の映画AI(Artificial Intelligence)をふと思い出して懐かしんでしまいました。AIロボットが外を歩き回るような日はまだ先なのでしょうが、最近は税務調査にもAIが活用されていることはご存知ですか。

1. 相続税調査へのAI利用が始まる

 法人税の調査では、すでに数年前からAIが導入されています。申告内容のデータに基づいて、AIが申告漏れの可能性が高い納税者を選定するなどしており、その活用がされているのです。
 この流れがいよいよ相続税にもやってきました。
 令和7年7月からは、相続税の税務調査についてもAIが本格的に導入されることになりました。AIの活用方法ですがこれは法人税と同じく、まずは税務調査を行う先の選定です。
 国税庁が独自開発したAIを活用してデータ分析を行い、その結果をもとに税務調査を行うべき先を効率的に選定します。

2. AIは何をする? 

 AIはどのように相続税の調査選定を行うのか。もう少し具体的な内容をみてみましょう。
 国税庁のAIシステムは、令和5年以降に発生した全国の全ての相続税申告書データを分析します。
 分析にあたっては、申告漏れなどが生じる可能性が高いかどうかを判断してスコア付け(数値化)します。そして、このスコアが高い場合には、申告漏れリスクが高い案件であるとAIが判断したものになります。
 現場の各税務署では、この結果をもとに実際に税務調査を行うかどうかの選定の参考にするというわけです。
 税務調査の必要がある事案を効率的に選定するためにAIを活用する、ということが導入背景ですので、スコアが高ければほぼ間違いなく税務調査が行われることになりそうです。反対にスコアが低ければ、調査の確率は低くなると思われます。いずれにしても、税務署全体の調査選定レベルは向上するでしょう。
 AIは、過去の調査事績を踏まえたうえで、確定申告書や財産債務調書などの情報も参考にしながらスコアを付けるようです。AIであれば学習をするはずなので、スコア付けのルールや内容は段々と改善されていくことでしょう。

3. 預貯金等はオンライン照会

 AIによる調査選定以外にも業務の効率化は進んでいます。相続税の調査ではお金の流れを確認するために、預貯金等の動きを把握する必要があります。そのため、税務署は金融機関に対して口座情報の照会を行うことになるのですが、いまやその多くがオンラインで行われています。数年前までは書面で照会を行っていたため結果を得るまでには時間がかかっていましたが、オンライン照会であれば数日で情報が取得でき、かつ簡単にできるようになりました。
 そして、オンライン照会を行うのはなにも銀行だけではありません。生命保険会社や証券会社についても順次対応を広げており、今後はクレジットカード会社や電子マネー業者にも拡充させることを考えているようです。
 マイナンバーが導入される際にも言われていましたが、税務署がお金の流れや決済情報をオンラインで簡単に把握できる時代になりつつあるのです。

4. 今後はAIが情報分析か

 いまのところは税務調査先の選定にAIを利用していますが、将来的にはこれに限らずもっと多様な業務に活用されていくと思われます。オンライン照会で得た金融機関の情報も分析されることでしょう。
 年数を経過すればするほどAIの学習量は増えますので、年々精度は向上するはずです。AIであれば人間よりも多くの情報分析を行えますから、今までよりも申告内容が細かくチェックされそうです。
 そうすると、対峙するこちら側も上手にAIを活用することが重要になってくるのでしょう。

5. 税務調査への対応力

 相続税は、法人税などの申告とは異なります。
 相続税の税務調査では、当然ですが被相続人はこの世にはいません。そのため、生前のこと、相続財産のことなどを本人に直接質問することができません。そこで、本人ではなく相続人などに状況を聞くことになります。このように、相続税の税務調査では相続人や税理士が応対するわけであり、ここが他の税務調査とは大きく異なるところです。
 AIも当然重要ですが、税務調査は現実世界で相対して行われます。だからこそ、様々な経験に基づいた専門家のノウハウ、勘どころはこれからも大切であり、そこが税理士の腕の見せ所です。

※執筆時点の法令に基づいております