5367号
遺言作成、公証人との対応実務
エーティーオー通信で幾度となく取り上げ、お薦めをしてきた公正証書遺言。遺言を遺すのであれば公正証書がベストです。実際に作成したことがある方であれば、実務的にはどのような流れで作られるものなのか、多少なりともご存知かと思います。遺言作成の最終段階、このときには公証人の確認が入るのですが、この確認方法に関して最近ルールの統一化?が図られたようなのです。
1.公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言について民法では次のような流れで作成するようにと定められています。
(1) 証人2名以上の立会いがあること
(2) 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で告げること
(3) その内容を公証人が筆記し、遺言者と証人に読み聞かせ、閲覧させる
(4) そして、上記内容に間違いがないことを遺言者と証人が確認して、各自が署名押印する
民法では証人は2名以上となっていますが、3名以上になることは実際にはありません。実務では、証人はあくまで2名で作成されることになっています。
それでは、上記の流れを今一度確認してみましょう。公正証書遺言はその内容を遺言者が口頭で告げて、それを公証人が筆記して作成することになっています。民法ではそのようになっていますが、その場で公証人が本当に筆記をして作っているのでしょうか。それでは、実際の作成手順の流れをお話ししましょう。
2.本当のところ、実務上は
まずはイメージしてみましょう。想像するとお分かりになるかと思いますが、遺言作成の当日に公証人が遺言内容を確認して、それから筆記作業を始めていたのでは時間ばかりが掛かってしまいます。とても現実的ではありません。それに、その場に書記官などが居なくてはそもそも文章化すること自体が難しいことでしょう。
そのようなこともあり、実務上は公正証書遺言をあらかじめ作成しておいてから、上記(3)の手続きに望むことになっています。具体的には、事前に財産の詳細な内容や誰に承継させるのかということを文章で下書きなどして公証役場に伝えます。そうすると、公証人がその内容に沿った添削後の遺言案を作成してくれます。遺言者はこの案文を確認して、修正して欲しい箇所などがあればその内容を伝えて最終案を仕上げていくのです。そして、最終の公正証書遺言(案)が出来上がり、これで良いと確認してから公証役場に出向くのです。
3.公証人のヒアリングがルール化?
作成当日、公証人は印刷しておいた公正証書遺言を遺言者と証人に手渡しします。この書面を読み上げることで、(3)の手続きが履行されるのです。それでは、(2)の手続きはどのようになされたのでしょうか。実はこの手続き、従前は公証人によって結構まちまちだったのです。遺言案のやり取りを通じて事前に内容確認が行われますから、これが(2)の手続きとして、当日は再度遺言者から細かな確認まではしないことがほとんどでした。特に士業などの専門家が関与する場合には、遺言者の代わりに公証人との間で細かなやり取りを行いますので、既に確認済みということもあったのでしょう。
この手続きが、最近新たにルール化されたようなのです。今夏を過ぎたあたりからでしょうか。何件もの公正証書遺言の作成に立ち会って感じたのですが、公証人から次のことを必ず聞かれるようになったのです。
〇氏名と生年月日を教えて下さい。
〇今日作成する遺言について、どのような内容か話して頂けますか。
何人もの公証人がまったく同じ質問をしてくるので、おそらく(2)の手続きの確認方法についてお達しでもあったのでしょう。
今後は、簡単で結構ですので遺言者は遺言内容の概要を話せるように心構えをしておきましょう。急に聞かれて慌てることがないように!特に高齢の方は公証人に会う前に復習をしておくのが良いかもしれません。
4.付言ではなくて前文を活用!
遺言には、本人の気持ちなどを記載することがあります。俗に付言事項と言われるものです。この付言事項、遺言に付け加えるという意味合いから遺言書の最後に記載されるのが一般的です。インターネットなどでも必ずと言って良いほどそのように説明されています。
しかし、最後に付言として記載しなくてはならないというルールはどこにも無いのです。遺言書を作成するに至った想い、本人の気持ちを相続人に伝えるためのものです。財産の承継方法を細かに指定してから最後に言い訳のように述べるのと、遺言の最初に前文として述べておくのとでは、どちらが相続人に響くのか?考えればお分かりになりますよね。
仔細は後にして、まずは気持ちを伝えることから始めるのが良いに決まっています。遺言者の気持ちは付言などではなく前文で述べる。もう1つの実務ポイントです。
2022年12月26日