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TOPATO通信会社を分けて簡易課税を活用! 5378号

ATO通信

5378号

2023年11月30日

執筆者:高木 康裕

会社を分けて簡易課税を活用!

 消費税の計算方法には2種類あることをご存知ですか。原則課税と簡易課税です。どこかでは聞いたことがあることでしょう。この簡易課税による計算、上手に使えばいろいろなメリットがあります。また、新たに始まったインボイス制度への対応でも簡易課税の利用価値があります。

1. 簡易課税のメリット

 消費税が課税される売上げ、この売上規模が5000万円以下であれば簡易課税方式によって消費税を計算することができます。ちなみに売上規模の判定は、原則として基準期間という2年前の売上げを用います。
 この簡易課税を選択すると消費税の計算が簡単になるばかりではなく、税メリットが生じることが多いです。
 例えば、貸店舗や貸事務所などの不動産賃貸業で課税売上げが4400万円(うち消費税400万円)、課税仕入れが880万円(うち消費税80万円)の場合を見てみましょう。
 1 原則課税での納税額
   売上消費税400万円 - 仕入消費税80万円 = 320万円 ⇒ 320万円の消費税
 2 簡易課税での納税額
   売上消費税400万円 - 売上消費税400万円 × 40% = 240万円 ⇒ 240万円の消費税
                                (原則より80万円お得!)
 簡易課税では実際の仕入れに係る消費税は計算せず、売上げに係る消費税の何割かを納めるだけです。割合は事業の業種区分ごとに定められていて、不動産賃貸業であれば上記のとおり売上げの40%を差し引いて、残りの60%を納めれば良いのです。
 つまり、実際の仕入れに係る消費税よりもこの割合が有利であると得をするわけです。特に不動産賃貸業の場合には、消費税を支払う仕入れが通常は売上げの40%も生じませんので簡易課税の方がお得になるはずです。なお、簡易課税では消費税還付を受けることができないため、多額の修繕費が見込まれるときなどは注意です。

2. 簡易課税を利用

簡易課税の方が有利なケースだと分かったら是非利用しましょう。しかし、先ほどのとおり年間売上高が5000万円超の方は利用できません。それならば、売上高を5000万円以下にすれば良いのです。


 1 法人の場合なら
 会社を分けて売上高5000万円以下の法人を作りましょう。事業を切り分けることになるため現実には難しい面もありますが、不動産賃貸業の場合であれば比較的簡単です。物件ごとに考えればいいですし、もし1物件であるのならばビルを区分所有にしてフロアごとの所有にする、共有にするなどを行えば1社当たり5000万円以下にできるはずです。年間売上高が税込1億円であれば、2社に分ければ良いのです。


 2 個人の場合なら
 生前贈与をする、一部を法人化する、などをして年間売上高を5000万円以下にできないか探ってみましょう。
 
 いずれにしても、不動産賃貸業の方は他業種に比べて実行し易いはずなので、消費税が課税される売上げが5000万円超の方は検討です。どれくらいの節税ができるのかをあらかじめ試算しましょう。新会社を作ると申告の手間が増えることになるため税理士報酬も増えるのではないかという心配が出てきそうですが、消費税のお得分が勝つのであればWin-Winです。さらに売上げが複数に分散することになりますから、法人税や所得税の観点からも有利に働くことでしょう。

3. インボイス制度だって乗り切れる

 簡易課税になれば、今話題のインボイス制度への経理対応も必要ありません。
 インボイス制度で最も厄介で面倒なことは、原則課税では領収書や請求書などからインボイス登録番号を1つ1つ確認して処理をしなくてはならないことです。簡易課税はそもそも仕入れに係る消費税を計算しませんので、インボイス登録事業者に支払ったかどうかなどは関係ありません。インボイス制度が導入されてもお構いなしというわけです。

4. 新会社の設立方法は要検討

 会社を分けるのであれば、新会社を兄弟会社とするのか、それとも子会社とするのか。この際ですので、相続時の分割対策も踏まえておくのが良いでしょう。1人に承継させたい不動産であれば子会社を設立する、子ども2人に承継させたいのであれば兄弟会社を設立するという具合です。
 また、設立手法には気を配る必要があります。通常通り新たに出資をして会社を設立するのか、それとも会社分割という方法を用いて設立するのか。設立後2年間の免税メリットが取れるか否か等に違いがあります。また、どちらを選択するにしても上手に計画実行しないと免税や簡易課税が利用できなくなる可能性があります。想定していた消費税の節税効果が無くなってしまっては元も子もありません。検討するのであれば税理士へ相談して進めましょう。

※執筆時点の法令に基づいております