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TOPATO通信不動産賃貸業の法人成り、考え方を整理しよう 5381号

ATO通信

5381号

2024年2月29日

執筆者:高木 康裕

不動産賃貸業の法人成り、考え方を整理しよう

 まだ法人を活用していない方は、今年こそは!と思っている方もおられることでしょう。個人事業のままか、それとも法人成りするか。どちらが良いかは所得水準が大きな判断ポイントですが、課税体系を踏まえると分かり易くなります。すでに法人を活用している方も再度整理しておきましょう。
 

1. 個人所有は?

 個人で不動産賃貸業を行っていれば、まずは所得税を考えなくてはなりません。所得税の大きな問題は、所得つまり利益が増えると適用税率がすぐに高くなることです。所得税と住民税の合計税率は、所得控除後の所得が695万円超で33.483%、900万円超で43.693%、1800万円超で50.84%です。4000万円超になると55.945%に達します。更に、事業税がかかる方は5%の課税が上乗せされます。1800万円超で五公五民を超えますから、時代が時代なら不満が増えてもはや一揆が起こりそうなレベルです。これでも、昔は最高税率が80%を超えていたときもあったので相当良くなりました。
 次に考えるのは相続税です。先ほどとは異なり、相続税では個人所有が有利なことがあります。相続税評価額は、建物は固定資産税評価額、土地は路線価評価額です。取引相場に比べればかなり低い金額で済むので評価差額が生まれます。特に建物新築時は評価差額による相続財産圧縮効果が大きく、これを直接享受できます。(法人所有でも原則同じ評価ですが、影響は間接的です。)また、土地を所有していれば小規模宅地等の特例が使えるため、評価額を更に減額できます。
 このように賃貸不動産の個人所有は、所得税では所得が高い方はとても不利になります。一方、相続税では一概に不利とはならず評価面で有利に働きます。

2. 法人所有は?

 法人で不動産賃貸業を行えば、所得に対する税負担が所得税よりもかなりお得です。法人税・住民税・事業税の合計税率は、所得が800万円以下であれば約25%、800万円超でも約38%で済みます。個人とは最高で20%前後の税率差が生じます。つまり、所得が高い方ほど賃貸不動産は法人所有にした方がお得なのです。また、給与支払いなどを通じて所得分散ができるため、ある程度は所得のコントロールが可能です。また、経費計上面でも個人より有利です。

3. まとめると

 所得に対する税、つまりフロー課税である所得税と法人税はどちらが良いか。これは税率構造から見れば、ある程度の所得がある方は法人税に軍配が上がります。つまり、事業活動に対する課税面を考えると法人成りをした方が有利になります。
 財産に対する税、つまりストック課税である相続税は不動産の評価面で個人所有の方が有利になります。
 おおまかですが、ざっくりとイメージすれば次のような感じでしょうか。
 >> 事業を行っている期間を見た場合
   ⇒ フロー課税は法人所有が有利
 >> 相続という一時点だけを見た場合
   ⇒ ストック課税は個人所有が有利
 賃貸建物は個人で建築した方が相続税対策になるから良いというのは、フロー課税の期間が短いであろう高齢者向けです。建築から期間が経過すればその間に利益が蓄積されてしまいます。相続まである程度の期間がある方は、法人活用をした方が結局は良いでしょう。
 

4. それでは自宅はどう考える

 自宅又は事業用の土地については小規模宅地等の特例が使えます。賃貸建物は法人所有であっても、個人が土地を賃貸しているのであれば貸付事業用宅地等に該当し200㎡まで50%引きの対象です。
 これに対し、自宅敷地の330㎡まで80%引きの特例は建物が法人所有になっていると対象外です。建物は、被相続人かその親族が所有していなければなりません。したがって、社宅として建物を法人所有にしている場合にはこの特例が利用できません。相続時にはぜひとも自宅敷地の80%引きを活用したい!とお考えの方は相続が発生する前に個人所有に戻しておきましょう。
 良いとこ取りをしたいのであれば、元気なうちは社宅にして法人で減価償却費や維持管理費を経費計上します。そして、相続が想定される頃になったら法人から個人へ売却して相続に備えましょう。ただし、相続はいつ起きるのか誰にも分かりません。あくまでもご自身の責任の範囲内で。

5. 法人なら健康保険料の節約も可

 法人を活用すれば医療に係る社会保険料を抑えることもできます。国民健康保険料は個人の所得水準に応じて徴収されるため、所得が高いとその負担は介護保険料と合わせて年間100万円超になります。しかし、法人からの給与がある方は、給与水準に応じた健康保険料を納めるだけでよいのです。個人の所得がいくらであろうと、月額給与を低めに設定すればその水準の負担で済みます。ちなみに、75歳以上は所得水準による後期高齢者保険の対象になるため75歳未満の方限定の選択肢です。
 相続という「点」ではなく、相続までの間の「面」で考えるのであれば、法人は使い勝手が良さそうです。

※執筆時点の法令に基づいております