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TOPATO通信届出書は税務署との協定 5396号

ATO通信

5396号

2025年5月30日

高木 康裕

届出書は税務署との協定

 新たに事業を開始したのであれば開業届出書、会社を設立したのであれば法人設立届出書を税務署に提出します。届出書の一例を挙げましたが、税務では各局面において様々な届出書が定められており、この届出によって実務が動いています。たかが届出書と思いがちですが、その効力は非常に強力なものです。

1.届出書はまるで協定書

 届出書、申請書、申出書など税務署へ提出する書類の種類と呼称は多種多様ですが、これらの書類の提出によって税務上の取扱いが定まるものが多くあります。名称が届出書等となっていることから簡易的な書類に思いがちですが、必ずしもそうとは言えません。これらの書類の中には、実際には協定書と同じようなものとして取扱われているものが多く含まれています。
 協定の意味を辞書で引きますと、「紛争・競争などを避けるため、協議して取り決めること。文書による合意」などと書かれています。届出書等は、あくまで届出事項を記載して税務署へ提出をするものであり、双方で協議をして締結した文書ではありませんが、重要性から言えばまさに協定書そのものと言っても過言では無いものもあるのです。そこで、今回は土地の貸し借り、いわゆる借地関係の届出書等はどんな運用がなされているかを確認してみましょう。

2.無償返還に関する届出書

 「土地の無償返還に関する届出書」というものはご存知でしょうか。建物の所有を目的とする土地の賃貸借を行う場合、一般的な取引慣行としては権利金の授受が行われます。なぜなら、賃借人に借地権という強固な権利が生じるからです。税務ではこの取引慣行に沿った課税ルールを定めているため、もしも権利金の授受がないまま借地権が設定された場合には、借地権に相当する経済的価値が賃借人に贈与されたとして課税関係を考えます。しかし、同族間での土地の賃貸借ではわざわざ権利金の授受を行わないことの方が多いでしょう。そこで、この課税問題を回避する方法の1つとして、「土地の無償返還に関する届出書」というものが用意されたのです。(この届出書は取引当事者に法人が含まれている場合にのみ利用できます。)
 詳細は割愛しますが、この届出書を提出すれば、税務上では借地権に相当する経済的価値は賃借人に移転していないものとして取扱ってくれます。これにより、権利金の授受が行われなくても課税上の問題は生じないという訳です。

3.借地借家法上はあくまで借地権有り 

 土地の無償返還に関する届出書を提出した場合、賃借人は借地権という権利を有していないことになるのでしょうか。借地借家法では、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権のことを借地権と定めています。したがって、建物の所有目的で土地の賃貸借を行えば、賃借人には借地権という権利が当然に生じます。賃借人は借地権を有していることに間違いありません。
 そうすると、借地借家法(民法)と税法とでズレが生じることになりますが、これについては次のように考えると整理ができると思います。
 「借地借家法上では賃借人は借地権を有しているが、税務上ではその経済的価値は移転しておらず、その価額はゼロとして取り扱うというルールを置いた。」
 このように、この届出書の税務署への提出の効果はまさに協定そのものです。課税関係については超法規的に届出書のルールを優先するという強力なものなのです。

4.借地権者の地位に変更がない旨の申出書

 貸地を所有していた方がいたとします。ここで、借地人から借地権付建物を買い取って欲しいという打診を受けたため、土地所有者の子が借地権を購入しました。購入後は、土地所有者は親、借地人は子という親子の関係になります。一般的には地代の授受は行われなくなるはずです。そうするとどうなるのでしょうか?借地権は土地の賃貸借が前提ですので地代の支払いが無くなれば消滅し、税務上は使用貸借に移行したと考えます。そのため、お金を支払って購入した子の借地権の権利は無くなり、その価値は無償で移転したとして、親に贈与税が課税されることになります。これもまた酷なことです。そこで、この問題を回避するために「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」というものが用意されています。
 この申出書を提出すると、地代の支払いがなくなったとしても子は従前どおり借地権を有しているものとして取扱ってくれます。つまり、税務上では子は借地権者のままです。土地の賃貸借契約は継続しているが地代を免除しているに過ぎないという理屈を付けることで税務上は解決させました。申出書の提出は、子を借地権者のままで取扱って欲しいという、協定の申し入れなのです。

5.建物を取壊しても継続

 4の場合で、もしも子が建物を取壊して駐車場運営を始めた場合はどうなるでしょうか?借地権は建物の所有を目的とする場合にだけ生じるため、地代の免除だけでは理屈付けができません。どうすべきか悩みどころですが、これも今までの取扱いを思い返せば結論は簡単です。
 そうです!税務署との間では協定内容を優先する!これにつきます。届出書や申請書、申出書の提出があればその協定内容に従うのがルールです。したがって、この場合でも子は借地権者のままです。

※執筆時点の法令に基づいております