財産の贈与を受けた場合で、その贈与財産の価額が基礎控除額を超えるのであれば、取得した年の翌年に贈与税の申告が必要になります。したがって、財産の取得時期はいつなのか?ということがとても大切です。この取得時期、一見当たり前で簡単のように思われますが、変則的な取扱いもあるのです。
1. 贈与契約とは?
まずは民法のルールから確認しましょう。
贈与は、当事者の一方が財産を無償で与える意思を表示して、これについて相手方が受託をすることで成立します。つまり、あげましょう、もらいましょう、という契約によって成立するのが贈与です。
そして、この贈与契約は、必ずしも書面で行う必要はなく、口頭で行うことでも良いことになっています。
ただし、口頭による場合、つまり口約束の場合には書面ではっきりさせた約束事ではないこともあり、当事者はいつでも履行をしていない部分についてその贈与契約を撤回することができることになっています。
2. 書面と口頭では取扱いが違う
このような民法の取扱いを前提として、税務では原則的な贈与の取得時期を次のような取扱いとしました。
書面による贈与・・・贈与契約の効力が生じた時
口頭による贈与・・・贈与の履行の時
口頭による贈与は、贈与の履行をするまではいつでも撤回することができます。したがって、本当に贈与が行われるのか否かが良く分からず、その実現性は不安定でいい加減な契約であるとも言えるでしょう。したがって、実際に履行をした時を取得時期としたのです。
反対に、書面による贈与は贈与契約の効力が生じた時、一般的には贈与の合意ができた時を取得時期としました。
そのため、所有権移転の効力が発生する時を書面に定めておけば、その時が贈与税の課税時期になります。
そうすると、贈与契約書の内容によって課税時期が決まることを利用して、悪巧みを考える人がいそうですが、そうは問屋が卸しません。
3. 書面の場合の例外
税務署における贈与税の除斥期間、いわゆる課税することができる期間は、贈与税の申告期限から6年間です。なお、偽りその他不正の行為がある場合にはこれが7年間になります。
そこで、贈与契約書を作成しておけば贈与税の申告をしなかったとしても、最長7年間が経過することで贈与税の課税を免れることができるのでは?と悪いことを考える人が出てきそうです。
例えば、親から子への土地の贈与契約書を作成します。ただし、贈与による所有権移転登記は行わずに、贈与税の申告はしないというような具合です。
この場合、登記簿に変動がないため、第三者が贈与の事実を知ることはできません。税務署も贈与を知ることができません。
そのため、このような場合には書面による贈与であったとしても、財産の取得時期については例外的な取扱いがされます。
具体的には、所有権の登記や登録の目的となる財産について、何らかの支障や理由がないにも関わらず、移転手続きをしていないような場合には、実際に登記や登録があった時に贈与があったものとして取扱われることになります。このように、贈与契約書の作成をしたとしても、長期間登記や登録をしない合理的な理由が無い場合には、原則的な取扱いは適用されません。たとえ公正証書によって贈与契約書を作成したとしても同じです。
書面による贈与契約が存在していれば、契約の効力発生時が必ず財産の取得時期になるというわけではないのです。
4. 農地には注意
農地を贈与するときも例外的な取扱いをします。農地については農地法の関係で、贈与をするのであれば農業委員会の許可又は届出が必要になっています。包括的な地位を承継する相続では許可等は必要ありませんが、贈与は違います。そのため、許可があった日又は届出の効力が生じた日を贈与の取得時期として取扱うことになっています。贈与契約書を作成した日ではありません。
したがって、年末間際に農地の贈与をするときは注意しましょう。許可があった日又は届出の効力が生じた日によっては、贈与年が1年ずれてしまう可能性があります。ただし、年末までに許可等の申請書類を提出しているのであれば、翌年の3月15日までに許可等を受けられれば年内の贈与として取扱うことができます。
5. 税贈与の事実はしっかりと
贈与が行われたかどうかは、その客観的事実があるかどうかが重要です。贈与があったのであれば、その事実に基づき贈与財産の支配管理は受贈者へ移っているはずです。その点をしっかりとしておきましょう。
贈与契約は仮装行為や予約契約なのでは?と疑われるようなものであると、その贈与はそもそも無かったことにされてしまうでしょう。
