相続税の話で”養子”が出てくると、多くの方が反射的に養子が認められるのは1人だけ、と思うようです。確かに実子がいる場合はそうですが、それはあくまで相続税の計算の中で、それに係る幾つかの例外があると言うだけの話です。養子自体は何人でも縁組することは可能です。そもそも、養子縁組をするとどんな効果があるのか、税務上の扱いには実子とどのような相違があるのか、そんな事をテーマに考えてみました。
1.”養子は一人”だけの誤解
そもそも養子縁組と言う制度は、民法に規定されている制度です。その民法には人数制限などありません。それを相続税法と言う税法で何らかの規制をしようなど、できる話ではないのです。ただ、相続税法ではそれを無制限に認めると、極端な場合は10人の孫を総て養子にし、相続人を増やすことで過度な節税対策につながる可能性も出てきます。そのため、一定の項目の計算では実子がいる場合は1人、いない場合には2人までを法定相続人として扱う、と言うだけなのです。
2.どんな節税ができるのか?
それでは、相続人の数が増えるとどんな節税対策ができるのでしょうか。まず第一に基礎控除額が増えることがあげられます。基礎控除額とは、この金額までは相続税の課税対象とならないと言う最低限の金額で、これを超える部分に税金が掛ることになるのです。現行では3,000万円+法定相続人の人数×600万円で計算します。つまり、夫婦に子が2人で夫が死亡した場合、法定相続人は3人なので3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除の金額となる訳です。従って、民法上は養子は実子と同じ扱いになるので、もし相続税でも養子を無制限に認めると、妻と養子が10人いれば基礎控除額は何と9,600万円にまでなるのです。つまり、課税される財産総額が9,600万円減額されることになります。
3.相続税の総額にも影響
さらに、相続人が増えれば、全員で納めるべき税額(これを「相続税の総額」と言います)が減少することも考えられます。その理由は、相続税の計算方法にあります。基礎控除額を控除した残額が相続税の計算のもとになる金額です。この金額を法定相続人が法定相続分通りに分けたと言う前提で、各人の税額を計算するのです。例えば、前述の例で夫の相続が開始された場合、相続人は3人です。法定相続分は妻が1/2、子が各々1/4なので、その金額に各人ごとに税率を乗じて計算。各人の合計額が相続税の総額です。法定相続人の数が多ければ多いほど、一人当たりの課税される金額は少なくなります。その結果、適用税率は低いものになるため、相続税の総額は低くなる訳です。相続税の税率は最低の10%から最高55%までの累進税率。財産が増えれば増えるほど税率は上がり、負担は重くなるのです。但し、この計算にも養子は実子がいれば1人だけのカウントです。
4.非課税の枠も増える!
退職金や被相続人が被保険者となっている生命保険金については、本来、民法の上では相続財産ではありません。従って、分割協議の対象となるものではないのです。しかし、相続税の上では相続財産と見なして課税の対象となっています。但し、これらはいずれも法定相続人一人当たり500万円は非課税とされています。従って、前述の夫婦に子2人の場合には、法定相続人が3人のためそれぞれ1,500万円までは課税されないのです。生命保険と退職金で併せて3,000万円までが非課税となる計算です。実務では、生命保険に入っていない方に、亡くなる直前でもこのケースで1,500万円の預金を下ろして一時払いの1,500万円の保険に入ることをお勧めします。1,500万円を掛けて1,500万円の保険金です。損も得もしませんが、非課税になる事が特典です。また、退職金なんて会社も経営してないし、無関係だと思っていませんか?小規模企業共済に入っていれば、亡くなってもらうお金は退職金扱い。これも1,500万円までは非課税です。しかし、ここでも養子は実子がいれば1人だけしか非課税の計算には算入されません。
5.養子の最大の功績は一代飛ばしの相続
今まで見てきたように、養子を増やして節税しようと言う試みは、なかなか難しいものになっているのです。かつて極端な数の養子縁組をして相続税を節税する手法が取られた経緯があり、現在はこのような仕組みになっているからです。それでは、もはや相続税の節税を考えた場合、養子はその対策にはならないのでしょうか。必ずしも養子ではなく、遺言書に記載すれば同様の効果は得られますが、子ではなく一代飛ばして孫に相続又は遺贈させればいいのです。この場合、”2割加算”と言って相続税の割り増しはあるものの、同じ財産に子、孫と2回も相続税が課税されることは防げます。また、養子にすれば、遺言がない場合でも実子と同じ”子”の扱い。分割協議で子ではなく、養子に財産を継がせることも可能です。