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TOPATO通信マンション同士の交換はできるか? 5303号

ATO通信

5303号

2017年8月31日

阿藤 芳明

マンション同士の交換はできるか?

 譲渡所得の中に、”交換の特例”と言うのがあるのですが、ご存じの方も多いと思います。例えばAの土地とBの土地を交換したとします。両者ともほぼ等価との認識で、金銭のやり取りもなかった場合、所得税の税負担はないと言うものです。土地と土地、建物と建物と言う同種の固定資産で認められるものなのですが、マンション同士の交換はどうでしょう?
 できるような、できないような、実はちょっと微妙な問題を抱えているのです。


1.交換の特例とは

 常識論としては、物と物を交換して金銭のやり取りも無ければ、税金がかからないのが当たり前です。むしろ、そこに何故税金の問題が出てくるのか、その方が疑問かも知れません。しかし、税務の考え方は、交換は双方がそれぞれ売却をしたとして、譲渡税が課税されるのです。その売却したお金で相手の資産を購入したと言う考え方です。ですから、購入したことはともかくとして、売却したことに着目して税金を課税するのです。
 その例外として、次の条件をすべて満たした場合、譲渡税は課税されずに済むことになっています。(1)同じ種類の固定資産である事 (2)双方の資産が1年以上保有しているもので、かつ交換の目的で取得したものでない事 (3)交換後、従前と同一の用途に供する事 (4)両者の差額が、多い方の金額の20%以内である事、の4つの条件です。


2.不動産登記法と相続税におけるマンションの評価方法

 さて、いわゆる分譲マンションについては、土地は所有権ではあるものの、『敷地権』と言って建物と切り離しはできない権利形態になっています。この敷地権とは不動産登記法の考え方で、マンションのような区分建物の登記簿に登記された、専有部分と一体化された敷地利用権のことを言うのです。確かに土地は所有権そのものなのですが、所有者全員の持ち分割合による共有なのです。そして、建物と一体と言う考え方なので、マンションの土地部分だけを売ったり、建物部分だけの名義を変えたりはできないと言う事なのです。部屋ごと、つまり201号室、302号室と言う部屋単位で売買をし、登記もしなければならないのです。
 しかし、相続税法の評価方法は全く異なります。相続税法では、マンションは土地と建物と言う2つの評価単位の財産の集合体と言う考え方なのです。決して一体不可分の存在ではありません。従って、土地は土地、建物は建物で単独評価をした上で、土地と建物の評価額の合計がマンションの評価額なのです。


3.マンション同士の交換

 このことからお分かりのように、マンションAの201号室とマンションBの302号室を交換する場合、相続税法の基本的な考え方には”マンション”と言う単体の財産はないのです。あくまでも土地と建物が合体した物との位置づけです。
 そうすると、マンションについても、土地部分と建物部分とを別々に評価額を算出し、それぞれが交換の特例の要件に合致していなければならないのでしょうか。交換の特例の大原則として、同じ種類の固定資産であることが要件となっていますが、それをどんな風に考えればいいのでしょう。
 実態面で考えてみると、マンションの時価はあくまでも土地と建物が合体した一つの財産価値として考えます。それはマンションの場所や専有部分の面積、眺望、陽当たり等々を総合的に判断して割り出されます。マンションごと、部屋ごとに客観的な市場価格も割り出すことは可能です。それでも、マンションを土地と建物に分けて考えなければならないのでしょうか。


4.交換の相手は第三者か、親族か?

 あくまでも私見で責任は取れませんが、マンション同士の交換が第三者間同士で行われる場合には、税務署もそこまで厳格な事は言って来ない気がします。市場価値が客観的に明らかになっている訳で、租税回避的な目的がない事は想像に難くないためです。第三者間同士ですので、お互いに納得できる価額であれば、それがまさに”時価”でもあります。税法そのものの考え方とは違っていても、贈与の意思も租税回避の意思も見受けられなければ、認められるかも知れません。ただ、第三者間での交換自体、それほど件数があるとは思えません。多いのは、やはり親族間でしょう。
 しかし、親族間の交換となると、税務署の見る目は違ってきます。どちらか一方が損をし、他方が得をする行為を行うからです。例えばマンションとしてはその価額が概ね等価でも、タワーマンションであれば土地の価額の占める割合は、立体利用のためかなり低いものになるでしょう。一方で低層の3階建て、4階建て程度のマンションは土地の割合は自ずから高い比率になるでしょう。マンションとしては等価でも、土地と土地、建物と建物とで比較した場合、明らかに異なる価額になる事も多いのではないでしょうか。
 純粋な法令解釈上はどこまで行っても否認されるリスクがありますので、注意が必要でしょう。

※執筆時点の法令に基づいております