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COLUMN

TOPATO通信「建設途中で相続」の恐怖! 5112号

ATO通信

5112号

2001年9月28日

高木 康裕

「建設途中で相続」の恐怖!

賃貸物件を建築することは、相続対策として昔からつとに有名です。確かに採算さえ合えば、税務上有利なことではあるのです。問題は建築をする、しないの決断の時期というかタイミング。
意外な落とし穴もあるので注意が必要です。


1.何故、建築が相続対策か?

相続対策になる理由は概ね以下の3点です。
①まず第一は相続税の建物の評価が貸し家として、固定資産税評価額の7割相当で済むことです。そもそも固定資産税の評価額自体、木造で建築価格の4~5割、鉄筋で7~8割と低いのです。これの更に7割相当の評価なら確かにお得!
②賃貸物件を建てると、貸家建付地と言って敷地の評価が更地に比して7~8割に減額。土地部分の評価額の節税につながるのです。
③200㎡までですが、土地を上記②の評価をした上、更に賃貸物件の5割引の特例があります。小規模宅地の評価減の特例と言い、相続対策の基本中の基本。因みに事業用や居住用としてこの特例を受ける場合、最高8割引の大特価での評価が可能です。


2.建築途中で相続がおきたら…

問題は建築の途中で相続がおきた場合です。 上記の有利なはずの評価は、一体どんな取り扱いになるのでしょう? まず、上記①の建物評価ですが、建築途上では当然固定資産税の評価額はありません。この場合、一般的な言い方をすれば、その時点までの支払額の70%で評価することになります。本来の評価方法に較べ、明らかに不利な場合も出てくるでしょう。
②の貸家建付地はどうでしょう?この評価、借家人がいて、オーナーにとっては利用に制限があるために減額されているのです。と言うことは、言うまでもなく建築途中では更地扱い。残念ながらこれまた不利な扱いになってしまいます。
③の小規模宅地はいささか微妙な問題です。
本来、相続税の評価についての考え方は、死亡日時点の状況での判断です。しかし、建築を予定し工事も進んでいるのに、たまたま途中で死亡しただけで特例が適用できないのでは、死人に鞭の酷な扱い。そこで、若干の条件は付くものの、特例が適用できると考えて頂いて宜しいと思います。


3.『建築途中』とは、どんな状況か?

原則として、建築途中であれば③の特例の適用はあるとは言うものの、具体的にどんな状況が建築途中と言えるのでしょうか? 勿論、実際に基礎工事が終わり、柱や壁が完成していれば文句はないでしょう。結論から言えば、建築に着工していればOKです。では、何を以て建築に着工というのでしょう? 建物を建築する場合、まずは設計図の作成です。そして具体的な建物プランができると、今度は建築確認の申請をし、役所の許可が必要です。その許可が下りたところで、地鎮祭をし鍬を入れ、杭打ちの開始です。 外観だけで判断をする場合、設計図ができあがれば、何となく建築の意思表示はできたような気もします。まして、役所に建築確認申請まですれば、本気であることは自明の理。 が、残念ながらこの段階でお亡くなりになった場合、特例の適用はありません。税務の上では鍬入れなり杭打ちがあって、初めて建築に着手と言えるのです。


4.決断は経営者の感覚で!

賃貸物件の建築は、相続対策になるとは言うものの、経営リスクも伴います。また、土地の評価は下がっても、納税資金も確保しておかなければなりません。そのためには、高い評価は覚悟の上で、駐車場として将来処分がしやすい形にしておく場合だってあり得ます。
残念なことに、何か対策が必要であると分かってはいても、結局あれこれ迷い何もしない方が結構いらっしゃるのです。 納税額を把握し、納税方法を考えたらあとは決断一つです。考え中に相続、ではシャレにもなりません。賃貸事業をするのか、しないのか、それは正に一刻を争う経営者の判断です。賃貸事業自体、文字通り一大事業なのだと言うことを、肝に銘じていざ、ご決断を!
なお、ご決断の参考になる書物をご紹介しておきましょう。 ダイヤモンド社『これからの賃貸住宅ビジネス』(三井不動産編)です。税務の部分は筆者が担当ですので期待はできる(?)お値段、ちょっと高めの2800円で10月4日発売です。 (ヤラレタ、結局は宣伝か!)

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