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COLUMN

TOPATO通信実現するか、相続税・贈与税の一体化 5124号

ATO通信

5124号

2002年9月30日

高木 康裕

実現するか、相続税・贈与税の一体化

今、資産家の間で話題の中心になっているのは、相続税と贈与税の一体化でしょう。税制改正がどういう形になるか、現時点では未定ですが、概ね以下のような方向になりそうです。しかし、意外な問題点もありそうで……


1.現行制度の概要

 現行の相続税と贈与税、基本的には別々の課税体系です。生前に贈与税が課税された財産は相続税の対象にはなりません。但し、これを無制限に許すと、死亡直前に過度の贈与により相続税の回避が可能になることも。そこで、相続開始前3年以内の贈与は、いったん贈与がなかったことにして相続税を課税し、相続税額から既に納めた贈与税額を控除する方法(通称、3年内加算)をとっています。


2.新税制は選択制

 新制度では従来どおりの方法も残る見込みです。ただ、新たにいわば無期限の3年内加算に似た制度を選択できるようにしようとしています。つまり、生前の贈与時には贈与税額を軽減して贈与を促進。相続時には生前の贈与財産も総て相続財産として取り込んで相続税額を算出します。そこから、それまでに納めた贈与税を控除した額が最終的な相続税というもので、いわば3年内加算の拡大版。(下図参照)
 制度の選択は納税者ごとに別々にする事も可能で、贈与の金額や回数も制限しない方向とか。但し、贈与者は65歳以上に限定されそうです。


3.新制度の問題点

 この新制度、あくまでも相続税と贈与税は一体化で、生前贈与を相続時に精算するという立場に立っています。つまり、いくら生前に贈与を行っても、結局は相続時に課税するわけで、従前のように生前に色々な工夫で贈与をしても、結果は同じだと言わんばかりなのです。
 しかし、65歳以上の贈与という限定はあっても、贈与から実際の相続までに何十年もの間隔が空くことだってあり得ます。その間に時の経過による資産価値の変化、税率や基礎控除額の変更、インフレ・デフレの影響等々をどのように調整するのでしょうか?
贈与時に100万円で評価された財産は、何十年後に実質1000万円に高騰していても、逆に1万円に暴落していても、相続財産としては当初の100万円で課税する事になってしまいます。
正にギャンブル、吉と出るか凶と出るか、各自の責任と判断に委ねられることに。
 更に議論を進めれば、生前贈与時の財産の評価額やその時の税率にもよるでしょうが、生前贈与の税額の合計額が相続税額を超えることもあるでしょう。その場合には、相続時にその超過額が還付される結果もあるのです。相続税は苦労して納めるもの、こんな常識が通用しない日が来ることも夢ではありません。


4.注意すべき、『伝家の宝刀』

 昔から節税と課税強化はいたちごっこです。
税理士がお客様のために悪知恵(?)を働かせれば、そうはさせじと課税当局が税法、通達を改正する、こんな事の繰り返しです。
 ただ、従来は何とか工夫して低い価額で贈与をすれば、後々の相続で課税されることは原則的にはありませんでした。相続税と贈与税は基本的には別々の課税体系ですから。しかし、今後はそう簡単な割り切りは禁物です。贈与も最後の相続で精算が基本なのです。当局の得意技、”課税上弊害のある場合には、原則的な課税計算をしないこともできる”と言う包括規定が働くのです。当局にとっては伝家の宝刀。税調資料にも、『租税回避防止措置を確保する』ことが強く謳われています。まじめに納税、少しは節税、これが庶民の処世術と心得ましょう!

  

課税される財産100+85+315=500
相続税額500に対する税額-(20+15)

※執筆時点の法令に基づいております