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TOPATO通信共有は信託で解消しよう! 5327号

ATO通信

5327号

2019年8月30日

阿藤 芳明

共有は信託で解消しよう!

 相続が”争族”と言われるようになって久しい気がします。相続税の申告を考えた場合、原則は亡くなってから10ケ月が申告期限です。では、”争族”になり期限までに財産分けができない場合はどうなるのでしょう。民法上は法定相続分による共有となってしまいます。共有も夫婦や親子であれば別ですが、兄弟同士の共有は最悪の事態。一時だけであればこの状態もやむを得ないかも知れません。今回は共有の問題点と、それを特に信託によって解消する方法を考えてみたいと思います。


1.なぜ共有になってしまうのか

 財産を分割するに当たり、積極的に共有にすることは少ないと思います。あえて自分以外の人間との共有を望むことはないでしょう。共有はいわば窮余の策として、仕方なくせざるを得なかった結果なのではないのでしょうか。では、なぜ望まないのに共有になってしまうのでしょう。共有は総ての権利と義務が、共有者全員で持ち分による平等になっている状態です。これなら全員が不平や不満を言えないからでしょう。言ってみれば、”とりあえず共有”にしておこうと言う安易な発想なのです。


2.共有の何が問題なのか

 では、共有になると何が問題なのでしょうか。最大の問題点は、原則として全員の合意が必要なことでしょう。原則として、と言ったのは、他の共有者と意見が異なった場合、自分の共有持ち分だけを売却や処分ができるからです。この行為に全員の合意は必要ありません。完全な単独行為です。ただ、もしその持ち分が性質の良くない部外者に移転したら、とんでもない状況になる恐れもあるのです。そうでなかったとしても、そもそも全員の合意と言うのはなかなか難しいものなのです。ただし、同じ共有でも親と子の場合には、親は子供に有利な事を考えてあげることも多いため、喜んで譲歩もしてくれるでしょう。しかし、これが兄弟姉妹の場合、お互いに独身であればいざ知らず、それぞれに家庭があれば問題は複雑です。まさに兄弟は他人の始まりとばかり、醜い争いのもとにもなってしまいます。


3.共有解消法としての信託

 共有状態の解消には、(1)共有物の分割(2)交換(3)売買(売却)(4)贈与(5)信託の5つの手法が考えられます。その中で本日のテーマである信託ですが、信託とは信頼できる者に財産を託し、契約次第では運用のみに留まらず、売却・処分までをも依頼する法律行為です。以前にもお話ししましたが、簡単に復習から。登場人物は3人。ⅰ)自分の財産を託す人(「委託者」と言う)ⅱ)その財産の運用や処分等までを引き受け、実行する人(「受託者」と言う)ⅲ)その財産から生じる利益を享受する人(「受益者」と言う)の3人がそれです。
 信託をすると不動産であれば登記簿上は受託者名義となりますが、その利益を享受する人はあくまで受益者。従って、委託者以外の人が受益者になると、委託者から贈与があったものとされ、贈与税が課税されてしまいます。そのため基本的には委託者=受益者で信託を行います。では、この信託が何故解消法になり得るのでしょうか。
 例えば委託者Aが高齢のため、共有者の一人として所有する収益物件の管理が困難になってきたとしましょう。そのままではAは他の共有者に自己の意思表示もままならず、共有状態の維持も困難になってしまいます。
 そこで、Aは自己の持ち分を息子であるBに信託します。するとBが受託者としてAに代わり、契約に定めたことは何でもできるようになります。ただ、Bはあくまで受託者に過ぎないため、その収益自体はAのもの。贈与税が課税されないよう、委託者=受益者としてあるためです。もちろん、これだけでは共有の解消にはなりません。しかし、Aに代わって他の共有者にモノを言い、行動していく事で、共有状態を活性化させ、場合によっては持ち分の買い取りや売却を促すことにもなり得るのです。その意味では、信託も共有解消の一方法と考えられるでしょう。


4.共有を回避するための予防策

 以上、今まで見てきたように、信託によって共有を解消できる可能性は確かにあるのです。しかし、基本的には他の共有者の協力が必要であることもお分かり頂けたのではないでしょうか。逆に言えば、その協力が得られない場合、共有状態を解消することも、また困難なものになると言うことなのです。
 それでは、”とりあえず共有”にしないためにはどうしたらよいのでしょうか。それは、相続に当たって財産を分割するのを、分割する当事者に任せないと言うことです。つまり、生前に遺言書を作成し、財産の分割方法を予め指定しておくことなのです。ご自身の財産であるからこそ、それをどのように相続させるのか、その方に総ての決定権があることを、肝に命じて欲しいのです。それこそが財産を所有する方が、次代に引き継がせるための責務なのではないでしょうか。

※執筆時点の法令に基づいております