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COLUMN

TOPATO通信税務調査は現場第一! 5301号

ATO通信

5301号

2017年6月30日

阿藤 芳明

税務調査は現場第一!

法人税であれ、個人の所得税や相続税であれ、本来、税務調査は何をおいても”現場第一”なのである。現場を見ずして、或いは軽視して本当の税務調査などできるものではない。調査のプロである税務職員はそんな事は先刻ご承知のはず。が調査官のサラリーマン化で、職人気質に変化も…。


1.調査の基本は人、金、モノの動き

 税務調査とは結局のところ、人と金と物の動きを見て、申告内容に反映されている事を確認する作業である。この3つが合致して、初めて真実であることが証明されるのである。だからこそ、整理された帳簿だけをいくら見ても、真実は確認できない。彼らは”原始記録”と言う言い方をするが、整理される以前のモトモトの証票や資料を見て確認するのが本来の手続きなのだ。
 従って、法人の調査でも、個人の調査でも、調査初日の午前中は概況を聴取し、誰がどんな役割の業務を分担しているのか、決定権は誰に有るのか等々を質問し確認する。特に相続の場合、被相続人が総てを取り仕切っていたのか、配偶者や同居の親族が代行していたのかがポイントになる。


2.従業員持ち株会と言う相続税対策

 従業員持ち株会と言う制度がある。相続税対策で社長所有の株式をこの持ち株会に売却することも多い。税法上低い金額で売買が可能で、その結果、社長の持ち株数が減少するためだ。そして持ち株会が持っている株式は、議決権が無い代わりに配当が普通株式より高率なケースが多い。これなら社長が経営権を維持することができ、従業員にとっても経営に参画するより、高配当なら投資対象としても悪い話ではないからだ。
 ただ、この制度がある法人の場合、相続税調査においてはその実態を確認することは極めて重要になる。と言うのは、形ばかりの持ち株会を作っても、従業員自身に株主であることの認識が全くない場合も多いからだ。調査においては、(1)持ち株会の規約はあるのか(2)従業員に自主的、民主的に運営を行わせているか(3)理事会、総会等を確実に開催し、議事録の作成をしているか等々を現場で従業員に話を聞き、確認する事が必要なのだ。


3.架空人件費は先ず机を見ろ!

 中小企業でよく見受けられる不正の一つに、架空人件費の計上による経費の水増しがある。今後はマイナンバーもありこの手法は使えないだろうが、やり方が容易なので従来はよく行われていた。会社側も直ぐにはバレないよう源泉税は徴収したり、社会保険にまで加入したりして偽装をする。 
 しかし、これは現場に行き一人一人の机と本人確認をすれば、嘘は簡単に見破れる。にもかかわらず給与の一人別徴収簿、社会保険関係資料等々の帳簿だけを丹念に見ている調査官も多い。前述の従業員持ち株会同様、いきなり従業員の所に行き、色々な質問をすることをためらうのだろうか。


4.相続税で問題になるのは名義預金・名義株

 相続税の調査でも同様に現場での確認は重要だ。しばしば問題になるのが、”名義預金””名義株”等の表面上の名義に拘わらず、真実は誰の預金や株であるかの問題。先般の事案では、被相続人に多額の株取引があり、相続財産としても株式を申告していた。税務署は相続税の申告書が提出されると、必ずそこに記されている金融機関や証券会社に対し、被相続人の他相続人までを含めて預金や株式の売買等の取引状況を過去数年に遡って照会する。それによってこの名義預金や名義株の有無の当たりを付けて調査に来るのだ。例えば被相続人の定期預金が2,000万円しかないのに、照会の結果、専業主婦である配偶者に1億円の定期預金があることが判明したとしよう。こんな時税務署はこの1億円は被相続人の名義預金だと想定し、調査に選定されることが多いのだ。


5.原則通り、現場第一の調査官もいるが…

 さて、その事案では株の名義が問題となった。被相続人と同じ証券会社2社で配偶者名義の取引があり、それが名義株だとの想定なのだ。相続税の調査においては、配偶者の存在、回答は非常に重い。何しろ被相続人を最も身近で見、知っている人物だからだ。ただこの配偶者、体調不良でもあり調査当日は挨拶だけすると二階の寝室に。
 しかし、調査官は午後になってどうしてもこの配偶者に直接話が聞きたいと言う。もう一度階下に降りて来られるか、或いは寝室まで行ってもいいかとの質問だ。(近年珍しく骨のある調査官!)配偶者を階下に降りて来させると、株の売買をした経験の有無を問う。配偶者は正直にないと答えると、配偶者名義での株式口座の存在と、株式の売買実績の状況を告げられた。つまり、配偶者が何ら知り得ない所で株式の売買が行なわれていたことになる。これらの事実から、調査官は名義株で、配偶者のものではないから相続財産に加えろと言う。しかし、もともと購入資金は配偶者固有のもの。それを被相続人が配偶者名義で運用していただけで、運用益を被相続人が使った形跡もない。当方は申告内容を修正する気は全くないが…。修正に応じない場合、税務署は更正できるか?

※執筆時点の法令に基づいております