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え〜っと通信

210号

2018年10月15日

平松 敦之

不動産を活用した相続税対策の節度について

 不動産でできる相続税対策はいろいろあります。不動産を活かすことにより相続税を圧縮し相続を乗り切り、価値ある財産承継を行うことが可能となります。しかし、あからさまな対策には税務署は黙っていません!今回はどういった行為が問題となるかを考えていきます。


1.なぜ不動産を購入すると相続税が減るのか?

 現預金を不動産に換えると相続税評価額は圧縮されます。土地は路線価(時価の80%相当)、建物は固定資産税評価額(建築価額に比して鉄筋系で70%程度、木造系で30%程度)で評価されるためです。賃貸物件であれば、建物部分は借家権割合が控除され、土地部分は貸家建付地となり評価額が下がります。さらに賃貸マンションの場合、土地部分(敷地権)の評価は全体に対する各部屋の持分をもとに算出するため、1部屋あたりの敷地面積は小さくなり評価額は下がります。特に全体の部屋数が多いタワーマンションなどはこれが顕著となり、評価額は購入価額の30%くらいになります。これらの効果は、不動産評価を国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて行ってこそ得られるものです。しかし、どんな場合にもこの通達に基づく評価をしていれば問題ないのでしょうか?


2.財産評価基本通達によらない場合とは!

 財産評価基本通達の第1章に総則6項というものがあります。その存在意義は課税の公平性を保つため、度を超えた節税を正すためにあるといわれています。「評価通達による評価が著しく不適当と認められる場合には、国税庁長官の指示のもと財産評価を適切に評価する。」というような表記がされています。購入価額と時価との乖離や購入の目的などを勘案し、課税の公平に反すると判断した場合、適用に至ると考えられています。不動産の有効活用を検討する際、どのような点に注意すればよいのでしょうか。実際に総則6項が適用された事例を見ていきます。


3.タワマンによる相続税対策が裏目に出た事例

 父が2億9,300万円でマンション(30階の1室)を購入。約1か月後に相続が発生し、このマンションの評価額を評価通達に基づき5,802万円として申告しました。そして、子が相続発生から約4か月後にこのマンションを売却依頼し、その約5か月後に2億8,500円で売却しました。相続発生後すぐに購入価額近辺で売り抜けたのです。このマンションの購入価額と評価額の差額は「約2億3,500万円」にのぼります。
 国税不服審判所は、本件マンションの評価額は合理的でないとし、その評価額を実際の購入価額の2億9,300万円と決定しました。明らかな租税回避行為として課税の公平性が害されるものとして前記2の総則6項の適用が正当とされたのです。最低限、税務調査終了まで売却しなければ結果は違っていたのかもしれません。


4.すぐに売却しなければ大丈夫なのか?

 銀行借入金で賃貸マンションを購入した相続税対策が国税当局に否認されました。国税不服審判所が総則6項適用による評価額を適正と認定した裁決事例が波紋をよんでいます。(平成29年5月23日裁決)
 被相続人は銀行に相続税対策の相談をし、相続税の試算及び相続税対策の提案を受け、借入金により土地付賃貸マンションを2棟購入しました。被相続人が亡くなり、相続人は前記不動産と借入金(債務)を相続し、評価通達による評価方法で相続税申告をしました。その後相続人は取得価額と同程度の金額でこの不動産2棟のうち1棟を売却。国税当局は評価通達による評価額は、取得価額・譲渡価額、鑑定評価額の30%にも満たない僅少なものであり不適当として、不動産鑑定評価をもとに課税処分をしました。
 国税不服審判所は、不動産の取得から借入までの一連の行為は、多額の借入金により不動産を取得することで相続税の負担を逃れることを認識した上で、その負担の軽減を主たる目的として各不動産を取得したものと認定し、国税当局の処分は妥当であるとしました。
 ここで注目すべきなのは、2棟のうち1棟は税務調査まで売却せずに継続保有していたのですが、この不動産についても不動産鑑定額により評価されたことです。相続税対策として複数の物件を取得した場合、1物件でも売却すれば、すべての物件が道ずれになる可能性があり要注意です。


5.最後に・・・

 現時点の税制において、不動産での相続税対策はまだまだ有効と考えます。総則6項はあくまで露骨な税金逃れのための行為等に「待った」をかけるものです。有効活用としての賃貸マンション等への投資について必要以上に消極的になる必要はありません。
 最も重要なことは、不動産の購入目的とその後のプランをしっかり持つことです。「人生最後に高層マンションで優雅に暮らしてみたい」、「優良な賃貸マンションを購入し安定した収入を確保した上で、ゆくゆくは子に引き継がせたい」といった購入動機であれば「最初から税金を圧縮することのみを意図していた取引」と推認されるといった事態にはならないと思われます。購入に至った主目的が相続税額の圧縮のみであると認定されることのないよう注意をはらうことが必要です。
 今後の法改正、課税庁の動向に注意しつつ、節度をもった相続税対策を積極的に行い、実のある財産承継を実現させましょう。

※執筆時点の法令に基づいております