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COLUMN
毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
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281号
個人から同族会社への土地売買で注意すること
令和6年分の路線価が7月に公表され、全国平均が3年連続で上昇したようです。東京23区の新築マンションの平均価格も1億円を超えており、不動産価格が上昇しています。さて、法人化をする際など不動産を法人へ売却する時の金額は、どのように考えれば良いのでしょうか。
1.個人から同族会社への土地売買を検討します
個人が土地を売却すると、譲渡益に対して譲渡税がかかります。譲渡税は、長期譲渡の場合は所得税と住民税を合わせて約20%です。
自身や親族が株主である同族関係者への売却は、第三者への売却と違い、譲渡税の負担を抑えるためになるべく低い金額で売買をしたいと考える方もいると思います。しかし、時価(相場)よりも低い金額での売買は税務上リスクを伴いますので、いくらで売買するか検討が必要です。
今回は、株主である個人から同族会社へ土地を売却するケースを、事例を用いて考えてみたいと思います。2.事例の前提条件
・土地の売買金額 10,000千円
・土地の時価 30,000千円
・売主 個人A
・買主 同族会社B(株主は個人Aが100%)3.売主 個人Aについて
売主である個人Aは、売買金額が時価の2分の1未満であった場合に問題が生じます。時価の2分の1未満で売却した場合には、実際の売買金額ではなく、時価で売却したものとして譲渡税を計算しなければなりません。
上記2の前提条件を基に考えてみますと、
【時価の2分の1未満であるかどうか】売買金額10,000千円<時価30,000千円×1/2=15,000千円
上記のように、売買金額は時価の2分の1未満となりますので、時価30,000千円で売却したものとして、譲渡税を計算することになります。仮に長期譲渡(税率20%)に該当し、取得費を概算取得費の5%とした場合(譲渡経費なし)の譲渡税は、以下の通りです。
【譲渡税】30,000千円×95%×税率20%=5,700千円4.買主 同族会社Bについて
次に、買主である同族会社Bについて考えていきます。法人は利益を得ることを目的として経営を行うものですから、その取引は時価で行われることが原則です。
したがって、同族会社Bが土地を時価よりも低い金額で譲り受けた場合には、売買金額と時価との差額を受贈益として、法人税等がかかります。
上記2の前提条件を当てはめて考えてみますと、土地の購入金額は時価の30,000千円となり、以下の金額が受贈益として同族会社Bの利益になります。
【受贈益】時価30,000千円-売買金額10,000千円=20,000千円
上記の受贈益に対して、法人税等がかかります。法人税等は、所得金額が800万円以下であれば約25%、800万円を超える場合は最大で約35%です。
なお、上記3で、個人Aは時価の2分の1未満で売却した場合は時価により譲渡税を計算するとご説明いたしました。しかし、法人の場合は、時価の2分の1未満であるかどうかの判定がありませんので、注意が必要です。5.(参考①)同族会社Bに個人A以外に株主がいる場合
上記4までは、同族会社Bの株主は、個人Aが100%株主を想定していましたが、個人A以外にも株主がいる場合は、他の株主に対して贈与税がかかるケースがあります。
贈与税がかかるケースは、個人Aが同族会社Bに対して、土地を時価よりも著しく低い金額で売却したことにより、同族会社Bの株価が上昇してしまう場合です。
その場合は、個人Aから他の株主に対して上昇した株価相当の贈与があったということになります。6.(参考②)時価の2分の1以上であっても同族会社の行為計算否認に該当する場合があります
上記3にて、個人Aは、売買金額が時価の2分の1未満であるかどうかを判定しましたが、時価の2分の1以上であっても問題になるケースがあります。
同族会社の行為計算否認と言われているもので、その譲渡により所得税の負担を不当に減少させると認められる場合には、時価で売却したものとして譲渡税を計算することになります。
過去には、土地を第三者へ売却する際に、地上権部分を繰越欠損金のある同族会社を経由して取引したもので、同族関係者間であるがゆえに行われたとして適用された事例があるようです。7.適正な時価を検討しましょう
今回は、売主を個人A、買主を同族会社Bとしての税務上のリスクを検討しましたが、同族関係者間での土地の売買は、時価で売買をする必要があります。
土地の時価の例としては、相続税評価額、公示価格(相続税評価額÷80%)、不動産鑑定士による鑑定評価額、近隣の類似する土地の取引事例等がありますので、事前によく検討しましょう。2024年9月17日
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280号
相次相続控除~立て続けに相続があった場合~
短い期間に立て続けに相続が発生してしまうと、同じ財産の移転について、相続税を複数回納税しなければならない事態が起こり得ます。そうすると、次の相続までの期間が短かった人は、長かった人と比べて相続税の負担が過重となってしまいます。
このような場合の相続税負担を軽減するため、相次相続控除という制度が設けられています。今回は、この制度の内容についてご紹介します。1.相次相続控除とは
相次相続控除は、相次いで相続が発生し、それぞれ相続税を納税する場合に、後に納付する相続税から、先に納税した相続税を控除するという制度です。明治時代に初めて相続税法が制定されたときに設けられました。当初は、第一次相続と第二次相続との間が5年以内の場合に、第二次相続に係る相続税から、第一次相続で納税した相続税を全額控除できました。その後の改正により、昭和25年に10年間まで期限が延長されました。また、期間の長短に応じて控除税額に差をつけ、負担の合理化が図られました。
具体的には、
① 被相続人が、第一次相続で相続等により財産を取得し、相続税が課税されたこと
② 第二次相続で、上記の被相続人から相続等によって財産を取得したこと
③ 第一次相続から第二次相続までの期間が10年以内であること
④ 被相続人の相続人であること
相続放棄をした人や、相続人以外の受遺者は適用対象外となります。
上記の要件を満たした場合に、第二次相続に係る相続税から、第一次相続に係る相続税のうち一定額を控除することができます。なお、生命保険金や死亡退職金は、本来の相続財産ではありませんが、受け取った人が相続人であれば相続財産として、上記①や②に該当します。
2.相次相続控除額
計算方法が複雑なため、具体的な数字でシミュレーションをしてみます。前提は、以下の通りです。
祖父の相続の際に父が納めた相続税…3,000万円
祖父から父が相続した財産の価額…1億8,000万円
父の相続時に相続人の全員が取得した財産の価額…1億円
子が父から相続した財産…1,000万円① 第一次相続と第二次相続の間が2年の場合
3,000万円×1億円÷(1億8,000万円-3,000万円)
×(1,000万円÷1億円)×(10-2)年÷10年
=160万円
② 第一次相続と第二次相続の間が8年の場合
3,000万円×1億円÷(1億8,000万円-3,000万円)
×(1,000万円÷1億円)×(10-8)年÷10年
=40万円
控除額は、第一次相続から第二次相続までの期間に応じ、1年につき10%の割合で逓減した後の金額となります。3.相次相続控除の注意点
上記2.では、祖父、父、子の3世代の相続を例としましたが、相次相続控除の適用は親子間の相続に限りません。例えば、父から子、子からその兄弟姉妹に相続した場合でも適用があります。ただし、第一次相続のときに、配偶者軽減等を適用してそもそも相続税の納税額がなかった場合は、適用対象外となります。
4.適用漏れがないか確認を
相次相続控除は、実務的にはあまり多くない控除です。しかし、相続が立て続けに発生した場合には、適用の可能性があります。もし、適用漏れが見つかったときは、申告期限から5年以内でしたら更正の請求をすることができますので、払い過ぎた相続税が還付される可能性があります。また、遺産分割が決まらず、とりあえず法定相続分で申告をするような場合も適用できます。
短い期間で相続が続けて発生した方は、適用の可能性があるかどうか確認してみてください。2024年8月19日
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279号
税務署の調査結果に不服あり!~不服申立制度のご紹介~
7月から12月は税務調査が多く行われる時期です。
税務署が調査した結果、申告内容に誤りがあるとの指摘や重加算税がかかると説明を受けたが、納得できずに不服がある。そんなときの救済制度に関し、私が国税局・税務署・審判所に勤務していた際の経験を交えてご紹介します。1.税務調査終了の際の手続き
税務調査終了の際は、調査官から調査結果の内容説明として、申告誤り等の金額とその理由などの口頭説明を受け、修正申告(期限後申告)を勧奨されます。
修正申告の勧奨に応ずるかは、任意の選択となりますが、修正申告に応じなかった場合は調査結果に基づき更正等の処分をされます。
なお、修正申告に応じなかったからといって、修正申告に応じた場合と比較して不利な取扱いを受けることは基本的にありません。2.不服申立制度
税務署長等が行った更正等の処分に不服があるときは、その処分の取消し等を求める不服申立てをすることができます。
不服申立ては、税務署長に対する「再調査の請求」と国税不服審判所長に対する「審査請求」の選択制となっています。そして、国税不服審判所長の裁決を受けた後、なお処分に不服があるときは、裁判所に「訴訟」を起こすことができます。
私は、再調査の請求は処分した者と審査する者が同じ税務署長なので、あまり意味がないと思います。以下は、審査請求についてご説明します。3.審査請求できる処分は?
審査請求できるのは、更正や決定のほか、更正請求に対する更正すべき理由のない通知、重加算税の賦課決定など、税務署長が行った不利益処分が対象です。
ところで、調査官の勧奨に応じて修正申告した場合は、税務署長は更正等の不利益処分をしないので、審査請求できなくなります。調査結果の内容説明に納得できないときには、修正申告するか慎重に検討してください。また、調査結果の内容説明の理由が不明確だというときは、更正等では理由付記が義務付けられていますので、書面で処分の理由等を確認することができます。更正通知書の理由付記をみてから、審査請求するか決めるのも一計です。
基本的には、処分の理由等に誤りがあれば審査請求が認められることになります。例えば、調査官の言葉遣いや態度に対する不満は、お気持ちは分かるのですが、審査請求の場面ではいわゆる苦情として取り扱われてしまいますので、請求理由にはなりません。4.審査請求にかかる費用や期間は?
基本的に審査請求をするために国税不服審判所に支払う費用はありません 。
国税不服審判所では、通常要すべき標準的な期間を 1 年と定めています。この間に裁決書という書面で判断結果が郵送されてきます。5.どんな人が判断しているのか?
通常は担当審判官1名、参加審判官2名の合議体というものが構成され、他に調査に従事する職員が担当者として指定されます。
審判所は国税庁の特別機関ですが、より公正な立場から判断ができるよう、原則として、3名の審判官のうち最低1名は弁護士・税理士又は公認会計士などの民間専門家から登用された者が配置されています。6.実際に認められた割合は?
刑事事件の有罪率は99.9%といわれていますが、税務署長の処分に関する審査請求の処理状況はどうでしょうか。
税務署長の処分の全部又は一部がダメと判断されたものは、下表の「認容」欄になりますので、1割前後の審査請求が認められたということになります。刑事事件と比べれば、審査請求が認められる割合はグンと高くなっています。(単位:件、%)
区分 取下 却下 棄却 認容 令和3年度
(構成比)321
(14.1)98
(4.3)1566
(68.6)297
(13.0)令和4年度
(構成比)286
(9.1)385
(12.2)2263
(71.6)225
(7.1)7.税務署側の処分に当たって
税務署は税金を集める役所ですから、不利益処分の適正性が担保されていなければ、信頼できる組織とはいえないでしょう。そのような意味で、税務署は安易に審査請求の対象となる不利益処分ができません。更正見込み案件は、修正申告見込み案件よりも多くの職員が関与して慎重に検討されますので、調査担当者が意見を通すハードルは相当高くなります。
8.まとめ
不服申立制度をご紹介しましたが、決して積極的に活用をお勧めする訳ではありません。税務署の調査結果に納得がいかないときは、信頼できる税理士とよく相談していただき、早めに調査官にご自身の考えを伝えることが大事です。不服申立制度は、1つのツールとしてご活用いただければ幸いです。
2024年7月18日
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278号
円滑な事業承継のための対策について
資産管理会社などの非上場会社の事業承継を検討する際に最も重要な検討事項の一つが相続税等の税金対策です。資産管理会社のように常に黒字が見込まれる会社は株価が上昇し続けるため、株式の移転時における税負担が年々増加する傾向にあります。相続税への影響を考えると、株価が低いうちに後継者に株式を渡すことが効果的です。しかし、後継者の年齢が若い場合には多くの株式を渡すことに抵抗感を持つ方も少なくないでしょう。今回はそんな非上場株式の事業承継方法についてご紹介します。
1.事業承継の基本的な考え方
業績が好調な会社であるほど毎期生み出される利益によって会社の財産が増えていきますので、株式の相続税評価額は年々増加していく傾向にあります。このように将来的に会社の株価上昇が予想される場合、株価がまだ低いうちに大部分の株を後継者へ贈与することで、将来の値上がりに係る相続税の負担を軽減できます。また、短期間に大きな値上がりが見込まれるものの、税負担が重い場合は相続時精算課税制度を活用することも有効です。相続時精算課税を適用した場合は相続税の計算に贈与財産が組み込まれてしまいますが、株式の評価は贈与時(値上がり前)の株価で固定されるため、値上がりによる相続税の負担を軽減することができます。このように資産管理会社の株式を計画的に贈与していくことが肝要です。
しかし、家族間で円滑にコミュニケーションが取れている場合でも、税金が安いからといってまだ若いうちに多額の財産を所有させることや後継者が行う役員の選任や解任に対抗できなくなることに対して懸念を抱く経営者は少なくありません。このような場合、段階的に事業承継を行うための方法として、黄金株(拒否権付株式)や属人的株式を活用する手法が有効です。
黄金株や属人的株式は基本的には普通株式と同様の相続税評価額とされているため、黄金株等を活用しても税負担が増加することはありません。ただし、黄金株を後継者以外が所有している場合には事業承継税制が利用できなくなる点には注意が必要です。2.黄金株を利用する場合
黄金株(拒否権付株式)とは、会社の重要な経営方針等を株主総会等において決議する際に、通常の株主総会の決議に加え、黄金株を持つ株主だけの株主総会での決議が必要となる株式です。この株式は事実上の拒否権を持ち、役員の選任や解任、報酬の決定、重要な財産の譲渡、新株の発行など多岐にわたり任意の拒否権を設定することができます。現社長が普通株式の一部を黄金株に変更して残りを後継者に譲渡することで、重要な経営判断に現社長の同意が必要となります。
これにより通常の業務は後継者に任せつつ、重要な経営判断が必要な事項については現社長の承認が必要となる体制を作ることが可能です。ただし、黄金株の導入には登記が必要であり、強力な権利を確保しているため、取り扱いには注意が必要です。例えば、現社長が保持する黄金株が相続により後継者以外の相続人に渡ると後継者が重要な決定を下すことができなくなる可能性があります。
したがって、黄金株が常に設定されている状況は望ましくありませんので、時期を見て普通株式に変更したり、遺言を通じて後継者が黄金株を確実に相続できるような出口戦略を考えることが重要です。3.属人的株式を利用する場合
通常は株主平等原則から、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければなりません。しかし、非公開会社では株主平等原則の例外として剰余金配当請求権、残余財産分配請求権、株主総会の議決権については定款で株主ごとに異なる取扱いを定めることができます。同族法人内においては、議決権以外の権利についてはみなし贈与として課税されるリスクがあるため、実務的には議決権について利用されることが多いと思われます。
属人的株式が普通株式や黄金株と違う点は株式ではなく、株主に対して特別な権利を与えている点です。例えば現社長が所有している株式の議決権を1株につき100個の議決権と設定すると、99株を後継者へ贈与しても議決権上は100個(1株)対99個(99株)となるため、経営をコントロールしやすくなります。そして属人的株式が設定された場合、黄金株とは違い、現社長から後継者以外の相続人に株が渡ってもその権利は引き継がれません。前述したように属人的株式は株主に対して付与される権利であるため、相続が生じ、相続人が取得した上記の株式は普通株式1株(議決権1個)として取り扱われます。
属人的株式の利点は次の二点があげられます。一つは、定款で定めるだけで導入できるため、黄金株より導入のハードルが低い点です。二つ目は、生前に株式のほとんどを後継者に渡していれば被相続人が所有している株式は少数であり、誰の手にわたっても後継者が安定的に会社経営をすることができるため、黄金株よりも出口戦略が比較的容易に描ける点が挙げられます。4.まとめ
黄金株と属人的株式はどちらも事業承継に役立つ手法ですが、導入する際には出口戦略も含めた慎重な計画が必要です。したがって事業承継を検討する際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
2024年6月14日
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277号
倒産防止共済を上手に活用しよう
中小企業倒産防止共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するもので取引先事業者が倒産した際に中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。上記が制度の趣旨ではございますが、今回はその倒産防止共済を上手に活用するための掛金の支払いや解約した場合の取り扱いをご紹介致します。
1.制度の特徴
取引先が倒産した際には無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入することができます。また、支払った掛金の全額を経費に算入することができます。
ただし、個人事業者は事業所得以外で掛金を経費に算入できませんので不動産所得のみという方は税金に関するメリットがありません。2.加入資格
法人や個人事業者で1年以上事業をしていることが要件となります。従って、事業を開始したばかりの個人事業者や法人に関しては、事業開始(設立)から1年以上経過しないと加入要件を満たさないことになります。
3.掛金の支払い
掛金は月額5千円から20万円まで5千円単位で選択することができ、手続きをすることで増額・減額をすることができます。また、支払方法に関しては、月払いだけでなく申出により2か月から12か月までの範囲で前納(前払い)をすることができます。最大の掛金である20万円を12か月分年払いすることで、一度に最大240万円を経費に算入することができます。決算月等に利益が大きく見込まれる場合には、12か月分をまとめて支払うことで大きく節税をすることができます。
しかし、積み立てすることができる累計の限度額は800万円と決まっています。最大の掛金である20万円を継続して積み立てると40か月(3年4か月)で限度額に達してしまいますので、今後の事業展開で増益が見込まれる場合には、調整しながら掛金を検討すると良いでしょう。4.借入もできる
取引先事業者が倒産した場合以外でも12か月以上掛金を支払っていれば、事業資金として借入をすることができます。金利は金融情勢により変動しますが、令和5年9月1日現在で年0.9%です。借入できる金額は、後記5で述べる解約手当金の95%の範囲内(最低30万円)になります。また、銀行借入のように審査はありませんので解約するまでもなく資金が必要な場合には借入も一つの選択肢として考えることができます。
5.解約した場合
(1)解約返戻率
自己都合の解約であっても、12か月以上掛金を支払っていれば解約手当金を受け取ることができます。返戻率は次表の通りであり、納付月数が40か月以上経過すれば、掛金の全額を受け取ることができます。掛金納付月数 返戻率 1~11か月 0% 12~23か月 80% 24~29か月 85% 30~35か月 90% 36~39か月 95% 40か月以上 100% (2)税務上の取り扱い
解約した場合には、解約手当金がその年度の所得となり、税引前の所得に対して法人税又は所得税が課税されます。
そのため、本来の制度の趣旨とは異なりますが、利益が生じているときに掛金の経費化により税負担の軽減を図りつつ、大規模修繕などの将来の多額の支出に備える資金を確保する手段として活用するのが良いでしょう。そのようにすれば、解約手当金による収入と大規模修繕による経費を相殺することができます。6.解約後再度加入することができるの?
解約した場合であっても再度加入することができます。令和6年度の税制改正により、令和6年10月以降に解約する場合には、解約した日から2年間は経費に算入することができなくなりました。従って、近々解約をして再度加入することを考えている場合には、令和6年9月末までに解約しないと、その後2年間は掛金を経費に算入できませんので解約時期に関して注意が必要です。
7.最後に
倒産防止共済は、前記6の場合を除けば支払った掛金が全額経費となりますので節税効果は大きいです。法人での節税に関しては、そのほかにも生命保険の加入などもございますが、返戻率が高い生命保険は経費にできる割合が限られていますので節税効果を考えると優先順位は倒産防止共済の後になるでしょう。節税を考えている方でまだ加入されていないのであればまずは倒産防止共済に加入することをお勧めします。
2024年5月15日
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276号
貸宅地経営の悩みどころ~価値のわりに高い相続税がかかる!?~
先祖代々の貸宅地は、普段はあまり手もかからず地代が入ってくるので、定額収入としてそれなりに価値のある資産だと思います。しかし、一旦相続が発生すると意外と高い評価に驚きます。今回は、貸宅地を所有している場合の相続対策やお悩みポイントについて検討してみます。
1.貸宅地とは
貸宅地とは、土地に建物を建てて使用することを目的として第三者に貸している土地のことです。地主(賃貸人)の立場から見ると所有しているのは底地部分で、土地を借りている人(借地人)の権利部分は借地権になります。
2.地代の値上げが難しい
貸宅地はアパートのような空室リスクや修繕などのメンテナンスが必要ないので、普段は管理の手間がいらず、とても優良物件のように思えます。しかし、特に昭和の時代から貸しているような貸宅地は、地代の値上げもままならないことも多いです。地代の値上げ交渉をした結果、借地人に受け入れられず地代を法務局に供託されてしまうケースもあります。利回りから見ると、とても価値の低い資産とも考えられます。
3.旨味があるのは更新料の受領時だけ
貸宅地経営で最も利益が出るのは、更新料を受領したときです。20年(又は30年)に一度となかなか長期でのリターンですが、一番旨味がでるときです。あとは、借地人が借地権を譲渡する場合に「名義書換承諾料」を受け取る時です。これは、必ずしも発生するとは限りませんので、発生すれば臨時収入です。そのほかに、建物建替え時の「建替え承諾料」も発生する可能性があります。
4.相続時の評価
さて、そんな貸宅地を所有している方の相続が発生します。相続税を申告する場合、底地部分に対して課税がされます。底地の評価額は、基本的に国税庁が公表している相続税路線価に基づく完全所有権としての土地の評価額から借地権価額を控除して評価することになります。
底地の相続税評価額=路線価×地積×(1-借地権割合)
例)路線価500千円×160㎡×底地割合30%= 24,000千円底地の相続税評価額が24,000千円の場合、相続税率が仮に20%だとすると4,800千円の相続税の負担が発生します。相続登記費用は、貸宅地による減額が一切なく、固定資産税評価額(更地評価)による登録免許税がかかります。普段の維持費はかかりませんが、相続で引き継ぐときには、意外と負担感があります。
5.貸宅地の利回り
仮にこの貸宅地の地代収入が年間510千円、固定資産税等の負担が170千円と仮定します。純利益が340千円の場合、相続税評価額に対する利回りは1.4%にしかなりません。
利回り1.4%=純利益340千円÷底地の相続税評価額24,000千円
地代に関係なく周りの一般的な土地取引の価格を基に路線価が決定されているので、収益性が悪い底地でも相続税評価額が高く設定されてしまうのです。
6.底地の市場価値
底地を借地人以外の者と取引する場合の市場価値を考えてみるといくら位になるでしょうか。一般的な期待利回りを3%と仮定した場合、底地の評価額は約11,333千円と考えられます。
底地評価額 純利益 期待利回り
11,333千円 = 340千円 ÷ 3%先ほどの相続税評価額24,000千円の約半分くらいにしかなりません。一般的な底地買取業者に査定してもらうとおおよそこのような価額になると言われています。
7.納税資金確保のために売却
相続税の納税資金を確保するために、慌てて売却先を探すのは、貸宅地の場合とても大変です。底地買取業者の査定だと相続税評価額より大幅に安い価額でしか買い取ってもらえないのに、相続税の負担は変わらず、買い叩かれる可能性も高いです。底地売却の交渉相手として最良なのは借地人です。借地人が買い取るメリットは以下色々あります。
① 担保価値が上がり、建て替え等もスムーズになる
② 地代の支払や更新料の支払が無くなる
③ 完全所有権となり売却がしやすくなる8.敢えて相続発生前に売却も
視点を変えて、相続発生前に売却を考えるのも一計です。借地権の更新時期などに交渉して多少安くても現金化することにより、遺産分割や納税資金確保がスムーズになります。流動性の低い資産から高い資産へ変えることによって、新たな投資への変更も可能になります。老人ホームへの入居金などへの補填に充てることも可能です。自分の代で先祖から引き継いだ土地を売却することにためらいもあると思いますが、相続時に高い相続税を払って継承させるより、次世代へ円滑な承継が可能になるかもしれません。
2024年4月15日
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275号
ふるさと納税は相続税でも使える?~所得税と住民税、相続税でもふるさと納税~
ふるさと納税は、ご自身の選んだ地方公共団体に対して寄附を行った場合に、返礼品がもらえる上、控除上限額の範囲内で寄附すると寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税及び住民税からそれぞれ控除が受けられる制度です。
相続により財産を取得した人が、相続直後に国などに相続した財産を寄附した場合、一定の要件を満たせば、寄附した財産は相続税が非課税とされます。これは措置法70条の非課税という相続税の制度です。
ふるさと納税と措置法70条の非課税は、どちらも寄附した場合に受けられる制度という点では似ていますから、ふるさと納税をすると所得税・住民税だけでなく相続税も節税することができるのでしょうか。1.措置法70条の非課税の要件
適用を受けるための主な要件は次のとおりです。
①寄附先は、国、地方公共団体、特定の公益法人等であること。
②相続または遺贈により取得した財産を寄附すること。
③相続税申告書に寄附金の受領書等を添付すること。
少しわかりにくいので、細かい部分を見ていきましょう。2.要件① 寄附先は国等であること
寄附先は、厳密に指定されていて、以下のとおりです。
・国
・地方公共団体
・特定の公益法人等
ふるさと納税は、地方公共団体への寄附ですから、措置法70条の非課税の要件も無条件でクリアします。3.要件② 相続等により取得した財産の寄附
相続等により取得した財産を、そのままの形で寄附しなければならない、という制限があります。
たとえば、相続した土地を売却してその代金をふるさと納税した場合は、相続した財産が土地、寄附した財産が売却代金と異なる財産に変わりますので、措置法70条の非課税は適用できません。
被相続人の預貯金は、口座が凍結されてしまい取引ができないため、解約して相続人の預貯金口座に移管するのが一般的です。預貯金の口座が変わってしまった、クレジット払いやQRコード決済等で寄附する、こんなときは要件を満たすのでしょうか。
相続等により取得した財産が預貯金の場合には、払い戻しを受けた金銭は「相続等により取得した財産」に該当するものとして取り扱うこととされています。被相続人の預貯金の払い戻しを受けた相続人の預貯金口座から寄附された金銭は「相続等により取得した財産」になります。ふるさと納税がクレジット払いやQRコード決済等で行われた場合でも、これらは支払い手段であり、被相続人の預貯金口座から移管した相続人の預貯金口座から引き落とされるのであれば、相続等により取得した財産の寄附と考えて差し支えありません。4.要件③ 相続税申告書に寄附金の受領証等を添付
申告期限内にふるさと納税をし、相続税申告書に寄附金の受領証等を添付しなければなりません。相続人間で遺産分割が長引いてしまうと相続税申告書にその証明書を添付することが難しくなってしまうので、措置法70条の非課税は使えなくなってしまうかもしれません。
5.ふるさと納税で一石四鳥
ふるさと納税で措置法70条の非課税の適用を受けるには、被相続人の預貯金の払い戻しを受け、その払戻金で相続税の申告期限までにふるさと納税をし、相続税申告書に寄附金の受領書等を添付すればよいのです。
結論として、ふるさと納税は、所得税・住民税の控除と措置法70条の非課税の適用を受け節税することが可能です。寄附先から返礼品がもらえることも加えれば、一石四鳥の制度ということができます。6.ご注意していただきたいこと
ご注意していただきたいことがあります。
1つ目は、措置法70条の非課税は寄附した財産の相続税が非課税とされる制度ですから、相続税がかかる人でなければ相続税の節税になりません。
2つ目は、所得税等の寄附金控除は控除限度額があるということです。控除限度額を超えると、その分は所得税等の節税になりません。控除限度額は、寄附する方の年間所得や家族構成によって変わりますので、事前に確認しておくことが重要です。
3つ目は、ふるさと納税の金額が高額になり、返礼品の額が50万円を超えると一時所得が発生してしまいます。
多額の寄附をされる方は、その分の財産が減りますから、今後の生活等のこともよく考えていただくようお願いします。7.まとめ
毎年ふるさと納税をして確定申告で寄附金控除を受けている方は、もしも預貯金をご相続することがありましたら、相続した預貯金をふるさと納税することで、所得税・住民税がお得になるだけでなく、相続税が非課税になる場合があるということを思い出してください。そして、被相続人の方が残された財産を有意義に使っていただきたいと思います。
2024年3月15日
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274号
令和6年度税制改正の概要
令和5年12月14日に令和6年度の税制改正大綱が発表されました。今回は税制改正の主要項目のうち、特に注目すべき点をご説明します。
1.所得税・個人住民税の定額減税
国民負担の緩和、デフレ脱却のための一時的な措置として、令和6年分の所得税及び令和6年度分の個人住民税の減税が行われます。
(1) 減税額
① 所得税 本人3万円+同一生計配偶者又は扶養親族1人につき3万円
② 住民税 本人1万円+控除対象配偶者又は扶養親族1人につき1万円
(2) 所得制限
① 所得税 令和6年分の所得税の合計所得金額1,805万円以下(給与収入2,000万円以下に相当)
② 住民税 令和6年度分の住民税の合計所得金額1,805万円以下
(3) 実施方法
① 給与所得者
(イ) 所得税 令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等の源泉徴収税額から控除し、
控除しきれない場合は翌月以降の税額から順次控除。
(ロ) 住民税 特別控除後の住民税額を令和6年7月から令和7年5月までの11ヶ月で均等徴収。
② 公的年金受給者
(イ) 所得税 令和6年6月1日以後最初に支払を受ける公的年金等の源泉徴収税額から控除し、
控除しきれない場合は翌々月以降の税額から順次控除。
(ロ) 住民税 令和6年10月1日以後最初に支払を受ける公的年金等の特別徴収税額から控除し、
控除しきれない場合は翌々月以降の税額から順次控除。
③ 不動産所得・事業所得者等
(イ) 所得税 令和6年分の第1期分予定納税額から本人分の特別控除の額(3万円)を控除し、
控除しきれない場合は第2期分予定納税額から控除。
※最終的には確定申告の機会に減税。
(ロ) 住民税 令和6年度分の第1期分の納付額から控除し、控除しきれない場合は第2期分以降の
税額から順次控除。2.住宅借入金等特別控除の改正
子育て特例対象個人(夫婦のいずれかが40歳未満の者又は19歳未満の扶養親族を有する者)が一定の新築住宅を取得した場合の取扱いが下記のように変更されます。
(1) 令和6年入居の控除対象借入限度額を上乗せ
認定住宅:4,500万円→5,000万円
ZEH水準省エネ住宅:3,500万円→4,500万円
省エネ基準適合住宅:3,000万円→4,000万円
(2) 床面積要件を40㎡以上とする認定住宅等に係る緩和措置を受けるための建築確認の期限が令和6年12月31日まで1年延長されます。3.住宅特定改修特別控除の追加・見直し・延長
子育て特例対象個人が一定の子育て対応改修工事をした場合が対象工事に追加されます(控除限度額は25万円)。工事内容は転落防止工事、対面式キッチンへの交換工事等。
既存住宅等に係る一定の改修工事をした場合における適用対象者の合計所得金額要件が3,000万円から2,000万円(耐震改修は所得要件なし)に引き下げられた上で適用期限が令和7年まで2年延長されます。
なお、一定の子育て対応改修工事と併せて他の改修工事を行った場合の控除限度額は62.5万円になります。4.住宅取得等資金贈与を受けた場合の贈与税非課税措置の延長及び相続時精算課税制度の特例の延長
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、省エネ等住宅の家屋の要件が耐熱等性能等級4以上(改正後:5以上)又は(改正後:かつ)一次エネルギー消費量等級4以上(改正後:6以上)へと厳しくなった上で適用期限が令和8年まで3年延長されます。また、当贈与に係る相続時精算課税制度の特例措置についても同様となります。
5.その他の主要な改正項目
※表をクリックすると、拡大表示されます。
2024年2月15日
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273号
建物敷地の固定資産税評価額 ~相続税評価額との相違点に注意しよう~
土地の固定資産税は、「固定資産税評価額」を基礎として算定されます。一方、相続財産や贈与財産に土地があれば、相続税や贈与税の申告に当たり、まずはその土地の「相続税評価額」を求めます。土地の時価とされる公示価格と比べ、固定資産税評価額はその70%程度、相続税評価額はその80%程度と言われています。そうすると、「固定資産税評価額」は、「相続税評価額」の87.5%(70%÷80%)が一応の目安となるのかもしれません。しかし、その目安と大きく異なり、想像以上に固定資産税が高額となるケースがあるため、注意が必要です。
1.事例で検討してみましょう
A土地(100㎡)は甲所有、B土地(100㎡)は乙所有で、それらの土地上に丙(第三者)所有のC建物があります。B土地は繁華街である表通りに面しており、A土地は裏通りに面しています。裏通り路線価は、表通りの路線価と比べて6分の1となっており、大きな価額差が生じています(下図参照)。
2.A土地はどのように評価するのか
まずは、A土地の相続税評価額と固定資産税評価額(いずれも概算額)を求めることとします。便宜上、奥行価格補正や不整形地補正はないものとし、下記(2)における二方路線の影響加算率は0.05としています。また、固定資産税では土地の権利関係(借地権の有無など)は考慮しないため、ここではいずれも自用地としての評価額とします。
(1) 相続税評価額
A土地の相続税評価額は、裏通りの相続税の路線価8万円に地積100㎡を乗じて算定しますから、次のとおり800万円になります。
(算式) 8万円×100㎡=800万円(2) 固定資産税評価額
A土地の固定資産税評価額は、固定資産税の路線価を用い、C建物の敷地であるA土地とB土地を一体として評価した上で、面積割合を用いて按分します。そうすると次のとおり4,235万円になります。
(算式)(42万円+7万円×0.05)×200㎡(全体の地積)×100㎡(A土地の地積)/200㎡(全体の地積)=4,235万円3.固定資産税評価額が相続税評価額の5倍超
路線価は、固定資産税が相続税より低いにもかかわらず、A土地の固定資産税評価額(4,235万円)はその相続税評価額(800万円)の5倍超になります。これは、土地の評価単位の考え方が異なることに基因します。固定資産税では、建物の敷地に供されている土地は、その権利関係にかかわらず、その敷地全体を一体として評価するルールがあります。そのため、A土地の評価において、甲が所有しないB土地が面している表通りの高い路線価の影響を受けることになります。
一方、相続税や贈与税では、甲はA土地しか所有していませんから、A土地に面している裏通りの路線価のみで評価します。
なお、本事例とは異なりますが、仮に甲がC建物を所有しているとすると、甲はA土地のほかC建物の敷地であるB土地も利用しているため、評価単位の考え方は、固定資産税と同様(一体評価)になります。4.固定資産税評価における課税実務上の制約
A土地の所有者である甲は、B土地のみならずC建物も所有していませんから、A土地の固定資産税の算出に当たり、B土地を含めて一体評価するのは合理性に欠けるように思われます。固定資産税の賦課に関する類似の訴訟もありますが、いずれも、訴えは認められていないようです。その理由としては、固定資産税の評価基準(評価マニュアル)は、個別の権利関係を詮索しない更地主義(自用地扱い)が採用されており、建物の敷地など外見上一体として利用されている土地については、その所有関係を考慮せず、全て一画地として評価するのを相当とするものです。市町村は、管内の全ての土地の固定資産税評価額を定める必要があるため、本来あるべき評価理論より、課税実務上の制約を優先せざるを得ない事情があるのかもしれません。
5.不動産取得税にも注意が必要
固定資産税評価額は、固定資産税はもとより不動産取得税や登録免許税の課税標準としても用いられます。
建物の敷地である1筆の共有土地について、共有を解消するため共有物の分割を行い、単独所有の2筆の土地に分割することがあります。この場合、分割後の2筆の土地の相続税評価額が概ね等しければ、所得税では等価交換として取り扱われ、課税は生じません。しかし、面している道路の路線価に大きな差があると、分割後の土地の面積は50%ずつの均等にはならず、例えば70%と30%のように差が生じるとすると、前者については20%(70%-50%)相当部分の土地の取得があったとして、不動産取得税が課税される点に注意が必要です。2024年1月15日
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272号
電子帳簿保存制度について
令和6年1月1日以降、電子帳簿保存制度の対応が必要になる部分がありますので、今回は、この制度をご説明いたします。
1.電子帳簿保存制度とは
電子帳簿保存制度とは、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とするものであり、各種制度を利用することで経理のデジタル化が図れます。また、メールへの添付など電子データでやり取りした請求書や領収書などの電子取引データは保存が義務化されます。
つまり、この制度は、従来の紙保存からデータ保存に切り替えが可能になることで、経理のデジタル化を図り業務の効率アップができる制度ということができます。ただし、紙保存からデータ保存に切り替えるにはシステム整備をする必要があり時間や費用がかかりますので、費用に見合った効果が期待できない方は、各種制度を利用するのが難しい場合があります。そういう方は、少なくともデータでやり取りした電子取引データは消さずに保存しておかなければならないというものです。2.電子帳簿保存制度における3つの保存制度
電子帳簿保存制度では、書類の種類、書類の受渡方法により、以下の3つに区分されています。
①電子帳簿等保存→会計ソフトで作成した帳簿、貸借対照表、損益計算書等を電子データで保存。 ②スキャナ保存→取引先から受領した紙の請求書等を、スマホやスキャナで読み取った電子データ保存。 ③電子取引データ保存→取引先と電子データでやり取りした請求書等を、その電子データで保存。 上記①及び②は、紙保存が可能であり、希望者のみが電子データで保存することができます。
上記③は、個人事業者・法人は令和6年1月1日以降の取引について対応する必要があります。下記3以降で、どのような対応が必要になるかをご説明いたします。3.保存義務のある電子取引データ
メールやインターネットを介して電子データでやり取りしたもので、これまで紙でやり取りをしていた場合に保存が必要であった書類です。例えば、「注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書など」に相当するものが対象です。あくまで電子データでやり取りをしたものが対象ですから、紙でやり取りしたものをデータ化しなければならない訳ではありません。
なお、書類を受け取った場合だけでなく、書類を送った場合にも保存する必要があります。4.原則的なデータ保存の方法
データ保存は、「改ざん防止の措置」、「日付・金額・取引先で検索できること」など一定の要件を満たすようにしなければなりません。
なお、2年(期)前の売上高が5千万円以下の事業者の方は、税務調査の際に電子データをダウンロードできるようにしておくことを前提に、印刷した書面(紙)を日付ごとに整理した状態で提出できるようにしている場合には、電子データ保存時の検索要件は不要となります。
いずれにしても、データ保存を電子帳簿保存制度のルールどおり行うためには、基本的にはシステム整備をする必要があり、市販のソフトウェア等を使うと費用もかかってしまいます。5.猶予措置(例外的なデータ保存の方法)
個人事業主・中小企業などは、資金繰りや人手不足等の事情によりシステム整備が間に合わないこともあるため、一定の要件を全て満たすデータ保存をすることが難しい場合があります。そのため、猶予措置が設けられており、改ざん防止の措置や検索機能など保存時に満たすべき要件に沿った対応は不要となり、電子取引データを単に保存しておくことができるようになりました。
なお、猶予措置が認められるためには、税務調査の際に税務職員に対し電子データを印刷した書面を提出できるようにしており、かつ、電子取引データをダウンロードしてデータのコピーを提出できるようにしておかなければなりません。その上で、税務署長がやむを得ない理由があると認めた場合に猶予措置が適用されます。現状では、いったんシステム整備をしたのに検索機能などの要件を満たす保存をしていない場合は別として、税務署長が猶予措置を認めないという厳しい運用はされないものと考えられます。6.まとめ
電子帳簿保存制度は、大企業のように処理件数が多く作業量が大幅に減少する場合、紙保存に膨大なスペースが必要な場合などは積極的な導入を検討すべきでしょう。しかし、不動産賃貸業などで処理件数がそんなに多くないという方は、急いでシステム整備をする必要はありません。調査の際に、以下の2つの対応ができるように、電子取引データを保存して頂ければと思います。
①電子取引データをダウンロードしてデータのコピーを提出できる。 ②電子取引データを印刷した画面を提出できる。 なお、会計ソフトで作成した帳簿や紙で受領した請求書等について電子保存を検討される場合には、個別にご相談ください。
2023年12月15日
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271号
精算課税贈与の活用 ~2024年以降の考え方~
2024(令和6)年から贈与税が変わります。暦年課税は、贈与加算が相続開始前3年から段階的に7年に延長されます。精算課税贈与は、新たに毎年110万円までの非課税枠が設けられ、使い勝手がよくなります。
この改正を踏まえ、来年以降の精算課税の活用方法を検討します。1.令和6年以降の暦年課税について
令和6年以降の暦年課税は、贈与加算が段階的に7年以内に延長されるため、相続直前の節税目的の贈与が難しくなります。贈与加算は、基礎控除110万円以下の部分も含めて贈与した財産を相続財産に取り込んで相続税を計算するので、該当してしまうと贈与による節税の効果は失われます。
ただし、贈与加算の対象となる方は、相続人、受遺者や死亡保険金の受取人など相続で財産を取得する人(以下「相続人等」といいます。)に限られます。相続人等は別として、相続人等以外の孫などへの贈与は、贈与加算の対象になりません。贈与加算のことは気にせず、これまでどおり暦年課税を使うことができます。しかも、暦年課税は、精算課税とは違い適用を受ける人の要件がありませんので、孫や子の配偶者など多くの人に贈与することが可能です。2.精算課税の概要
・贈与者…60歳以上
・受贈者…18歳以上の推定相続人、孫
・特別控除額…累積2,500万円
・税率…特別控除額を超えた部分について一律20%
・贈与加算…2,500万円の特別控除額の枠内も含め、精算課税を利用して贈与した財産(贈与したときの評価額)をすべて相続財産に取り込んで相続税を 計算します。支払った贈与税は相続税から控除し、控除しきれない部分は相続税申告で還付を受けることができます。
・非課税枠…令和6年以降、累積2,500万円の特別控除額とは別に毎年110万円の非課税枠が設けられます。
・暦年課税と精算課税の選択は、贈与者ごとに行います。一度、精算課税を選択したらその選択をした贈与者から受ける贈与については、暦年課税に戻 ることができません。3.令和6年以降の精算課税の活用方法
令和6年から新たに設けられる精算課税の110万円の非課税枠を活用する方法をご説明します。
(1) ご相続が近い場合
110万円の非課税枠の部分は、贈与加算の対象外です。つまり、精算課税を使えば、相続開始の直前であっても、年間110万円まで無税で贈与した上、相続財産から切り離すことが可能です。
ご相続が近い場合、相続人等に対する暦年課税は贈与加算の対象になるリスクが高いです。贈与加算を回避するため、精算課税を選択できる子などの推定相続人は、精算課税を選び年間110万円の非課税枠をきっちり使って相続税を減らすことができます。
(2) 贈与者が2人の場合
父A、母Bの2人が子Cに贈与するとします。暦年課税と精算課税の選択は、贈与者ごとに行います。令和6年以降は、A、Bの2人とも暦年課税または精算課税を選択するとCの非課税枠は110万円です。しかし、Aが精算課税、Bが暦年課税を選択すると、Cは精算課税の非課税枠110万円と暦年課税の基礎控除110万円の最大220万円まで1年間に無税で贈与を受けることができます。
Aに相続が発生すると、CはAから贈与(精算課税)を受けた財産を最大110万円×贈与年数だけ無税で承継できたということになります。
Bに相続が発生すると、Bからの贈与(暦年課税)のうち、贈与加算の期間を徒過したものは相続財産から切り離されます。仮に先にAに相続が発生したら、Bからの贈与について贈与加算を避けるため、暦年課税から精算課税に切り替えるのも一案です。4.適切な選択を
精算課税は、贈与者と受贈者に一定の要件があります。また、一度に多額の贈与をしたい場合や、将来値上がりしそうな財産を移転するには使いやすい制度ですが、一度選択すると暦年課税に戻せません。そのため、相続財産はどのくらいあるか、110万円の非課税枠を超えて贈与をするか、相続により財産を取得する予定か等、色々な検討要素があります。
令和6年以降は2つの制度を併用することで、非課税枠が220万円まで拡充されます。次世代への財産の移転の促進のため、有効に使うことが大切です。それぞれの贈与制度について、特性を踏まえた上で使い分けることが必要と考えます。2023年11月15日
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270号
非上場会社の事業を分割するときの税務について
同族会社の事業承継において、複数の相続人が共同で事業を引き継ぐ場合、経営方針が一致するとは限りません。むしろ、親族であっても考え方は十人十色ですから、円滑な共同経営は将来的な課題となります。その親族間の共同経営の対策として会社の分割が有効なことがあります。今回は、質疑形式を使って会社を分割する際の税務をご紹介します。
1.質問
父Aは、長男Bと二男Cの2名の子がいます。
父Aの主な財産は、不動産賃貸業を営む非上場の同族会社の株式です。その同族会社は、父Aが100%株主であり、賃貸マンションを2棟(簿価3億円×2棟)所有しています。父Aは、相続人である長男Bと二男Cの2名に財産を均等に相続させたいと考えています。どんな方法が考えられますか。2.会社分割の検討
理想的には、相続人同士が協力して会社を経営してくれることが望ましいでしょう。しかし、兄弟間で何かの折に意見が対立することも珍しくなく、2人に株式を等分に分けてしまうと、会社の意思決定に問題が生じ、将来的に会社の経営が困難になることが予想されます。兄弟2人で株式を持ち合うのはお勧めできません。
そこで、簡便的に賃貸マンション1棟を1つの事業単位とみて、兄弟に均等に財産を相続します。現在の会社を二つの会社に分割しておき、相続発生時に分割前から存続する会社(旧会社)の株式をB、新設された会社(新会社)の株式をCが各々引継ぎ、単独で会社を経営していきます。
それでは会社分割の方法と税務の取扱いをご紹介します。3.事業譲渡を用いる場合
事業譲渡とは、会社が特定の資産、事業、または負債を他の企業や個人に売却する手法です。今回の事例では、父Aが100%出資の新会社を作り、その新会社に旧会社が賃貸マンション1棟を売却しますので、新会社から旧会社に売買代金を支払うことになります。
税務上の要点として、新旧の会社を一つのグループとしてみたときのグループ外への税流出を考えます。まず資産の譲渡損益については、新旧会社の株主は父Aのみであるため、グループ法人税制の適用により、資産移転時の法人税負担は繰延べられます。しかし、両社の取引を通じて登録免許税、不動産取得税等の流通税や一定の事業者に対して消費税等の負担が生じるため、計画段階でこれらの税負担を考慮して検討する必要があります。ただ、収入のすべてが住宅の貸付業である同族会社間の不動産売買において、時価と簿価の差額がない場合は、売主に法人税・消費税の税負担は生じず、税流出は流通税の負担のみで済みます。4.会社分割を用いる場合
会社分割とは、一つの会社を2つ以上の独立した会社に分ける手法です。それぞれの会社が、賃貸マンションを1棟ずつ所有します。
税務上の要点としては、支配関係が継続しているなど一定の要件を満たした場合は「適格分割」に該当し、事業譲渡よりも有利になることがあります。具体的には法人税、消費税が掛からず、一定の要件を満たしている場合は不動産取得税も掛かりません。また、不動産の購入資金も必要がないため、資金的な負担が少なく、リソースを効率的に活用できるというメリットがあります。
さらに、会社分割は権利と義務を一括して移転するため、法務手続きが比較的容易であるという特長もあります。したがって、一定の要件を満たすのであれば事業譲渡よりも使いやすく有効な手法になります。5.留意点
会社分割は、比較的コストをかけずに実行できるのですが、事業承継の観点からすると実行時期に注意が必要です。
① 相続後に会社分割を行う場合
相続が発生し、遺産分割で旧会社の株式を相続人が各々50%ずつ取得した後に兄弟が旧会社を分割しようとすると問題が生じます。適格分割に該当するためには旧会社の株主の持分割合に応じて新会社の株式を発行しなければならないため、新会社もBとCが50%ずつ持ち合わなければなりません。BとCが新旧会社を各々100%所有になるよう会社分割すると、適格分割にはならないため、賃貸マンションを時価で旧会社から新会社へ移転したものとみなされます。事業譲渡と同様にグループ法人税制が適用され、旧会社に対する法人税は繰り延べられますが、一定の事業者には消費税の負担が生じます。更に新会社の株式を取得するCは、時価で旧会社の株式を売却して新会社の株式を取得したものとされますので、みなし配当による税負担が生じてしまいます。
② 相続直前に会社を新設して会社分割をした場合
非上場会社の株式の相続税評価の多くは、会社の財産を基にした株価(純資産価額方式)と業績値を基にした株価(類似業種比準方式)を組み合わせて算出することになります。ただし、開業後3年未満の会社は一般的に評価額が高くなりやすい純資産価額方式のみで株価を算定することになり、類似業種比準方式を併用することができません。更に取得後3年以内の土地等は時価で評価する必要があるため、相続時の株価が高くなることがあります。6.まとめ
生前から事業承継を見据えて会社の事業を分割するというのは、どうしても時間がかかってしまいます。会社分割の活用をお考えの場合は、税務や法務に関する専門家としっかりと相談して計画を立てることが大切です。
2023年10月16日