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COLUMN
毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
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269号
実家に帰ってマイホームを建てる(増築する)時の税務の注意点
一生で一番大きな買い物といわれるマイホーム。近年は不動産価格の上昇により購入者の負担もより大きくなっています。子が家を建てるとき、家の建築資金は出せるが、土地は購入できないという場合、親の土地に家を建てることがあると思います。このようなときの相続税・贈与税の注意点を考えました。
1.子が親の土地にマイホームを建てるとき
子が親の土地に家を建てると、土地の購入費用がかからないので、子の負担は軽減されます。家が完成して住んだら、親が地主で、子が賃借人となりますが、他人に土地を貸して建物を建てさせたときと同じように、親子間であっても借地権は生じるのでしょうか。
2.使用貸借と賃貸借
親子間で地代のやりとりをするかどうかで借地権は以下のような違いがあります。
(1) 使用貸借
親族における土地の貸借は、わざわざ権利金や地代を決めて賃貸借を開始することはほとんどなく、タダのケースが多いと思われます。
タダでの貸借を含め、借り受ける土地の必要経費である固定資産税相当額以下での貸借を「使用貸借」といいます。「使用貸借」は、地代のやりとりをする「賃貸借」と比較して賃借人の権利が借地権ほど強くありません。税務上は、子に借地権が発生したとはみないので、贈与税がかかることはありません。また、子は土地をタダで借りることから、将来にわたって地代相当の利益を受けることになりますが、この部分にも基本的に贈与税はかかりません。
ただし、将来の相続税では、「使用貸借」している土地として評価しますので、借りている子の権利は考慮されず、更地価額が相続税の対象になってしまいます。
(2)賃貸借
固定資産税相当額を越える地代のやりとりをする「賃貸借」の場合は、借主に借地権が発生するため、相続税評価上は更地価額から借地権価額を控除して評価することになります。
ただし、権利金の支払いがないと、親から子に借地権相当の贈与があったとされ、思わぬ税金が発生しますので注意が必要です。3.親の家と同じ敷地にマイホームを建築するとき
(1)別棟を新築して住むとき
親の家の隣に子が家を建てて住むのは、いきなりの同居に対する抵抗がある場合は良いかもしれません。
ただし、同一敷地内で別居する子が相続で敷地を取得する場合、特定居住用の小規模宅地の特例の適用要件である「同居親族」を満たさなくなるため、原則として、同特例の適用を受ける事が出来なくなります。
例外として、別居の子が親の生活費を面倒みるなど生計が一であれば、敷地のうち子居住部分のみが特例の適用対象になります。
(2)親の家に増築して2世帯住宅とするとき
親の所有する建物に子が増築して2世帯住宅にすると、子からみればマイホームを一から建てるよりは金銭負担が軽くなりそうです。しかし、次のように贈与の問題が生じるかもしれません。
親名義の建物に子がお金を出して増築すると、増築部分は親の建物になりますから、親は子から増築費用分の贈与を受けたことになってしまいます。そこで子が支払った増築費用分の建物の名義を親から子に移転させて共有とすれば、贈与税がかかることはありません。
しかし、1つご注意いただきたいことがあります。
(3)2世帯住宅は共有登記か区分登記か
増築部分を登記する方法として、共有のほかに建物の構造などの条件を満たせば区分登記することができます。区分登記すれば、親の家と子が増築した部分は別の家屋になりますから、共有持分の計算をする必要はありません。しかし、特定居住用の小規模宅地の特例では区分登記された建物は登記に合わせて別の建物と判定することになります。したがって、子が親の家に増築して増築部分を区分登記すると、別棟を新築したのと同じように、特定居住用の小規模宅地の特例の適用に影響が及びます。小規模宅地の特例では共有のほうが有利です。4.まとめ
実家に帰ってマイホームを建てる(増築する)ことは親子の生活にとって大きな転機となります。税金面はご説明したように選択の仕方によって様々な違いが生じてきます。どのような方法が良いか相続税・贈与税の注意点も考慮に入れて決めていただければと思います。
2023年9月15日
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268号
本当にあった相続税の話 母の預金口座から14億円を出金
今回は、相続税に関する裁判例をご紹介し、タンス預金について考えます。
1.事案の概要
二男は、母の預金14億円を2年余りの間に毎日のようにATMから200万円ずつ現金で引き出し、相続税の申告財産を隠したというものです。
2.判決内容(令和5年2月16日東京地裁判決)
二男は、「母の預金から現金を引き出したのは自分ではない。」と主張して裁判をしましたが、認められませんでした。
二男は、国税局の調査で母の預金14億円の説明を求められましたが、一貫して「知らない」という態度で臨みました。調査では、引き出された現金が見つからなかったばかりか、二男が預金を引き出した決定的な証拠となるATMの監視カメラ映像が無かったようです。
しかし、国税局は、①母は認知症を患って老人ホームに入っており、ATMから預金を引き出していないこと、②預金が引き出されたコンビニの店員は、頻繁に二男が来店していたのを目撃していたこと、③ETCカード履歴による二男の滞在場所と現金が引き出されたATMがいずれも近隣していることなど、いくつかの証拠を積み重ねて二男が母の承諾なく預金を引き出したので、不当利得返還請求権の申告漏れがあると判断しました。裁判所は、国税局の主張を全面的に認めました。3.不当利得返還請求権?
申告漏れ財産は、二男が引き出した現金ではなく、不当利得返還請求権という債権とされています。不当利得返還請求権とは、法律上の原因がなく利益を得た人に対して、損失を被った人が利益の返還を求める権利です。
二男は、母に無断で預金から現金14億円を引き出し、その現金を所持しているか使ってしまったと認められるので、母には二男に対して14億円の返還を求める不当利得返還請求権が成立することになります。4.タンス預金は見つかるか?
相続税の調査は、相続開始から2・3年後に行われるのが一般的です。現金は、名前が書かれていないので誰のものか直ちに分からない上、使えば無くなるし、記録が残らないまま保管場所を移すこともできます。現金そのものが税務調査で見つかり難いことは間違いないでしょう。
しかし、現金そのものが見つからなかったとしても、相続税の調査では、税務署が持っている過去の様々な資料と申告内容の矛盾や預金口座の動きを注視しており、相続人に疑問点の説明が求められます。調査官の納得いく説明内容でなければ徹底した調査が行われます。
二男のように毎日200万円、合計14億円もの現金を引き出して何も知らないというのは無理な話です。また、国税局が裁判で主張した不当利得返還請求権というロジックが使われると、現金そのものや現金の使い道が調査で明らかにならなくとも課税処分されてしまいます。結局、タンス預金を隠し通すのは、難しいと言わざるを得ません。5.タンス預金のリスク
タンス預金は、低金利を背景に総額100兆円を越えると言われています。タンス預金を持つこと自体は、税務上、直ちに問題になるわけではありません。
しかし、タンス預金は、銀行等に預けた場合と比べ、①盗難や火災等に対する安全性が低い、②ばれたくないと考えると自由に使うことが難しくなる、③申告漏れ財産として税務署にばれた場合、悪質とみられペナルティーが大きくなるというデメリットがあります。6.まとめ
この裁判では、二男の2年間に渡る徹底した毎日の200万円の引き出しは水の泡。さらに重加算税までかかって大変なことになりました。
令和6年に新紙幣が導入されることから、紙幣交換のタイミングで新たな資料が税務署に蓄積されるかもしれません。タンス預金をお持ちの方は、その資産運用・相続対策を検討してはいかがでしょうか。2023年8月17日
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267号
祖父母から孫への資産移転方法
~一括贈与の改正を踏まえて検証~2023年度の税制改正で、教育資金・結婚子育て資金贈与特例について非課税措置の期限が延長されましたが、使い勝手が悪くなったところもでてきました。政府は、両親や祖父母の資産を早期に移転し、有効活用することを支援するためこれらの制度を創設しましたが、改正毎に課税を強化しています。それでは、一体どのような方法が一番次世代へ資産を継承しやすいのか、今回は祖父母から孫への移転方法について検証してみました。
1.祖父母から孫への贈与税の非課税措置
相続対策として使われる一般的な贈与税の非課税措置としては、下記のようなものがあります。
①教育資金に係る一括贈与(1,500万円)
②結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円)
③住宅取得資金の贈与(1,000万円又は500万円)
①②の一括贈与は、銀行等に贈与資金を拠出し、教育代等の領収書を保管して支出の都度銀行等に提出が必要なことから、管理が煩わしいのがデメリットとなります。一方、住宅取得資金の贈与は、手続きが1回で済むので管理の面からメリットがあると思います。2.教育資金贈与とは
教育資金贈与は、今年度の改正で令和8年3月31日まで適用期限が延長されました。祖父母(親)から1,500万円まで一括贈与を受けても非課税となりますが、祖父母死亡時の残高を相続財産に加算する必要があります。数年前までは残高があっても一括非課税でしたが、その後孫(受贈者)が相続開始時に23歳未満であれば非課税と徐々に課税強化されてきました。そして、今年度の改正で更に規制が入り、贈与者である祖父母(親)の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合には、23歳未満でも残高に対して相続税が課税されることになりました。孫に対する相続税額の2割加算が適用されるため、超資産家である祖父母から孫への贈与については、かえって相続税額が増える場合もあります。これまでより選択を慎重に行う必要がでてきます。
また、孫が30歳になり祖父母が存命の場合、使い残し部分に対して贈与税が課税されます。この贈与税率も直系への低税率である「特例税率」から「一般税率」へ改正となり同じく課税強化となりました。3.結婚子育て資金贈与とは
結婚子育て資金贈与は、今年度の改正で令和7年3月31日まで適用期限が延長されました。祖父母(親)から1,000万円まで一括贈与を受けたときは非課税となりますが、教育資金贈与と異なり、残高に対しては 例外なく相続税の課税対象となります。孫への2割加算課税もされますし、使い残し部分に対しての贈与課税もされ、税率も教育資金贈与同様「一般税率」へ変更となり課税強化されました。
4.住宅取得資金贈与とは
住宅取得資金贈与とは、親や祖父母などから住宅取得のための資金援助を受ける場合、最大1,000万円までは非課税となる贈与のことです。贈与時期や住宅の性能によって下表のように非課税限度額が異なります。
適用を受けるためには、受贈者である孫の所得要件や取得建物の要件・確定申告が必要ですが、前記の教育資金・結婚子育て資金贈与と大きく異なるメリットがあります。
5.相続直前の贈与でも相続税に加算無し
住宅取得資金贈与の一番のメリットは、相続直前の贈与でも相続財産への加算がされないことです。今年度の税制改正で生前贈与加算が3年から7年へ延長されます。これまでよりも長期的に贈与税対策が必要となることから、生前贈与加算の対象にならない孫などの法定相続人以外への贈与対策も考慮する必要がでてきます。祖父母から孫への大きな資産移転方法としては、相続直前でも行いやすい住宅取得資金の贈与が最も使い勝手がよく、また管理がしやすいと思います。
6.住宅取得資金の贈与の留意点
住宅取得資金の贈与適用時の留意点があります。孫が住宅取得をすると持ち家有の状態となります。ここで相続発生の特例適用時にデメリットがでてきます。それは、小規模宅地等のいわゆる「家なき子」制度を適用できなくなることです。例えば、祖父母に相続が発生した場合、孫に自宅を相続させるなどの遺言を作成していても、家なき子でなくなるため、特定居住用宅地等の80%減額の適用が出来なくなってしまいます。「家なき子」として子供は小規模宅地等の適用が難しいことから、孫への遺贈を考えている場合に、特例の適用が不可となってしまいます。ご自宅の路線価が高い地域の場合の影響度はかなり大きく、住宅取得には相続を踏まえた総合的な判断も必要となります。
7.まとめ
祖父母から孫への一括贈与に対して検証してきましたが、扶養義務者からの生活費・教育費等の贈与についてはそもそも非課税とされています。お孫さんのライフステージに合わせてその都度必要な教育費等の贈与を行い、住宅取得という大きな資産形成時に一括贈与などをご検討されてはいかがでしょうか。
2023年7月14日
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266号
老人ホーム等に入所中に相続があった場合の小規模宅地の特例
近年、老人ホームや介護施設等の数はどんどん増えています。老人ホームといっても、富裕層の方しか入ることができないような高級老人ホームも近年は増えており、一人暮らしのため、平日は自宅で生活し、週末だけ高級老人ホームを別荘のように利用するケースもあるようです。
今回は、被相続人が老人ホームに入所中に相続があった場合でも、小規模宅地の特例の適用を受けることができる要件を考えていきたいと思います。1.小規模宅地の特例について
相続開始の直前において「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」については、一定の要件を満たす場合、自宅敷地のうち330㎡まで相続税評価額の80%を減額することができます。小規模宅地の特例を使えるかどうかで相続税額は大きく変わってきます。
被相続人が自宅を離れて老人ホームに入所したまま相続があった場合、一般的には、相続開始の直前において被相続人が自宅に住んでいたとはいえません。それでは、自宅の敷地に小規模宅地の特例を使えないのでしょうか。2.老人ホーム入居中に相続があった場合
結果から言えば、次の3つの要件を満たす場合は、自宅の敷地は老人ホームの入所直前の状況をもって「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」とみることになりますので、小規模宅地の特例の対象となります。
要件① 相続開始直前に要介護認定等を受けていること
要件② 老人福祉法等で認定された老人ホーム等に入所していたこと
要件③ 老人ホーム入所後の自宅が賃貸等されていないことこれは、被相続人が介護を受ける必要があるため、住んでいる自宅を離れて老人ホームに入所しなければならない場面を考えています。被相続人は、自宅での生活を望んでおり、いつでも自宅で生活することができるように自宅が維持管理なされていれば、実際には病気療養のために一時的に入院しているのと同様な状況にあります。自宅で生活していないため一律に小規模宅地の特例の対象に当たらないとするのは実情にそぐわないからです。
3.要件①…要介護認定等について
被相続人が要介護認定等を受けていたかどうかは、老人ホームに入所した時ではなく、相続開始時までに認定を受けていたかどうかで判定します。
それでは、要支援認定の申請中に亡くなった場合はどうなるのでしょうか。申請をしてから市区町村の審査を受けて認定を受ける流れになりますが、介護保険法では申請があった日に、さかのぼって効力が生じることになっています。相続開始時点では、申請中であっても、相続後に要支援認定が認められれば大丈夫です。
なお、配偶者が要介護認定を受けたために、夫婦で一緒に老人ホームに入所することもあるかと思います。この場合で、要介護認定を受けていない方が亡くなってしまったときは、自宅の敷地について小規模宅地の特例の適用を受けることはできません。4.要件②…老人ホームについて
入所する老人ホームはどこでもよいというわけではなく、一定の要件を満たしている必要があります。老人福祉法により都道府県から認可を受けている老人ホームなどが該当します。
無認可の老人ホームでは、小規模宅地の特例を受けることができませんので、入所前に施設に確認をしておくことが大事です。5.要件③…老人ホーム入所後の自宅が賃貸等されていないこと
自宅は、基本的には老人ホーム入所時と同じ状態を保つ必要があります。老人ホームに入所後、自宅の用途を変更し、他人に賃貸しているときや事業用に使用しているとき、生計が別の親族が引っ越してきたような場合には、小規模宅地の特例の適用が不可となりますのでご注意ください。
なお、新たに自宅を他人に賃貸した場合は、居住用の8割引きに代えて、貸付事業用として200㎡まで5割引きの小規模宅地の特例を受けることができる場合があります。6.誰が自宅の敷地を相続するか
自宅を相続する方が誰でも小規模宅地の特例を使えるわけではありません。
被相続人が老人ホームに入所中に相続があった場合、小規模宅地の特例を使うことができる相続人は、次のいずれかの方です。①配偶者
②老人ホームの入所直前に被相続人と同居していた相続人
③上記①、②がいないときは、いわゆる家なき子の要件を満たす相続人7.最後に
小規模宅地の特例は、相続前の状況で使えるかどうかが決まる要件が多くあります。また、老人ホームへの入所が絡むと、判断が複雑で非常に難しくなります。
老人ホームへの入所を考えている方は事前に検討しておくことをお勧めします。ご不明な点がありましたら、ATOまでご相談ください。2023年6月15日
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265号
タイミングで変わる相続財産
~売買契約中に相続が発生したら~土地は、路線価から計算する相続税評価額よりも高い金額で売買されることが多くあります。
土地の売買契約を締結した後、残代金決済と引渡しが完了する前、土地名義が売主のまま相続が発生したとします。この場合、相続税はどのようになるのか。事例にあてはめて被相続人が売主のケースと、買主のケースに分けてご説明します。1.事例
被相続人が、土地を相続税評価額の2倍の金額で売買契約を締結し、手付金3,000万円を受け渡した段階で相続が発生したとします。
・土地の相続税評価額…1億5,000万円
・売買代金…3億円
・手付金…3,000万円
・残代金…2億7,000万円
なお、残代金決済と引き渡しが完了していないため、土地名義は売主のままです。2.被相続人が売主のケース
(1) 相続税の取扱い
売主の相続財産は、売買契約に基づく譲渡金額のうち相続開始時における未収金(=残代金)になります。
事例では、相続財産は土地(1億5,000万円)ではなく未収金(2億7,000万円)です。他に被相続人が受取済みの手付金3,000万円も相続財産になります。このケースでは、売買契約締結のタイミングで相続財産が1億5,000万円増えることとなります。(2) 考え方
土地名義が被相続人のままなのに、相続財産を土地として路線価評価できないのはなぜでしょうか。
売主に相続が発生した場合、売買契約中の土地は、名義が被相続人のまま所有権が残っていても、相続人は残代金を受け取るのと引き換えに土地を買主に引き渡さなければなりません。相続税では、売買契約中の土地が主に残代金を確保するためのものだから、相続財産の種類を土地として路線価評価するのではなく、未収金(債権)とすべきと考えられています。
(3) 小規模宅地の特例適用について
居住の用や事業の用に供されていた土地に適用される小規模宅地等の特例は、土地等の売買契約中に相続が発生した場合、相続財産が未収金になるため原則として適用することができません。3.被相続人が買主の場合
被相続人が買主だった場合の相続財産はどのように考えればよいでしょうか。
(1) 相続税の取扱い
買主の相続財産は、原則として、売買契約に係る土地の引渡請求権という債権となり、その財産取得者の負担すべき債務が相続開始時における未払金になります。つまり、純財産は、引渡請求権と未払金との差額になります。
例外として、買主は、所有権移転の有無にかかわらず、売買契約中の土地を相続財産として路線価評価して申告することも認められています。申告する相続財産の選択の仕方で大きな差が生じますので、ご注意ください。
(原則)
事例では、相続財産は引渡請求権3億円であり、未払金が2億7,000万円になります。差額の3,000万円が純財産になります。
(例外)事例では、相続財産は土地1億5,000万円であり、未払金が2億7,000万円になります。差額の1億2,000万円が純債務になります。
(2) 小規模宅地の特例適用について
相続財産を土地として申告する場合、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用することができます。4.売買契約のタイミングは慎重に
相続直前に土地を譲渡すると、売主の相続財産が土地から譲渡代金に変わるため、相続財産が膨らむケースが多くあります。売買契約中の相続でも、上記のように膨らむことがあり得ます。土地の売買は高額になり易いので、売買契約締結に当たっては、資金需要や使い道を考えた上で慎重にタイミングを検討することが必要と考えます。被相続人が土地の売買契約を締結中であった場合は、必ず税理士にお伝えください。
2023年5月15日
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264号
非上場株式を譲渡したときの税金について
同族会社の後継者以外の方にとって、相続財産の中で換金が難しく扱いに困りがちな財産とは?その一つが同族会社の非上場株式です。通常、株式は相続財産として配偶者や子供に引き継がれます。後継者は会社の株式が相続により分散すると買い取りや贈与でまとめる必要が出てきます。また、後継者以外の方にとっては相続したものの、相続税等の税金がかかるだけの財産になってしまうことも少なくありません。手放したい場合はその会社の後継者か、その会社自身に引き取ってもらう必要があります。そこで今回は非上場株式を発行会社に売却した場合にかかる税金をご説明させていただきます。
1.非上場株式の譲渡の概要
前提として、創業以来資本関係に変動はなく、資本金や利益剰余金が十分にあり株主は親族で占められている非上場の同族会社で考えます。
最初に通常の株式の売却を考えます。一般に株式の譲渡は、収入金額から取得費(取得時の金銭等の払込み金額)と譲渡費用を控除した残額に対して、約20%(所得税・住民税)の税率を適用します。親族で引き継いでいる非上場株式は、相続や贈与で移転していることが多いので、実務的には出資金額が取得費となる事が多いです。
次に個人の株主が、発行元の同族会社に時価で売却するケースを考えます。この場合は、出資金額に対応する部分とそれを超える部分で取り扱いが変わります。
出資金額に対応する部分は、会社は同額を資本金等から取り崩して支払い、出資した金銭の払戻しになりますので、課税関係は生じません。一方、出資金額を超える部分については、所得税法上、会社からの配当とみなされるため、配当所得(みなし配当課税)として扱われます。非上場株式の配当所得は総合課税となるため、最大で約55%(所得税・住民税)の税率が適用されます。同族会社への売却の課税関係をまとめると下の図のようになります。
2.みなし配当が適用されない特例
相続等により取得した株式については、株式の分散化を防ぐ趣旨から、次の特例が設けられています。
「相続開始の翌日」から「相続税の申告期限から3年経過日」までに一定の要件を充足して発行会社へ譲渡した場合は、みなし配当課税は適用されません。すべて通常の株式の売却と同じように譲渡所得として約20%の税金が課され、課税関係が終了することになります。また、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例も適用できます。他の所得との兼ね合いもありますが、保有する希望のない非上場株式については、相続直後に発行会社に売却をすると税負担の面で有利になることがあります。3.譲渡時の課税関係の注意点
株式を時価ではなく、無償又は著しく低い価額で発行会社へ譲渡した場合はどうなるのでしょうか。
(1)売主個人の課税関係
まず売主個人の譲渡の課税関係を考えますと、会社から受け取る金額が時価の2分の1未満の場合は、所得税法上、低額譲渡の規定が適用され、時価で譲渡したものとみなされます。
したがって、割安でも良いからと時価の2分の1を下回る金額で譲渡すると、次のようになります。【例】
時価10,000万円(出資金相当額1,000万円)の株式を4,000万円で譲渡した場合、
4,000万円-1,000万円=3,000万円」(配当所得・総合課税)となります。
更に時価で譲渡したものとみなされるため、「(10,000万円-3,000万円)-1,000万円=6,000万円」が株式の譲渡所得として税金が計算されます。
この様に場合によっては高い税金を支払うことになりかねませんので注意が必要です。
(2)既存株主の課税関係
会社が時価より低額(無償含む)で株式を買取ることで、既存株主は出資持分の増加という利益を享受することとなります。この場合は、既存株主にも課税関係が生じます。
【例】
株式の時価総額10,000万円(発行済株式5株、一株当たり株価2,000万円)の株式のうち、1株を同族会社が無償で取得した場合、
既存株主の株価は、10,000万円÷(5株-1株)=2,500万円となります。
無償取得前後で株価が500万円増加し、出資持分も増加しています。売主以外の既存株主が一人の会社の場合は、500万円×4株=2,000万円の経済的利益をその既存株主が得ることになり、この利益に対して贈与税がかかります。
4.補足
一般に第三者が相手の取引であれば合意した価額が時価とみなされます。しかし、同族会社との取引においては、市場が形成されていないため、国税庁の通達を基に算定した株価を税務上の時価とみなして税金を計算します。
株式に関する税制は非常に複雑であり、今回の事例の様に単純なものだけではないため、ご興味がある方は是非弊社にご相談下さい。2023年4月14日
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263号
幼児への贈与は大丈夫?
相続税の節税として、贈与を活用するのは世間の常識となっています。税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から相続開始前の贈与加算が段階的に7年に延長されるため、節税のための贈与はより早く行うのが効果的です。
子や孫が生まれてから、贈与税(暦年贈与)の基礎控除110万円を活用すれば、18歳で成人するまでの間、無税で約2千万円を渡すことができます。そこで、幼児への贈与についてご説明します。1.贈与が成立するには
贈与は、無償(タダ)で資産を移転する契約をいいます。贈与の効力が生じるのは、贈与者が自分の財産を無償で相手方にあげることを伝え、もらう人が承知した場合です。つまり、あげる人ともらう人の双方の合意があってはじめて贈与が成立します。
2.税務署が認めない贈与は
税務署が認めない贈与は、贈与が成立していない場合です。たとえば、親が子の名義で作った預金の場合、以下のような理由から、その預金は親子間で「あげる」「もらう」の合意がなく贈与が成立していないと判断されると、名義が子であっても親のものと判定されます。このような預金を「名義預金」といいます。
・通帳、カード、印鑑を贈与者(親)が管理している。
・子がその預金の存在を知らない。3.幼児への贈与は大丈夫?
幼児は、贈与が成立するための意思表示や財産管理ができないから、贈与が成立しないのではという疑問が生じます。
結論から言えば、幼児に対する贈与はできます。なぜなら、未成年者の場合、親権者が法定代理人となるからです(民法824条)。つまり、両親が、幼児である子に代わって贈与を承諾し、子が受けた贈与財産として管理していけばよいのです。4.贈与契約書は必要なの?
贈与は口頭でも成立するので、身内で贈与契約書を作るのは堅苦しく感じます。しかし、将来の親族間トラブル防止や税務署に「名義預金」といわれないよう贈与契約書を作ることは重要です。たとえば、相続が発生したとき、幼児が大きな金額の預金を持っていると、税務調査を受ける可能性が高くなります。そんなときに、贈与契約書があれば、贈与成立を証明するため非常に有効です。署名押印のある贈与契約書を作成した上で、契約通りに財産が移っていれば、特殊な事情がない限り、贈与契約は成立しているとみます(民訴228条④)。税務署が、その贈与を成立していないとひっくり返すことはまず無理です。
5.口座振込をお勧めします
贈与契約書は作ったけれども、実際には契約通り財産を移していない場合などは、税務署から契約の真実性を疑われ、贈与が成立していないと指摘される恐れがあります。そのような意味では、記録が残らない現金で贈与するよりも記録の残る口座振込で贈与するほうが間違いありません。
6.贈与税の申告や納税はどうするの?
贈与税(暦年贈与)は、1年間に基礎控除額110万円を越える財産の贈与を受けた場合に申告が必要になります。贈与を受けた人が幼児であっても申告・納税をしなければなりません。実際には、親権者が代理人として申告と納税の手続きを行うことになります。
この場合の贈与税は、贈与を受けた幼児の負担となることにご注意ください。税金の支払いであっても、負担者が違えば贈与税の対象になってしまいます。7.贈与を受けた子が成人したら
名義人である子が預金の存在を知らないまま、通帳を管理していた両親が亡くなってしまうと、贈与は成立していないとみられ、その預金は管理していた両親の相続財産になってしまいます。遅くとも子が成人するまでには、預金の存在を伝えて管理方法を親子で話し合いましょう。
8.まとめ
幼児への贈与はできます。しかし、せっかく子のためにコツコツ貯めてきたお金が、子の財産とは認められず、贈与税や相続税といった税金の対象となっては苦労が水の泡になってしまいます。
贈与契約書の作成や親権者としての財産管理方法など、不安やお悩みのことがあれば、当事務所にご相談ください。2023年3月16日
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262号
令和5年度税制改正の概要
令和4年12月16日に令和5年度の税制改正大綱が発表されました。今回は税制改正の主要項目のうち、特に注目すべき点をご説明します。
1.暦年課税における相続開始前贈与加算の見直し
資産移転の時期に対する中立性を高めていく観点から、相続財産に加算される贈与の期間につい
て、令和6年1月1日以後の贈与から次の見直しが行われます。(1) 加算期間の延長 相続財産へ加算される贈与は、相続開始前7年間(現行3年間)に延長されます。
※1 令和9年1月以降、加算期間は順次延長
※2 加算期間が7年間となるのは令和13年1月以降(2) 延長期間の加算額調整 延長される4年間(相続開始前3年超7年以内)に受けた贈与については、総額100万円まで相続財産に加算しないこととされます。 2.相続時精算課税制度の見直し
(1) 110万円の基礎控除の導入
令和6年1月1日以後の贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税より、相続時精算課税で受け
た贈与は、暦年課税の基礎控除110万円とは別途、毎年110万円まで非課税とされます。
※1 暦年課税分と合わせると基礎控除は最大220万円
※2 複数の特定贈与者から贈与を受けた場合は、110万円を各贈与額に応じ按分
(2) 土地建物が災害で被害を受けた場合の再評価の導入
令和6年1月1日以後に生じる災害により、相続時精算課税で贈与を受けた土地建物が、一定以上の被
害を受けた場合は、相続時において評価額を再計算することができるようになります。3.特定の事業用資産の買換えの見直しと延長
既成市街地等の内から外への買換え(1号買換え)が適用対象から除外されます。また、コロナ禍
からの経済社会活動の回復を確かなものとし、土地の有効活用による投資促進と不動産市場の活性化
のため、長期(10年超)所有の土地建物等からの買換え(4号買換え)は、譲渡益の課税繰延割合を下
記の通り見直した上で、適用期限が3年間(令和8年3月31日まで)延長されます。
・地方から東京23区への本店又は主たる事務所の移転を伴う買換え 70%から60%に引き下げ
・東京23区から地方への本店又は主たる事務所の移転を伴う買換え 80%から90%に引き上げ4.相続空き家に係る譲渡所得の特別控除の拡充・延長
令和6年1月1日以後の譲渡から、次の見直しを行った上で、適用期限が4年間(令和9年12月31日まで)延長されます。
(1) 適用要件の見直し①家屋の耐震リフォーム又は②家屋の取壊しは、売主にて行う必要がありますが、売主の負担感が
強いこともあり、譲渡年の翌年2月15日までに①又は②の要件を満たせば良いこととされます。
(2) 特別控除額の見直し相続人等による共有の場合、現行は、1人当たり3,000万円まで控除できますが、相続人等が3名以
上の場合は、2,000万円までが限度とされます。
5.適格請求書等(インボイス)保存方式にかかる見直し
(1) 消費税の納税額についての負担軽減措置
免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をした場合の負担軽減を図るため、令和5年10月1日から
令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となった
こと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより課税事業者となった場合には、申告時の選択によ
り納付税額を売上に対する消費税の2割とすることができるようになります。
(2) 1万円未満の課税仕入れに係る経過措置
インボイス制度における仕入税額控除の適用にあたっては、金額の多寡にかかわらず、原則として取
引の相手先からインボイスを取得・保存する必要があり、事務負担の増加が懸念されていました。そこ
で、基準期間(2期前)における課税売上高が1億円以下又は特定期間(前期の上半期)における課税売
上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において
行う課税仕入れについて、支払対価の額が1万円未満である場合には、インボイスの保存がなくとも一
定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認めることとされます。6.極めて高い水準にある高所得者層に対する負担の適正化
税負担の公平の観点から、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化を図るため、令和7年分所得税より、次の②が①を上回る場合に限り、差額分を申告納税する新たな措置が設けられます。
① 通常の所得税額※1
②(合計所得金額※2-3.3億円)×22.5%
※1 分配時調整外国税相当額控除及び外国税額控除の控除前の所得税額
※2 確定申告を要しない配当所得等の特例及び上場株式等の譲渡による所得の特例を適用しな
いで計算した合計所得金額(源泉分離課税及び非課税の所得は含まない。)7.その他の主要な改正項目
2023年3月2日
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261号
税金安夫の税務講座
外貨建て取引による為替差益に関する税務
~外貨預金とFXを中心として~昨年は円安が進んだ一年でした。年初の1ドル115円が10月には150円を超えた日も。円安が進むのならドルを買っておけばよかった、と思うのも後の祭りです。今回は、外貨建て取引による為替差益に纏わる税務のお話です。
1.為替差益は‟雑所得”で総合課税
財産の持ち方ですけど、今後の日本や世界の情勢は不透明のため、リスク分散が必要と思い、預金の約30%をドル預金とし、株式の約70%を米国株にしています。
昨年は円安が進みましたね。お持ちのドル預金ですが、円転しましたか?
一部ですけど、30,000ドルを1ドル140円で。購入時は、確か1ドル100円くらいだと記憶しています。
そうすると為替差益は約120万円ですね。
(140円-100円)×30,000ドル=1,200,000円税金はどうなりますか?
為替差益は雑所得で総合課税。給与所得や不動産所得と合算して課税されます。安夫さんの最高税率は、所得税と住民税で合わせて約50%。半分が税金ですね。
儲けた割に手取りは少ないですね。残念。一方、株ですが、米国の株式も売却しました。一般口座で保有していたので、譲渡税の申告も必要になりますよね。
2.株式の譲渡における為替差益の取扱いは?
FRB(連邦準備理事会)による利上げの影響で、昨年の米国株式市場は下落基調でしたよね?
実は、新型コロナの影響で株価が急落した2020年に買っておきました。米国T社を1株40ドル、100株で4,000ドルでした。当時は1ドル105円でした。
オーナーが著名な米国T社。急成長しましたね。
一時は1株300ドルを超えました。でも下落してきたので、昨年の10月に240ドルで売却しました。売却時は、円安になっており1ドル145円でした。
1株40ドルが240ドルに値上がりして、さらに円安も加わったので、かなり儲かりましたね。
株価上昇による売却益と円安による為替差益。売却益部分は税率約20%の申告分離課税、為替差益部分は総合課税で、私の場合は税率約50%だから……。
税務ではそのような計算はしませんね。購入や売却の都度、円換算をします。1株240ドルで100株を売却し、売却時レート145円で円換算するので、譲渡収入は348万円ですね。
240ドル×100株×145円=3,480,000円(①)
1株40ドルで100株を購入し、その購入時レート105円で円換算するので、譲渡原価は42万円ですね。
40ドル×100株×105円=420,000円(②)
証券会社への手数料は省略するとして、売却益は306万円(①-②)になります。適用される税率は約20%で、譲渡税は62万円程度ですね。実質的に為替差益と考えられる部分についても税率20%の課税で済んでしまうのですね。
そうですね。1ドル当たり145円から購入時の105円を引いて40円の差益。4,000ドルでは16万円になり、この部分は実質的には為替差益と言えますね。
(145円-105円)×4,000ドル=160,000円本来の為替差益であれば総合課税の雑所得。でも、外国株投資では、為替差益部分も含めて売却益扱いになり、20%の税率で済む点はメリットですね。
3.為替差益も税率20%の申告分離課税にできる!!
為替相場や株価は変動します。儲かることもあれば損をすることもあります。損失となった場合に、利益との通算や損失の翌年への繰越しができるか否かも重要になります。
為替差益が雑所得ということは、円高が進み、為替差損となってしまった場合はどうなりますか?
公的年金など他の雑所得の範囲内で通算できます。しかし、通算しきれない損失は切捨てです。
上場株式の売却損は、翌年以降に繰り越せるようですけど、外国株式の売却損でも繰り越せますか?
外国市場で取引されている外国株に限り、一定の金融機関を通じて取引をすれば繰り越せます。
雑所得内で通算しきれない為替差損は切捨てになり、翌年に繰り越せない点がデメリットですね。
国内の指定業者でのFX(外国為替証拠金取引)を活用すれば、株式の譲渡と同様に税率約20%の申告分離課税で、損失は3年間の繰越しが可能です。
レバレッジをかける取引(少ない元手で大きな取引が可能)ですよね。儲かればいいですが、損をするとひどい目に遭いますよね。
詳細は省略しますが、レバレッジを「1倍」にしておけば、通常の為替差損益と同じですね。
4.おわりに
外貨預金の利息は税率約20%の源泉分離課税(申告不可)、為替差益は総合課税で、損失の繰越しはできません。一方、レバレッジ1倍のFXについては、利息(スワップポイント)も為替差益も税率約20%の申告分離課税で、損失は3年間繰り越せます。所得状況に限らず約20%の固定税率で、かつ、損失も繰り越せる点は、FX取引のメリットになります。総合課税で適用される税率が高い方は、一考の価値があるかもしれません。
2023年1月13日
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260号
土地売買における消費税の注意点
~予想外の税負担を減らすために~不動産を売買して譲渡益が生じる際に、譲渡益に対して所得税や法人税を納める必要があります。そのほか、消費税を納める課税事業者であれば、建物を売買した場合には消費税を納める必要があります。なお、土地の売買では消費税は非課税ですが、消費税の計算方法によっては、例年と比べて消費税の負担が増える場合もあります。そこで、今回は、土地売買における消費税の注意点について触れたいと思います。
1.消費税の計算方法(1)個別対応方式
消費税の納税額は、原則としては、預かった消費税から支払った消費税を控除して計算をします。控除する消費税額の計算は、原則、「個別対応方式」により行います。この方式は、支払った消費税を次の(ア)~(ウ)に区分した上で、控除する消費税額を次の算式で求めます。
控除する消費税額 = (ア) + (イ) × 課税売上割合
(ア)課税売上のみに対応する支払った消費税額
(イ)課税売上と非課税売上に共通して対応する支払った消費税額
(ウ)非課税売上のみに対応する支払った消費税額
この算式の意味するところは、消費税が課税となる収入を得るために支払った消費税(ア)はすべて控除できますが、土地売買のように消費税が非課税となる収入を得るために支払った消費税(ウ)は控除できません。また、課税と非課税の両者に共通する支払いに係る消費税(イ)は、次で説明する「課税売上割合」に応じて控除することになります。
(2)課税売上割合
課税売上割合は、次の算式で求めます。
課税売上割合 = 課税売上高(税抜き) ÷ 総売上高(税抜き)
課税売上割合とは、収入全体に占める消費税の課税対象となる収入の占める割合です。土地売買は消費税が非課税ですから、上記算式の総売上高には含まれますが、課税売上高には含まれません。そのため、土地売買があるときは、通常の場合に比べ課税売上割合が低くなり、その結果、控除できる消費税が減少することになります。
(3)一括比例配分方式
上 記(1)の個別対応方式に掲げた(ア)~(ウ)の区分をせず、支払った消費税額に上記(2)の課税売上割合を乗じて控除税額を計算する「一括比例配分方式」を採用することもできます(採用すると2年間の継続が必要)。
控除する消費税額 = 支払った消費税額 × 課税売上割合
この方法は、支払った消費税のすべてについて課税売上割合に応じた金額を控除するものですから、土地売買があると、控除税額が大幅に減少するリスクがあります。
2.その他の消費税の計算方法消費税の計算方法の原則は、前記1のとおりですが、他の方法として、中小企業者の納税事務負担に配慮した「簡易課税制度」もあります。この方式は、2年前の課税売上高が5,000万円以下であり、かつ、年度開始日の前日までに「簡易課税制度選択届」を提出する必要があります。詳細は省略しますが、この制度は、消費税のかかる課税売上高に一定の控除率を乗じて控除税額を計算しますから、土地売買のように消費税が非課税となる収入による影響はありません。
3.土地売買における注意点土地売買があると課税売上割合が下がるリスクがあることを前記1で説明しました。そのため、土地売買については、次の制度を適用することが認められています。
(1)たまたま土地売買があった場合
土地売買が単発であり、かつ、その土地売買がなかったとした場合には、事業実態の変動がないと認められる場合には、税務署長の承認を得ることにより、課税売上割合に代えて次の(2)に掲げる「課税売上割合に準ずる割合」により、消費税の控除税額を計算することができます。手続きとしては、土地売買をした年度の末日までに「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出して、同日の翌日以後1ヶ月を経過する日までにその承認を受ける必要があります。
(2)「課税売上割合に準ずる割合」とは
課税売上割合に準ずる割合とは、次の(A)又は(B)の割合のいずれか低い割合とされています。
(A) 土地の売買があった前3年度の通算課税売上割合
(B) 土地の売買があった前年度の課税売上割合
この制度の適用により、たまたま土地売買があり課税売上割合が減少しても、前年度以前の課税売上割合を用いて消費税の控除税額を計算できます。該当する場合は、是非活用したいところです。
4.最後に消費税を納める課税事業者で土地を売買する方は、まずは、どのような方法で消費税を計算しているか確認する必要があるでしょう。そのうえで、原則的な方法で計算している場合には、予想外に消費税の負担が増える可能性があるため税理士へ相談することをお勧めします。しかし、前記3の申請書は土地の売買のあった年度の末日までに税務署へ提出する必要があるため、年度末ギリギリで売買してそれから相談するのでは間に合わないかもしれません。これから土地の売買を予定している方でも、予定が分かった時点であらかじめ相談するようにしましょう。
2022年12月15日
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259号
土地の交換のお得な利用方法
~遺産分割時のちょっとした工夫で税額が安くなる!?~相続が発生し遺産分割協議を行う場合、なかなか決まらないのが土地の分割です。複数の土地があればその中で調整も可能ですが、1つや2つしかない場合、着地点が見つからないことがよくあります。今回は、2つの土地の分割を例にご自宅の小規模宅地等の80%評価減を有効的に適用しつつ、各相続人のその後の土地活用まで納得のいくプランをご紹介したいと思います。
1.相続発生時に遺産分割協議が揉める今回の相続事例は以下の通りです。
被相続人:父(母は他界しており一人暮らし)
相続人 :長男と長女(家なき子)の2人
<主な相続財産(相続税評価額)>
下記のA土地、B土地のほか金融資産等5,000万円A土地は利便性が大変良く、長男・長女のどちらも取得を希望しました。ご自宅の小規模宅地等の評価減(特定居住用宅地等80%減額)を最大限適用するには、家なき子である長女がA土地を取得する必要があります。しかし、長男もA土地に執着があり、遺産分割が揉めに揉めたので、土地が330平方メートルと広く半分に分けて165平方メートルずつ相続したらどうかという方向に落ち着くことになりました。
2.A土地を1/2ずつ相続する場合A土地を長男・長女で1/2ずつ取得した場合の土地の相続税評価額は下表の通りになります。
B土地も貸付事業用宅地等としての小規模宅地等の評価減適用要件を満たしていれば、最大で200平方メートルまで50%の減額が可能になります。今回のケースだと適用限度面積は100平方メートルと算定され、小規模宅地等の評価減は1,500万円になります。A土地とB土地との小規模宅地等の評価減は、合計で8,100万円になります。この評価減の金額に相続税の実効税率を30%と仮定した場合の相続税圧縮効果は2,430万円と試算されます。
3.家なき子を最大限適用して相続税額を圧縮する場合一方、家なき子である長女がA土地を100%相続した場合、どのように小規模宅地等の評価減の効果が変わるのか以下検討してみます。
小規模宅地等の評価減が最大限活用できるため、評価減の金額は先ほどのケースより5,100万円多くなります。相続税の実効税率を30%と仮定した場合の相続税圧縮効果は3,960万円と試算されます。
4.相続で取得後、相続人間で土地の交換を行う上記相続税圧縮効果額を比較すると、1,530万円の差が発生します。なんとか工夫は出来ないものかと考えたところ、相続では、家なき子である長女が一旦A土地を100%取得します。そして相続税申告期限を過ぎた後、長男が取得したB土地とA土地の1/2を交換することをご提案しました。交換を挟むことによって、最終的にはA土地を兄妹それぞれ活用が可能になり、相続税の圧縮も図ることが可能になります!A土地の1/2とB土地は、相続税評価額が8,250万円と同じのため、所得税等の交換の特例が適用でき、譲渡所得税等が発生しません!
5.交換した場合の税金等は?交換で土地を取得した場合、税金等はどのようなものがかかるのでしょうか。譲渡所得税等は、交換の特例適用要件に該当すれば、かかりません。しかし、不動産取得税と登録免許税がかかります。詳細は割愛しますが、約505万円と試算されます。それに司法書士等の報酬がかかります。
6.最終的にメリットはあるのか以上のように、交換時の税金等まで考慮するとこのプランの場合、約1,025万円(1,530万円-505万円)の税効果があります。
相続では小規模宅地等の評価減を最大限適用するために、長女が一旦A土地を100%取得した後、長男が取得したB土地との交換を行うことによって相続人それぞれ納得のいく土地活用が行えるというプランになります。
必ずしも土地の価額が近い物件ばかりではないかもしれませんが、交換の特例適用要件である土地の価額差が高い方の20%以内で収まる範囲内での交換の検討をされてみてはいかがでしょうか。被相続人の財産額や相続人の構成によって、税額メリットが必ずしも出るかどうかはわかりません。しかし、一度検討されてはいかがでしょうか。2022年11月15日
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258号
建物を買換資産とした場合の買換特例の税負担について
不動産の売却資金で別の不動産の購入や建築をする場合に、買換特例の適用を受けることを検討されている方もおられると思います。この特例は、売却時の譲渡税は軽減できますが、適用後の所得税負担が増加する場合があります。そこで、建物を買換資産として買換特例の適用を受ける場合の税負担について、事例を用いて説明したいと思います。
1.買換特例について個人の方が事業用の不動産を売却して、別の事業用の不動産を取得した場合に、一定の要件を満たすと事業用資産の買換特例の適用を受けることができます。
本来、売却により譲渡益が生じれば、その譲渡益に応じた譲渡税を負担することになります。しかし、この特例を適用すると、最大で譲渡益の80%が軽減でき、譲渡税は、本来の税額の20%相当額で済むことになります。
一方、この特例を適用すると、新たに取得した事業用資産の税務上の取得価額は、実際の購入金額ではなく、売却資産の帳簿価額を基礎として一定の調整を加えた金額となります。そのため、その買換資産を将来売却した際に、繰り延べられた譲渡益(80%)部分も含めて課税されることになります。すなわち、この特例は、課税の減免ではなく、課税の繰り延べに過ぎないのです。
それに加え、買換資産が賃貸建物等であれば、毎年、減価償却費として経費にできる金額が減少することで所得が増加し、所得税等の負担が増加する点に注意が必要です。
2.建物を買換資産とした場合の税負担の状況上記1の記載内容について、事例により検証します。なお、税率については、復興特別所得税分を省略しています。
(1)買換えの状況
簿価3,000万円の事業用の土地建物(所有期間10年超)を15,000万円で売却し、譲渡益が12,000万円生じました。また、売却代金(15,000万円)と同額の賃貸建物(買換資産)を購入したと仮定します。
(2)譲渡税(所得税と住民税の合計)
譲渡税は、譲渡益に長期譲渡の税率(20%)を乗じて算定します。買換特例を適用すると、譲渡益12,000万円の80%が繰り延べられ、税務上の譲渡益は2,400万円(20%相当)として譲渡税を計算します。以上のとおり、買換特例を適用すると、譲渡税は1,920万円(2,400万円-480万円)減少します。
(3)賃貸建物(買換資産)の減価償却費
賃貸建物は、鉄骨造(耐用年数38年、償却率0.027)とします。減価償却費は、取得価額に償却率を乗じて算定します。買換特例を適用すると、実際の購入金額ではなく、譲渡資産の簿価3,000万円の80%相当額に売却金額15,000万円の20%相当額を加えた5,400万円が税務上の取得価額とされます。以上のとおり、買換特例を適用すると、毎年の減価償却費が259.2万円(405万円-145.8万円)減少し、不動産所得の金額が、その分増加することになります。
3.譲渡税の減少と不動産所得に係る税額の増額長期譲渡に係る譲渡税の税率は、前記2(2)のとおり20%の固定税率です。一方、不動産所得など総合して課税される所得に適用される所得税と住民税の合計税率は15%~55%となり、高い部分の所得には高い税率が適用されます。そのため、不動産所得などに適用される所得税等の最高税率が、20%(譲渡税の税率)より高い方は、買換後、一定年数を経過すると、所得税等の増加額が譲渡税の減少額を上回る結果になります。そこで、譲渡税の減少額を上回るまでに要する年数について、所得税等の税率が33%(課税所得695~900万円)の場合と、50%(同1,800~4,000万円)の場合で検証すると、次表のとおり、前者は約22年、後者は約15年となります。
(注)①の増加所得…上記2(3)の減価償却費(経費)の減少額
④の1,920万円…上記2(2)の譲渡税の減少額なお、賃貸建物を耐用年数の38年間所有し続けていたとすると、所得税等の税率が33%の場合は3,250.52万円(85.54万円×38年)、50%の場合は4,924.8万円(129.6万円×38年)税負担が増加するため、譲渡税の減少額を大きく上回ることになります。
4.(参考)法人の場合法人の場合も、買換特例がありますが、法人税等の実効税率は最大で34%程です。所得税等の税率は最大で55%のため、個人の場合より、大きな税率差が生じることはありません。
5.終わりに建物を買換資産とした場合には、減価償却費の差額から増加する所得金額がわかりますので、安易に買換特例を適用するのではなく、ご自身の所得税等の税率を踏まえて、十分検討をしましょう。
2022年10月14日