不動産所得の申告に当たり、青色申告の承認を受けていれば、一定の要件を満たすことで青色申告特別控除を適用することができます。この特別控除は、他の要件を満たしていても、事業(事業的規模)であれば最高65万円、業務(事業的規模以外)であれば、10万円と区分されます。この事業的規模と事業的規模以外の区分を解説いたします。
1.不動産所得の事業的規模
不動産所得は、不動産等の貸付けによる所得です。不動産等の貸付けが事業として行われているかどうかは、原則として、社会通念上「事業」と称するに至る程度の規模か否かで判断するとされています。これでは具体的なイメージを掴み辛いので、形式的な判断指標として、所得税基本通達でいわゆる「5棟10室基準」を定め、以下のいずれかを満たす場合は基本的に事業的規模(事業)として不動産の貸付けが行われているものとして取り扱われています。
(1)独立した家屋の貸付けであれば、おおむね5棟以上であること
(2)貸間やアパート等、貸与することができる独立した室数がおおむね10室以上であること
この基準では、貸間やアパート2室を1棟に換算することとなりますので、例えばアパート6室、戸建て2棟は独立家屋5棟相当となり、事業的規模に該当します。
所得税基本通達に定められてはいませんが、
① 駐車場5台を部屋1室とする
② 貸地5カ所を部屋1室とする
という換算もできるようですので、組合せて5棟10室基準を満たせば、事業的規模になると考えられます。
共有の場合は、棟数や部屋数に持分を乗じる必要はありません。6棟を2名で共有している場合、3棟相当とはならず、2名とも5棟以上として事業的規模で貸付けを行っていると判断します。
2.5棟10室基準を満たさない場合
上記の形式基準を満たさないものの、賃料収入が比較的多額で、かつ、不動産管理に事務量を要するような場合は、個別の内容から判断することとなります。所得税基本通達では、個別判定の判断指標として、賃貸収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみて、5棟10室基準に準ずると認められる事情があれば、事業的規模(事業)として不動産の貸付けが行われているものとして取り扱われます。
この判断には、事業の性質として掲げられる
① 営利性、有償性
② 反復・継続性
③ 自己の危険と計算における事業遂行性
④ 精神的・肉体的労力の程度
⑤ 人的・物的設備の有無等
を要素として、それらを総合して事業該当性が判断されています。過去の裁決では、収入が多くても事業的規模と認められなかった事例や、不動産貸付に係る維持管理等の程度が相当低いとして、事業的規模と認められなかった事例があります。これらのことから、貸主が自ら役務提供を行う度合を重視して判断されていることが窺えます。
3.事業的規模と事業的規模以外の税務上の違い
不動産貸付けが事業的規模と事業的規模以外では、青色申告特別控除以外にも税務上の取扱いに違いが生じます。例として、
① 賃貸物件の取壊しや除却、滅失があったときに資産損失(除却損)として経費に算入できる金額
事業的規模…全額経費算入
それ以外…不動産所得の金額を限度として経費算入
(=資産損失による赤字を計上できない)
② 青色事業専従者給与又は事業専従者控除
事業的規模…適用有り
それ以外…適用なし
等があります。事業的規模以外の場合は、特に①賃貸物件の取壊しの際に注意が必要です。仮に、1月に賃貸を終了して取壊しを行うと、賃料収入が1か月分しかないため、取壊しによる資産損失が通算しきれず、その通算しきれない損失を切り捨てることになってしまいますので、より多くの収入と通算することができる年末の取壊しのほうがお得です。
なお、資産損失は、賃貸物件の取壊しを開始したタイミングで経費に算入することができます。これに対し、取壊し費用は工事が完了したタイミングで経費に算入します。年内で賃貸を終了し、取壊しを行う場合、取壊し工事が年をまたいでしまうと、その工事費部分は年内の経費に計上できなくなります。
4.違いに注意
不動産貸付けの規模により、青色申告特別控除以外の税務上の取扱いの違いにも気を配る必要があります。取壊し、建替え等のご予定があるときは、ご相談ください。