7月から12月は、相続税の調査の最盛期です。相続税の調査では、お亡くなりになった方の生前の生活状況やお金の管理方法などを聴かれます。回答する内容によっては予想外の問題が生じることがありますので、ご注意ください。今回は、事例を交えてご説明したいと思います。
1.相続税調査の流れ
一般的な相続税の調査は、税務署から事前連絡があり、日程調整をした上で行われます。通常の調査は、税務職員が自宅に2名でやって来て1日で終了します。はじめにお亡くなりになった方の生活状況や趣味、財産の管理方法など質問を受けます。その後、相続財産の保管場所の確認と預金通帳や登記簿など申告の基礎資料の確認が行われて終了となります。もちろん、税理士は調査に立ち合います。
調査結果は、概ね1~2カ月程度で説明があります。
2.事例:小規模宅地等の特例が適用できない?
長男は、母(享年92歳)の相続で自宅の敷地を相続しました。自宅は、二世帯住宅であり、一世帯分を増築した際に区分所有建物としましたが、建物内部で行き来ができ、1つの建物に2つの部屋があるという状況です。
長男は、調査官から母の自宅における生活状況を聴かれ、食事を共にしていたが、それ以外の時間は基本的に自分の部屋で過ごしていたなどと回答をしました。
数か月後、調査官から、小規模宅地等の特例は適用できないという説明がありました。
3.税務署の見解は?
税務署の見解は、以下の理由から、母が居住の用に供していた部分に長男は居住していないため、母の部屋に対応する宅地は特定居住用宅地等に該当しないから、小規模宅地等の特例は適用できないというものでした。
(1)自宅は、2つの部屋がそれぞれ専有部分として登記されている区分所有建物であり、それぞれ独立して生活を営むのに十分な設備と構造を有していること。
(2)長男は、調査時、母が長男家族と食事を共にしていたが、それ以外の時間は基本的に自分の部屋で過ごしていたと回答したこと。
(3)母と長男は、食事、水道光熱費等の生活費をそれぞれ負担していたことに加え、上記(2)のとおり、それぞれ独立して生活していたことから、生計を一にしていたとは認められないこと。
4.その後の対応と結末
長男に税務署の見解を伝えたところ、実は母が亡くなる10年程前から認知症を患っており、とても一人で生活できる状態ではなかった。調査官には、世間話として生活等を聞かれているのだろうと思い、母の認知症の話はしたくなかったため言葉足らずの回答になってしまったとのことでした。
そこで、当方は、長男に協力してもらい、認知症の診断書、要介護認定履歴などの証明資料を揃えた上で、調査官に対し、長男夫婦は母の生活の見守りや介助が日常生活の一部となっており、母と長男は二世帯住宅を合せて1つの家として利用していたことを書面で説明しました。
結果として、税務署から「更正決定等すべきと認められない旨の通知書」を受領することができ、修正申告する必要はありませんでした。
5.こんな質問もあります
小規模宅地等の話は、特殊な話でしたが、名義預金や名義株などの名義財産がないかという調査は少なくありません。名義預金とは、たとえば相続人名義の預金ですが、その預金のお金を出したのが被相続人であり、かつ被相続人が預金の管理をしていたものです。つまり、親が子の名義で貯めていた預金など、実質的な所有者が名義人ではなく、被相続人というものです。
名義預金の調査では、基本的に過去に被相続人から贈与を受けたお金や財産があるか質問を受けます。実際には贈与を受けたのに、受けていないと回答してしまうと、調査官から「毎年110万円ずつ入金されている相続人名義の預金は、贈与を受けたものではないから、名義預金ではないか」と疑われてしまうことになります。さらに、調査官の目には、名義預金の存在を知っていたのに、あえて税理士に伝えずに申告から除外したのならばと、重加算税が視野に入ってきます。
6.最後に
調査官に一度話をした内容であっても訂正することはできますが、訂正を認めてもらうことは簡単ではありません。相続税では、古い話を聞かれるため、記憶にないこともあると思います。曖昧な記憶であれば、曖昧な記憶ですがというように前置きをするなど無理に回答しなくても問題がありません。分かる範囲のことを回答すればよいのです。
また、調査官の指摘に対して、十分な反論ができないとそのまま修正申告となる可能性が高いです。予想外の問題が生じることのないように相続税の申告・調査対応は、信頼できる税理士に依頼することをお勧めします。