令和8年度の税制改正では、昨年に引き続き2年連続で所得税の基礎控除が見直されることになりました。物価上昇分を調整する、という考え方に基づいた改正ですので何も悪いことはありませんが、従前に比べるととても分かりづらい制度になったというのが率直な感想です。基礎控除を複雑で難解にしてしまった制度設計、個人的にはセンスを疑ってしまいます。
1. 税は簡素にすべきなのに
基礎控除の見直しは、令和6年12月に行われた自由民主党、公明党、国民民主党による三党合意の趣旨を踏まえた結果の税制改正です。政治的な背景も色濃いということは分かるのですが、もっと分かりやすい制度にはできなかったのでしょうか。そもそもですが、税の三原則はご存知でしょうか。税の制度設計は、本来は次の3つを基本方針として考える必要があります。
○公平の原則
負担能力に見合った税負担を求めます。経済力が同等の人には等しい負担を求め、経済力のある人にはより大きな負担を求めます。
○中立の原則
税制はできるだけ個人や企業の経済活動における選択を歪めないようにします。特定の行動について過度に有利・不利にならないようにします。
○簡素の原則
税制の仕組みをできるだけ簡素にして、理解しやすいものにします。
最近の税制改正を見ていると、簡素の原則がないがしろにされているような感じがします。税は簡素にという基本方針があるにもかかわらず、計算を複雑化して分かりづらくしていると思うのは私だけではないでしょう。
2. 基礎控除はこうなった
令和8年分以後の基礎控除は次のようになりました。

この表は、基礎控除の額をできるだけ分かりやすくした速算表的な位置付けとして考えるとよいでしょう。なぜなら、所得税の基礎控除は実は「本則部分」と「特例部分」の2本立てで形成されているからです。しかし、その内訳を細かく記載しても難しくなるだけであまり意味がありません。そこで実際に基礎控除として利用する合計額を表にしたのです。
また、この表には注意点があり、それは居住者の方だけが利用するものだということです。非居住者の方は「特例部分」の基礎控除が無いことから、基礎控除の額は異なり最大でも62万円です。(表のうち合計所得金額655万円以下の基礎控除の額は一律62万円になります。)
つまり、基礎控除は所得に応じて、さらに居住者か非居住者かにより変動するのが今の制度です。
そもそも基礎控除は最低生活費の保障の意味で定められたものです。財源調整のために所得の増加に応じて控除額を減少させるのは、趣旨に反するとともに簡素の原則にも反するものでしょう。
3. 次の見直しは令和10年
物価上昇に連動・対応する必要があるため、これからは2年ごとに基礎控除の「本則部分」を見直すことになりました。(「特例部分」もあわせて見直します。)つまり、次は令和10年です。先ほどの表には現時点における令和10年以後の基礎控除が記載されてはいますが、結局のところ変わる可能性が大きいということです。物価上昇分の手当てをしてくれるのは望ましいですが、そんなに頻繁に改正をしなくても問題がないような設計は考えられなかったのでしょうか。
4. 事務負担は増える一方
基礎控除だけではなく、給与所得控除の最低保障額についても同じような制度設計がなされています。したがって、給与所得控除も本則部分と特例部分の2本立てとなっており、2年ごとに見直しが行われます。源泉徴収にも影響するため、事務負担は増える一方です。
この点について国は、源泉徴収義務者等の事務負担に配慮するためとして、基礎控除等の改正は年の途中ではなく年末の12月1日から施行としましたが、だからといって事務負担自体が減るわけではありません。
そもそも、一昔前に比べると年末調整の事務量は増加しており相当大変になっているのが実情です。
財源の問題もしかり、高所得者層を狙い撃ちにするような増税施策などもあって、制度はますます複雑化しています。分かりづらく難解な制度を増やすばかりで、どこに向かっているのでしょうか。
