5390号
合理化という名の行政サービスの廃止
合理化という名目で、税務でも様々な手続きの効率化が図られてきています。最初の大きな流れとしては、河野太郎氏が行政改革担当大臣のときに導入した脱ハンコ制度から始まったのではないでしょうか。今年、そして来年と、立て続けに合理化を旗印に削られてしまうサービスがあるのをご存知ですか。
1. 納付書は送付しない
従前は様々な手続きで、不要と思えるようなハンコの押印が必要であったのは確かです。日本の今までの文化的背景や、実務慣行をあまり検討せずに早急に脱ハンコを導入したのには賛否両論ありそうですが、押印が無くなったことで便利になったのは事実です。このような合理化への流れの中、国税庁は社会全体の効率化と行政コスト抑制の観点という大義名分のもと、キャッシュレス納付の利用拡大に取り組んでいます。具体的には、キャッシュレス納付への移行を促進させるため、令和6年5月から次のような場合には納付書の送付を行わないことにしました。
※送付を行わない主なケース
● e‐Taxで申告書を提出している法人
● e‐Taxで予定納税額の通知を希望した個人
● 納付書を使用しないで納付している法人、個人
ちなみに、e‐Taxで申告しておらず納付書による納付をしている方には従前どおり送られてきます。(振替納税の方は届きません。)
2. 納税を管理するのは誰?
e‐Taxで申告をしていると納付書は届きません。電子申告している方なら分かるはず、問題無いでしょということです。しかしながら、納付書が送られてくることには、実際はもっと大事な側面があると思います。それは、物理的に納付書が手元に届くことで、税金の納付を忘れずに思い出す!という一種の歯止め的な意味合いがあったからです。特に、これからは法人税等の中間納付時に要注意です。中間納付では実務上は申告手続きを行わないことが多いため、納付書の存在をもって納税のことを思い出していたのではないでしょうか。納付書の送付という行政サービスが削られたので、今後はあくまでも自己管理が前提です。もしも納付が遅れれば、延滞税が生じることは言うまでもありません。
しかし実のところ、これによる影響が最もあり負担が増加するのは税理士事務所だと思います。個人の方や、多くの中小企業は税理士事務所に申告業務を依頼しています。そうすると、クライアントの納付管理は自ずと税理士事務所が行うことになるのが目に見えます。税務署は合理化という名の下で、税理士事務所へ納税のお知らせ業務の負担を押し付けたのです。
3. 納付書以外の納付方法
納付書を使用しない納付手続きとして、具体的には次のものが用意されています。
● 振替納税(申告所得税、個人の消費税)
● ダイレクト納付(e‐Taxによる口座振替)
● インターネットバンキングやATM等での納付(ペイジー)
● クレジットカード納付(1回あたり1000万円まで)
● コンビニ納付(30万円まで)
● スマホアプリ納付(30万円まで、PayPayなど)
様々な納付手段を用意しているようですが、法人が実際に使えるのはダイレクト納付かインターネットバンキングのいずれかでしょう。なぜなら、振替納税は個人ののみの方法であり、その他の方法は限度額があるため使い勝手が悪いからです。なお、ポイントを上手に貯めて活用できる方はクレジットカード納付も1つの選択肢になり得ます。
4. 収受日付印が無くなる
紙による申告書の提出を減らしたい意図からでしょう。デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進の一環として、来年の令和7年1月からは申告書や申請書などへの収受日付印の押なつが廃止されます。今までは紙の申告書の控えに税務署が収受日付印を押してくれたため、これが申告書を提出したことの事実として実務上は動いていた部分があります。この行政サービスも一切無くなります。e‐Taxを利用すれば申告内容とその事実がメール通知されますので、是非とも電子申告に移行して下さいという無言の圧力?に感じます。e‐Taxで申告をすれば、その後は納付書が送られてきません。税務署の手間が減るようにと上手に誘導がされています。
5. 国税から広める
政府が推進するDXのもと、財務省の外局である国税庁は率先して業務の効率化の見直しを進めます。思い返せば、マイナンバーの利用もまずは国税が義務化しました。申告書や源泉徴収票、支払調書などにマイナンバーの記載を求めたことを覚えていると思います。納税という全国民に関係することであるからこそ、政府は国税庁を上手く利用しているのでしょう。
2024年11月29日