令和6年3月1日に改正戸籍法が施行され、戸籍制度が利用しやすくなりました。相続手続きのときに必要になる戸籍も今までより取得しやすくなったと言われています。確かに間違いありませんが、相続実務を考えた場合に果たしてどこまで便利になったのでしょうか。
1.最寄りの役所窓口で取得できる
今までは、戸籍を取得するのであれば本籍地の役所に請求する必要がありました。これが戸籍法の改正によって、今年の3月からは本籍地以外の役所でも取得することができるようになっています。戸籍の広域公布制度と言い、戸籍の取得について便利になった点は次の2点です。
① どこの役所でも取得可能
本籍地が遠くにある方でも、最寄りの市区町村の窓口で請求・取得ができます。
② まとめて取得可能
取得したい戸籍の本籍地が全国各地にあったとしても、1か所の市区町村の窓口でまとめて
請求・取得ができます。
取得ができるのは、「戸籍と除籍の全部事項証明書(以下、戸籍証明書等)」です。したがって、戸籍の一部事項証明書、いわゆる抄本の取得はできません。
また、戸籍証明書等の請求は本人が窓口に出向く必要があり、郵送や代理人による請求はできないことになっています。そして、窓口では運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどの顔写真付きの身分証明書を提示する必要があります。
郵送では請求することが出来ないため、役所に行かなければならないのが不便な点でしょう。
2.自分以外のものも取得できる
戸籍証明書等は、本人のものを取得できるのは当然ですが、次の方の分も取得が可能です。
① 本人
② 夫または妻(配偶者)
③ 父母、祖父母など(直系尊属)
④ 子や孫など(直系卑属)
したがって、相続手続きで必要となる関係者分も同時に取得ができるというわけです。ただし、兄弟姉妹の戸籍証明書等は取得が出来ません。兄弟姉妹は必ずしも相続人になるわけでは無い立場だからなのでしょう。
3.本当に便利になった?
いままでの説明を聞くと、本籍地以外で戸籍の取得ができるようになったのでとても便利になったと思うはずです。法務省のパンフレットでも、「最寄りの窓口で戸籍が取得できるので相続登記もばっちり!」などとアピールしています。
しかし、よく考えてみましょう。相続のときに必要な戸籍としては、被相続人が生まれてから死亡するまでの全ての戸籍を集めなくてはなりません。そうすると、何十年も前の戸籍や除籍、改製原戸籍と言われるものを取得する必要があるのです。それのどこが問題なのか、ここでピンと気付かれた方は相当察しが良い方です。
改正戸籍法で取得ができるようになったのはあくまでも「戸籍証明書等」です。戸籍証明書等であって戸籍謄本や除籍謄本そのものではありません。つまり、コンピュータ化前の従前の戸籍、いわゆる紙作成の戸籍謄本等は含まれていません。全国の市区町村とデータ連携して行うサービスですので、コンピュータ化されていないものは相変わらず本籍地に請求するしかないのです。閉鎖された古い不動産登記簿をインターネット登記情報サービスで閲覧できないことと一緒です。
■ 広域公布制度で取得できるもの
コンピュータ化された戸籍証明書等
■ 広域公布制度で取得できないもの
コンピュータ化されていない一部の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍、戸籍の附票
相続のときに集めなければならない戸籍は、コンピュータ化されていないものもまだ多くあるのではないでしょうか。特に現在はシステムが不安定なため暫定運用中です。将来は全ての戸籍情報を最寄りの役所で取得できるようになるのでしょうが、もう少し先のことなのかもしれません。
4.今のところ便利な手続き
この改正戸籍法によって便利になるのは、今のところは現在の戸籍情報が必要な手続きと理解しておくのが良いでしょう。本籍地ではない役所窓口で行う婚姻届などは戸籍添付が不要になりました。今後は、児童扶養手当認定の手続やパスポートの申請にあたって戸籍証明書等の添付が省略される予定になっています。
5.税理士は職権で取得可能
相続のときに必要となる戸籍は、相変わらず全国各地の本籍地に郵送で請求をする可能性もある、これが当面の現実かもしれません。
税理士は相続税申告などに必要な場合には、職権で戸籍を取得することが可能です。相続手続きで戸籍の取得に困ったときや、煩わしいときなどは、相続税の申告依頼とあわせて是非ご相談ください。委任状無しで代理取得ができます。