事業用の土地建物等を売却して譲渡益が生じたときは、買換えの特例制度を適用することで譲渡益を繰延べることができます。この制度ですが、令和6年4月1日以後に譲渡をした方からは、あらかじめ届出書の提出が必要になるケースがあります。特例の適用を考えるのであればこれからは届出の有無がポイントです。
1. 事業用資産の買換え
事業の用に供している土地建物等を譲渡して、新たに事業用の土地建物等を取得(買換え)した場合には、事業用資産の買換え特例という制度が適用できます。この制度を適用すれば、譲渡益の60%~90%を将来へ繰り延べることができるため、その分の税負担が減少します。ちなみに、繰り延べ割合は80%になることが多いです。
譲渡資産と買換資産には組み合わせの要件があり、一昔前はいくつものパターンが用意されていました。しかし、最近は制度そのものが縮小傾向で現在は4つの組み合わせが残るだけです。このうち一般的に利用されるものは、10年超所有する国内の土地・建物・構築物を譲渡して、国内の土地(300㎡以上)・建物・構築物を取得する制度です。
2. その1 譲渡年の前年又は翌年の買換え
買換えですから、譲渡と取得という2つの取引きがあります。譲渡をしてから取得するのか、それとも先に取得してその後に譲渡するのか、様々な事情もあるでしょうから一定の期間内であればその順番に制限はありません。譲渡が先でなくてもいいのです。ただし、譲渡年と取得年が異なっている場合には買換えの特例を適用する予定なのか否か、税務署には分かりません。そこで、このような場合には特例適用に関する届出をしなくてはならないことになっています。
① 買換資産の取得が、譲渡の翌年の場合
⇒譲渡年の翌年3月15日までに届出
② 買換資産の取得が、譲渡の前年の場合
⇒取得年の翌年3月15日までに届出
つまり、譲渡年と取得年が異なるのであれば、譲渡か取得のいずれかの取引きをした年の翌年3月15日までに、特例適用を予定している旨の届出書を提出しておくのです。
3. その2 同一年内の買換え(新しい届出制度)
令和6年3月31日までは上記2の届出があるだけでした。なぜなら、譲渡年と取得年が同一年の場合には譲渡年の確定申告内容を見れば、特例適用の有無やその内容が分かるはずだからです。
これが、令和6年4月1日以後の譲渡で、かつ、買換資産の取得も同日以後の方からは、譲渡年と取得年が同一年であっても新たに届出が必要になったのです。
取得が前年や翌年の場合には届出が必要ですから、同一年のときもあらかじめの届出(報告)をさせて足並みを揃えようという意味もあるのでしょうが、意地悪く要件を増やしただけのように感じます。
この新たな届出の期限は次のようになっています。
譲渡の日(又は先行取得の日) | 届出の提出期限 |
---|---|
1月1日から3月31日まで | 5月末日 |
4月1日から6月30日まで | 8月末日 |
7月1日から9月30日まで | 11月末日 |
10月1日から12月31日まで | 翌年2月末日 |
すなわち、1年を四半期に分けてその間に譲渡又は取得があれば、これからは四半期経過後2カ月以内に届出書を提出しなくてはなりません。
例えば、事業用の土地建物等の譲渡をしたが、具体的な買換資産はまだ決まっておらず、事業用資産の買換えの特例を適用するかどうかも検討中の方がいたとしましょう。このような場合で、もしかすると良い物件があれば譲渡年に買換資産を取得する可能性が1%でもあるのであれば、とりあえずこの届出書だけは提出しておくのが良いでしょう。提出しておいて結局は特例を適用しなくてもそれはそれでOKです。提出をしておかなければ確定申告で特例の適用を選択することはそもそも出来ません。選択肢を広げておきたいのであれば、届出を忘れてはいけないのです。
4. 届出を忘れたら翌年取得?
もしも同一年の事業用資産の買換え特例に関する届出を忘れてしまったらどうなるのでしょう?確かにこの場合は、同一年の譲渡と取得による特例適用はできません。ただし、買換資産の取得が譲渡後を予定しているのであれば、取得を翌年に繰り越せばよいのです。買換資産の取得が翌年であれば、その届出期限は譲渡年の翌年3月15日までですから、確定申告期限まで大丈夫です。年内に買換資産の売買契約を締結していたとしても、引渡しが翌年であれば適用が可能になります。
5. 新届出は事業用資産の買換えだけ
買換え制度は他にもあります。自宅の場合の居住用の買換え、収用等の場合の代替資産の取得などです。ただしこれらの制度では上記3の改正がされておらず、買換えが同一年の場合の届出制度はありません。事業用資産の買換えだけが不運にも目を付けられたのです。