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COLUMN

TOPATO通信今更どうして税務署は拘る?貸家建付地の評価 5199号

ATO通信

5199号

2008年12月15日

阿藤 芳明

今更どうして税務署は拘る?貸家建付地の評価

1. “貸家建付地”の評価とは

 先ずは土地評価の基本的な話です。アパートや賃貸マンションを建てた場合、借家人にはいわゆる借家権と言う権利が生じます。それを踏まえて相続税ではその敷地の評価に当たり、貸家建付地と言って、次の算式のとおり更地より減額する工夫をしています。

  貸家建付地の評価額=更地評価額×Α
  Α:1-借地権割合×借家権割合

借家権割合は一律30%とされているため、例えば借地権割合が60%の東京近郊の住宅地のようなケースでは、更地の82%になる計算です。
 なお、建物についても貸家であれば、自用の場合の評価より借家権割合の30%が減額です。


2. 相続評価の原則は死亡時点の状況

 相続評価の原則は、相続開始時つまり死亡時点の状況によります。従ってその時点でアパートに空室があれば、借家人不在で借家権自体が存在しないため、それに対応する部分の土地は更地扱いです。例えば全室同面積の部屋が10室あり、その内1室が空室であれば、敷地の9/10は貸家建付地、1/10は更地の評価となるのです。しかし、何年も借家人がいたにも拘わらず、たまたま死亡時に空室になっていたら……。これが貸家建付地評価とならないと言うのも実態を反映せず、何だか運が悪かったようでスッキリしません。また、これは建物の30%減額にも影響をしてきます。


3. 賃貸が継続していれば…

 かつては税務署にも一時的に賃貸されていない事例について、見解が別れていました。つまり、一つは借家人がいない以上更地評価やむなしとする見解。もう一つは、そのアパートに一人でも借家人がいればその権利は敷地全体に及ぶとして総合的な判断、即ち貸家建付地として評価をしようと言う考え方です。
 そして平成11年の評価通達改正時に、上述の9/10と1/10に分けるような“賃貸割合”と言う考え方を基本に、一定の場合には一時的に空室の状態でも、全体を貸家建付地として評価する方向性が打ち出されたのです。
 その一定の場合とは、以下の点を総合的に判断するものとされています。
 ①各独立部分が課税時期(つまり死亡時)前に継続的に賃貸されてきたものかどうか②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか③空室の期間、他の用途に供されていないかどうか④空室の期間が、課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であるかどうか⑤課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか、等々です。一言で言えば、継続して賃貸の意思があり、実際にも募集活動を行っている事、と考えられるでしょう。


4.それでも執拗な税務署の追求

 当事務所でも相続税の申告に当たっては、上記の点を十分考慮し、事実の検証を行った上で結論を出しています。そして、その判断の結果貸家建付地として申告をしても、税務署は空室があるとなかなか貸家建付地と認めたがらないのです。近年その傾向が顕著で、相続税の税務調査では本当にしつこいくらい、この点を追求してきます。特に建物が老朽化し、なかなか新たな賃借人が見つからない場合は敵の出方も強行です。古い建物は現実問題として募集に相当な苦労が強いられてしまいます。ただ、現在は既に考え方については決着が付き、以前はそれ程問題にもしてこなかったのに、ここへ来て何故か追求は執拗です。筆者にもその原因は分かりません。


5.問題は空室だけではありません

 空室ではないのですが、こんなケースがありました。孫夫婦に他の賃借人の半額でアパートの部屋を賃貸していた事例です。その部屋については賃料が安いこともあり、所得税の申告はせず、いわばオーナーであるおばあちゃんの“お小遣い”。この状態で相続を迎えました。
 ここで問題は相続税の土地の評価です。賃料が半額でも使用貸借と言われるタダ同然ではない限り、貸家建付地として評価できるでしょう。但し、所得税の申告書との整合性が必要です。今からでも小遣い部分を申告し、所得税を修正しなければなりません。それが嫌であれば、相続税は更地の評価。要は相続税と所得税の損得勘定で判断することになるでしょう。
 因みに賃料が半額のため、差額分は祖母から孫への贈与として課税があるのでしょうか。これは冷静に考えれば答えは出てきます。オーナーが誰にいくらで部屋を貸そうとオーナーの勝手です。贈与税の課税対象にはなりませんのでご心配なく。 お好きな方にお望みの金額でお貸し下さい。

※執筆時点の法令に基づいております