お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
年度:
タイトル:
-
5171号
税務署の追及
どの税目に限らず、申告書を提出すれば後日税務署の調査はつきものです。調査で特に困るのは知らないことを質問された場合。所得税や法人税なら自分の意志で行ったこと、身に覚えはありますが、面倒なのが相続税です。『それは"親父"がやったこと、相続人の私には分かりません』の答弁は一体どこまで税務署に通じるのでしょうか。
1.税務署はどこまでしつこいか?不動産の売却でまとまった大きな金額が懐に入り、当然の事ながら税務署に申告します。ここまでは良いとして、10年後に売却したご本人の相続が起こり、相続税の調査がありました。
こんな時、税務署は決まって売却代金の行方を質問してきます。『10年前に土地を売却してますね、その時の3億円は何に使ったのですか?』
税務署には毎年相当数の申告書が提出されます。過年度の申告書をいつまでも内部に保管しておくスペースはありません。署によっても違いますが、保管年限は4~5年分が限度でしょう。それを過ぎると各署からのものをまとめて別の場所にある大倉庫に移管するのです。ただ、申告書自体を保管していなくても、データはいつまでも残ります。詳細は不明ながら、後日追及するための材料には事欠かない状況なのです。結論として、金額にもよるでしょうが、売却から10年程度はお金の行方の質問を覚悟しておく必要がありそうです。
2.相続人が知っていること、知らないこと相続事案で困るのは、被相続人が自分で総てのお金を管理していて、相続人には全く知らしめていない場合です。会社のお金や不動産関係の収入、支出は資料を整理していけば後からでも分かるでしょう。問題なのはプライベートの支出部分、筆者の経験では大半が女性関係に使われた場合です。
相続人も女性の存在自体は知っている場合は多いもの。ただ、配偶者である奥様が健在な場合、知られないように隠すケースが多いのは言うまでもありません。逆に奥様に先立たれている場合、相続人である子供達も女性の存在は周知の事実。入籍さえしなければ黙認した方が自分達も楽、というのがどうも世の常と言うもののようです。
3.税務署の追求さて、話は相続税の調査に戻ります。お客様にご了解を頂いた範囲で御紹介させて頂きます。
一つは事業家Aさんのお話です。Aさんは奥様を早くに亡くし、女性関係が盛んだったようです。大変に気前が良く、旅行に行っても最上級の部屋に泊まり、湯水の如くにお金を使ったそうな。そうでもしないと女性にはなかなかもてないのかも知れませんが、事実、相当額が複数の方々に渡っていたそうです。
一方、Bさんはいわゆる地主さんです。Bさんも奥様に先立たれたのは同じですが、それ以前からやはり特定の女性がいらしたようです。ここでの御紹介はBさんご自身ではなく、Bさんのお母様の相続税調査の話です。両事案とも相続の開始数年前に億単位の土地売却代金があったのですが、それがどんな形で残されているかが不明だったのです。前述の通り、上記のいずれの調査においてもお金の行方を追求されました。
税務署の狙いは相続人がそのお金を相続財産から除外して、隠している事の立証なのです。ですからお金の使途が、例えば借金の返済、賃貸マンションの建築資金等々はっきりしていれば問題はありません。法人税には使途不明金・使途秘匿金の課税があり一刀両断ですが、相続税はそれぞれの事情によりなかなか複雑です。
4.税務署の反面調査はどこまで行うか?Aさんの相続人達は困ってしまいました。お金が女性に渡っていることの推測はできますが、本当に何に使われたかは分からないからです。税務署にもその旨を説明し、女性の住所、氏名も明らかにしました。女性にお金が渡っているのが真実なら、Aさんからの贈与となり、贈与税の対象ともなり得ます。そうなってもそれはその女性の問題であり、Aさんの相続人達の責任ではありません。その旨をはっきり税務署にも主張したのです。
結論を申し上げると、こんなケースではほとんど反面調査は行われません。女性名義で不動産の登記でもなされていれば別ですが、どの時点でいくらが渡ったのか、特定ができないからです。結果、状況証拠だけでは課税ができず、相続人達の話や態度に信憑性があれば、金額が多くてもそれ以上の追求はなされないと思っていいでしょう。
一方、Bさんの場合はちょっと面倒です。被相続人であるお母様は何年も寝たきりで、ご本人が使った形跡はないのです。調査ではBさんは知らぬ存ぜぬを繰り返すばかり。こういう場合、税務署が何かを掴んでいれば税理士が呼び出され、解決を迫られます。実はBさん自身の女性関係を税務署に指摘され、その確認を依頼されたのです。銀行調査からBさんが女性のために勝手にお母様の預金を引き出していた事実を確認していたのです。完全にお手上げで、修正申告となりましたが、Bさんにとっては税金より女性の存在が子供達にバレた事が何よりの痛手になったようです。2006年8月31日
-
5170号
農業所得にも税務当局のメス!
黒字と赤字を相殺し、差し引き後の所得に課税をする。この極めて当たり前の事が、個人の所得税では年々通じなくなってきています。株式や不動産の売却損失(一定の居住用不動産を除く)は他の所得との通算はできません。せめて高齢の方のこんな所得にまで、メスを入れて欲しくない。そんな事例の御紹介です。
1.広がる損益通算不適用の包囲網サラリーマンが投資用にワンルームマンションを購入しました。勿論大半は銀行からの借入れです。初年度はこの利息の他に諸経費もかかり赤字決算、これを給与と通算ができれば税金還付で節税に成功です。が、ご存じの通り現在は土地取得に係る利息相当は損失が生じても通算ができません。建物の減価償却も定額法だけで、サラリーマンのささやかな夢は無惨にもうち砕かれてしまったのです。
それだけではありません。生活に通常必要でない資産の売却による損失、冒頭の土地・建物や株式の売却で生じた損失も他の所得との通算はできません。更に、ゴルフ会員権の売却損も現時点ではまだ通算できますが、いずれ規制の対象となるのは確実で、もはや風前の灯火です。
2.損益通算は当然の考え方同じ事を法人が行う場合はどうでしょう。例えば法人が投資目的のオフィスビルやマンションを売却した。福利厚生のためのリゾート施設を処分した。これらの売却により損失が生じた場合、本業の利益と通算することに、何の規制もありません。もっとも、レバレッジドリース等特殊なケースで部分的に経費化することに制限もありますが、個人に比べれば雲泥の差、相当に恵まれています。
そもそも所得税や法人税は利益が生じた場合、その利益に対して課税をしようとするものです。利益があれば、税金を負担する能力があると考えられているためです。従って、経費が収入より過大であったり、大きな損失が生じた場合、利益と相殺するのは極めて自然で、担税力から言っても当然の考え方なのです。
3.農業所得は通算が可能!さて、郊外にお住まいのお客様に91才で未だ元気に農業をお続けの方がいらっしゃいます。ただ、さすがに若い方と同じようにはいきません。ご自宅用の他、ご近所から頼まれる分程度の売上高しかありません。金額にして年間20数万円。これに対し経費は莫大です。何しろ郊外とは言え都心から1時間、生産緑地の指定は受けていないため、農地ではあっても固定資産税は宅地並の課税です。その農地だけで400万円は悠に超えてしまいます。
また、売上が上記のような状況のため、お金を払ってまで農作業に人手を頼むこともできません。やはり91才の奥様を青色事業専従者として雇用、お手伝いをお願いし給料をお支払いになっているのです。
その結果、農業所得は大幅な赤字なのですが、実はこのお客様、他に多額の不動産所得があるのです。農業所得というのは、税法上の正式な名称ではありません。本来は事業所得なのですが、便宜上申告書の上で農業を区分しているに過ぎません。つまり、他の所得との通算が可能なのです。これが本誌4月号記載の不動産所得のように、事業的規模でないことから雑所得に認定されたら大変です。損益通算ができなくなってしまいますが、農業所得については現時点では極めて大甘で、この点のお咎めはほとんどありません。
4.税務署の想定上記のような状況の下、このお客様に所得税の調査がありました。税務署の想定は容易に察しがつきます。
①ご本人、専従者である配偶者とも91才とご高齢であるため、事業の実態も専従の事実も無いこと②売上が極めて少額であるにもかかわらず、大幅な赤字を計上しているのは、損益通算を狙った節税策。固定資産税は実際に農地として活用している極く一部だけしか農業の経費となるものがないこと等々が彼らの想定なのです。
5.手入れが不十分だと農地が山林に!金額は些少であっても、売上は伝票に顧客名や農作物の品名の記載があり、農業従事の実態を税務署にも理解をして貰えました。しかし、農地の内の一部の地目が「山林」に変更となっていたのです。これは農業委員会の調査で、農地に雑草が生えており農地としての活用が充分でないためと判明。この部分の他、栗林として地目は農地にはなっていても栗の収穫がなく、その売上の計上がないことから、栗林の固定資産税の経費計上も認められないことになってしまいました。
勿論、固定資産税が経費として認められるためには必ずしも地目が農地である必要はありません。あくまで実態です。しかし、今回は実態をそのまま表していたわけで、反論の余地はありませんでした。結局、今回に限り何分にもご高齢であることから"指導"に留めていただきましたが、昨今の厳しい損益通算規制。農業所得が赤字のお客様、当局の格好の餌食になりませんようご注進です!2006年7月31日
-
5169号
同族会社株式の共有
相続での財産分けについては、"共有"状態、特に兄弟間の共有はなるべく回避すべきであることは、既に何度も繰り返しました。中でも同族会社の株式を兄弟で保有することは、最も面倒な状況を生み出します。この問題を先送りするとどうなるか、影響とその解決策を検証してみました。
1.問題の先送り兄弟で父親の事業を引継ぎ、活動をしている会社がありました。兄が社長で弟が専務です。この会社、時価が非常に高い都心に土地を保有し、そこに本社屋があったため、株価の評価もそれを反映して相当高額に。さて、全株式を父親が持っていましたが、その父親の相続です。会社の業況はあまり芳しくなく、兄弟は廃業も視野に入れていました。会社自体は残したまま、本社屋の場所にマンションの建築を計画したのです。ただ、その株式をどちらが相続するのか結論が出ず、父親個人の土地を含め総てをとりあえず共有。問題を先送りしてしまいました。
2.株式共有の問題点同じ共有でも同族会社の株式が面倒なのは何故でしょうか。土地の共有であれば、売却して金銭で分けることも可能です。しかし、上場会社と異なり、同族会社の株式は第三者に売却するわけにはいきません。会社の支配権に関わるからです。
M&Αのように、株式を処分して業務を継続しないのであれば第三者への売却も可能でしょう。しかし、事業の継続が前提であれば、株式の処分はできません。兄弟で事業に対する意見が分かれ、袂を分かとうとしても、簡単ではないのです。20%の譲渡税を覚悟しても、売買の相手方は兄弟に限定されてしまいます。売るに売れない、購入する側も株価が高く金額的に難しいと言う状況になってしまいます。
3.法人が土地を売却すると…さて、マンションの建築計画も、借入れによる建築、等価交換等色々と検討しましたが、満足できるものがありません。結局、土地の売却となったのですが、ここで土地を売却すれば約50%の法人税等を覚悟しなければならないのです。もっとも、実質的には廃業を前提のため、従業員の退職金や繰越し欠損金の活用、不良在庫の処分等である程度は税負担の軽減も考えられます。また、そもそもこれを機に兄弟間の株式の共有を解消したい狙いもあるのです。何か他に抜本的な対策や工夫はできないものでしょうか?
4.会社分割という手もありますが…共有を解消するには、兄弟それぞれ自分が代表権のある会社を持ち、別々に活動をすればよいのです。その手法として、会社分割と言って一つの会社を複数の会社に分割する手法もあります。詳述は致しませんが、一定の要件を満たせば法人税等の課税もありません。但し、この課税を避けるためには、複数の会社の株主構成は分割前と同じでないといけません。つまり、兄の会社も弟の会社もそれぞれが現在と同じ共有状態と言うことなのです。そして、それぞれの会社の持ち分を、兄弟の将来の相続時に兄の持ち分は弟の子へ、弟の持ち分は兄の子へ無償で譲り渡します。これにより、最後は兄一家、弟一家がそれぞれの会社の株式を独占できる形態になるのです。この無償での譲り渡しは死因贈与か遺贈と言う形式を取りますが、相続税の対象となりますので注意が必要です。
それにしても、この方法では何年先になるか分からない、兄弟それぞれの相続の時まで共有の状態を解消できず、またまた問題の先送りになってしまいます。
5.法人か個人か?結局のところ、兄弟いずれかが自分の持ち分を相手方に売却するより他に方法はありません。今回土地を売却するに当たっては、前述のように会社は残すものの実質的には廃業を前提です。会社の財産をカラに近い状態にすれば、株価自体も土地の売却前より低くなるでしょう。退職金という経費を利用して土地の売却益と相殺する予定ですが、従業員の他、役員である兄弟二人ともに退職金を支給させる方が有利です。そのためには、会社を引き継ぐ兄弟いずれかの配偶者や子を新役員に就任させることも必要です。株式の売却代金や退職金の額を含め、兄弟の最終的な取り分がほぼ同額になるようにするとすれば、円満に解決ができるでしょう。
この手の会社の株式については、親族間での売買はその価格は自ずと税務上の制約を受けることになります。今回は会社保有の土地売却に絡めて共有を解消するため、何とか資金面の都合もつきますが、株価が高額な場合には、購入資金の点で解消ができないことも多いのです。経営は分散できません。同族会社の株式は、"一人に集中"が鉄則です。2006年6月30日
-
5168号
不動産所得がなくなる日
個人の所得の中で、土地や建物を貸して得られるのが、ご存じの不動産所得です。実は、この不動産所得が所得税からなくなるかも知れません。税制調査会が昨年、個人所得税に関する論点整理と題して、その廃止を提言しているのです。
1.現行の不動産所得の取り扱い不動産所得と一口に言っても、その取り扱いは大きく二つに分けられています。事業的規模かそれ以外かという区分です。何をもって事業的規模かというと、①貸付資産の規模 ②賃貸収入の状況 ③貸付物件の管理状況等個々の事情を総合勘案して判定することになっています。そうは言っても実際の判定は難しいため、実務的には形式的な5棟10室基準が適用されることが多いのです。これは独立家屋なら5棟、アパート等の貸室なら10室以上が事業的規模であるというもので、物件ごとではなく所有資産全体での判定です。
2.事業的規模なら事業所得と同じ扱い不動産所得が事業的規模である場合、実質的には事業所得と同じ取り扱いになります。
事業所得というのは、文字通り小売業、製造業等の個人での営業活動によって得られる所得を言います。不動産所得でも、事業的規模であれば、正に事業そのものであるという考え方なのです。
さて、事業所得であれば、損益通算と言って、損失が生じた場合に他の所得との通算ができ、課税される所得が減少する結果となります。さらに、青色申告である場合には、同居の家族従業員に対して給与を支払うこともできるのです。所得税では原則として、同居の家族へ給与を支払っても、それを経費とすることができない反面、もらった側も収入とは見なされないことになっています。
それが青色であれば、支払った給与は経費となり、もらった側は給与所得として課税の対象となるわけです。つまり、不動産所得を廃止しても、事業的規模を事業所得として扱えば、現行と全く変わりはないという考え方なのです。
3.事業的規模でないなら雑所得一方、事業的規模以外の不動産所得は事業とは言えない小規模なもの、と言うわけで雑所得の範疇です。雑所得となると損失が生じても他の所得との通算、つまり、損益通算はできません。さらに青色申告をしたくても、雑所得にはそれが認められていないのです。従って、同居の家族従業員への給与を支払っても、必要経費として認めてもらえない事に。
結局、事業的規模でない場合には、損益通算が適用できない不利が生じることになってしまうのです。そもそも論として、その昔は不動産所得なるものは事業等所得に統合されていた経緯がありました。現時点では不動産所得に、既にその存在価値がないため、従前の形態に戻すというのが今回の議論の発端のようなのです。
4.会社法の出現も影響?平成18年5月から従前の商法に変わり、新たに会社法が施行されています。大きな特徴の一つとして、有限会社が姿を消し、株式会社に統合されることがあげられます。
我が国の圧倒的多数を占める小規模な同族会社においては、オーナー一族での支配を確保するため、株式の第三者への移転、流出を防ぐ方策がなされています。具体的には、定款で株式の譲渡を制限しているのです。このような会社においては、今後の新法では取締役は1名だけの会社が可能で、しかも監査役も不要です。しかも、今後は株式会社の設立も運営も非常に簡便になるため、個人からの相当数の法人成りが予想されています。
また、前述の不動産所得において、損益通算ができなくなる等の不利な状況を回避するため、個人でなく法人を設立しての運営を検討する方も増えてくることでしょう。会社法の出現はその勢いに拍車をかけること必至です。
5.法人か個人か?それでは、今後の不動産所得について、無条件に法人化が加速していくのでしょうか? 3月号のえ~っと通信でも既にご紹介のとおり、本年の税制改正の目玉として、一定の法人役員の給与所得控除相当額が経費化できない措置が施行予定です。これは、左記4の会社法の影響による法人乱造による節税防止をも考慮してのことと想像されます。
法人設立による税務上のメリットは確かに色々とあるものの、法人か個人かの選択はそれ程単純ではありません。ただ、不動産の売却損を他の所得と通算ができないことに続く今回の不動産所得の規制の動きです。所得税の締め付けがこれ以上増大すると、個人から法人へのシフトは止めようがないのかも知れません。2006年5月31日
-
5167号
”時効”を考える!
確定申告も終わり、この時期はホッと一息と言ったところでしょうか。提出した申告書に、もし間違いや洩れがあったらと、ご心配の向きもあるかも知れません。ただ、うっかりであれ故意であれ、税法にも"時効"があります。ということで、今回は税務署が時の経過により水に流してくれる日はいつなのか、を考えてみました。
1.税法の規定では提出した申告書に誤りがあり、税金が少な過ぎる場合、自らの意思で修正をするのなら特に期限はありません。しかし、税務署の理論で課税をする場合には法定の期限があり、それが時効です。
申告済みの内容を変更するのが「更正」で、申告がなされていない場合に課税する手続きが「決定」です。更正は申告期限から3年、決定は5年が原則。その意味では、すねに傷ある方々も申告さえしていれば3年経てば枕を高くして寝られます。但し、税額が減少する場合にはその期限は5年と長く、納税者有利に配慮がなされているのです。が、甘いのはここまでで、不正をはたらく輩には7年がその期限。逆に言えば、どんなに悪質な脱税をした場合でも、7年過ぎれば晴れて自由の身、これが税法の規定です。
2.税務署に昔の話をされた場合には実は時効を今回のテーマに選んだのには、一つのきっかけがあったのです。税務調査と言えば調査なのかも知れませんが、昨年の暮れ、個人の不動産所得についてのお尋ねがあったのです。聞けば、何と3年前の平成14年分の経費に疑義があり、修正申告を提出しろというのです。調査と言っても現地に足も運ばず、資料の提出だけで申告の是正をせまってきたのです。しかも過年分だけの修正です。何を今更と思いながら確認すると、以外な事実に突き当たりました。14年分よりも15,16の両年の方が本当は問題があったのです。しかし、税務署のご指摘は14年だけで肝心の年分にはお咎めなし。何やかやと折衝する内に2月に入り、確定申告時期も間近です。こうなれば、あとは時間稼ぎ。3月15日が来れば、3年経過で時効成立です。この時期、税務署も確定申告で忙しく、修正申告に応ずるなら別として、更正などする暇などないはずなのです。本稿をお読みいただく頃には祝杯をあげていること必至です。
3.贈与にも時効はあるのか?あるお客様からこんなご質問を頂きました。親から子へ多額の金銭の貸付けがあったのです。親御さんに万一のことがあった場合には、子への貸付金として相続財産の一つとなってしまいます。それに、そもそも返済するのが非常に困難な状況だったのです。そのためか、この貸付を無しにしたいと言うご相談なのです。無しにすれば、その時点で贈与ですが、以下はその時の会話です。
『貸付の返済を免除すると言う書面を作成するだけで、お金の動きがない場合、税務署はどうやって贈与の事実が分かるのですか?』
『その時は分かりませんが、貸付金の存在は既に税務署に報告済みです。相続税の申告書に貸付金が計上されていなければ、相続財産が洩れていると言うことになります。』
『でも、その時は免除のこの書面を見せて納得して貰います。』
『税務署はそんな紙切れだけでは信用してくれません。亡くなった後からだって作成できるのですから。』
『公証人役場で確定日付を取っておくか、それとも内容証明郵便で送付したら日付は信用して貰えますよね!』
『……』
『先生、贈与税にも時効ってあるんですよね?』
『……』税理士としては、とてもお勧めできる方法ではありませんし、それ以上の関与をするつもりもありません。ただ、免除した年の申告期限から7年で時効が成立することだけは確かです。
4.縦割り行政の弊害こんな事もありました。御父君が亡くなられ配偶者である奥様とお子さんが相続をしました。数年後、奥様の土地が収用にかかり、その資金で子の多額の相続税の延納分を完済したのです。更に10年を経て今度は奥様の相続。相続税の調査の過程で収用代金の使途が問われました。子の相続税の納税原資は収用代金、つまり子から見て母親のお金です。子のために立て替えたのか、贈与なのかが問題となったのです。贈与であれば既に時効は完成、税務署もなかなか贈与の事実を認めませんでしたが、最後はご了解を頂きました。
税務署も多額の納税が一括納付された時点で資金の出所を確認すれば良かったのです。それは管理課の仕事、相続・贈与税は資産税課の仕事。縦割り行政が生んだ贈与税の取りこぼしです。
過ぎ去ったことは7年を待たずに早く忘れる、私の個人的な時効は1日です。2006年4月28日
-
5166号
変わる”とりあえず物納”戦略
本年の税制改正で大きく変わる項目の一つに、物納制度があります。物納は申請から許可・却下までかなりの時間がかかるため、納税の時間稼ぎに利用することができました。当社では”とりあえず物納”と呼び、真意はともかくとして、物納の申請手続きだけはお勧めしてきました。今回の改正で、その戦略が大きく変わることに!
1.従来の物納制度の簡便性従来の物納は、とにかく時間がかかるものでした。申請から結果が出るまで相当早いもので1年程度。5~10年要するものも珍しくはなかったのです。それを大幅にスピードアップしようと言うのが今回の改正で、それは結構なことなのですが、一つ落とし穴が。
従来、物納申請に際して、その期限までに必要な書類は最低限のものとして、『物納申請書』だけでした。勿論、その後に様々な書類を整備する必要はあるのですが、とりあえずは物納申請書があれば、不足分は後日ゆっくり。だからとりあえず申請だけをしておいて、後で本当に物納を進めるかどうかを考えれば良かったのです。今後は例えば土地を物納する場合、申請時に実測に基づく境界確認書等が必要です。底地であれば借地人との借地境も確定しておく必要があるでしょう。これらの準備にはある程度の時間が必要で、直ぐにできるものではありません。ただ、事前の準備が原則ではありますが、例外的に最長1年の期間延長が可能です。但し、できなければ物納申請を取り下げたことにされてしまいます。
2.税務署の処理も迅速化納税をする側に事前の準備を要求する一方で、税務署も処理を迅速に進めなければなりません。先ずは、物納財産としてその適否の基準を明確化し、不適格なものについては直ちに却下。その見返りに、20日以内に一度に限って物納の再申請を認めるようです。そして一応は不適格とならなかった財産についても、3ケ月以内に許可・却下の結論を下すことに。例外規定もありますが、それでも最長9ケ月以内に回答をし、この回答がない場合は物納を許可したものとみなすとのこと。つまり、どんなに長くても9ケ月で物納申請の結論は出る訳で、当局も迅速化は本気でやるようです。
3.延納から物納への切り替えも可能!さて、従来は物納を却下されてしまうと、それまでの間は原則14.6%の延滞税の対象です。そのため、却下されそうな場合には、事前に物納を取り下げて延納に切り替え、2%前後の利子税になる準備をしていたのです。それが今後は却下された場合、それから20日以内なら延納の申請ができ、事前の準備は不用になりました。更に、当初は物納ではなく、延納としていた場合であっても、申告期限から10年以内なら物納に変更することも可能です。従来は当初に延納を選択した場合、物納への変更はできなかったのです。
また、物納を選択した場合、今までは許可までに何年かかっても金利の負担はなかったのですが、これからは当局の審査事務の期間を除き、延納同様の金利が必要になります。
4.これからの物納・延納戦略は?ここまで物納制度が変わってくると、当然ですが従来の”とりあえず物納”などとのんびりしたことは言っていられません。物納をするのであれば、最低限、測量や境界確認の準備は必須です。測量費用はバカになりませんが、貸地であれば不動産所得の経費にもなるため、とにかく場所を含め明確な事前の意思決定が必要です。
一方でそれらが準備できなかった場合、”とりあえず延納”の戦略が有効でしょう。従来は延納から物納への切り替えは不可能でした。それが今後は可能なのです。物納は事前準備が大変なため、それができなかった場合には、先ずは延納で時間を稼ぎ、ゆっくり物納の要件を満たす準備をしたところで物納への切り替えです。
延納は最長20年の分割払いというものの、元本均等払いです。元利均等とは異なり、返済の開始当初はその負担は非常に重いのです。ですから延納で1~2年は支払いができても、これを何年も続けることは困難で、物納への変更の理由として説得力のあることが多いのです。
上記の改正は本年4月1日以降の相続について適用される予定です。亡くなる日を決めるのはあなたではなく神様です。あなたにできること、それは今日からの事前準備だけなのです。2006年3月31日
-
5165号
簡単に現金は戻さないのが税務署流
税務署に申告書を提出した後、その申告に何らかの誤りがあり、税金の納め過ぎが判明したとします。そんな場合、一定の手続きを経て税金は還付されますが、必ずしも現金で返ってくるとは限りません。
"目には目を"が税務署の鉄則だからです。
1.税金の取り戻し方税金の納め過ぎが解った場合、法律に基づく取り戻しの方法は『更正の請求』です。一般的なものは、その申告期限から1年以内とされています。それに対し超法規的なものとして、『嘆願書』という制度があります。これは読んで字のごとく、税務署に対してお願いをするわけで、駄目で元々、認められれば儲けものという代物です。
いずれにしても、申告期限から5年を過ぎてしまうと救いようがありません。税務署長の権限が法律的に及ばなくなってしまうからです。
2.典型的な"広大地"以前にも本誌で御紹介しましたが、典型的なものとして、相続税の広大地の評価があげられます。
面積の広大な土地については、道路や公園等の提供による潰れ地割合を計算し、実際に有効な宅地の面積に基づく評価をしようとするものです。これを活用して申告するのは、実務的には結構専門的な知識が必要で、適用していない場合も多いのです。
先般も相続税の申告の見直しを依頼され、他の税理士の方の作成した申告書を再チェックしたのです。あら探しのようで気持ちはよくないものの、お客様にとっては重大事。場合によっては億単位で税金が戻ってくるのです。案の定、広大地の評価を適用していませんでした。現在は通達の改正で簡便な算式になっていますが、平成16年以前の相続は面倒でした。前述の有効宅地を専門家による図面を作成して税務署を説得する必要があったのです。
3.還付は決まったが、物納を申請!とにもかくにも、面倒な図面を添付し評価の正当性を税務署に主張したのです。この手の業務はうまくいくこともいかないこともあるため、成功報酬方式で受注です。結論から言うと、私共の主張が通り、数千万円が戻ってくることに。と、ここまではよかったのですが、問題が一つあったのです。それは、このお客様が物納申請をしていたことなのです。税金の還付と物納申請とどんな関係があるのでしょう。例えば物納を200申請していたとします。この状況で150の税金の還付が認められても、150は現金では返ってこないのです。物納申請200の内、150が認められたことになり、物納による納税が残額50と言う計算なのです。
つまり、分割ができる土地を前提に考えれば、200坪の内150坪相当は現金ではなく土地で返ってくる理屈です。が、実はここまでは想定していませんでした。
4.成功報酬の支払い原資は?お客様にとって納税の負担が減るという意味では同じでも、私共にお支払い頂く成功報酬の原資がないのです。報酬を土地で頂くのもできればご遠慮させて頂きたいもの。そもそも、物納の方が売却より有利であったため、土地の物納申請をしていたのです。つまり、その土地を売却しても物納の収納額にはならないのです。それでも換金化は必要ですし、年の瀬にかけ、売却できるまで私共へのお支払いも頂けないのかと心配で心配で…。主張は認められたものの、「目出度さも中くらゐ也おらが春」の心境でした。
幸いにも最終結論が出る直前に物納が許可になり、上記の心配は杞憂に終わったのですが、正しく間一髪。冷や汗ものでした。
5.滞納がある場合も同じ理屈です必ずしも現金が戻らないのは上記のような場合だけではありません。滞納がある場合には、何かの理由で税金が減額されても、結局は滞納税額に充当されるため、実際の現金は戻ってこないのです。ある人が平成15年分の所得税に滞納があった場合、16年分に還付額があればそれに充当されるのは納得がいくところ。しかし、同じ本人に相続税の還付があっても、税目の違いは関係なし。やっぱり15年分の所得税に充当されてしまうのです。そう簡単に現金は戻してくれないのが税務署と覚えておきましょう。
2006年2月28日
-
5164号
評価額アップ直前の贈与
~広大地評価で更なる引き下げも~今は価格が安くても、近い将来確実に値上がりが期待できる土地があったとします。その値上がり直前に親から子に贈与したら、低い価額で移転が出来て相続対策に。さらにそれを子が転売したら、儲けは総て子のものに!こんなおいしい話が果たして可能なのでしょうか。落とし穴と適用に当たっての工夫を探ってみました。
1.突然、価値が増大する局面での贈与本誌(第5136号)でもこのテーマを取り上げました。次のような一節を御紹介します。
『ある日降って湧いたように地上げ、隣地買収等の申し出が。何と相当に高額な買い取り価格を提示されたとします。今までは二束三文の土地、高く買って貰えるとは嬉しい限りです。ここで相続対策を兼ねて一計を案じます。売却前に子に贈与したらどうでしょう?今なら土地の評価額も知れたもの。贈与税も大した負担にならずに済み、それを子が売ればお金は子に。が、小心者の私、こんな疑問がフツフツと湧いてきます。高く売却できると分かっていながら直前に贈与。贈与税の価格は直前の低い価額ではなく、高額な買い取り価額と税務署は言うのではないか?第三者が買いたいと言った価額が、正しくその時点での時価になるのではないか?それが善良な市民、見上げた納税者と言うものです。』
2.道路の拡幅で評価が大幅アップ似たような話が道路の開通、拡幅なのです。今まで道路のなかった場所に道路が開通、あるいは拡幅によって状況が一変した場合です。土地の評価額は大幅にアップすることが見込まれるのです。
結論から先に申し上げれば、この激変の直前に贈与しても、あくまでその時点での相続税評価額で問題ないでしょう。たとえ売却すれば高価格が見込まれる場合でも、それは実際に売却して初めてその価格が実現するもの。贈与税の評価額は相続税と同様で、評価の安全性の観点から価格に余裕を見ています。従って、通常は実際の売買価格より低めの設定にはなっているのです。いずれにせよ、売買時の取引価額での贈与税の課税はありません。但し、当初から贈与前に買い取りが保証されていたり、贈与時に契約が進行中であったりすれば、それはやはり無理があるでしょう。買い取られる金額で贈与があったと言われても反論は出来ません。
3.広大地評価で更なる引き下げも…さて、相続や贈与の評価で有利になるものの代表格は、何と言っても広大地でしょう。前述の贈与に際し、広大地評価の適用があれば、それこそ贈与後1~2年して売却した場合との差額は相当なもの。但し、この評価の適用できる場所は限定されてしまいます。容積率が300%以上の場所では原則として適用がないからです。 東京の場合で言えば、場所にもよりますが、概ね環状8号線の内側では難しいのではないでしょうか。都心では地価が高いこともあり、土地の高度利用が推進されている場所が多いからです。
4.容積率も一つではない!ここまでお読み戴いて、『ナンダ、結局、基本的に都内では広大地を適用するのは難しいんだ。』と諦めてしまうのは、あまりにも早計です。
確かに都市計画法、建築基準法等という法律で、それぞれの場所に応じて建築できる建物の種類や規模は定められています。前述の容積率も図面を見れば地域ごとに原則的な容積率が色分けで明示されてもいます。
この容積率を指定容積率と言いますが、実際に建物を建てる場合には、この容積率の基準だけをクリアーすればいい訳ではありません。門外漢の筆者が詳述はできませんが、基準容積率と言われる容積率が建築基準法に規定されています。前面道路の幅員や建物の高さ制限、日影規制等々建築基準法における他の規定や条例等によっても様々な制約を受けることになるのです。
つまり、広大地評価の適用の有無に当たっては、表面的な容積率だけで判断せず、実際に建築図面に落とし込み、現実の容積率で判断する事が必要になるのです。指定容積率が300%以上だからと言って直ぐに諦める必要はありません。ただ、これらの作業や判断は税務上の問題ではあっても、税理士だけに任せるわけにはいきません。様々な分野のプロと連携できる事務所でなくては問題は解決しないのです。それではどこの事務所がいいのでしょう?筆者でさえ、謙虚さも恥じらいも持ち合わせています。そこまでは言わせないで下さい。2006年1月31日
-
5163号
『税務署が時々行う再チェック』
~財産を買換えた場合の引継価額~税務署が従来はそれ程気にしていなかった事柄でも、何らかの理由から重点的に調べ直す事があります。納税者側の誤りが多く発見されるような場合です。所得税について、今年はそれの一つに事業用資産の買換え特例等を適用した場合の引継価額があります。要は減価償却費の計算の再チェック。意外に誤りが多いのです。
1.不動産を売却したら賃貸マンションを売却したら、言うまでもなく、譲渡税の対象です。利益が出れば、次の算式で売却益を計算することになるでしょう。
売却額-(取得費+譲渡経費)=譲渡益
問題は取得費、平たく言えば原価です。1,000万円で買った土地Aが1億円で売却できれば差引き9,000万円が利益。その1億円で土地Bを買った場合、普通は1億円がBの原価となるわけです。
2.事業用資産の買換え特例を適用すると…ところが事業用資産の買換えで特例を適用すると、話はちょっとややこしいことに。土地Bの原価は1億円にはならないのです。計算過程は省略しますが2,800万円にしかなりません。そのまま土地Bを持ち続けるなら問題は特にありませんが、再度Bを1億円で売却すると、今度は原価が2,800万円のため、7,200万円が課税の対象です。
3.建物の場合は問題が直ぐに顕在化上記は土地の例でしたが、これが建物の場合、売却をしなくても直ぐに税金の影響が生じてきます。何故なら、建物は土地と異なり毎年減価償却をするからです。土地Bではなく建物Bにした場合の減価償却の基になる金額は2,800万円、実際の建築価額が1億円でも、です。つまり、毎年の経費となる減価償却費が少ない分、利益が多く算出されることになってしまいます。
あるお客様から賃貸マンション売却についての申告のご依頼を受けました。税理士の立場では新規のお客様の場合、確認が必要です。上述の買換えの特例の適用を受けていれば、建物Bのような計算になるからです。ただ、通常は建物Bの減価償却費の計算を間違えて1億円で計算しても、税務署も気がつくことが多いのです。売却を扱う資産税部門から不動産所得等を扱う所得税部門に連絡が行くシステムになっているからです。
なお、マンションには減価償却をしない土地部分もあるため、税理士は特例適用の有無について、細心の注意が必要です。この辺の確認を疎かにすると、後日、税理士の損害賠償責任を問われることにも。土地の価格は決算書を見ても記載がされていないからです。
4.事実が不明のまま申告したら…お客様にお聞きしても資料が残っていなければ、昔の事は解らないことが多いもの。まして、税法上の特例の有無など、解るくらいなら税理士には頼みません。という訳で、建物価額の推定から特例の適用がないものとして申告をしました。
ところが、申告後に所得税の調査です。ここで我々が知らなかった驚愕の事実が明らかに。何と買換え特例の適用を受けておられたのです。つまり、減価償却の計算が10年近く間違ったまま放置されていた事が判明。前述の例で言えば、本来2,800万円で計算するものを1億円でやっていたため、長期に渡り相当額の得をしていた事に。売却しなければ税務署も気づかなかったのに、譲渡の申告が引き金になってしまったようです。
5.売却がなくても再チェック!そうかと思えばこんな例もありました。平成4年に事業用の土地を一部売却し、先程来の特例の適用を受けて、建物に買換えをなさったお客様です。所得税の申告を今年から当社でお手伝いさせて頂きました。別に売却をしたわけではないので、減価償却費の計算は前年を踏襲です。このお客様は買換え直後にも調査を受けており、特段の指摘は無かったとのこと。
さて、この度所得税の調査を受けることになりました。前年分以前のことは我々には解りませんが、調査が始まって開口一番、平成4年の買換え時の処理が間違っている可能性があると言うのです。何を今更と思いましたが、建築当時の資料を見せろと言われても、現時点では残っていません。それに、買換え直後に一度調査を受け、その処理についてもお墨付きのはずなのです。それを何故10年以上も経ってから調査なのかと思っていたら、どうやら税務署も従来その確認をあまりしてこなかったようで、ここへ来て一斉に再チェック、と言うのが事の真相のようです。
当方としてはその資料が無く、今の時点で立証できなくても責任はないはず。当時だったら立証できたのです。仮に税務署が職権で更正しても、勿論徹底抗戦のつもりです。当時の調査の不備を今更なんて…。税務署も思い出したように、時々こんな事をしてくれるので、やはり調査の時期は税務署から目が離せません。2005年12月26日
-
5162号
ゴルフ練習場の借地権
相続税をにらんで、万全な対策をしているつもりのお客様がいました。でもお話をうかがっている内に???同族法人に借地権があるか無いかをめぐって誤解があったのです。この問題、実は結構複雑で税理士も間違いやすい項目のため、今回は確認の意味も含めて再検討してみましょう。
1.底地と借地権の評価上の関係まずは、相続税法における底地と借地権の評価上の関係について確認をしておきます。原則としては、底地と借地権を合計して100になると考えます。つまり借地権割合が70なら底地は30、60なら40と言う具合です。初めに借地権ありきですが、このお客様、地主さんの立場から、他人ではなく同族法人を利用して借地権部分を移転させ、ご自身の土地は評価の低い底地にしようと工夫をなさったのです。
2.借地権に係る権利金の認定課税個人の土地を利用して、法人でゴルフ練習場を経営なさっておられました。法人が個人の土地上に建物を建てる場合、都会なら法人は権利金の支払いが必要です。同族間の特殊関係を利用して支払いを免除されれば、ただで貰ったものとされ、権利金相当額の受贈益の課税(権利金の認定課税と言う。)をされてしまうのです。それを避ける方法はあるのですが、この会社、実は15億円もの多額の赤字を工夫をして創出しており、これを利用しました。つまり、権利金を支払わず、借地権を無償で個人から贈与して貰い、本来課税されるはずの金額を15億円の赤字の範囲で相殺したのです。
3.税法により異なる『借地権』の性格こうしてこの法人、決算書にも借地権が堂々と計上され、お客様も相当額の相続税対策ができたと満足しておられたのです。
さて、確かに法人の決算書には借地権が載ってはいるものの、これだけで本当に個人の土地は評価額の低い底地になるのでしょうか。実は、一口に借地権と言っても、税法によりその性格が異なるのです。相続税法での借地権は民法上の考え方と同じです。つまり、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権を言います。これに対し法人税ではもっと範囲が広く、単に地上権または土地の賃借権を言うため、かならずしも建物の所有を目的とする必要はないのです。
4.ゴルフ練習場の借地権ここで考えるべきはゴルフ練習場という場所の性格です。土地上にクラブハウスの建物は確かに存在します。しかし、土地の大半には建物が建っているわけではなく、人工芝で覆われ高いフェンスに囲まれているのです。もう一度確認します。法人税では建物の存否は問わず、単なる地上権または土地の賃借権のことを借地権と考えているのです。従って、ゴルフ練習場には法人税法上の借地権は存在します。しかし、だからと言って、相続税法で言う借地権があることにはならないのです。逆に相続税では建物の存在が前提となっています。確かにその土地上に部分的にクラブハウスはありますが、土地全体で考えた場合、芝生部分が主でクラブハウスは従の関係です。そのためクラブハウスの敷地部分を含め、相続税法上の借地権は存在しないことになってしまいます。つまり、土地の評価はご期待通りの底地にはならないのです。
5."目が点"になってしまったお客様の対応策上記をご説明したところ、初めは信じていただけませんでした。何しろン十年かけてやってきた相続税対策です。ゴルフ練習場の経営も苦しい中で、借地権のために今まで継続して頑張ってきたのです。この話を聞いて、一気に経営継続のお気持ちが萎えてしまったようです。
しかし、物事は考え方一つです。相続を待って評価で得をしようと思うから期待通りにならないのです。法人税法上の借地権は有るのですから、今の時点で練習場を廃業し、土地を売却したらどうでしょう。配分の仕方はあるにせよ、土地価額の大半を占める借地権部分は法人のもの。経営不振のおかげで累積赤字はそこそこあり、売却益との通算も可能です。余剰があれば、税負担の少ない退職金だって考えられます。個人は底地部分に20%の課税ですが、事業用資産の買替えで、マンションの1室でもお買いになり、賃貸なされば税負担は1/5に軽減です。
対応策は色々考えられますが、現時点で借地権の存在しないことが解ったことだけでも儲けものと考えましょう。
事はゴルフ練習場だけではありません。テニスコートやバッティングセンター、一定の自動車教習場等々、借地権はもう一度見直した方がよいかもしれません。2005年11月30日
-
5161号
『相当の地代』の復活はあるのか?
「相当の地代」という言葉をご存じでしょうか?
かつて土地が右肩上がりで値上がりした時代に、法人に個人の土地の借地権部分を自然に移してしまう目的の節税策によく使われた高額の地代です。一世を風靡したこの対策もバブルが弾けてお蔵入りと思いきや、子がすでに土地を持っている場合や、二次相続対策にもこんな手法で生かせるのです。
1.かつての節税策とは…例えば個人の土地上に法人が建物を建てる場合、よほどの田舎でもない限り、税務上は権利金の支払いが前提とされています。したがって、同族関係者間等でその支払いを免除すれば、免除されたことに対し受贈益が課税され(権利金等の認定課税という)、過酷な税負担となってしまいます。それを避ける手法の一つとして「相当の地代」方式があります。路線価等で算出した土地の更地価格の6%相当額を年間の地代とすることにより、上記の認定課税を見合わせるとするものです。当初の高額な6%もの地代を固定することで、右肩上がりの地価が次第にその負担を軽減し、ついには法人に借地権が移行するという優れものだったのです。つまり、負担が重いのは建物を建築し借地権を設定した当初だけで、地価の値上がりにより初期設定の6%は無視できる程度になっていたのです。
2.誰が 6%の地代を払えるか?さて、地価が下落または横ばいの今の時代に6%もの地代を誰が支払うでしょう。6%ずつ支払えば、10数年で土地が買える計算です。例えば、父の相続後にその財産が母と子に移転していれば、近い将来の母親の二次相続に活用ができるのです。
子の土地に母親がアパートを建設し、その際の地代を相当の地代で支払うのです。建物の建築により、母親の相続時には建物の相続税法上の評価額が建築価格より低いという、いわゆる評価差額を利用した節税はありますが、そんなケチな事がテーマではありません。親子間で地代の支払いがなくても、税務上は法人の場合のように認定課税はありませんが、ここは敢えて母から子へ、高額な地代を支払うことにするのです。
3.同一生計の親子間での地代の取り扱い母と子が同一生計の場合、親子間で地代を支払っても、支払った母親は必要経費にならず、また受け取った子も収入にはならないのです。実は、子の課税対象となる収入にならないというところがこの話の核心です。必要もないのに母親は子に高額な相当の地代を支払いながら、それは子の収入にはなっていません。つまり、結局は贈与税の課税がないまま合法的にお金が母から子へ移転できるという仕組みになっているのです。
ただし、そもそも必要でもない高額な地代を支払えば、それが贈与税の対象なのではないかという心配があるかも知れません。確かにこの6%の相当の地代は法人の認定課税の可否をめぐっての議論です。一般相場より高いことは紛れもない事実で、無条件には容認されない可能性もあり得る話。実務的には6%を若干下回る程度にしておいた方が無難かも知れません。
4.税務上、生計が別かどうかが判断の鍵さて、うまい話には注意しなければならない点もありますので、確認をしておきます。その1、親子でも生計が別なら前述のような取り扱いはありません。つまり、母親の子への地代の支払いは経費となり、子は受け取った地代が収入として課税の対象になるということです。なお、税法上、生計が別か否かは、必ずしも物理的な同居かどうかということではありません。経済的にお財布が一緒なら、別居であっても税務的には生計は一。逆に、それぞれに収入がありお財布が別なら同居であっても生計が別ということもあり得ます。
5."事業的規模"でなければならないか?注意その2、母親がアパートを経営する場合、所得の種類としては不動産所得になります。実はこの不動産所得、ちょっと曲者でその賃貸業が事業的規模で行われているかどうかで扱いが異なるのです。この判定は、'5棟10室基準'がとりあえずの指針で、戸建てなら5棟、アパートなら10室以上が事業的と言う扱いです。しかし、これも家賃や貸付形態、契約条件等を総合的に勘案して判断する事になっており、一律の規定ではありません。
今回の手法は特に事業的規模か否かを問われることはありませんので、その意味では安心です。結局、生計一が必須の条件。
孝行息子の筆者も、母親との同居作戦でこの手法を活用したいところですが、残念ながら母はすでに他界。ただ、よーく考えてみたら、節税の元になる賃貸用の土地を持っていませんでした。2005年10月31日
-
5160号
秘密証書遺言の活用法
若貴問題は相続放棄という、意外な結末で幕を閉じました。典型的な争族に発展し、だから遺言を用意しておきましょう、と筆者も準備をしておいたのですが…さて、遺言については、本誌でも何度か取り上げてきましたが、今回は、別の角度から、特に秘密証書遺言にスポットを当ててみました。
1.公正証書遺言は確かに安全ですが…ATOでも遺言書作成のお手伝いは数多く手がけてきました。その大半は公正証書遺言です。法的な安全性や後々のトラブル回避のためには、これに勝るものはないからです。ただ、公正証書遺言を作成したときのお客様のご不満で最大のもの、それは公証人の手数料。不動産については固定資産税の評価額を元に算出することになっています。評価証明を提出するため、ごまかすこともできません。それに、相続税の評価なら借地人のいる底地の場合、借地権割合を控除した額になるため更地に比べれば割安です。が、公証人の手数料は総て更地価額で計算されるため、地主さんにとって割高に。ちょっとした地主さんで40~50万円は覚悟した方がよさそうです。また、預金の額も多ければ多いほど、手数料にはね返ります。しかし、ここは一工夫。預金の具体的な金額を明示せず、銀行名や口座番号だけで財産を特定させればよいのです。さすがに残高証明までの提出は求められないので、聞かれたら、全部で100万円程度とでも答えておきましょう。
2.公正証書遺言は公証人が本人意志を確認先般も遺言書の作成をご依頼頂いたのですが、このお客様にはちょっと問題がありました。普段は意志の疎通も可能なのですが、ご高齢であることもあり、長時間の緊張が続きません。細かなことが面倒になってしまい、会話が続かないのです。公正証書遺言を作成する場合、公証人は事前に準備した遺言を遺言者の前で読み上げます。そして、最後にこれで間違いないかを遺言者に確認し、署名、実印の押印となっていくのです。財産が多い場合、遺言を読み上げるだけでも結構時間がかかります。この一連の作業をこなせるかどうか、そこが問題だったのです。その遺言が本人の意思であることは、公証人にとっては最大の確認のポイントです。家族であれば解ることが、他人である公証人に理解できない場合、公正証書にすることはできなくなってしまいます。
3.秘密証書遺言ならこんな時は秘密証書遺言でこの難局を乗り切るより方法がありません。秘密証書遺言とは、事前に作成した遺言書に署名、押印の上封印します。それを証人とともに公証人に提出し、自分の遺言であることを申し述べるのですが、内容については一切触れる必要はないのです。公証人はそれが遺言であることと日付を封筒に記載し、遺言者、証人及び公証人全員で署名、押印をすれば出来上がりです。
また、自筆証書遺言のように、総てを自筆で作成する必要もありません。自署の署名さえあれば、遺言の本文はワープロで作成してもよいのです。遺言書に押したものと同じ印で封印する事が必要ですが、決して難しい問題ではないでしょう。極めて簡単にできてしまうためか、公証人の手数料は僅か11,000円。費用は格段に節約ができます。
4.秘密証書遺言の問題点実は、簡単にできてしまうからこそ、問題がない訳ではないのです。公証人が確認したことは、封筒の中身が遺言者によれば、遺言であると言っても遺言であると言っていること及び日付だけです。遺言者の真実の意志かどうかは保証の限りではなく、後日、内容については問題になることが無いとは言い切れないのです。その意味では、単なる"確定日付"と似ていると考えてもいいでしょう。
また、その遺言書の保管も問題です。公正証書の場合には、原本は公証人役場に保管されています。たとえ控え2通が両方ともなくなっても心配はありません。一方、秘密証書に控えはないのです。信頼できる人間に保管を託し、実際に相続が起きた場合には、必ず遺言書があることを明示して貰いましょう。ただ、家庭裁判所で検認という手続きをして開封する作業が必要になってきます。
いずれにせよ、公正証書の方が望ましいことは確かです。ただ、公証人による確認作業が困難な今回のようなケースでは、何の遺言も作らないよりはるかに安心です。若貴兄弟のような確執が無い場合であっても、です。2005年9月30日