お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5098号
株式評価の通達改正 大会社にしてこそ効果あり
未上場のいわゆる一般中小企業の株価評価について、次頁の改正がなされました。
日頃、面倒な税務の話を少しでも解り易くと心がけてはおりますが、今回ばかりはご勘弁下さい。解り難いことを解り難くお話します。
1.株式の評価方法上場株式についての株価の評価は簡単です。毎日の新聞を見れば一目瞭然。未上場株式については、原則的には①純資産価額方式②類似業種比準価額方式の二つがあります。
簡単に言えば、①は財産額から借金を差引いた残額で評価し、②は評価しようとする会社の一株当たりの利益、配当、純資産(類似の3要素と言う)を同業の上場企業と比較して求めようとするものです。①においては、昔から保有する土地が低い価額(当時の取得価額)で帳簿に計上されていても、株価計算に際しては現在の高い価額(時価)が反映されてしまいます。②の方法ではそのような含み益が株価に反映する事がないため、一般論としては①より②の方が評価上低く、有利だとされているのです。
2.改正内容とその影響改正点の明細については次頁をご覧下さい。一つは、上記②について類似の3要素を従来は3等分していたものを、利益重視(利益を3/5)としています。
また、②を適用するに当たり、会社の区分も変更しています。評価方法を決めるに当たっては、会社を大中小の3区分としています。その上で大会社は②で、小会社は①で、中会社は両者の折衷方式で評価します。上述の通り一般論として②を選択したくても、大会社にするにはそれなりの条件が必要なのです。中でも恣意的に操作できない条件が従業員数ですが、若干緩和されました。
さて、②を適用し易くした今回の改正ですが、利益重視のため、利益を出し過ぎると増税になってしまうので注意が必要です。
3.土地を法人に移したら今回の改正を機に、個人所有の土地を法人に移行し、個人の財産としては株式(出資持分)を所有することにしたらどうなるでしょう?法人への移行方法は、売却か贈与(寄付)しかありません。贈与というわけにもいかないので売却すれば(現物出資も同じ)、その時点で26%の譲渡税の課税です。それを覚悟の上で仮に時価100億円、路線価80億円の土地を法人に移行した場合、株価評価と相続税を試算してみました。理論的なうるさいことを言うと、土地保有特定会社の問題、土地の3年以内取得の問題、相続税の適用税率等々あります。が、ここは大胆に無視して試算の結果、会社規模が中の小と仮定して、個人で土地を持っていた場合より税額として約23億円節税が可能です。ただ、一方で法人への土地移行時の譲渡税額が約25億円のため、節税額とほぼ見合い。
何のことはない、実質的な効果はあまりないことに。少なくとも今回の改正が奏功したとは言い難い状況です。
4.大会社にしてこそ効果有り100%類似が適用できれば状況は一変します。大会社になれば良いのです。
しかし、次頁をご覧頂くとお解りの通り、従業員が少数の場合、あとは売り上げを伸ばす以外方法がありません。仮にめでたく大会社になったとして、前述と同じ節税の計算をしてみると、今度は35億円(土地で80億が株式で29.4億)程確実に相続税は軽減できる事となります。但し、登記費用、取得税等の負担もあります。
結論から言えば、土地を個人保有から法人保有へ移行して相続税を節税しようとすれば、大手術が必要だと言うことができるのです。これは地主さんだけの問題ではありません。いわゆる事業承継対策として、中小企業の株価を引き下げる場合も全く同じです。
大会社にすればよいのだと分かってはいても、実はそれが非常に難しいのです。かつては資本金が1億以上であれば直ちに大会社になれたのです。が、今は次頁の通り不動産賃貸業なら①従業員数が100人以上②総資産価額(帳簿価額による)が10億円以上で従業員数が50人超③直前期の取引金額が20億円以上の3つの場合です。
この区分、数年前から現行の形になっているのですが、その権威も地に落ちた大蔵省とは言え流石。節税は非常に難しいのです。超優秀なエリートのお考えだけあり、我々から見ても芸術的と言えるほど見事なもの。まだまだ侮れません。
内容が専門的なため、文中の数字の算出根拠を割愛しております。興味のある方はお問い合わせ下さい。資料を差し上げます。
非上場株式の評価方法の変更
〔1〕中・小会社の区分基準を見直し(1)総資産価額基準の見直し
〔2〕類似業種比準価額の計算式を改訂
〔3〕“2要素ゼロでも”類似業種比準方式を適用可類似業種 ・・・1株当たりの純資産価額(相続比準価額 ×0.25 +税評価額によって計算した金額)× (1-0.25)
今までは、「1株当たりの配当金額」、「1株当たりの利益金額」、「1株当たりの純資産価額(簿価ベース)」のうち、いずれか2つが3期(純資産価額は2期)連続ゼロのいわゆる“2要素ゼロ”の会社の株式については、純資産価額方式で評価することとされていました。
しかし、今回の改正により、“2要素ゼロ”の会社の株式についても、純資産価額方式だけでなく、納税者の選択により類似業種比準方式が適用できることとされました。(改正評価通189,189-2)。ただし、Lの割合は0.25とされます。
なお、3要素がゼロの会社については、従来通り純資産価額方式のみの適用となります。2000年7月28日
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5097号
立場によって地代も色々です
土地を借りたら地代を払う、これ、当たり前の話ではあります。問題はいくら払えば適正なのか、税務上どのような問題があるのか、簡単なようで結構複雑です。
1.親子なら、ただでもOK!親の土地に子が家を建てました。さて地代は?よく頂くご質問ですが、ただで結構です。お支払いになるのは勝手ですが、地代を払わなくても贈与税の課税はありません。親の土地を子が無料で使用するなど、考えてみれば至って自然な話。税法もそこまでうるさいことは言わないのです。但し、贈与税の課税が無い代わり、子に借地権は生じません。つまり、相続税法上は親の土地は更地扱いの評価になってしまいます。
2.法人が絡むと途端に面倒です法人が地主でも、逆に借地人でも、法人が関係者になると、事はいささか面倒です。税務上、法人は利益を追求するための組織、純経済人と位置づけられています。従って、本来支払うべき、又は受け取るべき地代を支払わなかったり、受け取らなかったりする場合には、課税関係が生じます。基本的に法人にボランティアは認められません。損をしてはならず、得をすれば課税です。ご自分の会社だからと言って、ただで土地を貸すわけにはいかないのです。
詳しいお話はしませんが、借地権に係る権利金の認定課税と言って、地代以上に面倒な事に発展してしまいます。法人が絡む場合はゆめゆめ注意をお忘れなく。
3.底地物納で国が地主になった場合借地人のいる土地、つまり底地は財産の内でも使い勝手の悪いもの。相続時には物納財産の最右翼です。 物納財産を収納する国としても、底地は管理も簡便で収納し易いのですが、問題となるのは地代の金額です。実際の収納実務を担当する財務局には底地の収納に際し、基準となる地代の規定が設けられています。基準貸付料や近隣地代相場の70%が一応の目安とか。この基準貸付料は路線価に基づいて算出され、住宅地では1.3%、非住宅地では1.85%と言われています。
地代が安過ぎる場合、引き上げを要求されますが、それができないために物納却下の事態にも。この手のケース、結構多いのです。将来、底地を物納にとお考えの場合には、適正水準まで地代を引き上げておくことが必須条件。仏心でいつまでも安い地代は禁物です。
4.国が借地人になった場合の変貌!さて、問題は立場が逆転し、物納で国が借地人になった場合です。彼らは信じられないことをおっしゃるのです。まず、国が借地人になるとはどう言う場合なのでしょうか?借地権は物納ができません。しかし、相続財産が総て借地権だけである場合、物納を認めないわけにはいかないのが実状。以前、“ATO通信”でもご紹介しましたが、このような場合には建物を物納し、借地権込みの価額で引き取って頂くのです。非常に希なケースですが、結論から言えば借地権もその意味では物納が可能です。 ただ、国側は相当これを嫌がりました。最大の理由は建物が古かったため、空室になると地代は払う、室料は取れない、で困ると言うものです。様々な理屈を付けて物納を拒否しようとしましたが、こちらも借地権しか財産が無いので必死です。一度は物納を認めると言っておきながら、最後にこんな切り札を出してきたのです。『地代が高過ぎるからもっと安くするよう地主に交渉して下さい』と。この条件が整えば物納を認めるというのです。一体、どこに地代の引き下げに応じる地主など存在するでしょうか?真実法外な地代を払っているのならともかく、これは国のイジメです。底地を収納する時、地代が安過ぎるから値上げをしろと言っておきながら、自分が地代を払う場合には、値下げしろとは、開いた口が塞がりませんでした。でも、これって実話なのです。最後はこれを撤回させましたが、大蔵省ってこんな事まで言うのが実態。あれからです。筆者が人間不信、いや、税務署不信になったのは。
2000年6月28日
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5095号
個人の株式譲渡益課税はどうなる?
筆者は一度約束したことを変更するのは、性格上大嫌いです。とは言っても変更やむ無しは世の常で、妥当性の問題でしょうか?
株式の源泉分離課税廃止延期の話です。
1.現状の課税方法上場株式の売却益については、現行2通りの課税方法があります。一つは申告分離課税と言われるもの。1年間の株式の売却損益を通算し、その売却益に対し26%(所得税、住民税合計)の特別税率で、他の所得とは通算せず、別計算です。 もう一つは源泉分離課税で、損得に関係なく一律売却額の1.05%の課税で完結です。 これらは取引の都度その方法を選択できるため、儲けた時は源泉分離、損した時は申告分離で節税をはかる方が多いようです。
2.源泉分離は風前の灯火さて、この源泉分離、実は平成13年3月いっぱいで廃止の予定です。が、ここへ来て期限を延長しようと言う声があり、大蔵省を困らせています。源泉分離を認める替わりに課税していた有価証券取引税を既に廃止しており、延長には絶対反対の構えなのです。 選挙が近くなればこの手の人気取り(廃止延期)が出てくるのは毎度のこと。ただ、源泉分離の廃止問題は、有取税の税率軽減や廃止に至る経緯とも深く絡む問題で、本来法律論でとっくに解決済みのはず。第三者的には何を今更、の感は否めません。
3.期限延長派の論拠源泉分離の廃止を反対する人の税務上の論拠は二つです。一つは何と言っても儲かった時の税金が安いから。もう一つは、相続等元々の取得価額が不明で、処分した時に税金がかかり過ぎると言うものです。この手の取得価額が不明な株式については、税務上売却価格の5%相当額は認められています。逆に言えば差引きの95%の利益に対し26%もの税金を覚悟しなければならず、容易には賛成できないのかもしれません。
4.クロス売買取引による価額付替えさて、取得価額を上記の5%でなく、もっと現在の時価に近いものにできる方法があります。一般にクロス取引と言われているもので、売った同じ銘柄の株式を直ぐに買い戻す方法です。この方法によれば売却時に勿論課税がなされます。しかし、今ならまだ1.05%の源泉分離課税が使えます。この税金さえ覚悟すれば、直後に同じ銘柄を買い戻し、実質的には取得価額が現在の時価まで引き上げられるのです。
5.クロス売買取引の是非このクロス売買、実質的な保有状況は何も変わらないのに税務署は認めてくれるのでしょうか? 結論だけを言えば、市場を通して正規のルートで売買すれば何の問題もありません。日本証券業協会からの照会に対し、時間内の売買であれば同日でもOKである旨、当局は文書で回答をしております。
6.税務の方向現実問題として、申告分離課税一本になれば、総ての株式売買が税務署の知るところ。それが心配という方もいらっしゃるようです。ただ、全体的な方向は総合課税化と、もう一つ、納税者総背番号制で、いずれ総ての取引は白日の下に晒される運命です。税務調査もコンピューターの活用で様々な取引資料を背番号で入力し、申告内容と合致しない物を自動的に出力する時代が来るのでしょう。
そう言えば、筆者が10数年前まだ税務調査を担当していた頃は、ゴミ箱を漁っては原始資料なる脱税の証拠となるメモ書きを探しました。ラブホテルでシーツの納入業者を反面調査し、使用枚数を確認もしました。時代は確実に変化しております。
2000年4月26日