お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5159号
相続税申告書の色々な提出方法
相続税の申告は、相続人全員がその内容を確認し、一つの申告書を連名で提出するのが一般的です。しかし、ことは"争族"の申告です。いつも皆で仲良く一つの申告書、とばかりはいかないのが実状のようで、ときには相続人の数だけ申告書が提出されることも…
1.分割協議が整わない場合ご存知のとおり、相続税の申告書の提出期限は、原則的には亡くなってから10ケ月。遺言がなければ、相続人全員による分割協議によって、財産の分け方を決めなければなりません。ただ、この期間に相続人の話し合いが着かなくても、申告期限は待ってはくれません。そんな場合には、法定相続割合でいわば仮の申告、納税をし、分割協議がまとまってからやり直しをすることになります。このケースでは、とにもかくにも体裁としては、一つの申告書で提出ができる場合が多いでしょう。
しかし、事態がもっと深刻で、話し合い自体ができない場合もあります。一部の相続人に財産を明示せず、敵対関係が露骨な場合です。こうなると、そもそも相続財産の全容も見えません。
こんな時は、それぞれの相続人が暫定数値でいい加減な申告をするより他に方法はありません。こんなやり方で税務署に対し、通用するかどうかは別問題です。と言うより、税務署の格好のえじき。調査に着手さえすれば、彼らの手柄である"増差"は約束されたも同然だからです。こちらから、どうか相続税の調査に来て下さいと言っているようなものなのです。
2.遺言書がある場合それに対し、遺言がある場合、基本的には簡単です。遺言にすべての財産の分け方が指示されていれば、分割協議は必要ないからです。その指示に従って財産を相続し、それに基づく申告書を作成すれば事は足りるのです。財産分けによる醜い争いを避ける唯一の方法が、遺言であると言われる所以(ゆえん)です。
ただし、遺言にもいくつか問題があります。具体的な分割方法が明示されていなかったり、一部の財産についてだけしか指示がない場合です。これではせっかく遺言があってもすべては解決できず、不十分な部分については分割協議を行わなければなりません。
なお、そもそもの遺言の効力や効果に疑義がある場合には、遺言その物をめぐっての争いになってしまいます。その場合には、、基本的には分割協議が整わない、未分割の状況と同様です。相続人ごとに、とりあえず仮の申告をし、後日調整をするより他に方法はありません。
3.遺留分の侵害がある場合の申告方法?問題が複雑なのは、その遺言書に遺留分の侵害がある場合です。遺留分とは遺言によっても侵されることのない、相続人として最低限の相続ができる権利のことをいいます。配偶者と子が相続人の場合、それぞれの本来の法定相続分の半分が保護されるべき遺留分。これが侵害されている場合には、不満であれば遺留分の減殺請求といって、取り戻しができるのです。
侵害があっても、遺言が直ちに無効になるわけではありません。それに異論がなければ遺言のとおり執行し、申告すればいいだけのこと。難しいのは遺留分の侵害があり、それに納得できない場合です。
こんなとき、遺留分を侵害された相続人は、どのような申告をすればよいのでしょう。交渉によって現状よりは相続分が増える可能性はあるにせよ、現時点では財産額が確定できないのです。いくら仮の申告とは言え、遺言がとりあえず有効なら、その後の交渉によっても、取り分は最大で遺留分まで。とても法定相続分など期待できません。従って、法定相続分での申告など意味のないものに。まして、申告をすればそれに実際の納税が伴うのです。間違っても遺言どおりの申告などしてはいけません。相手方に遺言の内容に同意しているかの如く思われてしまい、その後の交渉が不利になってしまうからです。
ただ、こんなケースでは相続財産についての情報は、主流派に独り占めにされていて、不十分なことが多いもの。苦し紛れに少額の申告をしてしまえば、加算税、延滞税等の余計な税負担も生じます。これが嫌ならとりあえず多めに納め、後日の調整を待つより他に方法がありません。とは言っても多めに納めるには資金が必要で、遺産の取り分が確定していない場合は資金繰りが困難です。何とも痛し痒しの状況で、相続人の立場としては、こんな遺言を残されないよう、生前から被相続人を大切にし、時にはお世辞の一つも言って良好な関係を築いておく以外、手立てはなさそうです。2005年8月31日
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5158号
固定資産税のハイテク化!
お正月早々にヘリコプターや小型機による空撮、とくれば勘の鋭い方には何のことかお解りでしょう。そう、固定資産税の空撮による調査です。固定資産税は1月1日の現況で課税のため、正月の空撮はいいとしても、遂にこんなハイテク化が…税理士も知らなかった驚愕の事実をお知らせします。
1.固定資産税の課税単位固定資産税は原則として、『筆』と呼ばれる登記簿上の地番ごとに評価額が決まります。相続税の評価がこの筆と無関係に、利用単位ごとに課税されるのと較べ、大きな相違です。そして、最大の特徴は、その土地が住宅用地かどうかです。
面積的な制限はありますが、住宅用地なら固定資産税は1/6にまで軽減されるのです。つまり、アパート敷地と駐車場とでは、同じ面積の場合、税負担が6倍も異なることになるのです。
ただし、アパートの専用駐車場なら駐車場部分も1/6。とにもかくにも、住宅用地か否かは固定資産税においては死活問題なのです。
2.地積更正や分筆をすると…固定資産税は登記簿上の面積をもとに課税されます。従って、実測をし正確な面積が算出された場合、面積が減少するなら儲けもの。登記面積を変更(地積更正という。)すれば、連動して固定資産税も減少です。逆に増えた場合は要注意。その理由は言わずもがな、お察しの通りです。
お客様にアパートと駐車場経営をなさっている方がいます。約300坪の大きな一筆の土地に、二つの駐車場に挟まれてアパートが1棟建っていました。登記簿上の面積より実際の面積が小さく、課税上不利であったため、その土地を実測し、利用形態ごとに分筆、地積更正もしたのです。登記面積が変更されたため、固定資産税も減額の対象となりました。そこまでは良しとして、三鷹市の固定資産税係からの通知にビックリ!次のような文面と写真が添付されていたのです。
《◯◯様所有の下記の筆について、地積更正及び分筆がありましたので、宅地部分と駐車場部分のそれぞれの課税地積を再計算させて頂きたいと思います。別紙の通り算出致しましたが、◯◯様の方で地積測量図等により宅地部分と駐車場部分の地積が分かるようでしたら、より正確なものに訂正させていただきますのでご連絡下さい。》
そして、下記の写真です。写真によるそれぞれの部分の面積が、小数点以下まで記載され、数㎡の誤差については登記面積による按分計算までなされていたのです。
3.知らない間に写真撮影、が世の動向考えてみれば、これくらいは当たり前なのかも知れません。今や高速道路の出入り口、繁華街のあちこちで知らない間に写真撮影は行われています。犯罪捜査にも活用されるほど、顔写真もバッチリなのです。これからは、すべての土地にシートを被せ、外出時にはマスクにサングラスが必須なのかも知れません。
2005年7月29日
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5157号
広大地は生前贈与で!
すでにお伝えした『広大地』の評価についての改正をめぐり、実務界では議論が沸騰です。何しろ、広大地に該当すれば、評価額は激減。恐いのは、現状ならこの有利な評価方法の対象地であっても、将来の相続時にマンション適地とされ、適用対象外とされた場合です。それに対し、こんな方法で対処しようと言うのが本日のテーマです。
1.『広大地』評価の改正内容まずは、広大地の評価について、ここで簡単におさらいをしておきましょう。広大地とは文字通り面積の大きい土地を言い、具体的には開発行為の対象となる面積以上で、道路や公園等の施設負担が必要な土地のこと。市街化区域は1,000㎡以上となっていますが、東京近郊では500㎡以上で開発行為の対象のため、広大地の該当面積も500㎡以上と考えていいでしょう。
かつては広大地評価を実際に活用する場合、道路や公園の提供によるつぶれ地を計算し、いわゆる有効宅地の割合を考慮して評価をしていました。
ただ、この計算の適否の判断が曖昧で、税務当局との争いのタネとなることがしばしば。そこで、次の算式ですべてを割り切る方針に改正です。
広大地評価額=路線価×面積×広大地補正率*
* 0.6-0.05×広大地の面積/1,000㎡
この算式で計算すると、1,000㎡で45%引き、5,000㎡では何と65%引きの評価になるのです。
2.問題は相続時の状況さて、一見有利な評価方法への変更ですが、実は大変な問題を含んでいるのです。マンション適地は広大地評価の対象外になっていることです。理由はつぶれ地が少ないため。しかも、この"マンション適地"の定義が曖昧で、現在は近隣にマンションが建っていなくても、将来的には適地になる場合は適用外との取り扱い。こんな予測は不可能です。また、広大地の評価を使えば相続税は心配ない、などと思っていたら実際の相続時にはマンション適地と言うことも。いずれにしても、広大地の評価が適用できるか否か、将来予測も含め実務的にはグレーな部分が多過ぎます。
3.現時点で贈与をすればそこで、相続時など遠い将来は見据えずに、現時点での贈与を活用です。贈与税の評価は相続税と同じ扱い。つまり、現時点でマンション適地と判断されなければ、贈与の時にも前述の有利な評価が適用できるのです。人生なんてこの先どうなるかなど、一寸先は闇なのです。ま、それはともかくとして、今使える評価で確実に財産を移転させてしまいましょう。
こういうと、それはいいけど贈与税の高額な負担が心配だ、とのご意見が聞こえてきそうです。そこで、相続時精算課税制度の活用です。2,500万円までは非課税で、それを超えても一律20%の税率という、あの制度を活用するのです。仮に広大地の評価の適用で1億円の評価の土地を考えましょう。1億円-2,500万円の7,500万円に対し20%の税率で1,500万円の贈与税。1億円の対象額で1,500万円、実質15%の贈与税なら安いもの。おまけにこれは単なる相続税の前払いに過ぎません。相続時には相続税と精算されるからなのです。
相続時精算課税制度を使って贈与をすれば、将来の相続時、この土地が仮にマンション適地になってはいても、評価はあくまで贈与時の低い価額のままなのです。
4.これを売却すれば、売却代金はお子様に!さらに贈与されたこの土地を、売却した場合を考えてみましょう。贈与された以上はお子さんの土地、売却代金は言うまでもなくお子さんのものに!勿論、売れば譲渡税の対象です。しかし20%の税負担で生前に確実に現金の形で次代に財産の移転ができるのです。もしこの土地が現時点では十分に収益を生んでいない場合、要件さえ整っていれば事業用資産の買換え特例で、高収益物件への組み替えだって可能です。
いずれにせよ、将来適用ができるかどうか不確実な広大地評価。現時点でマンション適地でないのなら、相続税を前払いしてこの評価の特例を利用し、生前に確実な財産の移転を実行しておくことも、一考の価値がありそうです。2005年6月30日
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5156号
譲渡税、もう一度見直しで税金還付!
相続や贈与で取得した財産を売却すると、相続税、贈与税とは別に今度は譲渡税が課税です。それは仕方がないとして、その時の譲渡税の計算方法が変更されました。もしかすると、今からでも税金が戻ってくる可能性が…
1.譲渡税の計算方法譲渡税の計算方法は基本的には以下の通りです。
売却収入-(取得費+譲渡経費)
これに税率を乗じて計算ですが、ここで問題なのは取得費です。取得費とは取得時の購入代金や手数料をいい、相続や贈与の時は取得費や取得時期を当初の方から引き継ぐことになります。
相続や贈与に当たっては、名義の変更を必要とする財産もあるでしょう。例えば、不動産やゴルフ会員権の場合は、登記費用、不動産取得税、名義書換手数料等といった類が必要です。従来、これらの費用は譲渡税の計算に際しては、全く考慮されていませんでした。
それが、今回上記のような付随費用を取得費に含めて計算するよう、取り扱いが改められました。しかも、過去に遡っての変更も可能なのです。理由は簡単、この取り扱いをめぐり、税務署が裁判で負けたからです。
2.どんな影響が考えられるのか?まずは、この3月の確定申告で相続、贈与によって取得した財産を売却した方、申告書を見直してみましょう。上記の改正が公表されたのは、実は確定申告が始まる直前でした。世間一般にはまだ、とても周知の事柄ではないことでしょう。前述のとおり、この取り扱いは過去に遡れるため、提出済みの過去の申告書も見直したいものです。ただ、税務署が申告済みの申告書について、訂正ができるのは法律上は5年が限度。従って、現時点で見直しが可能なのは、平成12年分以降の申告です。これ以上古いものについては、たとえ税務署が直してあげたいと思っても、法律上、税務署長にその権限がないのです。
3.税金還付の請求方法さて、平成16年分であれば提出直後の申告です。申告期限から1年以内、つまり、来年の3月15日までに「更正の請求」というやり直しの手続きが可能で、これによって税金が戻ってきます。
平成12年~15年分のものは原則的には取り戻しができないことになっています。しかし、「嘆願書」という超法規的なお願いの方法があるのです。勿論これは本来の法律上の権利ではありません。あくまで“お願い”ではあるので、認められないことも覚悟をしなければなりません。しかし、今回のこの件については、税務署も嘆願書を認める旨を明言しています。安心して嘆願書の提出をしてみましょう。
4.概算取得費には要注意!ただ、そうはいっても注意すべき点がいくつかあります。まず、当初の譲渡税の計算で、取得費が正確にわからなかった場合です。特に相続で取得した土地など、当初の取得ははるか昔のこと。正確な金額など分からなくても不思議ではありません。こんな場合、譲渡税の計算では概算取得費といって、売却価格の5%相当額を取得費として計算して良いことになっています。もし、この方法で申告をしていたら、5%に今回の名義書換費用等を上乗せすることはできません。5%相当額と名義書換費用等とを比較して、名義書換費用等が5%以下であれば、そのままにしておく方が有利です。逆に5%超ならば、この5%の概算取得費は捨てて新たな費用でやり直しです。
5.どこまでが取得費に認められるのか?さて、どこまでが取得費として認められる項目なのでしょう。直接の取得費ではなくても、取得のための付随費用もOKです。とはいうものの自ずとそれにも限界が。例えば相続財産の分割に際し兄弟間で争いがあり、多額の弁護士費用がかかっても、それまで付随費用というのは虫が良過ぎます。同じ分割をするためではあっても、相続財産である土地を測量し、分筆することなどは認められる範囲でしょう。
いずれにしても、過去の申告書を見直してみる必要はありそうです。税務訴訟ではなりふり構わず、強引な課税を主張する税務署ですが、敗訴が確定後は積極的に過年分も救済の姿勢を見せています。珍しく、負けた後の税務署の潔さに、男の美学を見た思いがします。2005年5月31日
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5155号
樹を見て、森も見て!
「樹を見て森を見ず」ということわざがあります。物事の一部分だけは詳しいのに、全体の把握が疎かであることの喩えです。税務についてもこれは至言ともいうべきもの。一つの税目に捕らわれず、あらゆる角度からの検討が必要なのです。
1.法人税を節税したのは税理士の手柄?ある会社が決算を迎えました。誰しも税金は少ない方がいいに決まっています。税理士は社長を喜ばせようとして、あの手この手で工夫をします。苦労の甲斐あって利益はゼロ。社長は喜び、税理士は胸を張りました。ここまでは良かった。
路線価が公表される時期となりました。この会社は高額な土地を所有しているため、路線価にも敏感でした。というのは、未上場の会社の株式については、後述のように評価方法によって、路線価が株価に大きな影響を与えることがあるからです。社長のお父様がオーナーとして大半の株式をお持ちで、将来の相続を睨んでのことだったのです。そのお父様もかなりの高齢、年齢的にはいつ相続という事態が生じてもおかしくはないため、毎年路線価公表の時期に、株価を見直すことになっていたのです。
2.未上場株式の評価方法ここで、未上場の株式の評価方法についてお話をしておきましょう。正直言って、かなり専門的になってしまうため、あえて極めて割り切った説明にします。原則的な評価方法には大きく①純資産価額方式②類似業種比準価額方式の2つがあります。①は財産の額から借金等の負債を控除した、差引き残額で評価する方法。②は評価しようとする会社の一株当たりの利益、配当、純資産(類似の3要素と言う)を同業の上場会社のそれらと比較して求めようとするものです。
①においては、昔から保有する土地が低い価額(当時の取得価額)で帳簿に計上されていても、株価計算に際しては、現在の高い価額(時価)が反映されてしまいます。②の方法ではそのような含み益が株価に反映することがないため、一般論としては①より②の方が評価額が低くなり、有利だとされているのです。
3.評価方法の落とし穴さて、話は決算で工夫をし胸を張った税理士に戻ります(当事務所ではありません。念のため!)。路線価が公表され、この税理士も株価計算をして驚いたことでしょう。頑張って2期連続で利益をゼロ、配当もゼロにした結果、従来は上記②の低い評価額で算出できていたものが、②の適用が無くなってしまったのです。業界用語で"2要素ゼロ"と言いますが、この場合には原則として、①の高い評価額で計算することが強制されるのです。部分的(25%)には②を適用する方法も認められてはいますが、基本はあくまで①の純資産価額方式になってしまうのです。
これが税務の実務の落とし穴。それに気づいた時の税理士の心中、同業者として察するにあまりあり。何と従来の5倍にもなってしまったのです。実はこの会社、超都心に土地があり、その土地で貸しビル業を営んでいる会社だったのです。税理士の報告を聞いて、社長はたいそうな剣幕だったそうです。毎年相続を心配して、株価評価をやっているのに、突然のこの報告ではさもありなん!
4.解決策はあるのか?この段階で当事務所にご相談にお出でになったのです。この税理士を責める事なんて、決してできません。もしかしたら同じ誤りをやっていたかも知れないからです。しかも、この税理士は工夫をし、社長を喜ばせるためにやったのです。
とにもかくにも、このままでは大変です。聞けば前期でビルの大修繕も終わり、今期は経費が少額の見込み。結果大幅な利益が見込まれるとか。とりあえず、決算期を今直ぐの今月末に変更し、利益が出る状態での決算を組むことをお勧めしました。これなら2要素ゼロにはならず、②の方法が再び適用できるからです。
5.常に樹を見て、森も見て!同じようなことは他にいくらもあるのです。例えば個人の土地に賃貸物件を建築する場合、個人名義か法人名義かもその一つ。個人名義なら土地の評価が"貸家建付地"という更地の7~8割の評価に下がり、建物評価も賃貸物件なら有利な評価で相続税対策になろうというもの。法人名義の場合、土地の評価を抑える方法はあるものの、建物は個人でないため直接の評価のメリットはありません。一見個人名義がよさそうです。しかし、これも相続がいつ起こるかにより、状況は一変します。
詳しくはお話できませんが、ケース・バイ・ケース。相続税ばかりでなく所得税、法人税、消費税等色々なことを考えなければ結論は出てこないのです。常に樹を見て森も見て、税務は本当に難しく、筆者など、なかなか胸が張れません。2005年4月28日
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5154号
敵を立て、味方も得する交渉術
~理解に苦しむ税務署の実績評価~商売はお客様のニーズに合った物、サービスでいかに応えられるか、で勝負が決まります。実は、全く同じ事が税務調査にも当てはまるのです。税務調査においては、調査官のニーズを探ることが重要、ということのご紹介です。
1.調査官の実績とは?調査官に絶対的なノルマは課されてはいません。ただ、件数の割り当てがあるため、基本的にはこれが最低限のノルマと言えるものかも知れません。既に何回かご説明したと思いますが、税務調査において、税務職員に要求されることは、基本的には"増差"です。増減差額のことで、調査により当初の申告よりどれくらい所得や財産の額を多く見つけたか、が彼らの実績になるのです。
ここで面白いのは、それが実際の納税額に結びつかなくても、非違(申告書上の誤り)を見つければ増差となり、手柄となることです。これが税務調査を考える際に非常に重要なポイントになるため、詳しくお話ししたいと思います。
2.課税部門と徴収部門調査を行うのは相続税や所得税・法人税部門の課税部門と呼ばれる部署。この部署が申告内容を吟味し、所得金額等を調査によって左右するのです。
例えば、ある会社に累積の繰越欠損金が3,000万円あったとします。この会社の調査で1,000万円の非違が見つかり、修正申告をします。会社としては確かに所得が1,000万円増加はしますが、欠損金がまだ2,000万円もあり、実際の納税額はありません。会社にとって、この修正は痛くも痒くもないのです。
一方、調査官は1,000万円の非違を見つけ、増差としての手柄を挙げました。実際の納税額はありませんが、課税部門には関係がない話、とにかく手柄は手柄なのです。では、税金の徴収部門ではどうでしょう。この部門は、実際に納付すべき税額が期日までに納まっていない場合、取り立てを行うのがその仕事、手柄です。この例の場合には、修正申告により納付すべき税額が生じないため、そもそも彼らの仕事は生じません。と言うことで、こんな修正をするだけで、八方円満におさまってしまうのです。
3.相続税でも似たようなことが…相続税の調査がありました。奥様名義ではあっても、実態は亡くなったご主人の預金(名義預金)と認定され、1億円の増差が出たとします。お客様としては財産の額が1億円増えますが、必ずしもこれに相当する税額を負担しなければならないとは限りません。配偶者の税額軽減と言って、配偶者には法定相続分(又は1億6千万円以下)までの取得財産であれば、税金がかからない特例があるためです。従って、この預金を奥様が相続し、特例の適用があれば、後述する重加算税の対象にならない限り、お客様にとっての実損はほとんどありません。もっとも、この場合でも財産の総額が増えるため、他の相続人への影響はあります。しかし、見た目の増差に比べ、実際の税負担ははるかに少ないため、お客様にとっては結構な話。また、調査官にとっても1億円のお手柄になる訳で、これまた結構な話なのです。実際の税収は少ないのに、これで良しとするとは、税務署の常識は一般人とは異なるのでしょうか。
4.増差だけではない手柄の項目そして、増差の他に重要なお手柄項目は、重加算税を課したかどうかです。重加算税とは平たく言えば、脱税の意志があった場合に課されるペナルティー。これを課するとは、単なる計算誤り等を見つけることより、高度な調査のテクニックが必要という建前になっているため、大変なお手柄なのです。
5.手柄を立てさせ、こちらも得するには!調査で色々な非違が見つかった場合、実務的には税務署と交渉の余地がある場合も多いもの。税務署とて、明らかな誤りは別として、特にグレーな部分については話し合いのテーブルに乗ってくれるのです。時間をかけたくないと言う理由と共に、後日、異議申立て等の面倒なことにならずに済むよう、修正申告という形で早く一件落着したいからです。
実は、ここの話し合いこそが税理士の腕の見せ所。調査官が調書をまとめ易くするため、相応の理由を作ってやり、しかも、お客様の税負担の軽減を図るのです。調査官が重加算税を強く望む場合には、ある程度の重加を覚悟し、その代わりに増差部分を大幅に減らす交渉を。また、配偶者の税額軽減で事が済むなら、重加算税を勘弁してもらうことにより、増差部分で妥協です。要は調査官のニーズを適格に掴み、お客様の負担を軽減させ、お守りすることが税理士の仕事なのです。まさに腹の探り合い、狐と狸です。といっても明らかな脱税は救いようがありません。調査がないことを願うのは、我々税理士もお客様と同じです。どうか、平和な一年でありますように!2005年3月31日
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5153号
今からでも元に戻せば大丈夫?
親子や兄弟の間で財産を無償でやりとりすれば、原則的には贈与税の課税対象です。しかし、贈与があったのかどうか、取り消しはいつまでならできるのか、申告はどうするべきか、については、税務職員も間違える悩ましい問題なのです。という訳で、贈与税の申告について考えてみました。
1.一般の方の誤解税務には全く疎い一般の方が、贈与税がかかるとは夢想だにしていなかったとします。例えば、親が建物を建築して、子の名義で登記をした場合です。子の名前で株券を買った場合でも結構です。これらの行為が、もし、課税されると知ったら、どんな行動をとるのでしょう。「だったら元に戻しますよ。」
そう、まさにこれが本日のテーマなのです。贈与税がかかると言う理由だけで、それを避けるべく、元に戻せるのでしょうか。結論から言えば、できる場合とできない場合があるのです。決してどんな場合でも、元に戻せばそれで済む話ではありません。
2.税務職員の誤解同じ質問を税務職員にしてみると、例えばこんな回答が返ってきます。「今12月ですからね、3月15日の贈与税の申告期限までに、登記や名義を直せばいいですよ。その場合には贈与税の課税はありません。」
それなら、この名義変更が2年前だったらどうなのでしょう?「今から名義を戻す?2年も前の話でしょ。既に確定した贈与ですから、今から変更はできません。贈与税を納めて下さい。」 つまり、贈与の事実を戻すのなら、贈与のあった年分の贈与税の申告期限前であることが必須の条件だ、それを過ぎたら戻せない、と信じて疑わないのです。 資産税の総ての税務職員とはいわないまでも、"100人に聞きました"をやったら、多分97~98人が上記の回答をすることは必至です。
3.何故、税務職員は間違えるのか実務としての税務は、税法という法律に則って行われることになっています。しかし、法律だけではすべての細かな事象に対処ができません。そこで、課税当局は、税務職員向けに通達という形で、こういう場合にはこうしろ、ああしろと、マニュアルを設けているのです。
上記の問題のケースについては、《名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて》という通達があります。この通達をよく理解していないことに、税務職員が誤りを犯す原因があるのです。
4.通達の概要ここでちょっと、この通達にお付き合い下さい。概要をお話しすると、二つに分かれています。一つは有効な贈与が行われた一般的な場合。もう一つはいわゆるちょっとした間違いで、その軽率さが色々な事情からも確認できる場合です。
前者は贈与が既に有効に行われているため、基本的には贈与税の対象です。しかし、そうはいっても贈与税の申告期限前であれば、元に戻すことを条件に、課税をしない旨を定めています。情状酌量の余地あり、といったところでしょうか。ただ、本来的に贈与は成立しているために、申告期限後は仮に合意解除をして元に戻しても、課税関係は覆らないのです。
これに対し、後者はとにかくちょっとした間違いです。人間なら無知も勘違いもあり得ます。そもそも、贈与なんて確たる意志がなかったのです。こんな場合には、最初の贈与税の申告や更正・決定という税務署の処分がなされる前であれば、元に戻すことを条件に、贈与税の課税をしないことにしています。税務署には珍しい温情なのです。
5.結局は税務職員の増差主義税務署のことを、よーく考えてみましょう。前号でも触れたように、納税者の誤りを見つけ、課税する事が彼らの実績になるのです。(失礼、適正な課税業務を執行なさって下さっているのです!) 彼らの実績にするためには、とにかく課税。贈与が有効に行われさえすれば、申告期限を過ぎたか否かで判断すればよいのです。本当は贈与が有効に行われたかどうか、ちょっとした間違いではなかったのか、なのにです。これを知らず、確認もせずにすぐに課税しようとするのが税務職員の悲しいサガ。
つまり、あくまでも贈与の確たる意志などなく、軽率に、迂闊に、遠謀深慮もなかった場合には、それがいつであっても、元に戻せば贈与税の課税はありません。決して、贈与税の申告期限を過ぎたら何でも課税ではないのです。
誰です、バレモトで名義の変更を考えているのは?贈与税の申告期限は3月15日です。今年も適正な申告を!2005年2月28日
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5152号
広大地の評価改正にどう対応
Vol.42の『えーっと通信』でもご紹介した広大地の評価方法の改正が、やはり今後、非常に大きな波紋を呼びそうです。実務上、混乱は必至で、その対応策を考えてみました。
1.ことの発端広大地とは読んで字のごとく面積の大きな土地のことです。市街地の土地の評価は、基本的には路線価に面積を乗じて計算します。しかし、一定面積以上の土地については開発許可が必要となり、現実には有効活用ができないつぶれ地が生じるため、単純にその面積を乗じて評価するわけにはいきません。従来はそのつぶれ地の面積を考慮して、計算してよいことになっていたのです。しかし、その計算方法については解釈が分かれ、実務上は当局と納税者の間でトラブルが頻発。それを解決すべく、当局は単純な数式による評価に変更したのです。これは一見、簡便で大きく評価額を減じる親切な評価方法に見えました。しかし、その適用対象地に問題があったのです。
2.問題の「マンション適地」広大地ではあっても、その土地、地域がマンションの適地であれば、新たな評価方法が適用できないのです。なぜなら、マンションの場合には、つぶれ地があまり生じないためです。問題はマンション適地かどうかの判断で、当局は不動産の専門家でないことを意識して、次のような市販の不動産専門書を引用し、参考にして下さいというのですが、以下のような極めて曖昧なもの。敢えて、そのままの形でご紹介します。
① 近隣地域又は周辺の類似地域に現にマンションが建てられているし、また現在も建築工事中のものが多数ある場合、つまりマンション敷地としての利用に地域が移行しつつある状態で、しかもその移行の程度が相当進んでいる場合 ② 現実のマンションの建築状況はどうであれ、用途地域・建ぺい率・容積率や当該地方公共団体の開発規制等が厳しくなく、交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性から判断しても、換言すれば、社会的・経済的・行政的見地から判断して、まさにマンション適地と認められる場合 となっています。特にひどいのが②で、現実の状況はどうであれ、将来を予測してマンション適地になりそうなら駄目というのでは、もはや判断のしようがありません。これを、納税者の立場で、あなたが考えなさい、というのです。
3.適用できない場合の危険性従来はつぶれ地の割合を計算して土地の評価額を算出していました。従って、当局にその計算が否認される場合でも、つぶれ地の割合が異なるだけで済んだのです。しかし、新たな評価方法は、とにもかくにも広大地にさえ該当すれば、単純な割り切りの計算式で、最大で65%引きの評価です。
例えば広大地を考慮しない評価額1億円の土地が、広大地に該当すると最大3,500万円の評価まで減少の可能性があるのです。逆に、万が一にも当局の判断で、広大地に該当しないとなった場合、1億円を基準に若干の評価減しかできないことになってしまうのです。広大地に該当するのかしないのかは、まさに天国と地獄。職務がら、税理士がその判断をするとなれば、相続税の申告を請け負う税理士は、果たして何人いるのでしょうか。
お客様からの損害賠償を覚悟で高額な報酬を要求できるか、相続の実務に全く無知で、広大地評価の怖さを知らない税理士にしか、広大地を適用した申告はできないことになってしまいます。
4.現場の姿勢が歪んだ解釈を生む!そもそもは、前述のとおり評価をめぐるトラブルを回避するために、簡単な算式にしようとしたのです。その国税庁の意気は良し!しかし、現場の税務署は往々にしてこれを理解せず、調査で実績を上げるだけの増差主義(増減差額のことで、調査による課税価格の増大分)に走るのです。結果、何だかんだと理屈を付けて、本来の趣旨を忘れ、こちらの評価を否認して、税金を取り立てようと血眼に。その姿勢がこの評価方法の改正を歪んだ方向に導きかねないのです。
結論としては、広大地の評価については、つぶれ地を考慮した、鑑定評価に依るしか他に方法はないでしょう。マニュアルに従えば、否認された場合はほとんど減額の余地が期待できないのです。これに対し、鑑定ならばお話し合いの余地は残されます。 折角の国税庁の粋な計らいです。税務署も広大地に対しては、うるさいことを言わず、簡単に、単純に大幅な評価減を認めてもらいたいものです。2005年1月31日
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5151号
相続後の手続きは迅速に!
売買や相続により、不動産の所有者や権利関係に変更があった場合、登記をすることが多いでしょう。いうまでもなく、登記をする、しないはその方の任意です。しかし、任意とはいうものの、やっておいた方が後々便利なようで、例えばこんな事がありました。
1.相続後の手続きとは相続後の手続きとは、具体的には分割協議や遺言に従って、被相続人から相続人へ、名義を変更する手続きです。預貯金や株券等書き換えの費用が軽微なものから、ゴルフ会員権や不動産登記のように、それなりの負担を覚悟しなければならないものまで多種多様。名義変更手続きには、基本的には各相続人がその財産を相続する権利があることを証するものが必要です。通常は分割協議書や遺言書ですが、相続人全員の実印があれば、銀行や郵便局等のように、名義変更ができるものもあります。
2.実際の名義変更手続きは…前述のような、相続による名義変更の手続きは、本来は厳格に行われるべきものです。なぜなら、手続きが省略され、厳格さを欠けば、それは銀行の責任問題になってしまうからです。例えば銀行所定の手続き書類に相続人全員の署名、押印、印鑑証明がなく、一部不足があった場合です。こんな状態で特定の相続人に名義を変更してしまい、後日、それが発覚して他の相続人から文句が出ることも想定されます。当然銀行は責任を問われることになるでしょう。
が、現実問題として、こんなことがありました。筆者の母が亡くなったときのことです。財産と言える程のものは何もなく、兄弟間で遺産分割協議書を作成するまでもなかったのです。
死後、暫くして遺品を整理してみると、少額ではありますが、郵便局に簡易保険と定額貯金があったのです。当時、筆者の兄は海外にいたため、兄の承諾を取るのは手続き的に煩雑でした。事後承諾でいいだろう、と勝手に判断し郵便局に相談です。町の小さな郵便局ではありますが、本来の手続きの説明後、何と、悪魔のささやき『お兄さんの分は、どなたかが替わりに署名して頂ければ結構ですよ。』しかも、実印でなく認め印です。金額も決して多くはありませんでしたが、それでも100万円単位です。これでは、単なる早い者勝ち?
3.遺言書があれば安心か?相続人間での分割協議については問題になることが予想されたため、事前に遺言書を作成した事例では、こんなこともありました。
遺留分の侵害がないよう注意をして遺言書を作成し、準備は万端整っていたのです。いざ相続が開始され、遺言執行者である長男は、遺言内容を相続人に知らせました。法的には何も問題が無い遺言であったため、長男も名義変更の手続きを、すぐにはしていなかったのです。相続登記をすぐにしないのはよくあること、珍しいことではありません。ただ、本誌前号でもご紹介のとおり、長い間登記をしないでおくと、後日支障があることも事実ではあります。それに、登記をすれば登録免許税の負担も覚悟しなければなりません。
それはともかく、紳士的かつ公正に他の相続人に遺言の存在と内容を知らしめたのです。結果的にはこれがあだになりました。長男がある土地を遺言に従って自分の名義に登記する前に、他の相続人が法定相続分によって、自分の持ち分に対し、抵当権を設定していたのです。
どういう事かと言うと、登記所は遺言によって登記がされる前までは、当然のことですが遺言の存在を知りません。その段階は、登記所から見ると、いってみれば分割されていない状態、つまり、相続人の法定相続分による共有状態なのです。3人兄弟が相続人なら1/3ずつの共有です。ここで、その内の一人が自分の持ち分の1/3については、売却することも、抵当権を設定することも可能なのです。
なんでこんな事をするかといえば、いうまでもなく、長男に対する嫌がらせ、遺言執行に対する妨害です。結果的には事なきを得ましたが、この持ち分を売買してしまうと、法律的には非常に面倒な状態になってしまいます。そもそも、こんな状態での持ち分を買う人は、頬に傷のあるような方も多いのではないでしょうか。相続人も恨み辛みが高じて、何をするか分かりません。
遺言があるのなら、他の相続人のことなど考えず、間髪を入れずに即登記 !また、遺言がない場合は、さらに注意して財産探しと名義変更!とにもかくにも早い者勝ち。世智辛い世の中ではあります。2004年12月27日
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5150号
登記があれば、やっぱり便利
売買や相続により、不動産の所有者や権利関係に変更があった場合、登記をすることが多いでしょう。いうまでもなく、登記をする、しないはその方の任意です。しかし、任意とはいうものの、やっておいた方が後々便利なようで、例えばこんな事がありました。
1.相続登記を放っておくと…売買の時に登記をしないことは滅多にないものの、相続登記をなさらない方は結構多いようです。理由は費用がかかるから。ごもっともな理由です。しかし、例えば祖父の相続登記を省略したまま父が亡くなり、父の相続時にも登記を省略。こんな状況で孫の代になって売却話が持ち上がりました。実態はこの孫が相続をしたものの登記簿上の名義は祖父のまま。祖父名義のこの状況では売買の移転登記はできません。祖父が実在しないからです。祖父から父、父から孫への連続した登記が必要なのです。相続税の対象となる場合、財産分けでもめてさえいなければ、登記変更はしていなくても分割協議書はあるでしょう。この分割協議が終わっていれば、救いはまだあるのです。問題は分割協議がない場合です。今から作らなければならないのです。そして、いったん分割協議により父名義にした後で、今度は父の分割協議書の作成です。この名義変更の作業、実は祖父の相続人が既に亡くなって、その子の子が替わりというケースも多く、今から全員のハンコを貰うのは至難のわざ。場合によっては相続人全員を捜し出すだけで一苦労、なんてこともあり得ます。
実務上は20年以上経過している場合、登記官の判断で原則通りのことが要求されるわけではないようです。しかし、未登記を放置しておくと、規定上は上記のような大変な状況になることが必至です。
2.建物が未登記の場合はどうする?親子で右表のように土地建物を相続したケースです。今、土地の半分を売却し、その売却資金で家を建て替える話が持ち上がりました。右表にあるとおり、親と子Aが同居で、子Bは単純に換金化を希望です。
ここでの問題は売却時の税務でした。親と子Aにとってはこの土地は居住用、ご存じ3000万円控除が使えそうなのですが、事はそれ程単純ではありません。この特例、建物を持っている方だけに適用があるのです。従って、親のみが適用で、子Aは親が3000万円の枠を使い切っていない場合に残額相当のみを使えるだけなのです。
そこで、先ずは子Aにも建物持ち分を持たせるため、親から建物の一部の贈与を考えました。が、この建物が未登記だったのです。贈与をしたことが登記簿上、反映しようにもできません。勿論、今から建物を登記し、その上で贈与の登記をすることも可能です。しかし、今、建物を壊して土地を売却しようとしているのに、いかにも無駄でばかばかしい話です。贈与の事実さえ税務署に理解して貰えばいい訳で、贈与契約書の作成だけでは足りないのでしょうか。答は契約書だけでもOKなのですが、その後に売却が控えています。紙切れ1枚の贈与契約書では説得力に欠けるというもの。大体、売却直前の贈与は、後述するような税務上の問題もあるのです。
とにもかくにも、この贈与に信憑性を持たせるため、公証人役場で贈与契約書に『確定日付』を貰いましょう。わずか700円の手数料で贈与が行われた日付が証明される、便利な手続きです。これにより、売買に先立って本当に贈与がなされ、登記こそなされていないものの、建物の一部が親から子Aへ移転した事実が証明できるというものです。
3.売買直前の贈与の税務上の問題点居住用の不動産の売却には前述の3000万円控除があります。本来親だけが対象であるのを、直前の贈与で子Aも適用して問題はないのでしょうか。
もし、子Aが別の場所で居住しているのなら論外で、適用はありません。この特例を受けるためだけに贈与しているからです。しかし、真実、子Aは親とこの家に長年にわたり居住しているのです。税法上は子Aがこの特例を受けることに問題はありません。しかし、体裁としては贈与から売買まではある程度の期間はあった方が無難でしょう。というより、税務署にあらぬ疑いを抱かれなくて済むというものです。
冒頭にも申しあげたとおり、登記とは絶対に必要なものではありません。しかし、後々問題になることも多いもの。登記費用をケチッたつもりが、かえって余計な費用が生じる場合もありそうです。特に相続時の登記費用(登録免許税)は通常の売買に比して優遇されているのです。また、不動産取得税の対象にもなりません。ぜひぜひ、登記はお早めに!
2004年11月30日
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5149号
税理士をも欺く(?)ダンシン!
『団体信用生命保険』という制度をご存じでしょうか?通称"ダンシン"と呼ばれ、銀行等から融資を受ける際、その銀行等を受取人とする生命保険です。そのため、死亡の場合はその時点で債務の返済が完了する仕組みになっています。さて、相続税の申告書の作成に際しては、税務署に注意するのは当たり前。じつは、お客様にも騙されないようにするのが税理士の職務、というなかなか厳しいお話です。
1.団体信用生命保険とは?前述のとおり、融資先の銀行等が受取人で、住宅ローンではお馴染みでしょう。特に住宅ローンの場合には、強制加入となることも多いためか、特別の健康診断もなく、通常の健康状態なら誰でも加入できる保険です。加入時に保険料の全額を納めるケースの他、年払い等の方法もあり、支払う方もそれ程負担感は多くはないようです。また、対象となるのは住宅ローンばかりとは限りません。賃貸住宅建築の際のアパートローンにも適用はあります。死亡事故の他、高度障害状態になった場合でも、その保険金で借入れ債務が弁済されるのがその特徴。死亡時等は遺族が手続きはするものの、保険金は直接銀行に入るため、保険が下りたという感覚はないかも知れません。
2.ダンシン加入の借入れは債務か?ここで、相続税の課税対象となる財産の計算方法を復習しておきましょう。不動産や預貯金等プラスの財産から、借金、預り金等のマイナスの財産、つまり負債を控除した差し引き計算で求めます。これらの計算時点はすべて相続開始時、通常は「お亡くなりになった日」時点での計算です。
例えば、借入れをして賃貸マンションを建築しました。その際、ダンシンに加入です。相続税の計算上、通常はこの借入れも債務に該当し、マイナス項目となるわけです。何よりの証拠に、銀行の残高証明書には死亡時点の借入れ残高が記載されています。税理士だってこの残高証明を基に、相続税の計算をするはずです。くどいようですが、この借入れは相続税の計算上、マイナス項目なのです。
3.それでも本当にマイナス項目か?ある相続税の申告案件でのお話です。従前からのお客様ではなく、相続税の申告だけのお手伝いでした。したがって、被相続人の方の人となりも分からず、相続人の方にお会いするのも初めての状況で業務開始です。プラスの財産を把握し、マイナス項目の確認に作業は進展。残高証明書に記載された借入れ金を計算し、課税対象財産の計算は終了しました。
が、しかし、です。じつはご主人の死亡後、奥様はすぐにダンシンの手続きをし、借入れは返済済みの状況だったのです。こうなると話は単純には行きません。確かに銀行の残高証明書には死亡日時点での借入残高は記載されています。しかし、直後にダンシンで返済済みである場合、ご主人の債務にはならないのです。相続人に返済の義務がないからです。決して借入金を債務に計上した上で、受け取るべき生命保険を財産として計上することはあり得ないのです。それは、ダンシンの受取人が銀行だからです。いずれにせよ、ダンシン加入の借入金は法律上は債務にはなり得ません。
4.ダンシンは税務署にバレるか?果たしてこのダンシン、税務署にバレてしまうのでしょうか?早速、検証に取りかかりましょう。
検証①通帳に保険金が振り込まれるか? 保険金の受取人は銀行です。被相続人、相続人の通帳に保険金振り込みの記載はあり得ません。 検証②残高証明書の記載に問題はないのか? 銀行に責任はないでしょう。仮になくなった日にダンシンの手続きをしても、その日に保険金が銀行に支払われるわけではありません。死亡日には借入れは、確かにあったのです。 検証③登記簿に記載されるか? 登記簿には借入れについて、抵当権を設定した銀行の名前等は出てくるでしょう。しかし、ダンシンの記載まではありません。登記簿を見ても、借入れがあるという事実以外、何も分かりません。 と、ここまで論じてくると、勘の鋭い方はひらめいたかも知れません。もしかして、借入れだけを負債に記載し、ダンシンの存在を黙っていたら、借入れ分だけ相続税は減少???
5.ダンシンの手続きをいつするか!ダンシンの手続きをすぐにしなければ、バレにくいことは事実です。相続税の調査でも、死亡後も相続人が借入れの返済を続けていれば、何の疑念もないでしょう。しかし、銀行は死亡の事実が分かれば即刻手続きをせまってきます。銀行に死亡を隠し続けられれば、可能性もないとはいえない、そんなところでしょうか。
さて、先程の相続案件のお客様に戻ります。我々もダンシンの存在を知らずに作業を続け、分割協議書に署名の段になって分かったのです。お客様がもしこの時黙っていたら…税理士として、とんでもない間違いをするところでした。 税務署には要注意、お客様にはもっともっと要注意!
税理士も、これで結構疲れる仕事です。2004年10月29日
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5148号
風が吹けば、相続税調査が増える!
税務署の中で、相続税や譲渡税を扱う部署が資産税課です。その資産税課に今、突如として従来にない動きが…一体、資産税課に何が起こり、果たして我々にどんな影響があるのでしょうか?
1.資産税課の仕事とスケジュールまずは、資産税課の守備範囲のご紹介から。相続税、贈与税の他、個人の所得税の内、土地建物、有価証券等の譲渡所得(譲渡税)が品揃えの主なもの。これらの税目について、国税局単位で若干異なるものの、東京局の場合でいえば、おおむね次のような年間スケジュールで作業が進みます。
確定申告が終わると、譲渡税の調査事案の選定をし、調査の開始です。提出された申告書の整理が終わり、実際に調査が始まるのは5月の連休明けくらいでしょうか。それが7月10日前後の恒例の人事異動まで続きます。この時期は一般の会社と同じで心はソワソワ、税務職員が最も落ち着かない時期なのです。
さて、これを過ぎると今度は相続税の調査です。7月末までに申告期限の到来する相続税をストックしておき、8月以降12月までは相続税調査に明け暮れます。その後は確定申告に向けて、贈与税、譲渡税の該当者及びその候補者に案内状、いわゆる“お尋ね”の発送です。具体的には『あなたは不動産を売却しましたよね、誰にいくらで売ったのですか?』、あるいは随時発送の『購入なさった物件の資金の出所を教えて下さい!』と併せ申告の必要性、贈与の有無を確認する手続きがなされることに。そして確定申告期間中は譲渡税や贈与税の課税洩れがないよう、来署要請を通じ確実な申告に結びつけていくのです。なお、一定以上の財産をお持ちの方(超大口資産家という)は税務署でも特別扱いで、特別国税調査官の管轄です。ここでは確定申告の諸準備や雑用は一切なし。基本的に一年中調査ばかりで、超大口資産家の方は1、2月も相続税の調査があるということです。
2.そのスケジュールに変化の兆し!そもそも不動産等の売却は譲渡所得になりますが、所得税であることに変わりありません。法人にも不動産の売却はあり法人税課で扱うのに、なぜ、個人の売却だけ分離して、資産税課になってしまうのでしょう?
税法の体系は、実は個人も法人も土地等の売却については、特例を含め実質的には大きな相違はないのです。勿論、居住用関係の特例は法人ではあり得ませんが…本来、譲渡税も所得税課で扱うべき代物ではあるのです。
かつては個人の不動産の売却件数も多く、専門に扱う必要性もあったのでしょう。が、今や件数も減少し、異変がおこりつつあるのです。未だ都内の一部、10署だけではありますが、試行的に譲渡調査事案を所得税課で扱うようになっています。ただし、所得税課の人間には全くその知識がないため、資産税課からの出向、転籍の形の者が担当 です。彼らは信じられないくらい自分の部署以外の税法の知識はないからなのです。でも、いくら担当者が資産税の経験者でも、それを管理、監督する上司(統括管という)に譲渡税が理解できるのか、心配なことではあります。それに、縦割り行政の最たるものの代名詞、税務署で業務の移譲が行われるのは極めてまれ。もはや、譲渡税の案件では課税ができる程売却益のあるものが少ないのでしょうか。いずれにせよ、売却件数が減少し、資産税課が暇になってきたことは確かなようです。
3.結果、相続税調査が増えることに!それでは資産税課は何をやるのか?ズバリ、相続税の調査を最重視です。従来より格段に相続税の事案にかけられる時間が多くなるため、調査に選定される件数は増加です。さらに、一事案に掛けられる日数も増えることが予想されます。自宅への臨場調査、金融機関その他の関係者への反面調査に深度の深い調査が可能になるのです。
資産税課で譲渡税関係をやらない以上、確定申告が終われば、すぐに相続税の調査に着手することになるでしょう。つまり、これからは相続税の調査期間は4月から12月と考えなければならないかも知れません。さらに、前述の超大口資産家の方は確定申告の期間以外は、年中無休いつ相続税の調査があっても不思議はないことに!
ちなみに相続税については、下表の通り調査1件当たり3685万円の申告漏れがみつかり、税額にして840万円が追徴されています。まさに、風が吹けば相続税の調査が増えそうで、夏風邪などひかぬようご用心、ご用心。
2004年9月30日