【設問】 以下の文章を読み、末尾の問いに答えなさい。
○○島は、海に面した小さな島です。穏やかな水道をへだてて、本土の港まで連絡船が運航しており、英吉さんは連絡船の船長として、長く島の人々の暮らしを支えてきました。
英吉さん夫婦は○○島に住み、島の人々とも大の仲良しです。島が高齢化する中で、まだまだ元気で働いています。「平成の大合併」で島は本土の港町の一部となりました。それに伴って選挙区の区割りが変わったせいなのか、突然これまで島民の念願だった、島と本土の港町をつなぐ架橋の話が具体化し、あれよあれよという間に「ふるさと創成」だかの公共事業の一環として、数年後には連絡橋が完成する運びとなりました。さて、連絡橋ができれば当然連絡船は廃止です。
では、英吉さん夫婦は、これからどう暮らしていけばよいのでしょうか?あなたの意見を回答欄に200字程度で書きなさい。
<太郎の回答>
英吉さんは、若い頃船員になってから、船の仕事しかしたことがない。この道一筋の人である。
定年までまだ間があるというなら、どこか外の土地で船の仕事を見つけるしか彼の働く道はない。
連絡船の会社は、橋ができると解散するそうだから、それまでによその土地で船の仕事を見つけるのは、英吉さん本人と会社の責任である。
<桃子の回答>
これまで島の人々は、英吉さんの連絡船にひとかたならぬ世話になった。連絡船がなければ島の人々の暮らしは成り立たなかった。英吉さんは定年まで町役場で再雇用して、子供達に海のことでも教える仕事をしてもらうのがよいのではないか。
合併で町が広くなってしまい、役場も本土側に行ってしまったので、色々難しい問題はあるだろうが、島民には、英吉さん夫婦がこれからも島に住めるように考える責任がある。
<次郎の回答>
そもそも、令和の世の中で、「この道一筋」を貫いてきた英吉さんの生き方が問題なのではないか。
これまでも、これからも日本はどんどん変化していく。英吉さんだって、連絡船の船長をやっている間に、たとえば無線技師とか、漁船のメンテナンスとか、何か趣味や副業でもよいから次の仕事につながるような、別の何かを準備しなければいけなかったのではないか。橋ができるまで、短いがまだ時間がある。英吉さん夫婦が、島に住み続けたければ、急いで第二の人生の仕事を準備するほかはない。
<この稿の筆者の論評>
英吉さん夫婦の問題は、他人ごとではない。たとえば、現在人手不足で話題の路線バスの運転手だって、あと十年もすれば、自動運行の無人バスが実用化されて、仕事がなくなってしまう。それを知っているから、路線バス運転手の応募者が少ないのだ。都会ではロボットに宿泊サービスや介護までやらそうとしている。少子化が止まらず、移民も受け入れないこの国では、機械に頼って人間の仕事を少なくしようとする流れは止まらない。「この道一筋」で仕事への「こだわり」や「夢」をもっても、当のその仕事がなくなってしまうかもしれない。「この道幾筋」が正解なのだ。
今月の言葉
2023年8月1日