260号
土地売買における消費税の注意点
~予想外の税負担を減らすために~
不動産を売買して譲渡益が生じる際に、譲渡益に対して所得税や法人税を納める必要があります。そのほか、消費税を納める課税事業者であれば、建物を売買した場合には消費税を納める必要があります。なお、土地の売買では消費税は非課税ですが、消費税の計算方法によっては、例年と比べて消費税の負担が増える場合もあります。そこで、今回は、土地売買における消費税の注意点について触れたいと思います。
1.消費税の計算方法
(1)個別対応方式
消費税の納税額は、原則としては、預かった消費税から支払った消費税を控除して計算をします。控除する消費税額の計算は、原則、「個別対応方式」により行います。この方式は、支払った消費税を次の(ア)~(ウ)に区分した上で、控除する消費税額を次の算式で求めます。
控除する消費税額 = (ア) + (イ) × 課税売上割合
(ア)課税売上のみに対応する支払った消費税額
(イ)課税売上と非課税売上に共通して対応する支払った消費税額
(ウ)非課税売上のみに対応する支払った消費税額
この算式の意味するところは、消費税が課税となる収入を得るために支払った消費税(ア)はすべて控除できますが、土地売買のように消費税が非課税となる収入を得るために支払った消費税(ウ)は控除できません。また、課税と非課税の両者に共通する支払いに係る消費税(イ)は、次で説明する「課税売上割合」に応じて控除することになります。
(2)課税売上割合
課税売上割合は、次の算式で求めます。
課税売上割合 = 課税売上高(税抜き) ÷ 総売上高(税抜き)
課税売上割合とは、収入全体に占める消費税の課税対象となる収入の占める割合です。土地売買は消費税が非課税ですから、上記算式の総売上高には含まれますが、課税売上高には含まれません。そのため、土地売買があるときは、通常の場合に比べ課税売上割合が低くなり、その結果、控除できる消費税が減少することになります。
(3)一括比例配分方式
上 記(1)の個別対応方式に掲げた(ア)~(ウ)の区分をせず、支払った消費税額に上記(2)の課税売上割合を乗じて控除税額を計算する「一括比例配分方式」を採用することもできます(採用すると2年間の継続が必要)。
控除する消費税額 = 支払った消費税額 × 課税売上割合
この方法は、支払った消費税のすべてについて課税売上割合に応じた金額を控除するものですから、土地売買があると、控除税額が大幅に減少するリスクがあります。
2.その他の消費税の計算方法
消費税の計算方法の原則は、前記1のとおりですが、他の方法として、中小企業者の納税事務負担に配慮した「簡易課税制度」もあります。この方式は、2年前の課税売上高が5,000万円以下であり、かつ、年度開始日の前日までに「簡易課税制度選択届」を提出する必要があります。詳細は省略しますが、この制度は、消費税のかかる課税売上高に一定の控除率を乗じて控除税額を計算しますから、土地売買のように消費税が非課税となる収入による影響はありません。
3.土地売買における注意点
土地売買があると課税売上割合が下がるリスクがあることを前記1で説明しました。そのため、土地売買については、次の制度を適用することが認められています。
(1)たまたま土地売買があった場合
土地売買が単発であり、かつ、その土地売買がなかったとした場合には、事業実態の変動がないと認められる場合には、税務署長の承認を得ることにより、課税売上割合に代えて次の(2)に掲げる「課税売上割合に準ずる割合」により、消費税の控除税額を計算することができます。手続きとしては、土地売買をした年度の末日までに「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出して、同日の翌日以後1ヶ月を経過する日までにその承認を受ける必要があります。
(2)「課税売上割合に準ずる割合」とは
課税売上割合に準ずる割合とは、次の(A)又は(B)の割合のいずれか低い割合とされています。
(A) 土地の売買があった前3年度の通算課税売上割合
(B) 土地の売買があった前年度の課税売上割合
この制度の適用により、たまたま土地売買があり課税売上割合が減少しても、前年度以前の課税売上割合を用いて消費税の控除税額を計算できます。該当する場合は、是非活用したいところです。
4.最後に
消費税を納める課税事業者で土地を売買する方は、まずは、どのような方法で消費税を計算しているか確認する必要があるでしょう。そのうえで、原則的な方法で計算している場合には、予想外に消費税の負担が増える可能性があるため税理士へ相談することをお勧めします。しかし、前記3の申請書は土地の売買のあった年度の末日までに税務署へ提出する必要があるため、年度末ギリギリで売買してそれから相談するのでは間に合わないかもしれません。これから土地の売買を予定している方でも、予定が分かった時点であらかじめ相談するようにしましょう。
2022年12月15日