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え〜っと通信

266号

2023年6月15日

野口 晋吾

老人ホーム等に入所中に相続があった場合の小規模宅地の特例

 近年、老人ホームや介護施設等の数はどんどん増えています。老人ホームといっても、富裕層の方しか入ることができないような高級老人ホームも近年は増えており、一人暮らしのため、平日は自宅で生活し、週末だけ高級老人ホームを別荘のように利用するケースもあるようです。
 今回は、被相続人が老人ホームに入所中に相続があった場合でも、小規模宅地の特例の適用を受けることができる要件を考えていきたいと思います。

1.小規模宅地の特例について

 相続開始の直前において「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」については、一定の要件を満たす場合、自宅敷地のうち330㎡まで相続税評価額の80%を減額することができます。小規模宅地の特例を使えるかどうかで相続税額は大きく変わってきます。
 被相続人が自宅を離れて老人ホームに入所したまま相続があった場合、一般的には、相続開始の直前において被相続人が自宅に住んでいたとはいえません。それでは、自宅の敷地に小規模宅地の特例を使えないのでしょうか。

2.老人ホーム入居中に相続があった場合

 結果から言えば、次の3つの要件を満たす場合は、自宅の敷地は老人ホームの入所直前の状況をもって「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」とみることになりますので、小規模宅地の特例の対象となります。

要件① 相続開始直前に要介護認定等を受けていること
要件② 老人福祉法等で認定された老人ホーム等に入所していたこと
要件③ 老人ホーム入所後の自宅が賃貸等されていないこと

 これは、被相続人が介護を受ける必要があるため、住んでいる自宅を離れて老人ホームに入所しなければならない場面を考えています。被相続人は、自宅での生活を望んでおり、いつでも自宅で生活することができるように自宅が維持管理なされていれば、実際には病気療養のために一時的に入院しているのと同様な状況にあります。自宅で生活していないため一律に小規模宅地の特例の対象に当たらないとするのは実情にそぐわないからです。

3.要件①…要介護認定等について

 被相続人が要介護認定等を受けていたかどうかは、老人ホームに入所した時ではなく、相続開始時までに認定を受けていたかどうかで判定します。
 それでは、要支援認定の申請中に亡くなった場合はどうなるのでしょうか。申請をしてから市区町村の審査を受けて認定を受ける流れになりますが、介護保険法では申請があった日に、さかのぼって効力が生じることになっています。相続開始時点では、申請中であっても、相続後に要支援認定が認められれば大丈夫です。
 なお、配偶者が要介護認定を受けたために、夫婦で一緒に老人ホームに入所することもあるかと思います。この場合で、要介護認定を受けていない方が亡くなってしまったときは、自宅の敷地について小規模宅地の特例の適用を受けることはできません。

4.要件②…老人ホームについて

 入所する老人ホームはどこでもよいというわけではなく、一定の要件を満たしている必要があります。老人福祉法により都道府県から認可を受けている老人ホームなどが該当します。
 無認可の老人ホームでは、小規模宅地の特例を受けることができませんので、入所前に施設に確認をしておくことが大事です。

5.要件③…老人ホーム入所後の自宅が賃貸等されていないこと

 自宅は、基本的には老人ホーム入所時と同じ状態を保つ必要があります。老人ホームに入所後、自宅の用途を変更し、他人に賃貸しているときや事業用に使用しているとき、生計が別の親族が引っ越してきたような場合には、小規模宅地の特例の適用が不可となりますのでご注意ください。
 なお、新たに自宅を他人に賃貸した場合は、居住用の8割引きに代えて、貸付事業用として200㎡まで5割引きの小規模宅地の特例を受けることができる場合があります。

6.誰が自宅の敷地を相続するか

 自宅を相続する方が誰でも小規模宅地の特例を使えるわけではありません。
被相続人が老人ホームに入所中に相続があった場合、小規模宅地の特例を使うことができる相続人は、次のいずれかの方です。

①配偶者
②老人ホームの入所直前に被相続人と同居していた相続人
③上記①、②がいないときは、いわゆる家なき子の要件を満たす相続人

7.最後に

 小規模宅地の特例は、相続前の状況で使えるかどうかが決まる要件が多くあります。また、老人ホームへの入所が絡むと、判断が複雑で非常に難しくなります。
 老人ホームへの入所を考えている方は事前に検討しておくことをお勧めします。ご不明な点がありましたら、ATOまでご相談ください。

※執筆時点の法令に基づいております