お役立ち情報

COLUMN

TOPえ〜っと通信非上場会社の事業を分割するときの税務について 270号

え〜っと通信

270号

2023年10月16日

大貫 貴博

非上場会社の事業を分割するときの税務について

同族会社の事業承継において、複数の相続人が共同で事業を引き継ぐ場合、経営方針が一致するとは限りません。むしろ、親族であっても考え方は十人十色ですから、円滑な共同経営は将来的な課題となります。その親族間の共同経営の対策として会社の分割が有効なことがあります。今回は、質疑形式を使って会社を分割する際の税務をご紹介します。

1.質問

父Aは、長男Bと二男Cの2名の子がいます。
 父Aの主な財産は、不動産賃貸業を営む非上場の同族会社の株式です。その同族会社は、父Aが100%株主であり、賃貸マンションを2棟(簿価3億円×2棟)所有しています。父Aは、相続人である長男Bと二男Cの2名に財産を均等に相続させたいと考えています。どんな方法が考えられますか。

2.会社分割の検討

理想的には、相続人同士が協力して会社を経営してくれることが望ましいでしょう。しかし、兄弟間で何かの折に意見が対立することも珍しくなく、2人に株式を等分に分けてしまうと、会社の意思決定に問題が生じ、将来的に会社の経営が困難になることが予想されます。兄弟2人で株式を持ち合うのはお勧めできません。
 そこで、簡便的に賃貸マンション1棟を1つの事業単位とみて、兄弟に均等に財産を相続します。現在の会社を二つの会社に分割しておき、相続発生時に分割前から存続する会社(旧会社)の株式をB、新設された会社(新会社)の株式をCが各々引継ぎ、単独で会社を経営していきます。
 それでは会社分割の方法と税務の取扱いをご紹介します。

3.事業譲渡を用いる場合

事業譲渡とは、会社が特定の資産、事業、または負債を他の企業や個人に売却する手法です。今回の事例では、父Aが100%出資の新会社を作り、その新会社に旧会社が賃貸マンション1棟を売却しますので、新会社から旧会社に売買代金を支払うことになります。
 税務上の要点として、新旧の会社を一つのグループとしてみたときのグループ外への税流出を考えます。まず資産の譲渡損益については、新旧会社の株主は父Aのみであるため、グループ法人税制の適用により、資産移転時の法人税負担は繰延べられます。しかし、両社の取引を通じて登録免許税、不動産取得税等の流通税や一定の事業者に対して消費税等の負担が生じるため、計画段階でこれらの税負担を考慮して検討する必要があります。ただ、収入のすべてが住宅の貸付業である同族会社間の不動産売買において、時価と簿価の差額がない場合は、売主に法人税・消費税の税負担は生じず、税流出は流通税の負担のみで済みます。

4.会社分割を用いる場合

会社分割とは、一つの会社を2つ以上の独立した会社に分ける手法です。それぞれの会社が、賃貸マンションを1棟ずつ所有します。
 税務上の要点としては、支配関係が継続しているなど一定の要件を満たした場合は「適格分割」に該当し、事業譲渡よりも有利になることがあります。具体的には法人税、消費税が掛からず、一定の要件を満たしている場合は不動産取得税も掛かりません。また、不動産の購入資金も必要がないため、資金的な負担が少なく、リソースを効率的に活用できるというメリットがあります。
 さらに、会社分割は権利と義務を一括して移転するため、法務手続きが比較的容易であるという特長もあります。したがって、一定の要件を満たすのであれば事業譲渡よりも使いやすく有効な手法になります。

5.留意点

会社分割は、比較的コストをかけずに実行できるのですが、事業承継の観点からすると実行時期に注意が必要です。
① 相続後に会社分割を行う場合
 相続が発生し、遺産分割で旧会社の株式を相続人が各々50%ずつ取得した後に兄弟が旧会社を分割しようとすると問題が生じます。適格分割に該当するためには旧会社の株主の持分割合に応じて新会社の株式を発行しなければならないため、新会社もBとCが50%ずつ持ち合わなければなりません。BとCが新旧会社を各々100%所有になるよう会社分割すると、適格分割にはならないため、賃貸マンションを時価で旧会社から新会社へ移転したものとみなされます。事業譲渡と同様にグループ法人税制が適用され、旧会社に対する法人税は繰り延べられますが、一定の事業者には消費税の負担が生じます。更に新会社の株式を取得するCは、時価で旧会社の株式を売却して新会社の株式を取得したものとされますので、みなし配当による税負担が生じてしまいます。
② 相続直前に会社を新設して会社分割をした場合
 非上場会社の株式の相続税評価の多くは、会社の財産を基にした株価(純資産価額方式)と業績値を基にした株価(類似業種比準方式)を組み合わせて算出することになります。ただし、開業後3年未満の会社は一般的に評価額が高くなりやすい純資産価額方式のみで株価を算定することになり、類似業種比準方式を併用することができません。更に取得後3年以内の土地等は時価で評価する必要があるため、相続時の株価が高くなることがあります。

6.まとめ

生前から事業承継を見据えて会社の事業を分割するというのは、どうしても時間がかかってしまいます。会社分割の活用をお考えの場合は、税務や法務に関する専門家としっかりと相談して計画を立てることが大切です。

※執筆時点の法令に基づいております