土地活用は地主の方にとって長く向き合う重要な検討事項のひとつです。収益を目的とする土地の活用方法は大きく分けると、土地そのものを貸して地代収入を得る方法と、土地の上に建物などを整備して賃貸収入を得る方法があります。今回は、地主側の視点から、事業用定期借地権による土地貸しと店舗などの事業用建物を新築して建物貸しをする場合における相続税評価額・収支面を比較検討します。
1.事業用定期借地権とは
事業用定期借地権とは、専ら事業用建物(店舗・事務所等)の所有を目的に、存続期間を一定期間として設定される借地権です。主な特徴としては、①契約更新がなく、原則、土地は原状回復して返還されること、②借地人が建築した建物の買取り義務がないこと、③初期投資や維持費用、労力が少ないことがあげられます。
地主にとっては建物の建築に伴う借入、空室、修繕等のリスクを負わず、安定的な収入を得やすい方法のひとつです。
2.前提について
地主のAさんは、先祖から相続した土地で不動産賃貸業を営んでおり、空き地となったロードサイドの土地の活用を検討していますが、近年の建築費の高騰や金利の上昇もあり、建物を建築するかどうか悩んでいます。
土地:相続税評価額1億円、固定資産税103万円/年
建物:建築予定額1億円(建築費用は全額借入金)
3.相続税評価額について
(1)事業用定期借地権の設定契約を締結した場合
事業用定期借地権の目的となっている宅地(底地)は、相続税評価上、「自用地価額-定期借地権等の価額」で算定した金額と、残存期間に応じて自用地評価額の5%~20%を控除した金額のうち、いずれか低い価額で評価します。
基本的に権利金や保証金の授受がない場合には、更地価額から残存期間に応じて最大20%の評価減をすることができ、評価額の経年変化は次表の通りです。

(2)自己所有の土地に新たに建物を建てた場合
事業用の建物を建築して賃貸すると、相続税評価上、土地は貸家建付地として一律20%程度の評価減となるため、約8,000万円(1億円×(1-借地権割合×借家権割合))の評価額となります。貸し付けている建物は、貸家として借家権割合30%を控除することができるため、建築費1億円に対し5,000万円の固定資産税評価額が付されると、相続税評価額は3,500万円(5,000万円×0.7)となります。
土地建物が合計で1億1,500万円であり、建築費の借入金債務の1億円を差し引くと相続税評価額は1,500万円となります。
事業用定期借地権で土地を貸した場合の相続税評価額は最大20%減額後の8,000万円でしたから、新たに建物を建てたほうが少なくとも6,500万円の相続財産の圧縮効果があります。
したがって相続税の観点からは土地の上に建物を建てて運用したほうが有利となります。
4.令和9年以降の相続税評価には注意が必要です
ただし、令和9年1月以後の相続・贈与では注意が必要です。相続税・贈与税の駆け込み節税ができないように相続税評価の取扱いが変わります。有償取得した賃貸用不動産については、取得後5年以内のものは取得価額の80%相当額で評価することになります。節税目的ではなく、土地の有効活用が目的であっても、貸付用不動産の取得後5年間は相続税等の大きな節税効果を得ることが難しくなってしまいます。現状(執筆時7/1現在)では、改正評価通達とその取扱いは明らかになっていないため、具体的な内容は、秋の弊社セミナーでご説明させていただく予定です。
5.事業の収支について
事業用定期借地の地代については、立地や周辺環境など様々な要素に影響されますが、首都圏近郊のロードサイド等では自用地価格に対して4~6%の間に収まることが多いようです。経費は基本的に固定資産税のみです。
例えば地代収入を600万円受け取る場合、固定資産税103万円を差し引くと税引前の手取りは約500万円です。定期借地権が設定されている場合は、少なくとも8,000万円の評価となりますので、所得税・相続税の税率をいずれも50%としても最短で16年運用すると当該土地に対する相続税相当の資金を確保することができます。更に土地の全面に小規模宅地等の特例を適用できる場合は、土地の評価額が50%減額されますので、最短で8年で相続税相当の手取りとなります。一方、自己所有の土地に事業用建物を建築した場合、家賃については事業用の建物の場合、居住用建物と比較して高めに設定されることが多いですが、建物所有の場合は、借入、大規模修繕や空室(テナントの事業撤退)のリスクがあります。
このようなリスクがあることを踏まえ、事業用定期借地のように貸地として運用が可能な土地であれば、貸地による収支が投資判断のひとつの目安になるかと思います。
