一般的に従業員持株会は公開会社が導入するもの・・・と思われがちですが、実際には、公開の予定などまったくない非公開会社でも導入することができます。今回は非公開会社に導入することのメリットとその留意点についてお話します。
1. 公開会社が導入する従業員持株会
従業員持株会は、従来から公開会社に普及している制度です。
毎月少額の資金で会社の株式を少しずつ買い付けていけるので、従業員にとっては、自分自身の財産形成に役立ちますし、会社にとっては安定株主対策として有効です。
また公開の予定があれば、公開時に大きなキャピタルゲインを期待もできます。
2.非公開会社が従業員持株会を導入することの効果
しかし公開を予定しない非公開会社の最大の特徴は、会社の経営支配権を確保するという点です。が、逆に経営がうまく行けば行くほど、自社株式の相続税評価額が高騰し、相続税が多額になるということを意味しています。
そんな場合に従業員持株会の導入を検討してみる価値があるのです。
オーナーの所有する株式は財産評価基本通達に定める「原則的評価方式」により評価しなければなりません。これに対して、従業員持株会にオーナーが株式を放出するときには、より安い「配当還元評価方式」によって評価することができます。内容の説明は割愛させていただきますが、この評価方式の違いがどのように相続税評価額に影響するのかを見てみましょう。
<例>オーナーが100%所有する自社の株式の30%を放出して従業員持株会を設立
資本金 1,000万円(発行済株式総数20,000株)
原則的評価方式による評価額 1株 6,000円
配当還元評価方式による評価額 1株 500円
(A)従業員持株会設立前のオーナー所有株式の相続税評価額
株式 20,000株×@6,000円=1億2,000万円
(B)従業員持株会設立後のオーナー所有株式の相続税評価額
株式 20,000株×(1-30%)×@6,000円=8,400万円
株式売却代金 20,000株×30%×@ 500円=300万円
株式+現金=8,700万円
持株のうち30%を譲渡しただけで相続財産が3,300万円(1億2,000万円-8,700万円)減少します。28%も相続財産が圧縮できるのです。
3.留意する点
従業員持株会の導入に際しては、留意しなければならない点があります。
① 従業員持株会を設立するには最低でも30名程度の従業員が必要です。
② 従業員に対し、高配当を維持するように心がける必要があります。
③ 従業員のために作るものであり、会社とは独立した別個の団体であるとの認識が必要です。
④ 会社運営に欠かせない議決権を保有することになるので、安定株主対策として今まで以上に労使間の友好な関係が欠かせません。
4.議決権制限株式の利用
もしも上記の④の点が気になり、オーナーからの株式の放出が心配であるような場合には次のような対策が考えられます。
(1) まずは、オーナーだけで株主総会の普通決議ができるように、発行済株式総数のうち2分の1(50%)超の株数を手元に残す。
(2) 特別決議にまで備えるなら、オーナーの手元に3分の2(66.7%)超の株数を残しましょう。ただ(1)と(2)の差はたったの16.7%です。そのくらいの従業員の方からは協力を得られるような友好な関係を築きたいものです。
(3) さらに重要事項に関する議決を制限する「議決権制限株式」という株式を利用するという方法もあります。こうすることで、議決権はオーナーが保有したまま、株式を従業員持株会に放出することができます。
ただし、この方法は、平成14年の商法改正による方法を組み合わせているので、どの議決権を制限するかについては前例に乏しく、適用には慎重になる必要があります。
従業員持株会には、従業員にも経営に参画する意識を持ってもらえるようになるという大きな効果もあります。その面からも導入を検討する価値はあるのではないでしょうか。