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~信託の活用方法~
172号

え〜っと通信

172号

2015年8月14日

岡田 和巳

信じるものは救われる??
~信託の活用方法~

 「信託」という言葉、見聞きされた方も多いのではないでしょうか。信託法という法律に基づくこの制度、利用の仕方によっては、一族の財産を有効に保全、活用することができます。ただし、税務上の取扱いを慎重に検討したうえで利用しなければなりません。
 今回は、その信託制度の概要、有効な使い方及び税務上の取扱いについてご説明いたします。


1.そもそも信託とは?

 信託とは、自身が所有する財産の管理、処分を信頼できる者に託す行為です。そして、その結果得られる利益を誰が受けるかを指定することができます。これが信託の基本的な仕組みです。また信託は、委託者と受託者による信託契約により成立します。
 例えば、賃貸住宅をお持ちの甲さんが、息子の乙さんに賃貸住宅の管理を託します。賃貸住宅から得られる利益は甲さんが受けることとします。これで一つの信託となります。
 なお、専門的な用語になりますが、自身の財産を託そうとする人(この場合は甲さん)を「委託者」、託された人(この場合は乙さん)を「受託者」、利益を受ける人(この場合は甲さん)を「受益者」、託した財産を「信託財産」と呼びます。受託者は自然人だけでなく、株式会社などの法人も可能です。


2.信託の活用事例

 よくある活用事例として、高齢者の財産管理等をご子息(場合によってはお孫さん)に信託する方法があります。
 煩雑な管理を、ご自身で行うのではなく、後継者であるご子息に、生前のうちから任せてしまうのです。なお受益者は税務上の理由(後述)からご自身とします。
 この場合、万が一ご自身で判断が出来ない状況に陥った場合においても、財産管理に関する判断はご子息が行いますので、財産管理は滞りなく継続されます。
 ここまでだと後見制度と大差が無いところですが、信託の凄いところは、管理だけでなく、財産の売却や、その売却資金を使って新たに財産を取得することが出来ることにあります。
 例えば、相続税資金の確保のため土地の売却を検討しているとします。この場合、売却活動中に土地の所有者が認知症等により契約締結が出来なくなると、土地の売却は頓挫します。
 信託を使えば、売却予定の土地をご子息等に信託することにより、ご子息の判断のみで売却することが可能になります。


3.こんなこともできます

 信託は、賃貸住宅の建設など土地の有効活用をお考えの方にも役に立ちます。
 受託者に土地を信託し、信託契約により建設及び借り入れの権限を受託者に与えます。
 このような信託にすることで、例えばご子息を受託者にすれば、ご子息の判断のみで土地の有効活用を進めていくことが出来ます。建設工事が長期間に亘っても、安心して進めることが出来るでしょう。


4.商事信託と民事信託

 ここで、信託は、「商事信託」と「民事信託」の2つに分類されます。
 商事信託という言葉は聞き慣れない言葉ですが、実は身近に存在します。例えば「投資信託」は聞き慣れている方も多いのではないでしょうか。
 投資信託は、自身の金銭を信託会社に託し、託された信託財産は信託会社の裁量で投資を行い、その結果は(利益も損失も)自身が受ける仕組みです。
 商事信託とは、営利目的で不特定多数の者から財産の信託を受ける信託のことを言います。先に述べた投資信託が正に当てはまります。
 ただし、商事信託における受託者は、内閣総理大臣の免許を受ける必要があり、誰でも出来ることではありません。
 これに対して、営利を目的としないで、信託を受けるのも1回、というものが民事信託と呼ばれるものです。
 信託を活用する場合には、民事信託に該当するよう、信託報酬の設定など慎重に決定する必要があります。


5.税務上の取扱い

 税務上の取扱いは、至ってシンプルで、信託財産は受益者が所有しているものとみなして課税関係が整理されています。
 信託財産、例えば賃貸住宅から生じた利益は受益者の不動産所得として、信託財産の譲渡益は受益者の譲渡所得として、それぞれ所得税が課せられます。
 委託者と受益者が違う場合は、無償で財産を取得したものとみなされて受益者に贈与税が課せられます。
 受益者が死亡した場合は、次の受益者が、死亡した受益者から信託財産を遺贈により取得したものとみなされて相続税が課せられます。


6.最後に

 信託で出来る範囲は信託契約で決めますので、受託者が好き勝手に動き回る事態を防ぐことも出来ます。しかし、信じる者は救われる結果になるためにも、受託者の選択は慎重にしたいものです。

※執筆時点の法令に基づいております