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え〜っと通信

81号

2008年2月15日

田中 奈美

共同相続人に行方不明者がいたら!!

 相続人の中に家出等で行方不明の方がいる場合、はたして相続税の申告ができるのか?遺産分割協議はどうすれば良いのか、名義書換はできるのか等の疑問について考えてみました。


1.行方不明から7年以上の場合

 行方不明から生死が7年以上明らかでない相続人がいる場合は、利害関係人の申立てに基づき、家庭裁判所で「失踪宣告」をしてもらいます。
 失踪宣告がなされると、失踪者は死亡したとみなされます。つまりその失踪宣告が相続開始前であれば、失踪者の代襲相続人が相続人となり、他の相続人と共に遺産分割協議を行います。 なお、この失踪宣告には、厳密には以下の2つがあります。
① 普通失踪・・・不在者の生死が7年以上不明の場合(上記の場合)
② 特別失踪・・・遭難等の事故に遭って生死が1年以上不明の場合


2. 行方不明から7年未満の場合

 一方、行方不明から7年未満の場合は、上記の失踪宣告はできません。利害関係人の申立てに基づき、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任をしてもらいます。選任された不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得た上で遺産分割の協議に参加することが出来ます。
 つまり、遺産分割協議書には、本来の相続人(行方不明者)に代わって「不在者財産管理人」が署名・押印をすることになります。
 この財産管理人は、行方不明者の財産について建物の修繕をしたり、賃貸するなどの現状に変更をきたさない管理行為は出来ます。しかし、これらを超える行為(処分行為)を行う場合には、家庭裁判所の許可が必要となります。
 遺産分割を行うということは、処分行為にあたるため、家庭裁判所の許可が必要となるのです。
 また、裁判所の許可を得るということは、不在者の取得財産については、それなりの財産が承継される必要があります。これは、遺産分割を進める上で時間がかかると共に、とても障害になると思われます。


3. 不在者財産管理人の選任をしないと

 不在者財産管理人を選任しない場合は、遺産分割協議が整わないため、未分割となります。つまり、相続人が一人いないのですから、遺産分割協議ができないということになります。納税の為に相続財産の処分(売却)が出来ず、預貯金等の異動も難しくなり、相続税の納税も困難になる場合もあります。


4. 遺産分割協議が整わないと・・・

 遺産分割協議が整わないと未分割での申告になります。未分割申告になると以下の重要な軽減特例が適用できません。
① 配偶者に対する相続税額の軽減
② 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
③ 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例
特に、相続人の中に配偶者がいる場合は、税額が最大で倍になってしまいます!地価の高い自宅をお持ちの場合も小規模宅地の減額が出来ず、ダブルパンチになります。


5. 未分割で申告したら

 上記特例は原則として、3年以内に遺産分割を行った場合に適用があります。しかし、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに分割できない場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出します。この手続きにより、3年という分割期間を延長することが出来ます。
 分割期間は延長できますが、この場合他の相続人の精神的疲労を考えると、ある程度のところで見切りをつけ、財産管理人の選任を行い、遺産分割を進められる方がよろしいのではないでしょうか。

 上述のように相続人の中に行方不明者がいると手続きが非常に大変かつ時間がかかり、遺産分割協議が整わない事態も生じてきます。しかし、万が一手元に行方不明者の実印があればどうなるでしょうか。他の相続人全員で同意し、実印を使用して分割協議を進めることも手続きの上では可能です。ただ、これは合法的ではありませんし、行方不明者が現われた時には新たな問題が生じることになります。決してお勧めできる方法ではありませんが、納税面からそうせざるを得ない事もあるかもしれません。最後は相続人全員で責任を取る覚悟で解決するより道はないのです。

※執筆時点の法令に基づいております