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COLUMN
毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
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232号
税金安夫の税務講座
非課税のメリット・デメリット
~NISA口座と損害保険金の取扱い~ご存じのとおり、宝くじの当せん金は非課税です。非課税のメリットは言うまでもなく課税されないことですが、非課税であることがデメリットになることもあるようです。
今回は、税務における"非課税"の取扱いに関する質問のようです。
1.特別定額給付金(10万円)は非課税"特別定額給付金"振り込まれました。4人家族ですから40万円、助かります。確定申告は不要ですよね。
"非課税"ですから申告の必要はありません。略して「新型コロナ税特法」という法律で定めています。
所得税法ではないのですね。
非課税の多くは所得税法で定めていますが、宝くじに関する「当せん金付証票法」など、個々の法律で定めているものも結構あります。
法人税法には、非課税の規定はありませんか?
株式会社は100%営利目的ですから、非課税という概念自体ありません。一方、公益法人は営利目的ではないですから、一定の収益事業以外は課税しないという規定が法人税法に設けられています。
株式会社の場合は、個人と違って非課税というメリットを享受できないのですね。
2.非課税であることのデメリットは?でも、非課税にはデメリットもあるのですよ。
どんなデメリットですか?
損失が生じても、なかったものとみなされる点です。安夫さんは株式投資の口座はお持ちですか?
「特定口座」と譲渡益が非課税になる「NISA口座」を持っています。
NISA口座の譲渡益は非課税ですが、譲渡損の場合は、損失がなかったものとみなされてしまいます。一方、特定口座の譲渡益は概ね20%課税。譲渡損は、他の上場株式等の譲渡益と通算しますが、通算しきれない損失があっても3年間にわたり繰越控除できます。
NISA口座の譲渡損は、特定口座の譲渡益との通算もできないのですね?
そもそもNISA口座自体、確定申告できません。
上場株式等の保管期間は、NISA口座では最長5年。この5年間のうちに値上がりして利益を得ないとNISA口座を開設した意味がなくなりますね。
そうですね。でも、5年経過時に翌年の非課税管理勘定に簿価で引き継ぐ"ロールオーバー"が認められます。そのため、実質的な保管期間は5年間に限られることはなくなりました。いずれにしても非課税を活用するためには利益を出したいところでしょうね。
3.損害保険金に係る個人と法人の取扱いの差異先ほど、株式会社には非課税の取扱いはないとお話されました。個人でも、賃貸などの営利事業の場合、当然、非課税の取扱いはありませんよね。
個人事業の場合は、法人と異なり、実は非課税のメリットを受けられるケースがあります。
貸付けの規模が大きくなると税負担の面で法人化した方が有利でしょうけど、個人の方が有利な点もあるということですか。どんなケースでしょうか?
損害保険金を受け取る場合です。最近は、台風や地震などの災害で保険金を受け取ることも多いようです。ここでは簡略化して、火災で賃貸建物が全焼してしまい、火災保険金を受け取った事例(次表)で説明しましょう。
後片付け費用に係る保険金(B)は、後片付け費用(D)という経費を補填するものですね。
そうです。経費を補填する保険金は課税対象です。一方、建物に係る火災保険金(A)は、簿価1,200万円(C)の建物が火災で全焼したことによるものです。そのため、火災保険金2,000万円のうち損害額の1,200万円までは損失補填で相殺。残りの800万円については、所得税は非課税、法人税は課税対象です。
火災保険料は不動産所得の経費ですから、受け取った火災保険金は、常識的には全て課税ですよね。
所得税法の施行令で「損害保険金で資産の損害に基因して受けるものは非課税」とされています。この場合の資産に事業用、家事用の区別はありません。
事業用資産につき災害等で保険金を受け取る場合は、個人の方が有利な場面もあるのですね。
個人が受け取る損害保険金は、資産の損失補填、経費の補填、収入の補填などの区分により、取扱いが異なりますから注意が必要ですね。
4.おわりに(相続税の非課税財産)相続税にも非課税財産があります。墓所、霊廟、祭具や庭内神しなどです。生前、お墓を購入しておくと、現預金が非課税財産に代わり、相続税の軽減が図られます。しかし、お墓の購入代金を支払う前にお亡くなりになると、その未払金は被相続人の債務ではありますが、非課税財産に係る債務として債務控除できない点に注意が必要です。お墓の準備はもとより相続対策はお早めに!!
2020年8月14日
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231号
固定資産税の特例措置について
~ご自宅や賃貸住宅の建替えを中心として~固定資産税は不動産等を保有する法人・個人に対して課される税金であり、不動産賃貸業に係る主要な経費として、実務上重要性が高いものです。また、住宅用地については、政策上、固定資産税が軽減される特例措置が設けられています。特に、住宅の建替え時にこの特例が適用されるか否かで税負担に大きな差が生じます。今回は、固定資産税における住宅用地の特例措置について取り上げます。
1.固定資産税とは固定資産税は、賦課期日(毎年1月1日)現在の土地、建物等の所有者に対して課税される地方税(市町村民税)で、都市計画税と合わせて課税されます。
2.住宅用地の特例措置住宅用地とは、専ら人の居住の用に供する家屋の敷地の用に供されている土地のことをいい、賃貸住宅や分譲マンションの敷地も含まれます。住宅1戸(賃貸住宅や分譲マンションは1室)につき200平方メートルまでの部分を「小規模住宅用地」として価格の6分の1(都市計画税は3分の1)に、200平方メートルを超える部分を「一般住宅用地」として価格の3分の1(都市計画税は3分の2)に減額調整することにより、税負担を軽減しています。
3.ご自宅や賃貸住宅を建て替える場合上記1.で固定資産税等は、賦課期日(1月1日)現在の状況で課税されると説明しました。そのため、1月1日現在において建替え中の場合は、原則として、住宅用地に該当しないことになります。しかし、1月1日現在で建替え中であっても、住宅用地の特例措置が適用できる場合があります。
例えば、東京都の場合、次の(1)~(4)の全ての要件に該当すれば、住宅用地の特例措置を継続できることとされています。
(1)前年の1月1日において住宅用地であったこと。
(2)本年の1月1日において、住宅の新築工事に着手していること。
または、建築確認申請書を提出しており、3月末日までに工事に着手していること。
(3)住宅の建替えが、建替え前の住宅の敷地と同一の敷地において行われていること。
(4)住宅の建替えが、建替え前の住宅の所有者と同一の者により行われていること。上記(4)の住宅を建て替える場合については、建替え前の所有者と同一の者であることが要件とされていますが、建替え前の所有者の親族(六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族)であれば適用できることとされています。
また、手続きとしては、住宅を取り壊した翌年の1月31日までに、都税事務所に以下の書類の提出が必要です。
〇固定資産税の住宅用地等申告書
〇以下のいずれかの写し
・建築確認申請書 ・建築確認済証
・中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例等に基づき行政庁に提出した書類
〇建替え前の住宅所有者と建築主との関係を証するもの(同一の者の場合は不要)
しかし、個人名義の住宅を取り壊し、法人名義で建築する場合は、この住宅用地の特例措置は適用できませんから注意が必要です。
4.空き家を放置している場合家を取り壊すと固定資産税が上がるため、空き家を取り壊さず、そのままにしておくケースがあります。空き家の放置によって様々なトラブルが増え社会問題になってきました。そのようなこともあり2015年より「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。この法律により、市町村から「特定空家等」に指定され、必要な改善措置の勧告の対象となると、住宅用地の特例措置が適用できなくなり固定資産税が上がります。
「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいいます。
5.固定資産税の課税誤り新聞等で固定資産税等の課税誤りについての報道を見ることがあります。固定資産税等は、市町村又は都税事務所が税額計算をして、納税額を通知する賦課課税方式ですから、課税誤りが全くないという保証はありません。では、仮に過大に課税されていたことが判明した場合、還付請求は何年遡れるのでしょうか。地方税法では5年とされていますが、東京都の場合は通達があり、一定の要件の下、都税事務所長が納付の事実を確認したときは10年分、納税者が納付の事実を確認できる書類を提出した場合には20年分の還付請求が可能とされています。
6.終わりに(納税通知書のチェック)固定資産税等の納税通知書は4月~6月に送付されます。住宅用地の特例措置などが適正に計算されているかどうか、念のため内容確認をすることをお勧めします。
2020年7月15日
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230号
新型コロナウイルスに対する支援措置の概要
~税制上の主な措置~2020年は年始から新型コロナウイルスの拡散が始まり、その後全世界に蔓延する事態になりました。その影響によって社会経済は異常な状態となり、多くの人や企業は甚大な影響を受けています。そこで、税制においても様々な施策が緊急に講じられることになりましたので、ここでは主な支援措置をご紹介します。なお、内容は執筆時(4月末日)現在のものとなります。
1.申告期限等の延長新型コロナウイルスの影響で、期限までに申告・納付等ができないやむを得ない理由がある場合には、国税庁は申告・納付の期限を延長する柔軟な対応を行っています。
やむを得ない理由とは、新型コロナウイルスに実際に感染した場合に限らず、感染拡大防止のための外出自粛に伴い申告が困難になったケースも含まれます。
2.納税の猶予の特例新型コロナウイルスの影響により収入が急減しているという状況を踏まえ、無担保かつ延滞税なしで1年間は納税を猶予できる制度ができます。
対象者は、次の(1)と(2)を満たす個人・法人になります。
(1) 令和2年2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業等の収入が前年同期より
概ね20%以上減少していること
(2) 一時に納税を行うことが困難であること
(少なくとも向こう半年間の事業資金を考慮できます)
対象は、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する、印紙税を除く全ての国税・地方税となります。また、社会保険料についても同様の取扱いになる予定です。
3.欠損金の繰戻し還付の特例前期は黒字のため法人税を納めていたが、今期は赤字となった場合には、前期分の法人税を還付してもらうことができる「欠損金の繰戻し還付」という制度があります。この制度は、本来は資本金が1億円超の法人は対象外となっていました。
今回、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度については、資本金10億円以下の法人も対象となりました。(大規模法人の子会社等は除く)
4.イベント入場料等に係る寄附金控除文化芸術、スポーツイベントの中止等に関して、そのチケットの払戻しを受けない(放棄する)ことを選択した場合には、20万円を限度として所得税の寄附金控除を受けることができます。また、寄附金の税額控除を選択することもできますので、この場合にはチケット代の40%相当の減税効果があります。
例えば1万円のチケット代であれば、好きなアーティストに1万円相当の寄附をして、最大4千円の所得税減税を得るというイメージです。また、都道府県や市区町村が条例指定すれば住民税も減税されます。対象は、文化庁・スポーツ庁が指定した対象イベントになります。
5.令和3年度分の固定資産税及び都市計画税の軽減資本金が1億円以下の法人や個人事業者などの中小事業者等を対象に、償却資産と事業用家屋に係る固定資産税・都市計画税が軽減されます。なお、軽減されるのは今年度分ではなく来年の令和3年度分になります。
要件としては、令和2年2月から10月までの任意の3か月間の売上高が前年同期より30%以上減少している必要があり、減少割合に応じて次の金額が軽減されます。
・30%以上50%未満の減少・・・2分の1軽減
・50%以上減少・・・全額免除
なお、この制度を受けるためには、令和3年1月31日までに認定経営革新等支援機関等(認定を受けた税理士等)の認定を受けて各市町村に申告をする必要があります。ちなみに、弊社も支援機関になっています。
6.住宅ローン控除の適用要件の弾力化新型コロナウイルスの影響によって、消費税率10%が適用される住宅に令和2年12月末日までに入居できなかった場合でも、13年間の住宅ローン控除適用対象にすることができます。
要件は以下のとおりです。
(1) 新型コロナウイルスの影響で入居が遅れたこと
(2) 新築の場合は令和2年9月まで、建売住宅・中古住宅の取得・増改築等の場合は令和2年
11月までに契約を行っていること
(3) 令和3年12月末までの間に住宅に入居すること
7.助成金等に対する課税の有無税制上の主な措置を記載しましたが、このほかに国や各自治体から助成金や補助金などが支給される場合があります。主だったものとしては、持続化給付金や休業に伴う都道府県からの助成金が挙げられます。これらは支給の根拠となる法律で特別に非課税としない限りは課税対象です。売上や経費への補填としての側面もありますので、原則としては課税扱いになるものが多いと考えてください。なお、住民1人当たり10万円支給の特別定額給付金については非課税となります。
8.施策は多岐に渡ります新型コロナウイルスに対する施策は、多岐の分野に渡っています。経済産業省のホームページでは様々な施策がまとめられていますので参考にすると良いでしょう。
2020年6月15日
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229号
当初申告要件について
~あとで後悔しないために知っておこう~「当初申告要件とは?」と聞いてすぐに内容がイメージできるでしょうか。税額軽減措置などの制度の適用を受けるためには、当初の申告において「制度の適用を受ける旨の意思表示」を要求する規定です。意思表示とは申告書への適用額等の記載および書類の添付をすることです。これを失念すると、あとで適用を受けたい場合や選択を変更したくても手遅れとなります。大変注意が必要な規定ですが正しく理解されていないケースが見受けられます。当初申告要件は、納税をする方にとって非常に厳しいこともあり、平成23年度の税制改正で、廃止されたものも結構あります。しかし、未だ存続しているものもありますので、今回は、その主なものを取りあげています。
1.更正の請求について以下に掲げる特例措置を確認するにあたり、まずは更正の請求について触れておきます。更正の請求は、本来納める税金より多く申告していた場合などに行うものです。これは、いったん提出した確定申告書等の内容を申告期限が過ぎてから手直しする手続きなのです。払い過ぎた税金が還付されるなど、間違い等があった場合の救済措置といえます。しかし、これは当初申告要件のある特例措置の適用を求めることはできない点に注意が必要です。
2.住宅借入金等特別控除住宅ローンの利用でマイホームを購入した際の特別控除の適用を受けるには、所定の計算明細書や必要書類を添付して確定申告をする必要があります。たとえば、確定申告をしなければならない方が、申告後に住宅借入金等特別控除を失念したことに気付いたとします。申告期限内であれば訂正申告を提出できますが、期限後ですと税務署がやむを得ない事情があると認める場合を除き手遅れになります。この制度の適用は、申告書への記載等が要件とされているからです。ただし、住宅借入金等特別控除は、10年間(又は13年間)控除できるものですから、翌年の申告書に記載等をすれば、残りの期間に限り適用することはできます。
3.居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除マイホームを売却した場合、譲渡所得から3000万円を控除できる特例で、未だ当初申告要件が残っています。この特例は他の特例との重複適用ができないケースが多くあります。例えば住宅借入金等特別控除や居住用財産の買換え特例(課税時期の延期)などが該当し、どちらが有利かは売却益の額、資金計画等により異なるため、一概には決まらない場合もあるでしょう。選択をし直す申告が認められないため、どの特例を適用するかの意思決定の際には綿密なシミュレーションが必要となります。
4.小規模宅地等の減額の特例最も気を付けるべき特例措置です。この特例は相続財産のうち居住用や貸付用の宅地などの評価額について、一定要件のもと最大で8割減額できる規定です。たとえば、相続財産のうち要件を満たす宅地が複数あるとします。どの宅地について特例を受けるかは納税者の選択、つまり意思表示により決まります。これには要件を満たす宅地を取得できるすべての相続人の同意が必要となります。そこで、有利選択が必要となりますが、先述の特別控除よりもかなり煩雑です。この特例は居住用、貸付用などの用途に応じ適用面積と減額率が異なるためです。では、どのように選択するのでしょうか。一般には、最も評価額(減額効果)の高い組み合わせを選択しがちです。しかし、配偶者に限って認められる税額軽減制度を併せて適用する場合は、小規模宅地等の減額効果の最大値(相続税の総額の最小値)が必ずしも有利とは限りません。選択に当たっては、遺言があれば、配偶者の税額軽減額と相続人各人の小規模宅地等の適用額の減額効果を比較検討します。一方、遺産分割協議の場合には、さらに配偶者の財産の取得割合や二次相続に係る相続税額を考慮する必要があるため検討に相応の時間を要します。特に適用できる宅地の数が多い場合は組み合わせも増えるため、納得がいくまで考えてから選択することが重要です。
5.期限内申告要件との違いについて「当初申告要件」と「期限内申告要件」は混同されがちなので少し整理をします。期限内申告要件は文字通り期限内での申告を要件とするものです。青色申告に認められる65万円特別控除が代表例です。一方、当初申告要件は当初の申告を要件とします。この「当初」とは「最初」を意味するものであり「期限内」に限られるものではありません。つまり当初の申告であっても期限後の申告となることもあります。たとえば、先述の居住用財産を譲渡した場合の特別控除は、一定の要件を満たせば期限後の申告でも適用を受けられます。
6.最後に・・・特例措置は適用要件の判定だけでも複雑であり、さらに当初申告要件が加わると非常に実務家泣かせになります。不動産を売買した場合や相続発生の際は、時間的に余裕をもって税理士等に相談することをおすすめします。状況の把握や検討資料の作成など申告に至るまで多くの時間を要すことがあるためです。申告内容の説明の際に、諸条件や時間軸ごとの最少税額などの検討資料が提示されるはずです。ただし最後に「選択」するのは納税をする方本人です。後になって悔やむことのないよう熟慮断行が必要となります。
2020年5月15日
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228号
死因贈与をご存知ですか
~遺言が無効でも死因贈与で救われることがあります~相続が開始すれば、誰が何を引き継ぐのかなど、財産の分け方を決める必要があります。決め方としては遺産分割協議を行うことが一般的ですが、遺言書があるのであればそれを利用することになるでしょう。ただ、これら以外にも財産を引き継ぐ方法として死因贈与というものがあります。
1.死因贈与とは死因贈与という特別な用語が使われていますが、あまり難しく考える必要はありません。あくまでAさんからBさんへ財産を贈与する契約に過ぎません。それでは一般的な贈与との違いは何かというと、贈与の効力発生が贈与者の死亡した時になっているということです。
つまり、死因贈与は死亡を原因(条件)とする贈与契約ということです。
遺言は遺言者が一方的に定めることができますが、死因贈与はこれとは異なり契約行為です。そのため、贈与者と受贈者の間では契約を結んでおく必要があります。
なお、遺言とは異なり、必ず書面で行う必要は無く、口頭による両当事者間の合意でも有効です。ただし、書面が無いとトラブルの原因となりますので、実務的には契約書を作成することになります。
2.相続税の取り扱い死因贈与は前述のとおり贈与契約ですので、贈与税が課税されることになるのでしょうか。そのように思われがちですが、税務上では、あくまでも相続の開始を原因として財産を取得することから、相続税が課税される取り扱いになっています。遺産分割協議や遺言による取得と、税金上は変わらないということです。
3.仮登記することが可能相続を条件として効力が発生しますが、贈与契約はすでに締結しています。そのため、不動産であれば仮登記を入れることができます。この登記のことを始期付所有権移転仮登記といいます。
遺言では仮登記をすることができませんが、死因贈与を利用することで、財産を取得する権利があることを保全することができ、登記に明示することができるのです。
4.登録免許税などは不利仮登記をすることもできるというメリットがありますが、相続による取得とは異なる税負担が生じるデメリットがあります。
不動産の場合には財産を引き継いだ後に登記を行うことになりますが、そのときには登録免許税の負担が生じることになります。
登録免許税は、固定資産税評価額に税率を乗じて算出します。相続人が遺産分割協議や遺言によって取得したときの税率は0.4%ですが、死因贈与の税率は2%となり、負担が5倍になります。
また、不動産取得税の取り扱いにも違いがあります。相続人が遺産分割協議や遺言で取得する場合には非課税となっており、不動産取得税は課税されません。これに対して、死因贈与はあくまで贈与という行為による取得です。そのため、相続人であったとしても不動産取得税が課税されます。不動産取得税も同じく固定資産税評価額に税率を乗じて算出し、土地や住宅用の建物であれば税率は3%です。なお、土地が宅地の場合には実質の税負担率は1.5%になります。
5.こんなケースもありますあらかじめ締結した死因贈与契約ではないものの、死因贈与として取り扱われるケースもあります。死因贈与の応用編?とも考えられるような事例です。
相続人はいるのですが、被相続人は世話になった相続人以外の親族へ全財産を遺贈する遺言書を作成していました。しかしながら、その遺言書は民法に定める要件を満たしていないため、遺言の有効性に問題が生じてしまったのです。
こうなると、遺言は最悪のケースでは単なるメモに過ぎないということになってしまい、その親族は財産を取得することができなくなります。
このようなときに、死因贈与を活用することが可能な場合があります。前述したとおり、死因贈与契約は口頭でも効力が生じるものであり、遺言書のような厳格な様式の要件はありません。
そのため、被相続人の遺言は正式な遺言書としては利用できなかったとしても、生前から被相続人とその親族は遺言書に記載した内容を両者で認識していた。すなわち、贈与の意思を認めることができれば、死因贈与契約としては有効と考えることもできるでしょう。そうであれば、財産を取得できる可能性があるということです。
実務的には、調停などを通じた和解で折り合いをつけるのでしょうが、遺言書に疑義があったとしても必ずしもあきらめなくて良いかもしれません。
6.相続税の申告への対応死因贈与が認められ財産を取得したのであれば、申告は取得が決まってからになるでしょう。相続税の申告期限は相続を知ってから10ヶ月以内ですが、それが10ヶ月後であればその対応もその後になります。
ただし、この場合に相続税申告を行う必要があるかどうかは、実務的には当初申告をした方の対応に左右されることになります。2020年4月15日
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227号
有価証券売却時の注意点
~相続した株式の注意点・うっかりミス~現在、上場株式等の取引については特定口座での売買が一般的になってきました。しかし、特定口座に移管されず、一般口座に残ったままの上場株式等をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、特定口座・一般口座にある相続した上場株式等を譲渡した場合の注意点、うっかりミスなどについてご紹介致します。
1.一般口座と特定口座の違い株取引を行う口座は、特定口座と一般口座に分けられます。特定口座は、年間の譲渡損益の計算を証券会社などが行ってくれます。税金計算の有無により、「源泉税徴収あり」と「源泉税徴収なし」に分かれます。「源泉税徴収あり」を選択すると、証券会社などが取引の都度税金を精算してくれる仕組みになっているため、原則として確定申告は不要です。
一方、一般口座で株取引を行っている場合には、証券会社などから送られてくる取引報告書により自分で取引毎の譲渡損益を計算し、それらをまとめて年間の譲渡損益を算定し、確定申告をする必要があります。
2.相続で取得した株式を譲渡した場合相続で取得した株式を譲渡した場合は、被相続人の取得費を引き継ぎます。相続の名義書換時にご自身の特定口座(源泉税徴収あり)への移管が行われていれば、証券会社などで譲渡損益や税金計算を行ってくれます。通常はこの段階で、特に確定申告の必要はありません。しかし、相続税の申告期限から3年以内に相続財産を譲渡した場合は、相続税の一部を取得費に加算する申告が可能になります。多額の相続税を支払っている方は、相続税の一部を加算することによってかなり譲渡益が圧縮され、譲渡所得税等が安くなります。現在、相続税の最高税率は55%なので、なかには譲渡益以上の取得費加算額が算出されるケースも出てきます。しかし取得費に加算が可能なのは、あくまでも個別銘柄毎の譲渡益の範囲内になりますのでご注意下さい。
3.相続発生から数年経つと・・・相続発生年や、相続税納付のために株式を譲渡した年は、上記の取得費の加算を忘れずに確定申告します。しかし、相続税申告期限から2年くらい経った頃に、株式相場が高騰したので相続した株式を譲渡する場合もあると思います。その時に、特定口座(源泉税徴収あり)に入れているから、譲渡損益も税金計算もしてくれているので、確定申告は不要であると勘違いしてしまうケースが出てきます。意外とうっかり忘れてしまうことがあるのです。
4.確定申告を忘れると・・・確定申告でこの相続した株式の譲渡所得そのものの申告を不要と考え申告しなかった場合に、確定申告のやり直し(=更正の請求)は出来るのでしょうか。答えは当初申告で株式の譲渡所得の申告不要制度を選択したものとみなされ、更正の請求による「取得費加算の特例」の適用が認められなくなります。申告そのものを忘れたために、取得費加算が適用できず、税金還付が出来なくなってしまいます。うっかりミスは意外と大きな痛手になることもあります。
5.同一銘柄を持っている場合話は少し変わりますが、A株式について相続したものと自分で購入したものとをお持ちの方もいらっしゃると思います。このように相続等により取得した株式と相続前より保有する株式が混ざっている場合で、A株式の一部を譲渡したときに、譲渡益はどのように計算されるでしょうか。
この場合、相続税の取得費加算の適用においては、相続等により取得した株式から優先的に譲渡したものとして、取り扱うことが認められています。
6.一般口座の場合一般口座分の譲渡損益を確定申告するときになって取引報告書をみると、なんと「取得費」の記載がないことがあります。特に、相続で引き継いだ株式は自分で購入したものでないので、取得時の資料も不明のことが多いものです。取得費が不明の場合は、譲渡金額の5%をみなし取得費として申告が可能となっていますが、たったの5%。なんとも釈然としません。
7.取得費が不明の場合そこで、取得費を算定する方法として以下3つの方法が認められています。
(1)顧客勘定元帳で確認(原則10年以内の購入取引のみ)
(2)本人の手控え(日記帳や預金通帳などの手控えによって取得価額がわかれば、その額)
(3)上記(1)・(2)で確認できない場合は名義書換日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定
8.名義書換日を調べるには名義書換日を調べるには、発行会社の株式異動証明書等の資料を手掛かりに株式の取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得費を確認することが出来ます。通常、発行会社は証券代行会社に名義書換業務を委託していることが多いので、委託証券代行会社へ発行を依頼します。
上記3つの方法で取得費を確認し、取得時期によっては譲渡損が発生することもあるかもしれません。ぜひ、諦めずに資料請求等をして取得費を確認することをお奨めいたします。
以上、特定口座・一般口座それぞれの特徴による注意点などをご紹介いたしました。確定申告で今一度冷静に何が適用できるかお確かめ下さい。2020年3月13日
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226号
令和2年度税制改正の概要
今回は、令和2年度の税制改正大綱(令和元年12月12日公表)の改正内容のうち、主な項目を取り上げました。
1.「NISA」の改正と「つみたてNISA」の延長人生100年時代にふさわしい家計の安定的な資産形成を支援する観点からNISA制度の見直しが行われます。
(1) 非課税期間5年のNISA
より多くの国民に積立・分散投資による安定的な資産形成を促す観点から、次のような2階建ての制度とした上で、口座開設期間が5年延長(令和6年から5年間)されます。
投資対象商品は、1階部分はつみたてNISAと同様とし、2階部分は、現行のNISAから高レバレッジ投資信託など安定的な資産形成に不向きな一部の商品が除かれます。(2) 非課税期間20年のつみたてNISA
令和24年まで5年延長されます。
2.国外中古賃貸建物に係る不動産所得の損益通算の特例国外中古賃貸建物について、簡便法による耐用年数で減価償却費を計上して多額の損失を発生させ、損益通算で所得税の還付を受ける事例に対する見直しが行われます。
(1) 国外中古賃貸建物に係る減価償却費の取扱い
簡便法や見積法(適切なものを除く)による耐用年数で減価償却を行い、損失が生じる場合には、その損失の金額のうち国外中古賃貸建物の減価償却費に相当する部分の金額は、生じなかったものとみなすこととされます。
(2) 国外中古賃貸建物を譲渡した場合の取得費
上記(1)の適用を受けた国外中古賃貸建物を譲渡した場合の譲渡所得の収入金額から控除する取得費(購入金額-減価償却費の累積額)の計算において、生じなかったものとみなされた減価償却費の額は、控除しないこととされます(譲渡益は現行に比し、減少する)。
(適用時期) 令和3年分以後の所得税について適用
3.低未利用土地等を譲渡した場合の特別控除地方では低未利用土地等(居住用、事業用等に供されていない一定の土地等)を譲渡しても高額な売却金額は望めない一方、測量費などの負担があるため売却が進まず、空き地等の増加要因となっています。そこで、低未利用土地等を譲渡した場合(親族間を除く)に譲渡益から100万円を控除する特例が創設されます。主な要件は次のとおりです。
(a) 譲渡価額が土地上の建物を含めても500万円以下
(b) その年1月1日現在の所有期間が5年超
(c) 都市計画区域内に所在
(d) 低未利用土地等であったこと及び譲渡後の土地の利用について市区町村の確認が行われたこと
(適用時期) 令和2年7月1日(予定)から令和4年12月31日までの譲渡について適用
4.居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除の適正化住宅家賃は消費税が非課税とされているため、居住用賃貸建物の取得の際に支払った消費税は、原則、仕入税額控除できないこととされています。しかし、金の売買などの消費税の課税取引を敢えて行い、課税取引額の割合を高めることによって、居住用賃貸建物の取得に係る消費税の還付を受ける事例が多く見受けられるため、次の見直しが行われます。
(a) 居住用賃貸建物の購入(課税仕入れ)については、仕入税額控除の適用を認めないこととされます。
(b) (a)により仕入税額控除の適用が認められなかった居住用賃貸建物について、取得した課税期間を含めた3年間に住宅以外(事務所、店舗等)の貸付けに変更した場合、又は譲渡をした場合には、一定の計算により、その変更又は譲渡をした課税期間の仕入控除税額に加算する調整を行うこととされます。
(適用時期) 令和2年10月以後の居住用賃貸建物の取得等に適用(令和2年3月末までの購入契約は経過措置あり)
5.国外財産調書制度の見直しと更正決定等の期間制限国税当局は、国外の金融機関にある預金等の取引内容について、預金者(納税者)からの資料提示等がなければ、別途、外国の税務当局に情報提供要請を行わない限り確認することはできません。そのため、国外財産調書に記載すべき国外財産に関する申告漏れ等があった場合の加算税の軽減又は加重措置の特例等が次のとおり創設されます。
(1) 国外財産調書制度の見直しに伴う措置
税務署が指定した期日(60日程度)までに必要な資料の提示等をしない場合は、次のとおりとされます。
(a) 加算税の軽減措置(5%軽減)は適用しない。
(b) 加算税の加重措置を10%(適用前5%)加重とする。
(適用時期) 令和2年分以後の所得税、令和2年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税に適用
(2) 更正決定等の期限(時効)の延長
上記(1)の期日までに提示等がなく、外国の税務当局に情報提供要請を行った場合は、その要請を行った日から3年間は更正決定等をすることができることとされます。
(適用時期)令和2年4月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用
6.その他の主な改正項目2020年2月20日
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225号
親子で建てる二世帯住宅
親が所有する土地の上に子供が二世帯住宅を建築するときに、税務上の特例を適用できる場合があります。今回は、親から子供への財産の承継という視点から、親世帯部分と子世帯部分に分かれた二世帯住宅を建築した場合に、どのような特例を適用できる場合があるかについて、ご説明致します。
1.住宅取得資金の贈与の特例(贈与税)親から住宅取得資金の贈与を受けたときは、一定の金額まで贈与税が非課税になる「住宅取得資金の贈与の特例」(以下、「住宅資金贈与特例」という。)があります。
一定の要件を満たし、この特例を適用できた場合に贈与税の非課税になる金額は、請負や売買等の契約締結日、住宅の性能ごとに異なり、以下の通りとなります。なお、要件のうちポイントとなるところは、住宅の登記簿上の床面積が、50平方メートル以上240平方メートル以下であることです。二世帯住宅の場合の床面積の判定は、登記方法により異なり、以下のように判定します。
(1)区分所有登記していない場合 → 建物全体の床面積の合計
(2)区分所有登記している場合 → 子世帯部分の床面積
(1)の場合は、建物全体の床面積が240平方メートル以下であり、かつ、子世帯部分の面積が全体の床面積の2分の1以上となる必要があります。一方、(2)の場合は、区分所有登記の部分の面積となり、子世帯部分の床面積が240平方メートル以下であればよいことになります。
また、この特例を適用できる贈与とは、あくまでも建築資金の贈与であるため、住宅ローンのみで建築し、その返済のための資金の贈与は、この特例の適用を受けることができませんので、ご注意ください。
2.住宅ローン控除との併用(所得税)建築資金の一部を親からの贈与を受け、不足分を銀行からの借入による場合は、「住宅資金贈与特例」の適用を受けつつ、「住宅ローン控除」の適用も受ける事ができます。
親からの贈与を受けた金額と銀行からの借入金額が購入代金を超えてしまう場合には、超えてしまった金額は住宅ローン控除の対象とならないため、注意が必要です。
3.共働き夫婦が二人で適用を受ける(贈与税と所得税)共働きのご夫婦がご夫婦共有名義で建築するときに、それぞれの親から建築資金の贈与を受けた場合は、ご夫婦それぞれが「住宅資金贈与特例」の適用を受ける事ができます。
また、建築資金の不足分をご夫婦それぞれが銀行からの借入により建築する場合は、上記2「住宅ローン控除」の適用を受ける事もできます。
特例の適用を受ける金額は、それぞれの負担金額に応じて異なります。
4.住宅取得資金贈与は加算されるのか?(相続税)相続があった場合に、被相続人となった親からの暦年贈与のうち相続開始前3年以内の贈与は、贈与税が課税されていたか否かに関係なく相続税の課税価格に加算します。相続時精算課税の適用を受けた贈与の場合は、全てを加算します。
しかし、「住宅資金贈与特例」により贈与税の非課税となった金額は、加算されません。そのため、非課税の適用を受けた金額については、税金がかからずに、親から子供へ承継されることになります。
5.小規模宅地等の特例の適用(相続税)「住宅資金贈与特例」の適用を受けた子供が、相続により、二世帯住宅の敷地となっていた330平方メートル以下の土地を相続することになりました。「小規模宅地等の特例」の適用を受けることができる場合は、土地の評価額が330平方メートルまでは80%減額されることになりますが、二世帯住宅の場合は、登記方法により以下の部分が減額の対象となります。
従って、小規模宅地等の特例の適用を受ける場合には、区分所有登記していない方が、有利になります。
(1)区分所有登記していない場合 → 土地の全て
(2)区分所有登記している場合 → 被相続人と子が生計が一である場合のみ、子世帯部分に対応する部分の土地
6.まとめ「住宅資金贈与特例」を受ける場合の床面積の上限は240平方メートルですから、大きな二世帯住宅を建築する場合は、子世帯部分につき区分所有登記とする必要があります。
一方、相続の際に「小規模宅地等の特例」の適用を受けるためには、区分所有登記は不利になります。
親から子供への財産の承継として、どちらの特例を受けた方が有利になるのか、または、建築予定の二世帯住宅がどちらの特例も受けることができるのか、種々検討したうえで、二世帯住宅の登記方法を決定されると良いと思います。2020年1月15日
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224号
サラリーマンと源泉徴収制度
~源泉徴収制度のメリット・デメリット、違法性が争われた事例~1.はじめに
ご承知のとおり、所得税については、いわゆる「申告納税制度」を基本としていますが、これと併せて、給与、利子、配当等(以下「給与等」と言います)の特定の所得の支払については、「源泉徴収制度」を採用しています。
源泉徴収制度とは、給与等の支払者がその支払を行う際に所得税を徴収し、これを国に納付するというもので、諸外国でも採用されています。
法的には、給与等の支払者に、所得税を源泉徴収する義務が課され、これを国に納付する義務(所得税法181~183条)を負います。この支払者を源泉徴収義務者(以下「義務者」と言います)と言います。この義務者は、納税義務は負いますが、自ら所得税を負担することはありません。
義務者と給与等の受給者との関係は、義務者は国の代行者として所得税の源泉徴収を行い、給与等の受給者は義務者が行う源泉徴収を受忍しなければならないという関係になります。また、義務者の納税義務は、給与等の受給者に係る本来の所得税の納税義務とは別の納税義務になるので、国は、源泉徴収所得税に不足額がある場合、又は過誤納額がある場合、義務者に対し追徴し、又は還付しますが、給与等の受給者に対し行うことはありません。同様に、期限後納付により、不納付加算税(通則法67条)や延滞税(通則法60条)は、義務者に対してのみ課されます。以下、給与所得に限定して記載します。
2.源泉徴収制度のメリット・デメリット(1)メリット
イ 国の徴収コストを節約し、所得税の徴収漏れも少なくできる。
ロ 大部分のサラリーマンは、年末調整で所得税が確定するので、確定申告が不要になる。
(2)デメリット
イ サラリーマンの税金に対する関心を薄める要因になっている。
ロ サラリーマンの所得捕捉率が100%であるのに対し、事業所得や農業所得は5~6割あるいは3~4割しか課税の対象とされていないという不公平感を生じさせている(いわゆるクロヨン、トーゴーサン)。
3.源泉所得税をめぐる主な判例(1)昭和37年2月28日最高裁判決
義務者が国に対し次のような訴えを起こしました。
イ 義務者は、国の徴税事務に協力するために私有財産を侵され、これについて何の補償も受けていない(憲法29条「財産権」違反)。
ロ 源泉徴収制度は、サラリーマンと事業所得者とを差別し、また義務者と一般の国民とを差別している(憲法14条「法の下の平等」違反)。
ハ 源泉徴収制度は、義務者に強制労働を課すものであるから、憲法18条「奴隷的拘束及び苦役からの自由」に違反する。
最高裁は、この主張に対し
・源泉徴収制度は、国の税収を確保し、徴税手続の簡便化、徴税費用と労力の節約に資することはもちろん、サラリーマンにとっても申告・納税の煩雑な事務から免れることができ、義務者も給与の支払の際に所得税を天引きし、翌月10日までに納付すれば良いのであるから、公共の福祉の要請に応えるものであると言わざるを得ないとして、義務者の主張を退けました。
(2)昭和60年3月27日最高裁判決
サラリーマンが国に対し、次のような理由により、所得税は憲法14条「法の下の平等」に違反していると主張しました。
イ 事業所得の必要経費について実額控除を認めているが、給与所得には認めていない。
ロ 給与所得の捕捉率が事業所得等の捕捉率より格段に高い。
最高裁は、この主張に対し
・サラリーマンの数は膨大であり、必要経費の実額控除を認めると技術的、量的に対応が難しく、税務執上混乱を招くことが懸念される。このような弊害を防ぎ、租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現することは租税法の基本原則である。また、捕捉率の違いについては適正な税務行政により是正されるべきものとして、サラリーマンの主張を退けました。
なお、現所得税法では、確定申告により給与所得に特定の支出(6種類のみ)を条件付き(勤務先の証明が必要)で必要経費の実額控除を認めていますが、費目が限定的で手続きが煩雑なため利用者は少ないようです。4.むすび
確かに源泉徴収制度は、租税の徴収の確実性、簡便性、効率性には大いに役立っていますが、サラリーマンの不公平感の元凶になっていることは間違いありません。
それを払しょくするには、事業所得への厳しい税務調査に期待するか、給与所得に係る必要経費の実額控除の手続きを簡易にし、対象となる費目を増やすかですが、サラリーマンの私としては、飲み代、終電後のタクシー代等が必要経費として認められると嬉しいのですが。2019年12月13日
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223号
配偶者居住権の税務上の取扱い
~みなし贈与との関係~40年ぶりの民法改正により配偶者居住権が創設され、来年4月から適用されます。この配偶者居住権に関し、え~っと通信2019年6月号で、小規模宅地等の特例の適用関係についてご案内させて頂きました。この度、令和元年7月2日付で、国税庁から配偶者居住権が合意解除等により消滅した場合の取扱いに関する通達が公表されましたので、今回は、この配偶者居住権の税務上の取扱いについてご案内いたします。
1.配偶者居住権の評価について配偶者居住権とは、相続発生時に、被相続人が所有していた建物に居住していた配偶者が、終身又は一定期間、その建物を使用できる権利のことをいいます。その相続税評価額の計算式は、下記のとおりです。
(1) 配偶者居住権が設定された建物の評価 (2) 配偶者居住権
建物の時価-上記(1)(3) 敷地所有権
土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(4) 配偶者居住権に基づく敷地利用権
土地等の時価-上記(3)遺産分割等により取得した配偶者居住権(上記(2)及び(4))は、相続税の計算上、当該配偶者の相続財産として計上することになります。取得したのち、これらの権利の価額は、期間の満了に向けて、時間の経過とともに逓減します。
※ 建物の残存耐用年数は、法定耐用年数の1.5倍から建築後経過年数を控除した年数とする。
※ 配偶者居住権の存続年数は、終身の場合は完全生命表による配偶者の平均余命年数とする。
2.配偶者居住権の消滅による課税関係(1)配偶者居住権を取得した配偶者が亡くなった場合
亡くなった配偶者が有していた配偶者居住権は、民法の規定により消滅します。すなわち、配偶者の相続財産にはなりません。これは、配偶者居住権が設定されたご自宅を取得した子からすると、一次相続では配偶者居住権を除いた価額により相続したものが、その後の配偶者の死亡により、追加の税負担なしに完全所有権が復元されることになります。
(2)配偶者居住権を合意解除する場合
配偶者居住権が設定されたご自宅を譲渡する場合を考えてみます。この場合、配偶者は、所有権を持つ子との合意により、配偶者居住権を解除する必要があります。配偶者居住権は、あくまでご自宅を使用収益する配偶者固有の権利であるため、譲渡の対象とはならないからです。合意解除をすると、配偶者から子へ使用収益権が移転するため、みなし贈与として贈与税が課税されます。つまり、相続人で示し合わせて、一次相続で配偶者居住権を設定し、ご自宅の評価額を一時的に下げても、後々合意解除する場合は、その時点で課税されてしまうということです。配偶者居住権を放棄した場合や、配偶者の用法違反により、配偶者居住権が消滅した場合も同様にみなし贈与に該当します。
このみなし贈与課税を防ぐためには、解除による消滅直前の配偶者居住権相当額を、子が配偶者に支払う必要があります。ご自宅を譲渡する場合、譲渡所得の計算上、配偶者に支払った配偶者居住権相当額をどう取り扱うのか、また、支払を受けた配偶者の課税関係はどうなるか等、今後も注目していく必要があります。
3.必要費の負担必要費とは、物の保存または管理に必要な費用のことをいいます。配偶者居住権が設定された建物に修繕が必要となった場合、使用収益している配偶者が修繕費を支払う必要があります。固定資産税についても配偶者が負担すべき費用と考えられます。いずれも、配偶者が支払わない場合は、一旦所有者である子が立替え、その後配偶者に請求することになります。必要費の負担については、事前に話し合っておくことが大切です。
4.配偶者居住権は設定すべきか配偶者が認知症になり、老人ホームに入るためご自宅を売却するような場合、認知症になった後に配偶者居住権の解除が可能なのか、という問題が生じます。また、配偶者居住権が設定されたご自宅を借入の担保にする場合、銀行側がどう判断するか、という疑問もあります。遺産分割による配偶者居住権の設定は、相続の際の一つの選択肢ですが、先々まで見通した上で、慎重な判断が必要となります。
2019年11月15日
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222号
相続不動産売却。いろいろな注意点があります。
~権利証より契約書~相続した両親の実家を売却する際にはさまざまな税制上の
論点があります。そこで!今回はその実例をご紹介します。
1.実際にあった相談事例父親から相続により取得したマンションを売却しようとするお客様からのご相談です。その父親は新築マンションを購入したらしく、当時に比べればかなり値下がりしているので税金がかからないのではというご質問がありました。資料を拝見すると権利証はありますが、購入時の売買契約書の保存がありませんでした。
2.譲渡所得税の計算について譲渡所得は下記の算式で計算し、値上がり益に対して譲渡所得税等が課税されるため、値下がりしている場合には(厳密には減価償却など細かい計算がありますが)課税されません。
譲渡所得=譲渡収入-取得費-譲渡費用
譲渡所得税等=譲渡所得×20.315%(長期譲渡※の場合。住民税等含む)
(※)譲渡年の1月1日現在で所有期間5年超の譲渡相続した不動産の取得費は、被相続人の取得費を引き継ぐため今回のケースでは父親の購入価額を基に計算します。
また、取得費がわからない場合、譲渡収入の5%を取得費とすることができます。ただし、その場合には約95%が利益となり譲渡所得税等を多額に納付することになります。
3.売買契約書がない場合の取得費の計算購入時の売買契約書がない場合には取得費を推定する方法があります(資料の信憑性がないと認められません)。推定方法としては、市街地価格指数等の統計データを使用する方法や登記簿の抵当権等から推定する方法などがありますが、新築マンションの場合には分譲時パンフレット等の分譲価格に基づき計算する方法があります。そこで不動産仲介業者にお願いして分譲時の価格表のデータをもらい、試算したところ、税金はかからなそうでした。
4.これで解決と思いきや実はこれでおしまいではありません。その父親は不動産を買換えにより取得していたらしいのです。この場合、「特定の居住用財産の買換えの特例」というものを適用していた可能性があります。
この制度の特徴は下記の通りです。
(1)売却価額より買い換えた不動産の購入金額の方が大きい場合には、買換え時には譲渡所得税等がかからない
(2)買い換えた不動産を将来売却したときの取得費の計算は買換え時に売却した不動産の取得費を基に計算される(過去の取得費を引き継ぐ)この制度は課税の繰延制度ですから、買換え時には税負担を軽減できますが、買い換えた不動産を売却するときに当初の不動産の値上がり分も含めて課税しますよというものなのです。
要は、その父親が過去にこの特例を適用しているか否かで今回の税負担が大きく変わってしまうのです(適用していた場合には譲渡所得税等を納付する可能性が出てきます)。
5.さらにヒアリングをしてみると上記の特例を適用していたか否かは当時の税務申告書の保存がないためわからないとのことでした。しかし、税務署では特例を適用しているかどうかの記録が半永久的に残っています。そこで税務署に特例を適用しているか確認を取りに行きました(今回は税務署に行きましたが、電話で教えてくれる場合もあります)。その結果、特例を適用していないことが判明。無事税金がかからないこととなりました。
6.まとめ相続した不動産を売却する場合には、購入時の売買契約書の有無、買換特例の適用の有無の確認が必要です。税務相談に来られたお客様の多くが売買契約書をお持ちでないことが多いです。
買換特例以外にも税制上の特例として相続税の取得費加算や相続空き家の3000万円特別控除などがあります。こういった特例を適用せずに申告をした場合には、申告のやり直し(更正の請求)ができないことも多いです。やはり売却前に資産税に詳しい税理士へのご相談が望ましいことは言うまでもありません。2019年10月15日
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221号
貸付事業用宅地等の事例研究
~相続開始前3年以内に賃貸した土地の取扱い~相続税対策の一つとして不動産の購入が考えられます。賃貸用建物であれば固定資産税評価額の70%評価、その敷地について小規模宅地等(貸付事業用宅地等)の特例が適用されれば、アパート敷地による減額に加え、更に50%引きになります。現金1億円で賃貸マンション等を購入すれば評価額が3分の1以下になることもあり、相続開始を見据えて、その直前に賃貸不動産を購入する事例が増加しているようです。そのようなこともあり、貸付事業用宅地等の範囲が改正されています。相続開始前3年以内に新たに貸付けを開始したものは、原則として貸付事業用宅地等から除かれることになったのです。ただ、3年以内に貸付けを開始したものの全てが除外されるかというとそうではありません。そこで、今回は事例を交えて、貸付事業用宅地等の適用について考えてみましょう。
1.現行制度の概要事例に入る前に、現行制度についておさらいしましょう。
貸付事業用宅地等とは、相続開始の直前において、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等(賃貸アパートや貸駐車場の敷地など)のことで、200㎡までの部分について50%評価減が可能です。適用要件としては、相続税の申告期限までに貸付事業を承継し、かつ、その申告期限までその貸付事業を継続し、その宅地等を保有することです。上記でも述べましたが、相続開始前3年以内に新たに貸付けを開始したものは、原則として貸付事業用宅地等の範囲から除かれます。ただし、被相続人が相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合には、3年以内に貸付けを開始した物件でも特例の対象になります。つまり、従前からの不動産賃貸が、事業としての性格を有する事業的規模の場合は、相続開始の直前に新たに貸付けを開始した物件もその事業の一環として捉え、貸付事業用宅地等の適用を認めようとするものです。ちなみに事業的規模とは、所得税と同じで、戸建なら5棟、アパート等なら10室以上と言う基準での、いわゆる「5棟10室基準」の要件を満たすものとされています。「3年」というキーワードが、「宅地等の貸付事業供用期間」と「貸付事業が事業的規模である期間」の2つに掛かっていて複雑です。そこで、相続開始前3年以内に貸付けたものと3年を超えて貸付けているものがあるケースについて検討します。
2.事例研究<事例>
被相続人は、アパートAとその敷地、アパートBとその敷地を所有していました。アパートAは、相続開始5年前から貸付けの用に供していますが、アパートBは相続開始2年前からです。各アパートの室数が下記(1)から(3)の場合に、貸付事業用宅地等の対象はどのようになるのでしょうか。(1)アパートA: 4室
(2)アパートA: 5室
(3)アパートA:12室アパートB: 2室
アパートB:12室
アパートB: 5室<回答>
(1)と(2)については、アパートAの敷地のみが貸付事業用宅地等の対象になります。
(3)については、全ての敷地が貸付事業用宅地等の対象になります。<検討>
(1)のケース相続開始時の貸付室数は6室(アパートA4室とアパートB2室)のため、事業的規模に該当しません。そのため、相続開始5年前から貸付けの用に供しているアパートAの敷地のみが、貸付事業用宅地等の対象となります。アパートBの敷地は相続開始2年前に新たに貸付事業の用に供した宅地等ですので、その対象になりません。 (2)のケース
相続開始時の貸付室数は17室(アパートA5室とアパートB12室)のため、事業的規模に該当します。しかし、アパートBは、相続開始前2年前に新たに貸付事業の用に供しています。そのため、「被相続人が相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合」に該当せず、アパートBは12室あったとしても、その敷地は貸付事業用宅地等の対象になりません。アパートAの敷地は、上記(1)に記載したとおり、貸付事業用宅地等の対象になります。 (3)のケース
上記(2)のケースと同様に相続開始時の貸付室数は17室(アパートA12室とアパートB5室)のため、事業的規模に該当します。(2)のケースとの違いは、12室のアパートAは相続開始5年前から貸付事業の用に供しており、「被相続人が相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合」に該当します。そのため、貸付期間3年未満のアパートBの敷地を含め、全ての敷地が貸付事業用宅地等の対象になります。
3.まとめ相続開始前3年以内に新たに貸付けを開始した宅地等に対する小規模宅地等の適用は、被相続人の貸付規模とその継続期間が判定のポイントになります。
なお、令和3年3月31日までに開始された相続で、貸付開始が平成30年3月31日以前のものは、貸付期間にかかわらず、貸付事業用宅地等の対象になるという経過措置が設けられていますので注意が必要です。2019年9月13日