ご承知のとおり、所得税法では、個人所得を10種類に区分し、それぞれの所得金額を合計して課税標準とする総合所得税制を基本としています。
また、それぞれの所得について、異なる算出方法が定められていますが、これは、所得の担税力(勤労性所得か資産性所得か)や累進税率緩和の必要性(反復・継続的所得か退職金や不動産等譲渡による一時的所得か)の違いによるとされています。
納税する側にとって、所得区分によっては税負担が過重になる場合もあることから、所得区分について度々争いになることがあります。これは、現行の所得区分が、近年の雇用形態や所得の稼得形態の著しい多様化に対応できていないことが一因になっているのかもしれません。
また、平成16年に日本税理士会連合会から出された「所得税制における所得区分と課税方法のあり方について」には、「現行所得税法は10種類の所得区分の規定を置いているが、その区分の基準や考え方は必ずしも一様ではなく、明確な指標はない。」とも記載されており、所得区分について、新たに検討する余地があるのかもしれません。
1.所得区分が争われた事例
⑴ 競馬の払戻金
競馬の払戻金は、原則、一時所得(所得税基本通達34‐1⑵)になりますが、一時所得か雑所得のいずれに該当するか争われた事例があります。
最高裁は、当事例の払戻金は雑所得に該当すると判断しましたが、これは、馬券購入の期間や回数、その他の状況等を総合勘案して、営利を目的とする継続的行為に当たるという考えに基づき判断したものです。
一時所得であれば、ハズレ馬券を必要経費とすることはできませんが、雑所得であれば必要経費として控除することができますので、納税額は少なくなります。
さらに、競馬だけで生計を立てている「いわゆるプロ」は、雑所得ではなく事業所得になり欠損金の繰越や専従者給与も認められるかもしれません。いずれにせよ、一般の競馬愛好家の皆さんは、一時所得となり、ハズレ馬券を必要経費とすることはできませんので、お気を付け下さい。
⑵ ストック・オプションの権利行使益
ストック・オプション制度とは、会社がその役員等に対して、一定の期間内に、一定の価額(権利行使価額)で、一定の株数の自社株(又は親会社・子会社株)を購入できる権利を与える制度で、インセンティブ報酬制度の一つです。
役員や従業員が受けるストック・オプションの権利行使益は、給与所得になります(所得税基本通達23~35共-6)が、一時所得か給与所得のいずれに該当するか争われた事例があります。
最高裁は、ストック・オプションの権利行使益は、給与所得に該当すると判断しましたが、これは、ストック・オプションの権利行使益が、会社との雇用契約等に基づき、会社の指揮命令に服して提供した労務の対価として会社から給付されたかどうかによって判断すべきという考えに基づくものです。
実は、課税当局が、以前、外国の親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益を一時所得に該当すると指導していた経緯があり、それにもかかわらず、途中から給与所得に該当すると見解を変更したわけですから、一時所得として申告した方から反発を買い更正処分の取消訴訟が複数提起されたようです。
しかし、裁判所は、給与所得として申告した者との間に著しい不公平が生じるとして課税当局の遡及課税を容認しています。
2.分かりにくい所得区分
⑴ 自衛官若年定年退職者給付金
同一人に支払う給付金でも、支払うタイミングによって所得区分が異なります。
「若年定年退職者給付金」とは、防衛省の職員の給与等に関する法律第27条の3、27条の7に基づき2回に分けて支給されるものですが、その制度創設の趣旨が若年定年制から生じる不利益を補うことにあることや給付金の経済的実質を踏まえ、1回目の給付金は、退職を基因とする一時払いの給与に該当するので退職所得。2回目の給付金は、2年後に支払われる一時金ですので一時所得に該当するとされています。
1回目に支給される給付金 ⇒ 退職所得
2回目に支給される給付金 ⇒ 一時所得
⑵ 従業員持株会から受ける利益分配金
同じ利益分配金でも、支払先の組織区分によって所得区分が異なります。
・持株会が民法上の組合 ⇒ 配当所得
会員を受益者として信託されていると見られ、持ち分に応じて配当されるので、配当
所得になります。
・持株会が人格なき社団 ⇒ 雑所得
(所得税法基本通達35-1⑹)
・持株会が会社の一部 ⇒ 給与所得
個人所得は、人々の生活に密接に関連しているので、その区分も人間臭くておもしろいと思いますが、皆さんは如何でしょうか。