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~相続時にチェックする預貯金の動きから分かること~
245号

え〜っと通信

245号

2021年9月15日

小松 進

税務署は見ている
~相続時にチェックする預貯金の動きから分かること~

 私は、この3月まで30年間税務署に勤め、主に資産税(相続税・贈与税・譲渡所得)を担当していました。
 税務署に勤めていたときの話は、公務員に課される守秘義務があってお話しできないこともありますが、今回は相続税調査のことをお伝えします。


1.相続税と相続税調査

 相続税は、毎年続けて申告していく所得税などと違い、一度きりのことなので、税務署では「生涯を通じた税金精算の最終機会」とも言われており、綿密に申告内容の確認がされます。
 税務職員は、調査権限を持っているほか、提出を受けた申告書などの様々な情報を持っています。机上で、過去の所得税や贈与税の申告内容と比べて、被相続人の申告財産が少なくないか、相続人が自身の収入だけでは蓄積できない財産をもっていないかなどを検討します。
 さらに、給料や土地売却代金の受取り、生活費や大きな買物の支払など、日々の生活が現れる預貯金の動きに注目し、被相続人だけではなく、相続人その他関係者の預金の動きを過去数年分遡って金融機関に照会します。
 その上で、実地に調査を行うのですから、相続税調査は、申告漏れを指摘される割合が8割以上と高くなっています。


2.預貯金に関連する問題

 相続税は、相続開始のときにもっている被相続人の財産が申告の対象となります。
 預貯金の大きな動きをチェックすることで、(1)名義預金、(2)貸付金や立替金という財産の問題で疑問が生じ、調査対象になる案件が多く見受けられます。この点は、私が税務署に勤務した30年間で大きく変わっていないように思います。


3.名義預金とは?

 税務上は、(1)もともと誰がお金を出したか、(2)その預金を誰が管理していたか、(3)贈与された預金かという点から判断し、申告すべき相続財産となるかが決まります。
 親族間では、名義を借りて預金を運用することもありますが、基本的にはお金を出した人のものだということです。
 例えば、「親が子供名義で作った預金」や「夫が生活費を入金していた専業主婦名義の預金」は、贈与されていなければ、名義人である子(妻)ではなく、お金を出した親(夫)の預金だと判断されることになります。
 このように、名義預金は、名義人と実際の所有者が異なる預金をいいますので、名義のみで申告財産を判断すると、調査官に手痛い指摘を受けるかもしれません。


4.貸付金・立替金とは?

 親族間で預金を動かしたときは、お金を出した人と受け取った人との約束に従い(1)贈与、(2)貸付け、(3)立替えなど、その内容が変わってきます。この際の約束は、法律上、口頭でも文書でもよいとされています。
 贈与のときは、非課税である生活費など贈与申告の対象外となる部分を除き、お金を受け取った人が贈与税の申告をする必要があります。申告していない贈与は、相続のタイミングで、預貯金のチェックが行われてばれることがほとんどです。
 一方で、借入をしたときや代金の立替えをしてもらったときは、その金額に見合うお金を返済しなければならないので、返済が完了していなければ、被相続人からみて貸付金や立替金が相続財産となります。


5.贈与を受けたかは申告で決まるものではないけど

 このように相続税は、名義などの外観だけで判断される訳ではなく、その実質に合わせて相続税の申告財産になるかが決まります。
 しかし、相続税の調査では、被相続人との10年近く前のお金のやりとりなどを聞かれることもあります。実質に合わせてといっても、人の記憶は時間の経過とともに劣化し、時には記憶は失われてしまうこともありますし、話を聞きたいときに被相続人はいないという状態で、はっきりしないことが多々あります。
 贈与を受けたかは贈与税の申告の有無だけで決まるものではありませんが、仮に、名義預金や親族間で預金を動かしたときに、実際には贈与だったとしても、贈与税の申告をしていなければ、貸付金や立替金として相続税の申告漏れの指摘を受けるかもしれません。
 修正申告となれば、本来は払う必要の無かった加算税や延滞税を相続税に上乗せして支払わなければならなくなります。


6.まとめ

 預貯金の動きは、税務署が最も注目しており、親族名義を含めほとんど把握されていると考えるべきです。
 親族名義を借用して財産管理をすることや、曖昧な約束でお金を動かすことは、将来に無用なトラブルを招く恐れがあります。
 相続税の負担軽減や納税資金の準備を的確に行うためには、少なくとも預貯金に関しては財産を残す側、引き継ぐ側の双方が連携し、適切な対策を講じていく必要があるのではないでしょうか。

※執筆時点の法令に基づいております