例年2月16日から3月15日は所得税の確定申告時期です。所得税の申告は年に1度だけのため、細かな取扱いについてはどうしても忘れがちになってしまいます。そうでなくとも、所得税の計算ルールには法人税とは異なった固有の取扱いがいくつもあります。間違った計算をしていないかどうか確認をしてみましょう。
1.損害保険金などは非課税
所得税に固有の考え方の1つ目は、非課税所得というものがいくつも存在することです。宝くじが非課税なのは有名ですが、実務的によくあるのは損害保険金や賠償金、慰謝料などが非課税になるという取扱いです。
入院に伴って保険金を受領するケースや、事故で賠償金を取得するケースなどはとても分かり易いため、非課税だと認識しやすいでしょう。
よくある間違いは、賃貸不動産が損害を受けたことにより損害保険会社から保険金が下りた時です。賃貸不動産に関して補填された保険金であるため、不動産収入に計上したくなるのではないでしょうか。
ところが、所得税ではたとえ賃貸不動産に係るものであったとしても、損害保険金は非課税になります。したがって、無用に収入計上をしないようにしましょう。
なお、このような場合には、損害を復旧するための修繕費を支払うことになるでしょうから、実務的な取扱いは次のようになります。
① 損害保険金>修繕費 ⇒ 修繕費を超える部分は非課税
② 損害保険金<修繕費 ⇒ 損害保険金を超える部分のみ修繕費(経費)
いずれにしても、損害保険金によって所得が増加することはありません。
2.収入の日割り
賃貸不動産の収入計上時期はご存知でしょうか。貸付期間に応じた収入計上も一定の場合には認められていますが、原則は契約・慣習に定められた日において計上するという取扱いになります。
貸地などの地代は当月分当月支払いのケースが多いと思われます。このような契約のときに、月の半ばで相続が開始したときの地代はどのように計上すべきなのでしょうか。半月分の地代を未収計上しても差し支えはないですが、あくまで契約・慣習による支払日が相続後であれば強いて半月分の収入を計上する必要はありません。
処理の仕方により、相続開始年の被相続人と相続人の所得が変わってきますので、有利不利の判断をすべきことになるでしょう。
ちなみに、相続税では日割計算する考え方はありません。契約・慣習による地代、家賃等の収受日前に相続が開始すれば、その月に収受すべき賃料は全額計上しません。日割計算した未収家賃を計上するなどして相続財産を増やすことのないようにして下さい。
3.租税公課の計上は正しいですか
租税公課の経費計上にもルールがあります。代表的なものとして固定資産税の計上時期は、次の①から③のいずれかで処理することになります。
① 各納期の開始日に計上
② 実際に納付した日に計上
③ 賦課された年に全額を計上
このように固定資産税を日割計算して計上する方法は存在しません。よくある間違いとしては、相続が開始したため、その年の固定資産税を月割りして被相続人と相続人に分けて計上することです。税務署に指摘されるか否かは別としてそのような計算方法はありません。
また、事業用の不動産などを売却したときは要注意です。なぜなら、売却年の固定資産税は全額経費計上できるからです。売却月までの固定資産税だけが経費だと勘違いする方が多く、月割計上しているのではないでしょうか。経費計上漏れがないようにしましょう。
4.減価償却費の計上は漏れていませんか
相続によって引き継いだ資産に係る減価償却費の計算も間違いが多い項目です。まずは承継方法ですが、被相続人の取得価額、耐用年数、未償却残高を引き継ぎますが、償却方法は引き継ぎません。中古資産の取得でもないですから、そのような計算方法もありません。
また、相続年において一番間違えやすいのが償却期間です。1ヶ月未満は1ヶ月として計算しますから相続があったときの減価償却の期間は次のようになります。
〇相続開始日が3月15日の場合
・被相続人は1月~3月までの3ヶ月償却可能
・相続人は3月~12月までの10ヶ月償却可能
したがって、相続年は合算すると13ヶ月間の減価償却を行います。年間で考えると1ヶ月多いからといって12ヶ月に調整するようなことはできません。
5.適正な申告に向けて
所得税法は個人の申告についての法律です。したがって、上記以外にも法人税とは異なる所得税固有の細かなルールがいくつも存在します。会計基準に従って期間計算を正確に行う法人とは考え方そのものが大きく異なるのです。所得税にも強いATOは、適正な所得税申告を通してお客様のサポートを行います。